【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「喜びのダンジョン……」
ダンジョンですよね?
人類の脅威となるような場所に、なぜこのような名前が……。
まさかこれも、悪しき転生者の所業なのでしょうか?
であれば、また粛清しなければ……この世界の平和のためにも、同じ転生者である私が何とかしなければなりません。
「昆虫人のお店ですか」
たしか、このゲームでは迫害されていた種族のはずですね。
それがこうして、まっとうな商売をしているとは、ゲームよりも良いところもあるのでしょうか?
応援の意味も込めて、少しお買い物しておきましょう。
「いらっしゃいませ」
「魔力を回復する薬の専門店ですか……」
「ええ。このダンジョンに適した商品ですので」
「なるほど……では、いくつか購入させてください」
昆虫人の方は、ごく普通に接客してくれました。
特に暗い様子でもないため、やはりゲームよりも良い環境なのでしょうね。
そんな昆虫人にとっての喜びということでしょうか……?
◇
ダンジョンの中を進んで行く。
別に今回が初のダンジョンというわけではありません。
何度か踏破しています。ゲームで見たことがあるものも、見たことがないものも、ダンジョンですらなかったものもです。
なので、やることは変わりません。
罠に気をつけながら一歩一歩進んで、モンスターが出たら油断なく倒すだけ。
危なそうなら迷わず引き返す。それを徹底し、欲はかかない。
それを心に刻みながら進んでいきますが……ちょっと長いですね。
もしかして、ダンジョンではなく単なる洞窟だったのでしょうか?
いえ、それだとあのお店も意味がわかりませんね。
それに、私以外もここに潜る者がいるということは、ダンジョンの可能性が高いということ。
とりあえず、もう少し進んでみましょうか。
「人だかり?」
真っすぐ進み続けてようやくたどり着いた扉の前、そこには何人かの冒険者が並んでいました。
扉が開かない? というわけでもなさそうです。
彼らは大人しく順番を待つかのようにしており、開かない扉を前に奮闘している様子すらありませんので。
「あの? 入らないんですか?」
なので、声をかけてみると、暇そうにしていた冒険者の方は、私の問いに答えてくれました。
「順番を待っているんだ」
「はぁ。順番……?」
「その様子じゃ、あんたここは初めてみたいだな」
「ええ。噂を聞いたので訪れてみたのですが、何やら独自のルールでもあるようですね」
尋ねた方は、どうやらここを熟知しているようなので、順番待ちとやらの時間で話を聞いてみることにしました。
「看板にあったとおり、ここで得た力というかアイテムは、この場限りのものなんだ」
「そうなのですか。でも、そうなると探索する利点がないのでは?」
「ボスを倒した際の宝箱だけは別でね。みんなそれ目当てなんだよ」
なんだか腑に落ちません。
それなら、ここ以外のダンジョンで良いのでは?
他のダンジョンでも、ボスを倒したあとに宝箱は手に入ります。
それに、道中手に入れたアイテムが消えることもありません。
「ここはその分大量のアイテムが手に入るからな。道中に高ランクの装備が手に入ると楽だし楽しいぞ?」
「なるほど……安全に探索ができるわけですね」
「そう。特に他よりもはるかに安全だ。ここのモンスターたちの特性なのか、逃げた相手を追うことはない。ここでの死者はいまだにゼロだからな」
「それはまあ……」
なんとも、怪しいダンジョンですね……。
何かしらの意図がありそうといいますか、そもそもダンジョンは魔王の意思で作られるため、どれも意図はあるのでしょうけど。
侵入者を生かすことにどんな意味が……。
「それで、ここの順番待ちは、最初の部屋の大量の宝箱を取り合いにしないためのものだ」
「最初の部屋?」
「ああ、この先には毎回必ず大量の宝箱が配置されている。それらの中身で強化し、ダンジョンを探索するのがここのやり方だ」
「ですが、先に入った者が独占したら、後の者たちは何も得られないのでは?」
「平気平気。しばらく待っていたら、この部屋の宝箱はすぐに作成されるみたいだから」
ますます怪しい……。
これ、転生者絡みではないでしょうか?
ですが、その目的がわかりません。
宝を餌に転生者を狩ろうというわけでもなく、搾取しようというわけでもなく、手が込んでいる割に何をしたいのかが読めませんね……。
生かして帰すよう徹底しているのであれば、危害を加えているのかすら判断できません。
「ありがとうございました。では、私はあなたがたの後を待ってから挑むことにします」
「ああ、楽しんでいってくれ」
楽しむ……。ダンジョンなのに?
目的がわからない以上、実際に探検してみるのが早そうですね。
◇
なるほど、一時とはいえ強力な装備が手に入り、それらでモンスターを倒すのは、たしかに楽しめるともいえます。
一時的な強力な力の体験。それがこのダンジョンの良さであり、喜びと呼ばれる理由ですか。
「ボスもわりと簡単に倒せましたし。何度も挑む者がいるのも、わからなくはありません」
……困りましたね。
巧みにダンジョンに誘い込み、現地の者たちの殺戮を目的としているのであれば、間違いなく悪しき転生者なのですが。
現地の者を楽しませることを目的としているのであれば、粛清すべきではないはず……。
そもそも、このようにモンスターや宝箱を操れるとも思えませんし、魔王の仕業と考えるべきでしょうか?
「……保留ですね。やはり、それよりは欲望のダンジョンのカジノのほうが問題です」
ここは判断しかねるため、まずはそちらを先に対処しましょう。
さて、ロペスさんは私の忠告を聞いてくれたでしょうか。
できることなら、転生者同士協力し合える関係が望ましいのですが……。
◇
「ということみたいだよ~」
「勘弁してほしいねえ。ルイスのやつ、またうちに来るのかよ」
ピルカヤの発言に、ロペスはうんざりしたような言葉で応えた。
まあ、この手のトラブルは、基本的にはロペスのところにいくからなあ。
他に向かわれると困るので、対応可能なロペスに矛先が向くように、あえてロペスを目立たせているということもある。
現に、発言こそ嫌そうに聞こえるが、その態度はまったく堪えた様子もなく、彼ならばどうとでもなることが伺える。
「どうする? 戦闘になるようなら、モンスター作っておこうか?」
「いや、そのほうが警戒されそうだし、気持ちだけ受け取っておくよ。ボス」
まあ、ルイスのステータスからすると、モンスターでは実力不足かもしれないしな。
ウルラガになんとかしてもらうのがよさそうか。
「適当に煙に巻いとくさ。どうやら、完全に俺を敵視しているわけでもなさそうだしな」
「わかった。何か必要になったら言ってくれ」
ロペスは、いつも通りにカジノに向かった。
たぶん、ルイスが来たとしても、何食わぬ顔でカジノを経営するんだろうなあ。
「カジノ、閉鎖したら色々面倒だからなあ」
「おや、そんな話に? なんですか? ついにリズワンやレンシャが破産しました?」
「カジノで破産しそうなのは、フィオナ様くらいだと思います」
「なにをぅ!? あの二人だって、私と大して変わらないじゃないですか!」
どちらかというと、破産しないと怒ってほしかったんだけど、そっちに怒るかあ……。
「フィオナ様、放っておいたら破滅しそうなので、俺が毎日監視しておきますね」
「信用がないですねえ! いえ……なぁんだ。つまり、毎日私を見ていたいということじゃないですか。素直にそう言ったらいいのに」
「……まあ、毎日見ていても飽きませんけど」
「では、たっぷりと今日の私を見る許可を出しましょう。さあどうぞ」
この後ひたすらフィオナ様を見つめる謎の時間が設けられた。
自分の顔に自信があるようでなによりですね。