【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「まず、見えないのが厄介だな」
相手が何をしているのか、空間の中はこちらから見えない。
なので、敵の手の内がわからない。
モンスターたちが喋れたら、状況を聞けたのだろうけれど、彼らが何を体験したのかは、こちらにはわからないからな。
「あれだけダンジョンを進んでも、結局手の内はわからなかった」
喜びのダンジョンのほうではまともに戦っていたが、欲望のダンジョンのほうでは、女神の加護と思わしきものをフル活用だもんな。
逆に、なんで喜びのダンジョンでは、女神の加護を使わず進んでいたんだ?
今思うと、モンスターたちを観察しているようでもあったな。
もしかして、安全なダンジョンであるかどうかを確かめていたとか?
であれば、喜びのダンジョンで、モンスターたちに手加減を止めさせれば、奇襲することができるかもしれない。
ただ、もう一度来てくれるかが問題だな。
そもそも、すでに観察が終わったので、次は他と同じように女神の加護を使う可能性も高いか……。
「う~ん。もっと単純に、手の内を見せてくれると楽なんだけどな」
そう言いながら、顔を上げるとうちの転生者たちと目が合った。
「す、すみません! 単純なウサギです!」
「女神の加護がないと、生き残れる気がしなくて……」
「俺に隠すべきことなど、何もないからな!」
うん、なんか勘違いさせたようですまない。
うちのダンジョンに侵入した際に、思いっきり女神の加護を使っていた組が、なんか言い訳してきた。
風間やロペスは、逆に女神の加護をほぼ使っていなかったからな。
風間の場合は、そもそも使い方がわかっていなかったというか、鳴神と似たような感じだった気もするが。
「ロペスは、ルイスのことどう思う?」
「用心深い女だなあ。だが、こちらの事情も理解してくれている気がする」
「え、まさかロペスが魔王軍ってばれてる?」
会話自体は知っているが、向こうも確信があってあの話をしたわけではなさそうに見えたが……。
「ああ、そっちは疑いこそすれど、確信はないはずだぜ。そっちじゃなくてカジノの経営さ」
「気に入らないからといって、短絡的に潰すわけでもないってところか」
「女王様たちを雇っていることが効いてきたな」
クララたち、この世界じゃ迫害種だもんな。優秀なのに。
ロペスという雇用先が無くなったら、彼女たちはまた迫害種として肩身が狭い生き方に逆戻りになると考えているんだろう。
実際は、うちの他の店で働いてもらうだけだが、少なくともルイスはそれを危惧していたようだ。
「カジノって、そんなに悪いものなのかねえ」
うちの場合、むしろ良心的だと思うんだけどな。
破滅しそうになったら、さすがにかわいそうだからテコ入れしてやってるし。
だけど、そんな事情は当然向こうに知る由もない。
現地民から全てを搾取しようと思われても仕方ないことではあるか。
「リズワン王の国にもカジノはあるし、ありゃあ単にルイスが嫌ってるだけに見えたな」
「元ギャンブル依存だったとか……」
「なぜ私を見るんですか? レイ」
「すみません。元じゃありませんでした」
「依存してませんけど~」
「えっと、あとは家族や友人が破滅したとかかねぇ」
魔王様に頬を引っ張られる俺を見て、ロペスはわずかに気まずそうにするも話を続ける。
「なるほど、個人的な恨みか。それもありそうだな」
だとしたら、今後もしつこくロペスに絡んでくる可能性もありそうだな。
あの言動では、こちらの世界の人間を尊重しているようだし、迫害種に対しても差別的な考えはなさそうだった。
なら、魔族はどうかというと、残念ながらこちらは駄目そうだな。
「魔王と魔王軍が起こそうとしているものか……」
「なんか、やばそうな言い方だったよなあ。俺としては、女神に匹敵する何かだと思うんだが」
「フィオナ様、心当たりはありますか?」
「……」
なんでそこで黙るんですか。
もしかしてこの魔王様、本当に何かやばいものを復活させようとしているのか?
「昔、力だけが暴走した神がいましたが、今は行方不明になっています」
「行方不明ってことは……あの女神の話ではないんですね」
「あの女神は、今もこの世界を管理しているので、残念ながら行方不明ではないんですよねえ……」
「じゃあ、その女神とは別の神様が昔はいたということですか」
「すでに姿を消してしまいましたけどね。なので、まともに活動している神はあいつだけなんです」
あんなのが唯一の神とか、わりとひどい世界だよなあ。
そりゃあ差別も無くならないはずだ。なんなら、あの女神がそれらを扇動している気がするし。
「その神様がいれば、あの女神も倒せたんですかねえ」
「どうでしょう。力こそありますが、力だけが暴走していたような存在ですし」
そうなると、あの女神にうまいこと利用されそうな気がするな。
なんだか、鳴神を利用していた転生者たちを思い出す。
あれの神様バージョンと考えると、とんでもないトラブルにしか発展しないだろうなあ。
むしろ、その神様とやらがいなくて良かったのかもしれない。
「ちなみに、フィオナ様がそれを起こそうとしているんですか?」
「え~……もしも居場所がわかったとしても、そんな面倒なことしたくないんですけど~」
「ですよね。フィオナ様ですし」
「そうです。さすがはレイ、私のことを理解しているじゃないですか」
ものぐさだもんなあ。
この魔王様、その後の管理が面倒だから、絶対世界を征服しないタイプだし。
◇
「どうしたものでしょうね」
ロペスさんのカジノは、たしかに盛況です。
盛況すぎます。あれだけのものとなると、のめり込む人たちも少なくありません。
そうしてギャンブルにのめり込んだ先は、破滅するだけです。
自身も周囲も巻き込んで、そのせいで母も私もろくに食べられず、最後は過労死するだけです。
「ですが、ダークエルフや昆虫人から仕事を奪うというのも……」
今度は、そちらが破滅してしまいます。
彼が善か悪か、いまだに判断を下せない自分がいる。
彼以上に悪しき転生者が他にいるのでは? そちらを先に対処すべきでは?
それは、目の前の問題から逃げているだけでは?
「……仕方ありません。あまり気は進みませんでしたが……使いますか」
目を閉じる。そうして女神の加護を強く念じる。
それを使用することで、私は周囲から切り離された空間へと移動する。
神託。単に女神と会話するだけの能力。
今は女神がいないが、ここからさらに強く念じることで、女神と一日に数分間会話することができる力。
「女神様。道を示してください」
「ええと。あなたはたしか……」
「あなたに転生していただいた、ルイス・アラーニャです」
「そうそう、ルイスでしたね。どうですか? 魔王退治は順調でしょうか」
おそらく、私のことを覚えていませんね。
まあ無理もありません。相手は女神なので、その他大勢の人間など覚えていないのでしょう。
「残念ながら、順調とは言い難い状況です。魔王は勇者と決戦し、配下の全てを失った挙句に力を失っています」
「では、あなた方転生者にとってチャンスなのでは?」
「問題はその転生者たちです。どうにも、女神様の世界を害する者も多く。私はそれらを粛清しておりますので」
「そうでしたか。それは大変助かります。ですが、あなたが無理をするのもいけません。同郷の者よりも悪しき魔族たちを相手にすべきです」
「いいえ。同郷の者であろうと、女神様の世界を乱す者は私自身の手で粛清します」
「そうですか。あなたには苦労させますが、今後とも私のために働いてください」
どこまでが本心かと言われると、全てが胡散臭く感じてしまう。
ですが、それは相手が神で私が人だからなのでしょう。
なので、迷いは神に導いてもらうのが一番のはず……。きっと、それが最善なのでしょう。
「今の悩みは、その世界を乱す転生者の一人です。彼は女神様の世界でギャンブルを広め、世界の者たちから搾取をしています」
「それは、悪ですね」
「ですが、彼は現地の者たちを雇用しており、彼を粛清した場合は多くの者が路頭に迷います」
「それで悩んでいたと……」
女神はわずかに考えるそぶりを見せましたが、すぐに答えを示しました。
「もう一度言います。それは悪です」
「粛清すべきですか……」
「それはあなた次第です。ですが、善か悪かで定義すると、間違いなく悪ですね」
「従業員たちが路頭に迷ってもでしょうか?」
「ええ。あなた一人で全てを救うことはできません。であれば、割り切ることも大切だと知りなさい」
そう言い終えると女神は消え去り、私は何もない空間に一人取り残されました。
……やはり、それが最善なんですよね。
この世界を乱す者は、倒さなくてはならない。
まして、魔王軍とつながっている可能性まであると、ロペスさんは粛清対象なのでしょう。