【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「む、魔王様と宰相様か」
鳴神は、俺たちに向けて静かに一礼した。
その後ろでポトが慌てた様子で駆けつけてくる。
「ま、魔王様に宰相様。何かありましたか!?」
「いや違うぞ店長。二人は客として、俺たちの喫茶店を訪問したのだろう」
「そ、そうなの? いや、でも魔王軍のお偉いさんがこんなところに……」
悪いなポト。鳴神の言うとおりなんだ。
このお偉いさん、わりと庶民的なのかそうでないのか、喫茶店に行ってみたいなんて言い出したんだ。
なので、ピルカヤに頼んで客がいないことを見計らい、こうしてお忍びみたいに訪問している。
「ええと、あっ、ナルカミくん。休業の看板をドアにかけてきて」
「心得た」
「いや、そこまでしなくても」
「他の客の相手なんてしている場合じゃありません!」
魔王軍側と外界側で作りをわけてあるから、人類側に俺たちの存在がばれることはないんだけど、なんとも真面目なものだ。
「それでは、私もコーヒーに挑戦してみましょうかね」
「前回は紅茶でしたからね」
「ええ、レイが私ではなくマギレマと一緒に訪れたときは、一人さみしくお茶を飲んでいましたから」
「その後、フィオナ様とずっと一緒にいたじゃないですか……」
「まったく! 油断も隙も無い!」
あれは、単に行き先が一緒だったというだけであり、たまたま途中で合流しただけなんですけど。
というか、あなた一人で読書するのも好きじゃないですか。
だから邪魔にならないよう、フィオナ様とは別に喫茶店に訪れたというのに。
「今日のレイは、私のものです」
「別に今日に限らず、俺はいつだってフィオナ様のものですよ……」
「ふふっ、ですよね~」
さっきまで怒っていたのに、一瞬で機嫌が回復した。
なんとも感情の起伏が激しい魔王様だ。
「あ、ありがとうございます。宰相様。魔王様をなだめていただいて」
「ああ、気にしないで。どうせいつものことだし」
「いつも私をやきもきさせるレイに、責任がありますからねえ」
「そもそも、俺の最優先はフィオナ様だって、いつも言ってるじゃないですか」
「いやあ、まいっちゃいますね~。レイは私のことが大好きですからね~」
そうですけど?
なんかデレデレしているし、もはや読書どころではない気がする。
「おかげで、マギレマ様も今ごろほっとしているはずです」
え、マギレマさんに何かあったの?
もしかして、体調を崩しているとか……。心配だし、後で会いに行ったほうが。
そんな考えを見透かしたような目で、フィオナ様は俺のことを見つめていた。
頬に手をそえて、こちらが視線を逸らせないようにまでしている。
「……なんでしょうか」
「マギレマなら大丈夫なので、私のことを見るように」
「大丈夫ならいいですけど」
「ええ、私だけを見なさい」
……相変わらず、顔が良い。
中身も好きだけど、見た目もとても良い。
しっかりとフィオナ様を見つめていると、なんか向こうから顔を逸らした。
……勝ったな。
「ちゅ、注文しましょうか!」
「コーヒーに挑戦するんでしたっけ?」
「そうですね。実は飲んだことがないので、みんなが美味しそうに飲むのを見ていたら気になりました」
「フィオナ様、紅茶派ですからね」
「紅茶なら、ポトにも負けませんよ~」
味は良いからな。見た目はともかく。
料理のほうは、見た目もまともになったというのに、なぜあの珍妙なお茶の見た目はそのままなんだろう。
あの球体、あの色、あれがフィオナ様の紅茶の味を底上げしているのだろうか。
「じゃあ、俺もコーヒーを。種類はポトに任せる」
「は、はい! かしこまりました!」
なんか、やけに力が入っている。
だけど、そこはマギレマさんが信頼している部下。仕事はきっちりこなしてくれることだろう。
◇
「にがい~」
「まあ、コーヒーですから」
フィオナ様は今日も残念な顔をしている。
慣れていないのに、いきなりブラックなのが問題なんじゃないですか?
「なんでレイはそんなに平然と飲んでいるんですか! さては、私に隠れて飲みやすいコーヒーを注文しましたね!」
「いえ、同じものですから」
「では、交換してください!」
「えぇ……」
俺のカップを奪われた。
代わりに俺の目の前には、先ほどまでフィオナ様が飲んでいたコーヒーが……。
いや、やっぱり同じものだよな。一口飲んでみるも、やはりまったく同じコーヒーだ。
だから当然……。
「にがい~」
「でしょうね」
さすがに不憫なので、ミルクと砂糖でも入れてあげよう。
ええと、ミルクはあったけど砂糖は……。
ん? なんか、隣の席でキラキラと光る粒子のようなものが……。
砂糖か? いや、そんなわけないな。光ってるし。
「……プネヴマ、大丈夫なの? それ」
「あ、お気になさらず。いつものです」
「いつものかあ……」
「なんか砂糖みたいですね」
「俺もそう思いました」
テーブルに突っ伏したプネヴマの口からは、キラキラと光る粒子が吐き出されていた。
まあ、仮にあれが砂糖だとしても、あれをフィオナ様のコーヒーに入れるのは問題だな。
というわけで、プネヴマのことはエピクレシに任せてしまい、俺はフィオナ様のコーヒーを飲みやすく調整してあげることにした。
「あ、これならいけます」
「それは良かったですね。まったく、フィオナ様と一緒だと騒がしいことです」
「嫌でしたか?」
「いいえ。楽しいですよ」
「ええ、私もです」
あ、美人な顔になった。
なんというか、この喫茶店に良く似合っているというか、こうしてみると一枚の絵のように美しい。
……まあ、それもわずかな時間のことだけどな。
「……なんですか?」
「いいえ? 相変わらずレイは、私のこと好きだな~って思っただけですよ?」
「仕方ないじゃないですか……」
嫌う要素なんて、どこにもないんですから。
……あ、プネヴマが完全に魂を口から。
◇
「あら~? もしかして、臨時休業?」
「む、常連さんか。すまんな、少し事情ができた」
「なら仕方ないわね。もしかしてトラブル? アタシに手伝えることなら、協力しちゃうわよ?」
「それには及ばん。トラブルというよりは、オーナーのチェックが入っているだけだからな」
「あら、大変そうね。まあ、問題が発生していないなら何よりだわ」
ここでゆっくりと過ごせないのは残念だけど、問題が起きていないようでほっとした。
良いお店だもんね。ここが潰れるようなことがあったら、けっこうダメージ大きいわよ?
なんだったら、正体を隠すのをやめて勇者として協力する程度には、お気に入りのお店なんだから。
「ということで、悪いが今日は」
「ええ。また今度来るわね」
「……むっ? そうか」
アタシへの返事としては、なんか少し様子がおかしかったわね。
もしかして、魔法で上の人たちと連絡でもしていたのかしら?
なんだか本当に忙しそうだし、邪魔しないように帰るとしましょ。
「常連さんよ。俺でよければ、店を開けるぞ?」
「あら? 無理しなくて良いのよ。また日を改めて来るつもりだったし」
「いや、あちらはあちらで問題なさそうなので、俺はこちらで客を相手にしてもいいそうだ」
「あらそうなの。じゃあ、お願いしようかしら」
その上司とやらの試験をうまく乗り越えてみせたのかしら?
店長さん、見たことは無いけど良いコーヒー淹れるもんねえ。
さてと、それじゃあ姿はこのまま変化させておいて、念のための妨害結界もそのままに。
今日も憩いのひと時をゆっくりと楽しませてもらいましょうか。
◇
「……すまん」
「い、いえ、いいのよ」
そういえば、この子がコーヒー淹れたの見たことなかったわね。
いつもは店長さんが淹れてくれて、この子はそれを運ぶという役割だった。
だけど、当然のように自分一人で店を開くと言っていたので、てっきりコーヒーを淹れられるのかと思っていたんだけど……。
「くっ……まさか俺がここまで下手だったとは」
「ま、まあ、そのうち上手くなるわよ。焦らずやりなさい」
苦味と酸味がめちゃくちゃで、なんだったら少しじゃりじゃりしているわね……。
いつか、この子が淹れたコーヒーを美味しく飲める日はくるのかしら。