【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第475話 苦いのは本人たちだけ

「む、魔王様と宰相様か」

 

 鳴神は、俺たちに向けて静かに一礼した。

 その後ろでポトが慌てた様子で駆けつけてくる。

 

「ま、魔王様に宰相様。何かありましたか!?」

 

「いや違うぞ店長。二人は客として、俺たちの喫茶店を訪問したのだろう」

 

「そ、そうなの? いや、でも魔王軍のお偉いさんがこんなところに……」

 

 悪いなポト。鳴神の言うとおりなんだ。

 このお偉いさん、わりと庶民的なのかそうでないのか、喫茶店に行ってみたいなんて言い出したんだ。

 なので、ピルカヤに頼んで客がいないことを見計らい、こうしてお忍びみたいに訪問している。

 

「ええと、あっ、ナルカミくん。休業の看板をドアにかけてきて」

 

「心得た」

 

「いや、そこまでしなくても」

 

「他の客の相手なんてしている場合じゃありません!」

 

 魔王軍側と外界側で作りをわけてあるから、人類側に俺たちの存在がばれることはないんだけど、なんとも真面目なものだ。

 

「それでは、私もコーヒーに挑戦してみましょうかね」

 

「前回は紅茶でしたからね」

 

「ええ、レイが私ではなくマギレマと一緒に訪れたときは、一人さみしくお茶を飲んでいましたから」

 

「その後、フィオナ様とずっと一緒にいたじゃないですか……」

 

「まったく! 油断も隙も無い!」

 

 あれは、単に行き先が一緒だったというだけであり、たまたま途中で合流しただけなんですけど。

 というか、あなた一人で読書するのも好きじゃないですか。

 だから邪魔にならないよう、フィオナ様とは別に喫茶店に訪れたというのに。

 

「今日のレイは、私のものです」

 

「別に今日に限らず、俺はいつだってフィオナ様のものですよ……」

 

「ふふっ、ですよね~」

 

 さっきまで怒っていたのに、一瞬で機嫌が回復した。

 なんとも感情の起伏が激しい魔王様だ。

 

「あ、ありがとうございます。宰相様。魔王様をなだめていただいて」

 

「ああ、気にしないで。どうせいつものことだし」

 

「いつも私をやきもきさせるレイに、責任がありますからねえ」

 

「そもそも、俺の最優先はフィオナ様だって、いつも言ってるじゃないですか」

 

「いやあ、まいっちゃいますね~。レイは私のことが大好きですからね~」

 

 そうですけど?

 なんかデレデレしているし、もはや読書どころではない気がする。

 

「おかげで、マギレマ様も今ごろほっとしているはずです」

 

 え、マギレマさんに何かあったの?

 もしかして、体調を崩しているとか……。心配だし、後で会いに行ったほうが。

 そんな考えを見透かしたような目で、フィオナ様は俺のことを見つめていた。

 頬に手をそえて、こちらが視線を逸らせないようにまでしている。

 

「……なんでしょうか」

 

「マギレマなら大丈夫なので、私のことを見るように」

 

「大丈夫ならいいですけど」

 

「ええ、私だけを見なさい」

 

 ……相変わらず、顔が良い。

 中身も好きだけど、見た目もとても良い。

 しっかりとフィオナ様を見つめていると、なんか向こうから顔を逸らした。

 ……勝ったな。

 

「ちゅ、注文しましょうか!」

 

「コーヒーに挑戦するんでしたっけ?」

 

「そうですね。実は飲んだことがないので、みんなが美味しそうに飲むのを見ていたら気になりました」

 

「フィオナ様、紅茶派ですからね」

 

「紅茶なら、ポトにも負けませんよ~」

 

 味は良いからな。見た目はともかく。

 料理のほうは、見た目もまともになったというのに、なぜあの珍妙なお茶の見た目はそのままなんだろう。

 あの球体、あの色、あれがフィオナ様の紅茶の味を底上げしているのだろうか。

 

「じゃあ、俺もコーヒーを。種類はポトに任せる」

 

「は、はい! かしこまりました!」

 

 なんか、やけに力が入っている。

 だけど、そこはマギレマさんが信頼している部下。仕事はきっちりこなしてくれることだろう。

 

    ◇

 

「にがい~」

 

「まあ、コーヒーですから」

 

 フィオナ様は今日も残念な顔をしている。

 慣れていないのに、いきなりブラックなのが問題なんじゃないですか?

 

「なんでレイはそんなに平然と飲んでいるんですか! さては、私に隠れて飲みやすいコーヒーを注文しましたね!」

 

「いえ、同じものですから」

 

「では、交換してください!」

 

「えぇ……」

 

 俺のカップを奪われた。

 代わりに俺の目の前には、先ほどまでフィオナ様が飲んでいたコーヒーが……。

 いや、やっぱり同じものだよな。一口飲んでみるも、やはりまったく同じコーヒーだ。

 だから当然……。

 

「にがい~」

 

「でしょうね」

 

 さすがに不憫なので、ミルクと砂糖でも入れてあげよう。

 ええと、ミルクはあったけど砂糖は……。

 ん? なんか、隣の席でキラキラと光る粒子のようなものが……。

 砂糖か? いや、そんなわけないな。光ってるし。

 

「……プネヴマ、大丈夫なの? それ」

 

「あ、お気になさらず。いつものです」

 

「いつものかあ……」

 

「なんか砂糖みたいですね」

 

「俺もそう思いました」

 

 テーブルに突っ伏したプネヴマの口からは、キラキラと光る粒子が吐き出されていた。

 まあ、仮にあれが砂糖だとしても、あれをフィオナ様のコーヒーに入れるのは問題だな。

 というわけで、プネヴマのことはエピクレシに任せてしまい、俺はフィオナ様のコーヒーを飲みやすく調整してあげることにした。

 

「あ、これならいけます」

 

「それは良かったですね。まったく、フィオナ様と一緒だと騒がしいことです」

 

「嫌でしたか?」

 

「いいえ。楽しいですよ」

 

「ええ、私もです」

 

 あ、美人な顔になった。

 なんというか、この喫茶店に良く似合っているというか、こうしてみると一枚の絵のように美しい。

 ……まあ、それもわずかな時間のことだけどな。

 

「……なんですか?」

 

「いいえ? 相変わらずレイは、私のこと好きだな~って思っただけですよ?」

 

「仕方ないじゃないですか……」

 

 嫌う要素なんて、どこにもないんですから。

 ……あ、プネヴマが完全に魂を口から。

 

    ◇

 

「あら~? もしかして、臨時休業?」

 

「む、常連さんか。すまんな、少し事情ができた」

 

「なら仕方ないわね。もしかしてトラブル? アタシに手伝えることなら、協力しちゃうわよ?」

 

「それには及ばん。トラブルというよりは、オーナーのチェックが入っているだけだからな」

 

「あら、大変そうね。まあ、問題が発生していないなら何よりだわ」

 

 ここでゆっくりと過ごせないのは残念だけど、問題が起きていないようでほっとした。

 良いお店だもんね。ここが潰れるようなことがあったら、けっこうダメージ大きいわよ?

 なんだったら、正体を隠すのをやめて勇者として協力する程度には、お気に入りのお店なんだから。

 

「ということで、悪いが今日は」

 

「ええ。また今度来るわね」

 

「……むっ? そうか」

 

 アタシへの返事としては、なんか少し様子がおかしかったわね。

 もしかして、魔法で上の人たちと連絡でもしていたのかしら?

 なんだか本当に忙しそうだし、邪魔しないように帰るとしましょ。

 

「常連さんよ。俺でよければ、店を開けるぞ?」

 

「あら? 無理しなくて良いのよ。また日を改めて来るつもりだったし」

 

「いや、あちらはあちらで問題なさそうなので、俺はこちらで客を相手にしてもいいそうだ」

 

「あらそうなの。じゃあ、お願いしようかしら」

 

 その上司とやらの試験をうまく乗り越えてみせたのかしら?

 店長さん、見たことは無いけど良いコーヒー淹れるもんねえ。

 さてと、それじゃあ姿はこのまま変化させておいて、念のための妨害結界もそのままに。

 今日も憩いのひと時をゆっくりと楽しませてもらいましょうか。

 

    ◇

 

「……すまん」

 

「い、いえ、いいのよ」

 

 そういえば、この子がコーヒー淹れたの見たことなかったわね。

 いつもは店長さんが淹れてくれて、この子はそれを運ぶという役割だった。

 だけど、当然のように自分一人で店を開くと言っていたので、てっきりコーヒーを淹れられるのかと思っていたんだけど……。

 

「くっ……まさか俺がここまで下手だったとは」

 

「ま、まあ、そのうち上手くなるわよ。焦らずやりなさい」

 

 苦味と酸味がめちゃくちゃで、なんだったら少しじゃりじゃりしているわね……。

 いつか、この子が淹れたコーヒーを美味しく飲める日はくるのかしら。

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