【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「う~ん……ピルカヤの死んだふり、今回も通用するかな?」
以前、国松とジノがリックを連れてきたときは通用した。
同じように、ルイスとテンユウが来たとしても、弱々しい分体に戦ってもらい、そのまま死んでもらうことでごまかせるかもしれない。
でも、なんというか、国松とジノよりも疑りぶかそうなんだよなあ……。
「直接見たわけではないと言っていたし、あくまでも黒に近いって考えのはずなんだよなあ」
喫茶店の常連客に扮していたテンユウも、念の為に調査するという雰囲気だった。
まだ、誤魔化しようはあるか……。
問題は、その噂がどこから流れたかだな。
やはり、ルイスが秘密裏にダンジョンに忍び込んでいたか?
だとすると、ピルカヤの存在はともかくとして、うちの従業員の誰かが、魔王軍とつながっていることはバレていそうだ。
……ロペスかな。直近で絡まれていたのはロペスだし、一番可能性が高そうだ。
「一度宝箱が不足したことがあったな。もしかして、ルイスが客を増やして、ロペスの動きを見張っていた?」
「げっ、あの女そんなしたたかだったのか……。すまねえ、俺のミスだ」
「向こうがうまかったってことだな。俺も警戒せずに宝箱をドリュに持って行かせたし、ロペスだけのミスではない」
あのとき、俺たちはピルカヤを通じてやり取りしていたな。
バレたとしたら、そこでということだろう。
「ボク、もう一回死んだふりしようか?」
テンユウに通用するならそれもいいけど、なんとなく無理そうな気がする。
正体を隠して、小柄な女性に化けて行動していたことから、彼女の警戒心の高さは勇者の中でも一番かもしれないからな。
「じゃあ、サクッとやっちゃいましょう!」
「イピレティスの姐御……相変わらず物騒だな」
「敵の力がわからない以上、下手に刺激したくもないんだよなあ」
生き延びる能力だとしたら、連絡を取れる能力だとしたら、こちらが開示した戦力が筒抜けになってしまう。
あるいは、こちらを倒しうる能力だとしたら、仲間が死んだうえに情報を持ち帰られるのだから、最悪だな。
「でも、いくらモンスターをけしかけても、相手のことわかりませんよね?」
「それはそうなんだよなあ」
「なので、僕がサクッと戦ってきましょうか? 情報を得たら逃げるので」
「イピレティスの存在がバレるってことか……」
「暗殺得意なので、バレないようがんばりま~す」
テンユウとルイスが、ピルカヤの生存を怪しんでいる。
そして、ロペスが魔王軍とつながっていることは、おそらくバレている。
ダンジョンに下手に魔王軍の面々を出現させると、その疑いが真実だと思われそうだよな。
一度調査をさせて、疑っていた事実が無根であると示すべきでは?
「僕の心配は、レイ様の存在を知られていないかってことです」
「ああ、そういえばそれもあり得るな。ロペスとの宝箱の引き渡しだけでなく、俺の姿も見られている可能性も、それどころか十魔将や四天王、フィオナ様にたどり着いている可能性も……」
だとしたら、確実に殺さないといけない。
確実に渡すために信用できるドリュに運ばせたのがまずかったか。
昆虫兵か、現地の従業員にでも運ばせるべきだった。
地底魔界なら安全という意識で、どこか驕っていたということだな。反省しないと……。
「それでも、一旦は手出ししないようにしよう。ダンジョンを調査させて何も出なければ、向こうも引き返すしかないだろうし」
ただ、地底魔界とつながっている壁のことは知られているっぽいな。
その場所を破壊して、無理やり地底魔界に入ってくるというのなら、そのときは……対処しないといけなさそうだ。
◇
「ということで、このあたりを改築中です」
「なるほど、地底魔界からさらに隔離してこじんまりした空間にしているんですね」
フィオナ様が感心したように納得する。
合ってはいる。欲望のダンジョンとつながっている道や部屋の少し先に新たに壁を作り、行き止まりをたくさん作っているからな。
本来の地底魔界と隔離した空間作り中というのは正しい。
だけど、それでもそれなりに道や部屋はたくさんあるし、広々とした空間のはずなんだが……。
これをこじんまりと言ってしまうか。
「フィオナ様って、わりとブルジョワですね」
俺みたいな小市民にとっては広くても、フィオナ様にとっては狭いと感じたのかもしれない。
さすが魔王だ。スケールが大きい金持ちめ。
いや、金はないから土地持ち?
「な、なんか、若干の距離を感じます!」
「近いじゃないですか」
「背中から抱きついているので、物理的には近いですけど、心の距離が遠い気がします!」
「俺の心は、いつでもフィオナ様の隣にあるつもりですよ」
「な、ならいいんですけどね……。ちゃんといつでも隣にいてくださいよ?」
ただ、その間に金持ちかそうでないかの壁が発生しただけだ。
「やっぱり、なんか距離ありませんか!?」
「鋭いですねえ。いえ、俺みたいな一般人と魔王様では、価値観が違うなあと」
「あなたに合わせますから、駄目なところは全部言ってください!」
「駄目じゃないですよ。俺は、フィオナ様のことは全部好きですし」
「な、ならいいです」
あなたの駄目なところはガシャ関連くらいですが、あれはあれでかわいいので止めません。
今後も一緒にプリミラに怒られましょう。
「さて、元の作業に戻りますが」
「改築でしたね。壁で塞ぐだけではないのですか?」
たしかに、地底魔界と遮断するためならそれだけでもいい。
だけど、この空間を隠れていた拠点とするには、いささか寂しい光景といえる。
「もっとこう、拠点っぽい感じに変えようと思いまして」
「なるほど。それで新しく部屋まで作っているのですか」
フィオナ様の言葉通り、新たな部屋も作った。
生活感があったり、仕事用の部屋があったりしたほうが、ここが本拠地と騙せるだろうからな。
あとは、罠とモンスターをもっと増やして警備を固める感じで……。
「あの~、少しずつ物騒になっていってるような気が」
「仮初とはいえ、本拠地ですからね。このほうがうまく騙せそうな気がします」
「……まあ、レイが楽しそうですし、問題ありませんね」
フィオナ様はそう言いながら、俺を抱きしめる力を強めた。
つまりそれだけ、俺の背中から感じる感触は増すということであり……。
……よし、ダンジョンに集中しよう。
◇
「こことここ、罠が多すぎます。避けられません」
「あと、密度が全体的におかしい。本拠地と見られるかもしれんが、脅威と判断され勇者全員で処理しにくるだろう」
「そもそも! 超位モンスターは自重しろぉ! 馬鹿ァッ!」
おかしい。
俺は宰相だぞ。そして、フィオナ様は魔王だぞ。
その二人で問題ないと判断しながら、ダンジョンを拡張したというのに、こうも駄目だしされるとは。
「何がいけなかったんでしょうね?」
「途中から、レイが夢中になってしまったことですかねえ」
なるほど。つまりフィオナ様のせいだな。
あんなに密着されたら、他に意識を逸らすしかない。俺だって男なんですよ?
その結果、はりきりすぎて、ダンジョンの難易度は急激に上昇したわけだ。
あれだ。テンユウも悪い。
勇者なんて来るから、こっちも全力で撃退するダンジョンを作ってしまったんだ。
実際のところ、それっぽい拠点を演出しつつも、それほどの脅威ではないと判断してもらい、帰ってもらうのが一番だった。
そのことが頭から抜け落ちていた。
「アナンタ」
「な、なんだよぉ。言っておくが、妥協するのはお前のほうだぞ」
「ああ、だからここからのバランス調整は、全て指示通りにするよ」
「や、やっとわかってくれた……」
「今回は」
「不穏なんだよなぁ……」
その後、なんとかアナンタを初めとした監査役たちから承認され、今回の拡張は無事終えることとなった。