【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「良かったんですか?」
「あら、何が?」
私の後ろには、勇者が一人。
そう、従者も連れずにたった一人で歩いている。
「お一人で私についてきても」
「あら、もしかして罠だった? やあねえ。勇者一人釣り出しても、最悪自害されて終わりよ?」
「い、いえ、そうではなくて」
「あはは、わかってるわよ。パーティでこなかったことでしょ?」
テンユウはケラケラと笑いながら、私が言いたかったことを理解しているようでした。
ピルカヤがいる可能性を伝え、その調査に協力してくれたのはいいのですが、私と勇者二人でどうにかなるということでしょうか。
「本当にあれがいるなら、私たちのことを監視されているかもしれないし、テイランに戻っている間に逃げられるか準備する時間を与えちゃうわよ」
迂闊だったかもしれませんね……。
喫茶店なんて、火があるに決まっていました。
どうやら、ピルカヤの存在を知って、内心では混乱していたのかもしれません。
警戒すべきだったというのに……。
「ここです」
「見た目は……単なる壁ね」
勇者テンユウと共に、欲望のダンジョンを進んだ先。
行き止まりにしか見えない場所を指さすと、テンユウさんは興味深そうに観察を始めました。
「幻術でもないし、魔力も通っていない……」
「もしかして、道を間違えたのでしょうか」
テンユウさんの言葉に不安を感じ、思わずそんなことを言うと、ゆっくりと首を振って否定される。
「空洞なのはたしかよ。おそらく、この先に何かあるのは間違いではないわ」
「そうですか……」
似たような場所もあるので、自信を無くしていたけれど、ここで間違いないようです。
ただ、そうなるとどうやってこの壁を開いていたかが問題ですね。
「特定のアイテムを使うと、壁が消えるとかでしょうか?」
「う~ん。さっきも言ったけれど、ここには魔力が通っていないの。その手のアイテムに反応することもないはずよ」
転生者の加護……でしょうか?
創造系の加護の場合、創造物には魔力が宿っていない事例は見ました。
ロペスさんの力で壁を作り、魔族を匿うことで見返りに宝箱をもらっていたとか……。
「魔力でどうにかできないのは面倒ね」
「破壊するんですか?」
「ええ。イドなら簡単だったでしょうけど、私の場合相性悪いのよねえ」
「下がってください」
全てを勇者に任せるつもりはありません。
この場は、私のほうが適任でしょうし、この壁にさっさと穴を開けてしまいましょう。
「……やるわねえ。それが転生者としての力かしら?」
「はい。女神の加護です」
「こうして壁の一部を切り取るだけじゃなくて、モンスターにでも使ったら簡単に肉体を切断できるのかしら?」
「いえ、あくまでも一部を別の空間に送っているだけであり、切断というわけではありません」
なので、例えば頭部だけを別の空間に送っても、問題なく生存して動けるでしょうね。
なんなら、残りの体の部分も別の空間に行くか。あるいは、頭部をこちらの空間に戻されるはずです。
「まあ、それでも便利そうだけどね」
テンユウさんの呟きを聞きながら人が通れる程度に穴が空いた壁の先を見ると、たしかに向こうは空洞でした。
どうやら、私の見ていた場所に間違いはなく、ロペスさんはやはり人類の裏切り者ということになります。
まずはこの先を調査し、最悪の場合はピルカヤと戦闘となるため、仕留めないといけません。
そうして、後ろ盾を奪ってから、ロペスさんを粛清……ですね。
たとえ、それで迫害種たちが生活できなくなるとしても……。
十を守ることはできません。九を守るために、私は一を切り捨てるしかありません。
「さて、ここからは危険でしょうし。気を引き締めていくわよ」
「はい」
決意を改め、私は敵地に足を踏み入れました。
本当に四天王がいるかどうか、テンユウさんが証言してくれるのであれば、よくある噂話ではなく真実として扱われるはずです。
なんとしても、証拠を見つけて持ち帰らないといけませんね。
◇
「意味わかんないんだけどっ!」
「わ、私にもわかりません」
一歩足を踏み入れたら、罠が襲いかかってきました。
それを避けたらまた別の罠。罠ばかりです。
なんですかここ。
「ここまで厳重な警備ということは、やはり魔王軍の本拠地なんでしょうか?」
「それにしては、罠以外ないわねえ」
たしかに、チグハグしているという印象です。
罠で守っているのに、警備の魔族は愚かモンスター一匹すらいません。
ここが魔王の新たな本拠地だというのなら、もっと生き物の気配があるはずなのですが……。
「その魔族の姿は覚えているかしら?」
テンユウさんが尋ねたのは、道すがら話した私が目撃した魔族の男のことでしょう。
「ええ。下半身が百足で魔王軍の軍服を着ていた魔族です。ただ、さすがに四天王や十魔将くらい強そうという感じではありませんでした」
「……残党かしら? もしかして、生き残った魔族が魔王軍を立て直そうとしているとか?」
「だから罠ばかりで、誰もいないと」
「ええ、案外人手が足りていないのかもしれないわね。魔王軍」
たしかに、そうかもしれません。
魔王以外が勇者に倒されたというのなら、本来なら魔王しか生き残っていないはず。
あの男はわずかに生き延びた魔族であり、こうしてまだ残っていた拠点でなんとか態勢を立て直そうとしているとか……?
「案外、ピルカヤという発言も私の杞憂だったとかですかね?」
思えば、ロペスはピルカヤの名前を口にしていましたが、その後出てきたのはあの魔族だけでした。
さらに、ボスと発言していましたけど、あの男がボスなんでしょうか?
ピルカヤがいるのであれば、ボスと呼ぶべきは四天王であるピルカヤのはずですね。
「ピルカヤという言葉を合言葉にしているとかかしら」
「ロペスにとってのボスが、ピルカヤだとは決まっていませんからね」
ですが、最悪を想定しておかないといけないはずです。
もしも本当にピルカヤが生きているのなら、私たちのことを今も見ているかもしれないのですから。
「それはそうと……ほんと、嫌になるくらい厳重じゃない!」
テンユウさんに襲いかかる数々の火球は、あっさりと軌道を変えました。
相性が良いというのもありますけれど、やはり勇者の力は強力ですね。
「物理まで絡めてこないでくれる!? なんなの、この場所!」
ですが、大量の落石は、さすがに勇者の力でいなすには相性最悪です。
なので、こちらは私が別の空間に送って対処ですね。
「ありがとね~。ほんと、どこまで罠を仕掛けているのかしら」
ゲームの中でも、ここまで罠だらけのダンジョンは無かった気がするんですけどね……。
もしかして、ロペスが進言して罠を増やしているのでしょうか?
私とテンユウさんは、一歩一歩注意しながら前に進むことにしました。
◇
「……」
「ちゃんとモンスターは自重しているぞ」
「まあそうなんだけどよぉ。罠だけなら、防衛としては厄介だけど、人類への脅威扱いされにくいという言葉に納得もしたけど」
「現に、勇者と転生者二人で簡単に進んでいるからな」
「お前、あれが簡単に見えているのかよぉ……」
だって、いまだに無傷じゃないか。
やはり、フィオナ様を守るための仕掛けは、もっと効果的じゃないといけないな。
勇者の邪魔にならない程度では、全然安心できない。
「フィオナ様を守るために、もっと悪辣な罠を考えないと」
「え、お前、まだ悪辣じゃないつもりなの?」
まだまだだろう。
こんなことでフィオナ様を守れると思うなよ。
少なくとも、勇者を撃退できないと不安でしょうがないのだから。
「頼りにしてますよ」
「ええ、任せてください」
俺とフィオナ様のやり取りに、アナンタは何か言いたそうだったが黙ってしまった。
きっと、彼は彼でまだまだ足りないと理解してくれたのだろう。