【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「にしても、わりと広いわねえ」
「だからこそ、罠だらけで嫌になりますけどね」
「ほんとよ! ただ、拠点というよりは警戒心が強い魔族の隠れ家って印象ね」
なにか重要な物を守っているのかというくらいには、罠まみれですからね……。
物理は私の能力で空間に送り、物理以外はテンユウさんが霧散あるいは軌道を逸らしていますが……。
「数が多い!」
「これ、ここを拠点にしている魔族は、引っかからないんでしょうか……」
「魔族には反応しない罠なのかもね」
なるほど……であれば、あの百足の魔族はこれを素通りできますね。
ただ、ロペスはハーフリングなので引っかかりそうですが。
それで、ここではなくカジノを拠点にしているのでしょうか?
「その百足の魔族、絶対ろくな男じゃないわよ」
「ピルカヤの可能性も……」
「ピルカヤだってここまで徹底的に罠なんて張らないわよ」
たしかに、ピルカヤはわりと慢心も多かったですからね。
いえ、街を焼いて自分の力にしたりと、悪辣なのは代わりませんが、今回は少し毛色が違うと言いますか。
「例えばこれよ」
「スイッチですね」
テンユウさんが発見したのは、目立たないように床に設置されたスイッチでした。
これを踏めば罠が起動するので避けないといけない。というのは、もうこれまでの道のりで嫌というほどに理解しました。
「ええと……どうせどこかに……」
ですがテンユウさんは、そのスイッチを無視して周りを見渡します。
魔力も込めて注視しているのか、表情は真剣そのものでした。
「ほらあった! 絶対こっちが本命で、そっちは囮でしょ!」
そうして発見したのは、さらに目立たないスイッチ。
そうなんです。私たちが発見したスイッチは、実は踏んでも安全であり、そうして油断したら別の場所に本物のスイッチが、なんて罠もかなり多いです。
そう、かなり多いのです……。
こうして、疑心暗鬼になるほどには、私たちは罠にかかりましたから……。
「じゃあ、こっちは踏まないように進みましょ」
「はい、念のため最初に発見したほうも踏まないように……」
足元でカチッと言う音が聞こえました。
……私、踏んでいませんよ?
最初に発見したスイッチも、その後に発見したスイッチも、二人とも踏んでいません。
ですが私の足元には……。
「…二つとも囮で、本命はその石ころの下だったのねえ……」
「……逃げます?」
「下手に動いたほうが危険だから、その場で対処するわよ」
方針を決めた直後、天井が落ちてきました……。
「雑に厄介なことしてんじゃないわよ!」
「と、とりあえず私たちに触れそうな部分だけ、空間の先に送ります!」
落下した天井から逃げることはできます。
できますが、どうせ逃げた先には別の罠があるはずなので、動かずに対処するのが一番安全なのです。
「任せた!」
幸い私とテンユウさんの距離は近いので、大きめに空間を作ることで、そこに触れた天井を空間の中に移動させられます。
そうすれば、押しつぶされることもなく、無事この場を切り抜け……。
「バカじゃないのっ!?」
天井は私たちを潰すことなく落ちました。ですが問題はその後。
天井の上にいくつもの岩が乗っていたらしく、私たちの目線の先にそれらが現れました。
ただの岩ならいいのですが、これって爆発していた岩と同じですよね……。
「ああ、もう! 解析して、魔力を制御して、爆発を内側に修正!」
文句を言いながらも、テンユウさんはものすごい速度でいくつもの岩に魔力を通わせます。
そうして、魔力で爆発するはずの岩を書き換えて、こちらに被害がないようにしてくれているようです。
「ほんと、疲れるわあ……」
「お、お疲れ様です」
いくつもの岩が破裂音とともに崩れていきました。
テンユウさんが、爆発を内側に発生するようにしていなかったら、きっとこの場が大爆発に巻き込まれていたのでしょうね……。
「す、進みます?」
「……進むわ。人類にとって危機ではないのはわかったけれど、こうまで厳重に守られているのが気になるし。その百足の男のしわざだというなら、ぶん殴りたいから」
ピルカヤ。ここにいるんでしょうか……。
なんだか、ロペスとあの魔族の男のしわざとしか思えなくなってきました。
ロペス……。こんなにも恐ろしい防衛を作っていたとは。
現地の者に危害を加えていなくとも、彼が危険な存在であることはよくわかりました。
同じ世界の者として、私が粛清しないと……。
◇
「ルイスのほうは空間を作成する能力で、物理的な罠は作成した空間に飛ばされる」
あの空間の揺らぎのことを考えると、想像していた力って感じだな。
道中のテンユウとの会話のおかげで、あの力で生物をえぐることはできないようだから、少し安心した。
「それでテンユウは、魔力の操作や制御に長けているから、魔力関連の罠を解析して指向性を変えられると」
こっちはこっちで、かなり厄介だな。
魔力関連が強みの者にとっては、天敵ともいえる勇者なんじゃないか?
俺の罠は物理と魔力どちらもあるが、この二人が組んでいるせいで、軽々と突破されてしまっている。
「なんか……俺への風評被害がすごいことに、なっている気がします……」
「やっぱり、ドリュとロペスの宝箱受け渡し現場を見られていたみたいだな」
「少しはドリュのこと考えてやれよぉ……。お前のせいで、とんでもない扱いされてんだぞぉ」
「なんか悪辣とか言われてたな。ひどい話だ」
「それ、全部お前への評価だからなぁ?」
まあ、魔族だから。悪なのは間違いないし。
「勇者が困るようなダンジョンって目的、達成できてるんじゃねえか?」
「いや、文句を言いながらも簡単に対処している。やっぱりモンスターたちも組み合わせないと駄目っぽい」
「いや、それをするとあの場所が危険視されるので得策ではないな」
アナンタの言葉に反論すると、ダスカロスからそんな指摘を受けた。
そうなんだよなあ。だからこそ、罠だけで頑張ったけれど、やっぱり勇者は厄介だ。
そして、ルイスも思った以上に厄介な相手だ。
「駄目っぽいのはお前だよぉ……」
でも、勇者も転生者も無傷じゃないか……。
アナンタと分かり合うことのなんと難しいことか。
俺はため息をついたが、なぜか向こうのため息のほうが大きかった。
「さて、このまま進まれても問題ないが、相手を納得させる理由を用意したいところだな」
俺とアナンタのやり取りを気にすることなく、ダスカロスは思案しながらそんなことを呟く。
納得させる理由か。
「まず、ロペスが魔王軍側と疑われているってことだよな」
「ああ。あとは、ドリュも見られているしピルカヤの存在も疑われている」
「このまま何もなかったら、思い違いだったと納得することは……」
「ピルカヤの件はそれでいいかもしれないが、ロペスとドリュ。それにロペスのボスが解決しないな」
「そのあたりを用意する必要があると」
「迷惑かけてすまねえ……」
俺とダスカロスの会話に、ロペスは申し訳なさそうにしていた。
まあ、あれに関しては謎空間のせいで誰も認識できなかったようだし、ロペス一人の責任にするのは酷というものだ。
というか、基本的にロペスでしくじるのなら、誰でもしくじるだろうし。
「ということで、ドリュよ。死んでもらえるか?」
「かしこまりました」
なんかすごいこと言い出した。
まあ、さすがに失態の責任をとれとかではなく、ピルカヤのときみたいに死んだふりとかだろうな。
「魔王様。ドリュのために、不死鳥の羽を用意していただけますか?」
「ガシャでハズレを引けと!? ついに、あなたまでそんなことを言い出しましたか。ダスカロス」
「い、いえ、保管してある物を分けていただきたいというだけです」
「なるほど、そういうことでしたか。ですが、う~ん……。物騒ですねえ。もっと穏便にすませませんか?」
「魔王様、私なら問題ありません」
たしかに、これまでも不死鳥の羽で保険をかけつつ、危険なこともしてきたからな。
ドリュとしては、一度蘇生するなら特に気にしていないんだろう。
だけど、フィオナ様は今回はちょっと気が乗らないらしい。
相手が厄介そうな転生者と勇者だもんなあ。
「万が一があったら、蘇生薬も使いましょう」
「いえ、宰相様。俺なんかのために、そんな……」
「それなら問題ありませんね。では、魔王ボックスの出番です」
フィオナ様は、遠慮がちなドリュを手で制し首を横に振る。
そして俺の手を引いて一緒に部屋へと向かった。
……俺いる? いつも一緒に部屋に向かっているから、無意識に俺のこと連れて行ってませんか?
というか、カーマルに転移してもらえばいいのに。
言いたいことはいろいろあるが、なんだか上機嫌なフィオナ様の顔を見ると何も言えなくなる。
まあ、俺もこの方と一緒に行動するの嫌いではないし、水を差す必要もないか。