【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「まあ、こんなところかしら」
腑に落ちない。ですが、これ以上は調査しても仕方ないのかもしれません。
ロペスと会話していた魔族の男は、私の手でたしかに殺しました。
そしてその男に出会う前に、この場所もしっかりと調査をしましたが、罠とこの男以外は特に怪しいものもありません。
ピルカヤが復活していた痕跡もなければ、他の魔族すら見当たらず、本当に単なる生き残りだったように思えます。
「……これ以上の調査はできないですね」
「ええ。まあ、あの岩をどかせば調査できるでしょうけど、それに意味はなさそうだからねえ」
テンユウさんは、すでにこの場所に見切りをつけているようでした。
怪しげな魔族の男の正体は、単なる魔王軍の残党であり、転生者であるロペスを利用して魔王軍の復興のために暗躍していた。
となると、カジノはこれからどうなるのでしょうか。
あれが魔族の男のしわざというのなら、あそこで人類から何かを奪おうとしていたはずです。
まさか、人類の貨幣を利用して、この世界を混乱させようとしていたとか……?
ですが、すでにあの男は死にました。代わりにロペスたちが、魔王軍を復活させるために動くのでしょうか?
……どうやら、まだ見極めないといけませんね。
悪しき転生者なのか、利用されていただけの転生者なのか、粛清が必要なのかを……。
「大丈夫? まだ心配ごとかしら?」
「いえ、ピルカヤについては痕跡が無かったので、おそらくあの男が言ったとおりでしょうね。名を使って自分の力を必要以上に大きく見せていただけみたいですし、あとは私たちの問題です」
「そう……。手伝いは?」
「これ以上、勇者様の手をわずらわせるわけにはいきません。私一人で対処します」
「無理はしないようにね」
二人でダンジョンの入り口まで歩き、テンユウさんとはそこで別れることにしました。
このままロペスのことを確認するため、私はカジノに入らないといけませんからね。
……なんだか、テンユウさんが思案する表情になってしまいましたが、別に私はギャンブルにハマったわけではありません。
なにか呟いているようですし、もしかして道中話していた従者の方のようになったと勘違いされていますか……?
「……痕跡が無かった。——本当にそうかしら」
◇
「さて、それじゃあ手筈通りに」
それにしても、ドリュさんとの戦闘があったというのに元気なものだねえ。
ルイスという転生者は、レイ様が作った罠を無傷で切り抜け、その後ドリュ様を倒したその足で、まっすぐカジノへと向かってきた。
どうやら、ロペスを疑っているとのことだけど、ドリュさんの機転によりそれは幾分かやわらいだらしい。
であれば、ロペスはドリュさんが倒されたことで昏倒し、記憶が混乱しているとでも言っておくのがいいだろうさ。
まったく……世話の焼ける。私がいないと駄目なんだから。
「いらっしゃいませ」
私や仲間たちが客として歓迎すると、ルイスはきょろきょろと周囲を見渡している。
やはり狙いはロペスみたいだねえ。仲間の一人が何か探しているか尋ねると、しばらく考えてから彼女は口を開いた。
「ここの責任者のハーフリングに用事がありまして。不在なのでしょうか?」
「ああ、彼なら急に体調を崩していまして」
「そう、ですか……。もしかして、先ほど急に?」
「ええ。なにやら記憶が混濁しているみたいで、ちょっと人前には出られないみたいでしてねえ」
私の言葉に、ルイスは心当たりがあるような顔へと変わる。
……これで、ドリュさんがロペスを洗脳していたと思ってくれたかな? それにしても、表情がわかりやすいねえ。
こればかりは、年の功というべきか、私がだいぶ有利みたいだ。
「失礼ですが、あなたとロペス……さんの関係は?」
「上司と部下ですね。私が部下です」
「パートナーです!」
「違うから!」
……ほら見ろ。いきなり変なこと言うから、さすがにルイスも唖然としているじゃないか。
まったく、私の部下はどうなっているんだか。
だけど、むしろ警戒心を解いているような気はするねえ。
このまま、なにか完全に彼女の疑いを晴らす手段があればいいのだけど……。
◇
「なるほど、つまりルイスの力は空間作成だけではないってことか」
「ええ。魔力と魔法の出力が釣り合っていないので、あれは俺が知る魔法ではなく、女神の加護だと思います」
帰還したドリュから戦闘の詳細を確認すると、なんとも厄介そうな話になってきた。
あの空間作成らしき能力だけでも面倒だったが、ルイスの力は他にもある。
ドリュの死因である体を焼いた攻撃。それは、雷による攻撃だったそうだが、こちらも女神の加護だというのだ。
「だけど、あの空間作成も女神の加護だよな……」
「それは間違いないだろうな。あれだけの力のわりに、あれも魔力の消耗がほとんどない。ルイスの魔力から考えても不自然だ」
こちらの魔法とは何かが違う。それがドリュやダスカロスの見解だった。
ということは、能力が二つあるのか……?
せっかく状況がわかったというのに、空間作成と雷の二つの力なんてとんでもないものが出てくるとは。
これが二つだけという保証もない。三つ目に生存の能力が、四つ目に情報収集の能力が、なんてことになったら、こちらの隠していた情報が筒抜けになる。
なんだか、ルイスの脅威度がさらに上昇した気がする……。
「ロペスは、まだ疑われているのかな?」
「ドリュがうまくやってくれたため、半信半疑程度にはなっているようだ。さらに、クララが今話しているおかげで、魔族に利用された哀れなハーフリングと思ってもらえるかもしれん」
「なんか、みんなに迷惑かけちまってるなあ……」
まあ、あの場で隠れ潜んで見られているなんて思わないもんな。
特に、地底魔界というホームで、ピルカヤの力で認識できない存在というのはとても厄介だ。
……もしかして、これも別の加護か? 空間作成の応用ではなく、モリーみたいに存在を希薄化するという力も持っているかもしれない。
そう考えると、ルイスが去った後もロペスには、記憶が混濁していたような演技を頼むべきかもしれないな。
……ここは、大丈夫だろうか? さすがに、カジノにいるみたいだし、今の俺たちの会話が筒抜けとは思いたくないが、なんだか何もかも疑わしくなってきた。
「ピルカヤみたいに、こっちの様子が全て筒抜けになる力があるとしたら、かなり面倒だな。あいつ」
「さすがに、ボスたちのことまではばれてないはず……だよな? ピルカヤの旦那のことさえ、半信半疑だったようだし」
「おそらくとしか言えないが、あまり放置していい転生者でもないだろうな」
「殺します~?」
ダスカロスの言葉に、イピレティスが嬉々として反応する。
先ほどはテンユウという勇者と共に行動していたが、今は一人……。
カジノだとさすがに目撃者は多いが、ダンジョンの奥に誘い込めるなら……いけるか?
いや、鳳姉弟みたいに、殺しても復活した場合が問題か。
加護がわからないというのは、本当に面倒なものだな。
倒したところで、情報だけ持ち帰られても困るし。
「僕くらいなら、万が一ばれても大丈夫じゃないですか?」
「そりゃあ、フィオナ様や四天王がばれるよりはましだけど……」
とは言っても十魔将。魔王軍の幹部だ。
それが生存しているとなると、最悪勇者が動くんじゃないだろうか。
『レイ~』
やはりイピレティスを向かわせるのは、まだやめておこう。
そう考えを決めたと同時、ピルカヤから話しかけられた。
どうやら、ダンジョンを見張っていて何か報告があったみたいだ。
「どうした? ピルカヤ」
『ボク、テンユウにバレたかも』
「え……」
ルイスで悩んでいたら、今度はテンユウか……。
なんだか、厄介事が次から次へと襲いかかってきているな……。