【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「いるんでしょ? ピルカヤ」
ルイスちゃんと別れ、先ほどの場所へと戻ったアタシは、崩れ落ちた岩の前でそう呟いた。
なんかあの子カジノに向かっちゃったけど、レンシャみたいに賭博にハマったとかじゃないわよね?
まあ、しっかりしていそうな子だったし、さすがにそれは無いと思いたい。
それよりも、今はあの子を巻き込まないように、こっちに集中しないとね……。
「……」
返事はない。だけど、アタシには確信がある。
これでも勇者の中では、魔力に関しては最も秀でている。
だから、アタシが間違えているとは思っていない。
わざわざ対策もしないで、ここの調査をしただけあって、ピルカヤの視線はしっかりと感じた。
魔力の残滓は確かにそこにあった。
「根競べといっても、こっちが不利だし面倒なのよねえ……。お互い仕事はさっさと終わらせたいでしょ? さっさと出てきてくれないかしら?」
四天王ピルカヤ。
まあ、魔王が復活させるなら、優先順位はかなり高いでしょうね。
ピルカヤがいるかいないかで、得られる情報が違いすぎるもの。
だから、魔王が想定以上に力を残していたのなら、ピルカヤが復活していることは不思議じゃないわねえ。
やっぱりというか、アタシたちが命を捨てて挑んでも、魔王の力を削ぐことすらできなかったってことでしょうね。
嫌だわあ……。勇者を一撃で殺す魔法だから、もしかしたら無理して力を注いだなんて期待もしたけれど、案の定それほどの力の差があるってことじゃない。
あのリピアネムですら、魔王の前では前座も前座って実力になるわけだし、ちょっと受け入れたくない事実ね。
切り崩すには、アタシたちが強くなって魔王に挑む……以外にも何か必要なんでしょうね。
さてと、返事はまだみたい。
どこまで復活しているのかしら。ピルカヤだけ? それとも四天王全員? 十魔将は?
ダスカロスも復活しているのなら、今ごろ魔王と一緒にピルカヤの行動を決めているころかしら。
◇
「なるほど……どおりで、テンユウとルイスの会話を見ることができたわけだ」
欲望のダンジョンに二人が侵入した様子を、ピルカヤを通して観察することができた。
こちらの拠点であり、当然ながらピルカヤ用に松明を設置しているので、当然と言えば当然だ。
しかし、以前フィオナ様から聞いたとおり、ピルカヤの力は強力ゆえに、知れ渡っている。
対策もいくつかあるため、すんなりと二人の様子を監視できたこと自体がおかしかった。
「あえて、ピルカヤに監視させることで、向こうはピルカヤの存在を探っていたか」
そういうことをしてくる勇者か……。厄介だな。
イドは当然として、オルナスだって、そんな回りくどいことはしなかった。
ということは、テンユウは魔力あるいは技量が高いタイプの勇者ってことだな。
「奥居。テンユウって、魔法と技を得意としている勇者だったか?」
唯一のゲーム経験者に確認をとる。
しかし、奥居は残念ながらゲームをすぐに投げ出したプレイヤーだ。
そのため、俺の質問になんとか思い出すようなそぶりを見せるも、確信がなさそうだった。
「ええと、すみません。私、一番簡単と言われてイドばかり使っていたので、テンユウのことはわかりません」
イドが一番簡単ってことみたいだし、テンユウはやっぱり操作に癖があるような技量系のキャラクターっぽいか。
ピルカヤの存在はすでに確信をもって知られているだろうし、ここで戦わせて負けたふりをするしかないか?
だけど、イドならともかく、テンユウってそういうの気づきそうだしなあ……。
「しょうがないな~。ちょっと、本気で戦ってくるよ」
「勝てるのか?」
「う~ん。魔王様のおかげで、ボクもパワーアップしてるけど、勝てるかは微妙だね~」
「ピルカヤは炎だからな。テンユウとは特に相性が悪い」
たしかに、さっきの二人の調査のときも、ルイスが物理的な罠を対応し、テンユウがそれ以外の罠を対応していたからな。
炎を霧散させたり散らしたりしていることから、ピルカヤの攻撃も同じように対処しそうなことは想像がつく。
「でも、あれを放置するわけにもいかないからねえ」
ピルカヤが指さしたテンユウの姿は、すでにぼんやりとして見えなくなっていた。
いや……共有してもらっているはずの視界が、全てもやがかかったように朧げになっている……。
「もしかして、ピルカヤの力を妨害しているのか?」
「ボクの魔力だけを阻害して、目の共有を邪魔されちゃってる。ほんっと、嫌になるよ」
「もしかして、テンユウがその気になれば、ピルカヤの監視を無効化できるってことか?」
「さすがに監視全般ってことではないけどね。ただ、少なくとも地底魔界の中でなら、こうして共有は邪魔されちゃうみたい」
すでに、ピルカヤの視界共有はできなくなっていた。
真っ白な映像しか目に入ってこない。これは、あまりにも厄介だ……。
「まあ、ちょっと行ってくるよ。分体のほうに、ほとんどの力をつぎ込めば、きっとテンユウも騙せるだろうし」
「念のため、不死鳥の羽を……」
「どうだろうね? こう言ったら悪いけど、ドリュと違ってボクのことは、確実に死んだかどうか観察されると思うよ?」
ピルカヤを万が一仕留めそこなっていたとなったら、人類にとってはあまりにも不利な状況だもんな。
現に、ピルカヤのおかげでこれまでも、色々と楽をさせてもらっていたわけだし。
「では、最悪の場合、蘇生薬を使いましょう」
「え~。魔王様、どうせ蘇生薬引けないんですから、大事にしておいたほうがいいですよ~?」
「私をなんだと思っているんですか!? 引けますし。蘇生薬とか、十個くらい引けますから。……レイが」
なんか、勝手に一蓮托生にされたけど望むところだ。
俺は、これからもフィオナ様と一緒に生きていくし、蘇生薬は俺が作ればいい。
「まあ、本体は残しておきますから、なけなしの蘇生薬を使わせないようにがんばりますけどね~」
そう言い残して、ピルカヤの力の大部分を引き継いだ分体は、テンユウの元へと向かって行った。
軽い口調ではあるが、わずかな緊張感が伝わったので、ピルカヤもテンユウのことを重く見ているみたいだな……。
◆
「使うか。テンユウ……」
「一番簡単なリックでも、一番使いやすいイドでもダメだったのに。無茶するなあ」
「いや、俺こういう癖のあるキャラのほうが得意だし」
「いつも自信だけはあるんだよなあ」
友人の呆れた声を後目に、青年はコントローラーを握る。
そうしてゲームの最初に主人公であるテンユウを選択し、彼は心が折れた。
「なにこれ!? やること多すぎて、パニックなんだけど!?」
「ほら、さっさと周辺の魔力を可視化して、敵の攻撃だけを解析して、解析終わったら敵に反射しろよ」
「そんなの、間に合わないって!」
「敵の行動パターン完璧に覚えてないと、たぶん使いこなせないよなあ」
「テンユウ使える人って、めちゃくちゃ上手い人だけみたいだし」
本来ならば避けるか防ぐかすべき敵の魔法攻撃。
テンユウの力を使うことで、それを無効化して敵への攻撃に変換することができる。
しかし、とにかく操作が忙しいため、敵と操作キャラの距離、敵の攻撃の隙、行動後の後隙等を考えないと、テンユウを使いこなすことは難しい。
もちろん、それらを使わずに戦うことも可能だが、彼は完璧にテンユウを使いこなしたいと考え、なんとかその特性を駆使して戦っていた。
「ほら、反射した!」
「次きてるぞ。また反射しないと」
「ピルカヤの手数多すぎんだよ!」
「四天王だもんなあ……」
そうして抗うこと数時間。
彼が操作するキャラクターは、テンユウではなくイドへと変わるのだった。