【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
全盛期の力、完全に取り戻してるじゃない!
もはや疑う余地もないわね。
完全に、アタシが知ってるピルカヤそのものだわ。
「早すぎるでしょ……。なんで、もう復活してるのよ」
魔王の力が、それだけ残っていたってことよね……。
ああ、嫌だ嫌だ。いよいよ勇者に、人類に勝ち目がなくなってきちゃうじゃない。
それとも、ピルカヤだけ最優先で復活させたのかしら?
それだけの価値があるからね。この精霊には。
「ま~だ、生きてる。いい加減倒れてくれないかなぁ」
「倒れないわよ! 勇者舐めんじゃないわよ。四天王!」
四天王との一対一。それなら、アタシたち勇者が有利なはずなんだから。
……あの例外の化け物は別だけどね。
なんなの、リピアネムとかいうやばいの。
まあ、それに比べたらピルカヤは、はるかにマシだし、ここで退くわけにはいかない。
「あんたが魔王軍で功績をあげたがっているように、アタシたち勇者にも使命ってもんがあるのよ」
「へぇ、そうなんだ。君の言う使命って、導き? それとも呪縛?」
……痛いところついてくるじゃないの。
他の種族と考えがズレている精霊なのに。
道を指し示す目標なんかではなく、呪縛ね。これは。
「勇者って大変なのよ。こう見えてもね」
それでも、アタシが諦めるわけにはいかない。
勇者が投げ出したら、人類はいよいよ終わりだし、あの女神に任せたら、さらに最悪かもしれないのだから。
「ふ~ん。息が詰まりそうな生き方だねぇ」
「自由奔放な精霊とは違うのよ。アタシたちは」
「ま、いいや。終わりにしてあげるよ」
容赦ないわね。こいつ……。
ピルカヤは、再び魔力を解き放つと、洞窟の中の温度がどんどん上昇していく。
これさえも、多少の実力者以外にはダメージを与える攻撃となりかねない。
だというのに、これが攻撃前の下準備でしかないのだから、四天王ってほんと強いわよねぇ。
「今度こそ、殺してあげるよ!」
「言ったでしょ。勇者舐めんなよ。精霊!」
◇
「おい、ピルカヤ」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと加減して、いい感じに負けるから」
ピルカヤの言葉にほっと安堵した。
また頭に血が上っているのかと思ったが、しっかりと冷静に戦ってくれているらしい。
ということは、最大の攻撃と見せかけて、そのままテンユウに討ち取られる予定ってことか。
視界の先を見つめると、ピルカヤは先ほど以上の大規模な攻撃を仕掛けようとしている。
先ほどの攻撃ですら、テンユウはほぼ無傷で切り抜けた。
であれば、もう少し火力を上げたとしても、テンユウなら無事だと判断したのだろう。
そうして、大技の直後の隙を突いてもらって、上手に敗北するってところかな。
「まあ、オーロラみたいになっていないし、さすがに本気じゃないか」
「そうそう。ボク、今ならもっと強いからね」
フィオナ様のおかげで、四天王は全員パワーアップしている。
なので、こうして分体で本気を出しても、以前の全力に近い力を発揮できているんだろうな。
「フィオナ様のガシャ、やっぱりわりとアタリですよね」
「皮肉ですか? 皮肉ですね? ついに、宰相が私を裏切りましたか?」
「本音なんですけど……」
「あなたが私を裏切ったら、私は泣きながら世界を滅ぼしますからね!」
「一生裏切りませんから、落ち着いてください。というか、今もう泣きそうです」
あなたの部下が真剣に戦っている最中でしょうが。
思い切り抱きしめなくても、俺は逃げませんよ。
「まったくもう。あなたは永遠に私の隣です」
「そのつもりだと、何度も言ってるじゃないですか」
さては……信用されてない?
ピルカヤじゃないけれど、俺ももっと功績を積んで信頼を勝ち取らねば……。
よし、ダンジョンの難易度アップだ。
と思っていたら、なんかアナンタにすごい顔で見られた。
……バレたか?
『喰らえっ!』
っと、ピルカヤのほうに集中しないと。
フィオナ様もそう思ったのか、俺を抱きしめる力が無意識に強くなっているらしい。
映し出された視界の先では、ピルカヤが先ほど以上の炎を波のように放出している。
範囲が凄まじいな。これ、ゲームならどうやって回避するんだろう。
しかしテンユウはテンユウで、その炎の波にしっかりと対応できている。
相変わらず、魔力関係の攻撃は分析されて支配権を奪われるのは変わらない。
波の一部はテンユウの制御下となり、それで力を拮抗させているようだ。
「あとは、適当に力負けして隙だらけになってと……」
それがピルカヤのプランだった。
たしかに、目に映る光景では、わずかにピルカヤが押され始めている。
……あれ、なんかテンユウのほうの炎も勢いが減っていないか?
ピルカヤの炎の波を押し返すどころか、このままじゃテンユウが……。
「あ、あれ? ボク強くなりすぎた?」
ピルカヤが急いでテンユウへの攻撃を中断しようとするも、テンユウが炎の波に呑み込まれるほうが早かった……。
「倒しちゃったな……」
「……ボ、ボク強いからね!」
テンユウの姿はすでに見えない。
あの炎の中ってことだよな。これは、さすがの勇者も……。
「ピルカヤ、テンユウはまだ生きています」
「えっ?」
フィオナ様の真剣な声、それに気を取られたピルカヤは、分体を隙に晒してしまった。
『火の海で海水浴なんて、お肌が焼けちゃいそうねえ!』
『えっ』
ピルカヤの近くの火の中から、テンユウが現れた。
着飾った見た目はボロボロになり、肌も火に焼かれている。
そんな状態でも、テンユウはピルカヤを倒すべく隙を見逃さなかったのだ。
『……残念ね。ここまでみたい』
隙だらけのピルカヤにテンユウの拳が届く。
魔力を込めていたようなので、本当ならそこから攻撃に発展したのだろう。
だが、いくら勇者とはいえ、ピルカヤの火の中を隠れて進むのは、無理があったようだ。
テンユウは、ピルカヤの胸に拳を当てたまま、その場で崩れ落ちた。
「ピルカヤ……」
「……とりあえず、分体を戻すね」
テンユウは、完全に息絶えたらしい。
倒れた体は動くこともなく、生命活動を停止した証として、ダンジョンは徐々にテンユウの体を魔力へと分解していった。
う~ん。ピルカヤが強くなりすぎたのか?
いや、それでも加減しようとしていたしなあ。
もしかして、あれはテンユウの偽物とか、死んだふりだったという線は……無さそうだな。ダンジョン魔力はしっかりと増えている。
それも、イドが死んだときと同じ量だ。
勇者の場合特別なのか、比較的多めのダンジョン魔力を得られるからな。
どうやら、テンユウは確実に死んでいるらしい。
「ねえねえ。レイ」
「どうした? ああ、功績の話か? 予定は違ったけど、勇者を倒したんだし十分役立ってると思うぞ」
「だよねぇ! ボクすごいでしょ!」
「ええ、ピルカヤはとても頼りになりますね」
俺とフィオナ様に褒められて、ピルカヤは機嫌良さそうに浮かんでいる。
まあ、もう一度テンユウが攻めてくる可能性は高いし、なんなら他の者たちに言いふらされるだろうけどな。
そうなると、あの場所は最悪放棄したほうがいいか。
欲望のダンジョン自体も、下手したら放棄かなあ……。
もったいないが、魔王軍のことがバレるよりはずっといい。
そう割り切ろうとしていると、ピルカヤがはっとした様子で俺に話しかけた。
「褒められたいけど、今はそれじゃなかった! ええと……レイって、虚無の種子持ってたよね?」
「ああ、まだ使ってないな。ダンジョンに利用しようにも、アナンタが全部却下するし」
「当たり前だぁ……」
せっかく使うのなら、徹底的に敵を撃退したいじゃないか。
そんな俺の思いは届かないらしい。
「それ、ボクにちょうだい」
「珍しいな……。フィオナ様どうします?」
「あれはレイの物なので、レイが決めて良いですよ」
ということであれば、ピルカヤに今回や今までの功績の褒美として渡してもいいか。
おそらく、俺では持て余すだけだろうし。
そう判断して、俺はピルカヤに虚無の種子を渡すことにした。