【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なあ、せめて営業時間外に来てくれないかねえ。こっちはお客さんの相手をしないといけないんだけど」
というか、こっちはそれどころじゃない。
急にピルカヤ様の視界共有が途切れた。
途切れただけならまだいいが、真っ白な光景だけが目に映った。
どう考えても尋常ではない。何かあったということになる……。
今は問題なく、カジノ中の光景が目に映っているけれど、あの異変に私以外の誰も気付いていないのか、解決したのかさえ判断できない。
だから、一刻も早く状況を確認したいんだ。
「いえ、もう営業する必要はありません。私は、あなた方を切り捨てることに決めたので」
すると目の前の転生者から、そんなことを言われた。
……別に、それ自体はどうでもいいさ。私たちダークエルフは、とうの昔に切り捨てられていたんだから。
女神からも、この世界のあらゆる種族からも。
だからこそ、魔王軍だけが私たちの居場所なんだ。
「あなた方が、ここしか働く場所がないとしても、私は四天王を放置するわけにはいきません」
「四天王……いったい、なんの話を」
まさか、ピルカヤ様に異変があったのは、ルイスが原因……?
「あなた方が騙されているのか、それとも協力しているのかはわかりません。ですが、四天王の企みということであれば、このカジノは放置できませんので」
……バレている。
少なくとも、裏にピルカヤ様がいることは、確信されているようだ。
「それが、女神様の意向です」
「っ……!」
また女神。私たちを見捨てた存在。
つまるところ、こいつはあれの使徒にすぎないということか。
いや、転生者である以上仕方がないのかもしれない。
だからこそ、ここにいる転生者たちが特別なんだろうね。
私たちを差別することなく、友好的に接してくれるのだから。
「この世界を崩壊に導く者たちを倒さないと、平和は訪れないんです……」
随分と辛そうな顔じゃないか。
まるで申し訳ないと思っているような、それでいて謝罪して罪悪感を減らすことさえできないような、およそ敵とは思えない顔だ。
「私はピルカヤを倒します。その後、このカジノも破壊します。巻き込まれたくなかったら……逃げてください」
「黙ってそれを見ているとでも思うのか?」
ウルラガ様がルイスに向かって行く。
ここの用心棒である以上、ルイスの発言はこの方にとって聞き捨てならないものだったようだ。
「……邪魔をするのであれば、排除します」
「面白え。やってみろ」
互いに譲るつもりもなく、二人は視線をそらさずに睨み合っている。
いつここが戦場になってもおかしくない。一触即発の状況だ。
ルイスの力は、空間の作成と雷系の攻撃。
だが、それ以外にも存在する可能性が高いと言われている。
ウルラガ様……。勝機はあるんだろうか。
「仕方ありませんね……」
ルイスがそう呟くと、二人の姿は消えてしまった。
目の前には、わずかな空間の揺らぎが……。
たしかに、これは空間魔法のような力だね。
つまり、二人はここに入って戦っているということのようだ。
とりあえず、至急ピルカヤ様への連絡をしないと……。
◇
「ん?」
「どうした? ピルカヤ」
「なんか、クララのほうもちょっとトラブルみたい」
「忙しいな……」
テンユウの襲撃に対処し、予定が狂って殺してしまったばかりなのに、今度はクララのほうか。
……ということは、おそらくルイスだな。
「ルイスにもボクの存在がバレたから、ウルラガが戦ってるらしいね……」
「テンユウが知らせたか?」
だとしたら、やはり勝利するのはまずかったな。
あそこで死んだふりをしておけば、ピルカヤは今度こそ倒したと思ってもらえたが……まあ、いまさらそれを言っても仕方ない。
「戦闘の状況は?」
「また、あの空間の中みたいだから、しばらくはわからないね」
「だとしたらまずいな……」
ウルラガには、不死鳥の羽を持たせていない。
ドリュと違って、最悪倒されても良い状況ではない。
だというのに、状況もわからず戦闘が始まってしまっているということか。
「その空間に援軍って送れるのかな?」
「クララが外から調べているけれど、触れたら転移ではなく、ルイスの許可が必要みたいだね」
まずいな……。
であれば、ウルラガを助けることができない。
彼一人の力で、この場を切り抜けてもらうことになってしまっている。
「フィオナ様。もしものときは、ウルラガに蘇生薬を使ってもいいですか?」
「ええ。蘇生待ちの子たちには申し訳ないですが、許可します」
であれば、最悪の事態は免れそうか。
そんな思いからホッとした俺を見て、リグマが口を開いた。
「ウルラガの場合、蘇生薬が効くかわかんねえなあ」
「え、無効化されるの?」
「あいつ、おじさんの分体だからね。本体であるおじさんが生きている以上、蘇生薬が正しく機能するかちょっと怪しいかもしれないんだわ」
たしかに……ピルカヤの分体みたいなものか。
「まあ、その場合、おじさんに力が戻るし、そこからしばらく休めば復活できると思うぜ?」
「じゃあ、蘇生薬なしでも復帰可能ってことか」
よかった。蘇生薬が使えないと聞いて、ウルラガを復活させる手だてがないのかと焦ったが、それどころか蘇生薬なしで復活可能みたいだ。
そうなると、問題はルイス……いや、テンユウもか。
「ウルラガがルイスを倒してくれるのが一番良いけれど、負けた場合もうなりふり構っていられないかもな……」
なんせ、ピルカヤの存在がバレているんだ。
ここは、もう一度ピルカヤに戦ってもらうか?
いや、ピルカヤには別の役目を……。
まずは、カジノの人払いだな。四天王にせよ、十魔将にせよ、客に見られるわけにはいかない。
「クララ、客を一旦避難……」
『レイ様。もう退避は行っています。ルイスを倒す方なら、遠慮なく派遣してください』
客たちは、従業員によって外に誘導されていた。
会話の内容を聞くと、ダンジョンからモンスターが出てきそうだという話になっているらしい。
リズワンとかいなくてよかった。自分が戦うとか言いそうだしな。
「これで誰でも戦わせることはできる。となると、あとは誰に行ってもらうかだが……」
「ならば、私が出よう」
そう名乗りを上げたのは、四天王最強の存在だった。
いまだ能力が判明しきっていないルイスが相手だというのに、彼女は堂々とした振る舞いでこちらの指示を待つ。
「リピアネム……倒せるか?」
「かつて勇者に敗北を喫した私ではない。力の制御を覚えた私だぞ。さて、もう一度言ってくれ。誰の心配をしている?」
「そうだったな。倒してこい。リピアネム」
◇
「くそっ……。ふざけた力だな。おい……」
「あなたのことは知りません。ですが、魔王軍の味方であり、それだけの実力を持つものであれば、卑怯な手も使わせていただきます」
返事はありませんでした。
竜人なのにスライムとしての特徴も持つ男は、すでに事切れているらしく、もはや肉体を変化させることすらできなくなったようです。
水たまりのようになった赤黒いスライムは、生命力も魔力も感じられません。
「用心棒でしたっけ? 彼もまた、魔王軍に用意された存在なのでしょうね。わかりますか? あなた方は、魔王軍にとって都合の良い労働力でしかないのです」
たしかに、今までひどい目に遭っていたのかもしれません。
ですが、魔王軍が力を取り戻し、世界を滅ぼした後は?
あなた方の待遇どころか、命すら保証されません。
ここで働き口を失ったとしても、未来に滅ぼされるよりは……マシなはずです。
「私はこれから、あなたたちをそそのかしていた四天王ピルカヤを討ちます。勇者さえも倒した存在を、野放しになんてできません」
私と別れたテンユウさんは、再びダンジョンへと潜っていきました。
気になったので、力の一つを使って彼を監視していると、ピルカヤが現れました。
やはり全ての原因は、四天王ピルカヤだったとこれではっきりした。
テンユウさんは、恐らく私を巻き込まないため、単独で引き返したのでしょうね……。
そんな彼でさえも、ピルカヤに焼き殺されてしまったのであれば、次は私が命を賭ける番です。
必ずここで倒してみせます。そうしなければ、世界に平穏なんて訪れないのですから。