【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ボクが戦おうと思ったのに~!」
ピルカヤの不満そうな声が響く。
無理もない。相手はピルカヤを狙っているのだから、テンユウに続いてピルカヤが戦うべきなのだろう。
万が一失敗したとしても、ピルカヤの存在はすでに明るみに出ているのだから、それが一番被害が少ないのだとは思う。
リピアネムの存在までバレたら、いよいよ勇者たちが集結しそうだしな。
だけど、テンユウを逃がしたうえに、ルイスまで仕留め損なうのだけはまずい。
だから、ピルカヤには別の役割に注力してもらう。
「ピルカヤ。あのルイスが本体か、世界中を調べてくれ」
「え」
「ダスカロスとディキティスとエピクレシ。ルイスがここから逃げられないよう、モンスターと魔族とアンデッドの指示を」
絶対に逃がせない。
ピルカヤの生存を知っていて、ウルラガさえも倒す転生者なんて危険すぎる。
「プネヴマ。ヨハンのときみたいに、魂が逃げないように見張ってくれ」
だから、戦闘はリピアネムに頼み、それ以外の抜け道はそれぞれの実力者に塞いでもらう。
「まあ、そういうことなら……」
ピルカヤは、自分だけにできる仕事を振られたためか、大人しく俺の指示に従ってくれた。
十魔将たちも、特に異論はないらしく、各々が動き出す。
◇
ピルカヤの存在をテンユウに知られた。
よりにもよってテンユウだ。これがイドなら、まだ良かったのだが……。
まずい状況なのは間違いない。だが、私にはそれをどうにかする手段もない。
ならば、せめてこちらの問題を解決すべきだろう。
相手はウルラガを倒すほどの者だ。
であれば、私が適任だろう。
「まさか……リピアネム」
「ああ、魔王軍四天王リピアネムだ。お前の命を奪いに来た」
「ピルカヤだけでなく、リピアネムまで……良いでしょう。ここで四天王を二人倒せるのなら、魔王討伐もずっと楽になります」
相手は私に動じることもなく、魔力を球状に展開させた。
周囲の景色がぶれる。そしてすぐに視界が切り替わる。
足元には真っ白な砂。見渡す限りそれ以外何もない空間。
ここならば、戦いやすいだろうな。そんな感想くらいしか出てこない殺風景な場所だった。
なるほど、これがレイ殿が言っていた空間か。たしかに、新たな空間を作成して、そこに何らかのものを送り込めるらしい。
だが、こちらにとっても都合は良い。あのままカジノで戦っては、少なからず被害が出ていただろうからな。
「行きますよ。四天王最強」
「来るがいい。転生者」
転生者というものは、能力は様々だ。
ルイスのように、空間を作成する者は直接戦闘を苦手としている場合が多いが、そんな様子はまったくない。
敵はこの空間の中で、ナルカミが炎をまとうように、両手に雷をまとった。
ドリュが言っていたとおりの戦法だ。
少なくとも能力が二つあり、おそらくそれ以上にも能力がある。レイ殿はそう言っていた。
ならば、それら全てを切り伏せる。それが私の役目ということになる。
「やはり! 当たりませんか!」
敵は焦る様子も見せず、まとっていた雷は手から腕へと、腕から上半身へと、そうして全身を包むように輝いた。
まるで、本人が雷光そのものになったようだな。
ピルカヤのような精霊としての在り方に似ている。
当然、雷そのものになったということは……。
「ここだ」
速度も先ほどより上昇している。
だが、まだ見切れる。本物の雷というわけでもあるまい。
私の動体視力であれば、この速度であっても対応し、一太刀入れることも難しくはない。
「……平然と、雷を切りますか」
「当然だ。その程度できなくて、何が四天王最強か」
それでも……最期は魔王様に全てを託さざるを得なかった。
まったくもって許しがたい。自分の弱さが嫌になる。
勇者に敗北し、あまつさえ転生者相手に苦戦し……二度と、あのような醜態を見せるものか。
「さすがに……下っ端である魔族とは違いますね。あなたも、あの竜も」
ルイスの雰囲気が変わった。
まとっていた雷はそのままに、魔力がさらに注がれている?
威力が変わった? 範囲? おかしい。出力は変わらないのであれば、あの魔力は何のために。
「っ!」
回避に徹する。
先ほどのように、回避と同時に攻撃に転ずることはできなかった。
「……これも、駄目ですか」
「速くなっている」
本気を出したということか?
いや、違うだろう。今の攻撃も、その前も、どちらも本気の一撃だったはずだ。
違いがあるとすれば……。
「なるほどな」
「嘘でしょう……? まさか、こんなすぐに適応されるんですか?」
攻撃の起こりが見えなかった。いや、感じなかった。
気配を消した。あるいは、存在感を希薄な状態まで変化させた。
さらに、今は音すらも無かった。
なるほど、空間作成に雷化、それに加えて認識阻害のような力まで持っていたか。
「その力で、ピルカヤやドリュの存在を見抜いたということか」
「……やはり、一筋縄ではいきませんね。手札全てを切らないと、あなたは倒せませんか」
ということは、三つではなく四つということか?
いや、それ以上だろうとかまうものか。初志貫徹。私は全てを真正面から切り伏せるのみだ。
「いきます!」
言葉が終わるよりも先に、雷の攻撃が四方から迫っていた。
回避、切断、これは……鱗で防ぐ。
速いな。攻撃の存在感も希薄で、速度まで上昇し続け、なるほど、強敵に違いない。
ウルラガが敗北したというのも、わからなくもない。
だが……。
「——っ!」
雷化による移動で、ルイスが後ろに回り込んだと思ったら、大きく口を開いた。
あれは……ブレスか?
それも、ウルラガと同じ属性……。人間の身でありながら……そういうことか。
だが、それは私には通用しない。
ウルラガに散々食らった攻撃のため、対処方法もよくわかっている。
「竜のブレスすら切り伏せますか。よくもまあ、剣技のみをそこまで昇華させたものです……」
こちらの技に感心しているが、それは貴様も同じことだろう。ルイス・アラーニャ。
「貴様こそ、よくもまあそこまで、他者の力を使いこなすものだ」
「……まあ、先ほどの竜のブレスまで使ったら、バレますよね」
レイ殿は一つ間違えていたらしい。
そうか、あの方も間違えることはあるのか……。
ルイスは複数の女神の加護を所持しているのではない。
おそらく、他者の力を模倣するというのが、ルイスの加護なのだろう。
「空間作成。雷化。おそらくではあるが、加速。気配消失。そしてブレス。それが、貴様が模倣した力か」
「神託なんてものもありますけどね。女神様とお話できる力ですが、あまり気軽に使うと機嫌を損ねてしまうため、しばらく使えませんが」
それは、助かった……。
魔王様もレイ殿も、女神に認識されずに地底魔界を繁栄させたいようだからな。
ここで神託なんてされては、女神によって魔王軍が本格的に滅ぼされることとなる。
さて、それは心配しなくても良いようだが、相手の力が模倣であるならば、戦いが長引くのもまずいな。
私の剣技がそのまま攻撃として返ってきた場合、他の能力も備えているルイスが優勢となってしまう。
ならば……。
「終わらせるとしよう」
天嵐覇刃の力を以て、真正面から敵を滅ぼす。
それだけだ。
「さすがに、本気の四天王。それも、最強の四天王が相手では分が悪いですね」
「まだ、隠していた札があるか?」
「ええ。私の加護、コピー。他の力を得る前は、こういう使い方をしていたんです」
ルイスの周囲が歪む。
新たな空間を作成した? いや、違う……。
無から生物を創造した。一見するとまるでレイ殿のモンスターのようだ。
だが、生成されたものは、私が一番よく理解している存在だ。
ルイスの周辺には、剣をかまえた四人の私が作りだされていた。