【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「私の偽物……いや、コピーか」
ルイスは自身の力をコピーと言っていた。
すなわち、他者の能力だけでなく、他者自身をコピーすることもできる力ということか。
四人の私が一斉に斬りかかる。
意思はないらしく、私と同等の速度と技が襲いかかった。
だが……。
「そこに意思がないのであれば、見切るのはたやすい」
なにしろ自分自身の攻撃だからな。
最短の道しか辿らないというのであれば、どこにどのタイミングでくるかなど、目を閉じていてもわかるくらいだ。
一人目、最小限の動きで回避する。二人目、こちらも剣を構え受け止める。三人目、二人目を盾にすることで攻撃は中断する。四人目、ここだ。
天嵐覇刃に魔力を注ぎ、私の周囲のコピーを全て暴風で吹き飛ばす。
「ここまで……」
ルイスの驚愕したような声を背に、風の力で体勢を崩したコピーを順に切り伏せる。
どの程度の力が必要かもすでにわかっている。なんせ、私自身なのだからな。
「コピーできているのは、ステータスと技能だけか」
「それでも、自分が四人相手となれば、こうも簡単にはいかないはずなんですけどね!」
むしろ、自分が四人だからこそ、簡単だと思うのだがな。
これが、ピルカヤやプリミラ、リグマが四人だったほうが、よほど厄介だっただろう。
それに、コピーは天嵐覇刃の力を使いこなせていなかった。
いや、そもそも天嵐覇刃の模倣品ではあるが、その力を宿していなかった。
魔王様から賜った武器の差ということか。
「少なくとも、ウルラガは同じ方法で倒せましたが……やはり、あなたもこれで倒せるというのは、虫のいい話でしたか」
ということは、まだ先があるということか。
嬉しい話じゃないか。敵は私のことを侮っていない。
それでいて、あらゆる手を尽くして私を殺そうとして挑んでいる。
私が蘇生した直後に挑んだ獣人のようだ。私が醜態をさらすことになった獣人のようだ。
ならば——それを打ち破る。そして、この戦いの幕引きとしよう。
「これが、私の本気です」
「あなた相手に、出し惜しみしている余裕はありません」
「この後に、ピルカヤとの戦闘まで控えているのなら、なおさらですね」
「ですから、この戦いもそろそろ終わりにしましょう」
四人か。まあ、私をコピーできたのであれば、自分自身をコピーできてもおかしくはない。
ただ、先ほどの私のコピーと違って、全てのルイスが言葉を発したな。
自分自身のコピーは、リグマの分体のように、独立して意思を持たせることができるのか?
それとも、ピルカヤの分身のように、本体が全てを操作しているのか?
「天嵐覇刃」
暴風を発生させ、前方へと打ち込む。
ルイスたちは回避し、四方から雷化した突進で反撃される。
回避……。なるほど、それもできたのか。
私の肌は切り裂かれ、血が流れた。
意思がないとはいえ、さすがに、この数の自分自身を相手にするのは、骨が折れそうだな。
ルイスが生成した十六人の私のコピー。それらが一斉に私に襲いかかった。
「貴様自身をコピーし続ければ、私のコピーも無限に作れるということか」
回避。いや、半ば逃げるように動き回る。
コピーたちは、愚直に追い続けるが、ルイスのほうは油断なくこちらを見据えていた。
「いいえ。私自身を増やしすぎると、脳への負担が大きすぎるので、無限にとはいきません」
正直に追いかけてきたコピーたちをまとめて屠るべく、天嵐覇刃で広範囲を攻撃する。
コピーだけであれば、それで対処できたかもしれない。
だが、やはりルイス本体が厄介か……。
コピーは消滅した。だが、それは私の攻撃が直撃したためではなく、ルイス自身が消したためだ。
「消去も作成も自由自在……か」
「コピーが死んだ場合と、自分自身で消した場合では、消耗が違いますからね」
「だから、攻撃が当たる前に消したほうが、省エネで戦えるんですよ」
このままでは、攻撃を透過させる自身のコピーと戦うようなものか……。
ルイスはあとどれほどコピーを作れる?
「確信しました。私の力を十全に活かせば、あなたですら討ち取れる」
基本は、私のコピーによる波状攻撃。少しでも隙を見せるとルイス本体の雷による攻撃。
なるほど、うまく力を使いこなしている。
肌が切り裂かれ、血が流れる箇所も、雷に焼かれた箇所も、徐々に増えている。
わずかではあるが、確実に押されているということだ。
「すみません。私がもっと強ければ、あなたを楽に倒せたんでしょうね」
なるほどな。
すでに、貴様は私に勝ったつもりということか。
たしかに、貴様が増えてからは防戦一方だ。そのうえで、避けきれず受け切れず、ダメージは蓄積している。
だが、私は貴様を倒してこいと命令され、それを承諾した。
命令は必ず完遂してみせよう。
◇
脳への負担は大きい。
四人が限界。それ以上は、戦いどころではなくなります。
ですが、私のコピーとリピアネムのコピーであれば、なんとか四天王最強の破壊竜すらも、追い詰められるとわかったのは助かります。
ここで勝利できれば、他の四天王にも十分通用するということでしょうから。
リピアネムは、十人を超える自分自身を相手に、よくもっているほうでしょう。
これでまだ致命的な隙を晒さないのは、もはやゲームのとき以上の強さとしか言えません。
だから、焦らず確実にそのときを……。
幾度目かわからない。リピアネムコピーたちによる攻撃、それから逃げる本物。
何度も見た光景。だけど、今回は違う!
さすがに傷を負いすぎたのか、確実に体勢を崩した!
ならここで!
「終わりです! リピアネム!」
四人が限界。なら、ここで五人目の私のコピーを作成して、無理をしてでも確実に倒す!
変身される前に、ここで四天王最強を葬る!
五人目の私は、すぐに新たなリピアネムのコピーを作成し、これで二十人のリピアネムを使役できた。
オリジナルに劣るとはいえ、これだけの数ならば、このタイミングでの増員ならば、確実に仕留められる!
そう確信した瞬間、私の耳に轟音が響きました。
……なに? なにがあったの?
目がチカチカする。耳が痺れ、体は全身が痛みを……。
コピーは……いや、まずは目の前をしっかりと見ないと。
そうして私が必死に目を凝らすと、そこには巨大な竜がいました……。
ああ、そういうことですか。間に合わなかったのですね。
つまり、先ほどの轟音は変身したリピアネムの咆哮ということですか。
……馬鹿げている。
私どころか、自身のコピーをまとめて吹き飛ばし、戦闘不能にするほどの咆哮。
音による攻撃? いいえ、体が吹き飛ばされたのでしょう。
同時に広範囲への暴風が発生し、それに耐えきれず私もコピーたちも戦闘不能にされたということですか。
……これが破壊竜。だから、これに変身する前に倒そうとしたのに。
「……化け物」
動けない私とコピーたちを、巨大な竜が蹂躙する。
爪で、尾で、牙で、ただの一撃で私のコピーも、自分自身のコピーさえも、葬り去っていく。
そうして、全てが倒された後に、最後の一人の私も……。
間違えましたかね……。
この世界を守ろうと、私を受け入れた街を守ろうと、脅威の排除に動きました。
主人公である勇者すら殺した魔王軍。そんな危険な存在は、一刻も早く排除しないといけないと気が逸りすぎましたかね。
これまで粛清してきた身勝手な転生者たちと同じく、私自身も、女神の加護を過信した転生者の一人だったということですか。
ああ、本当に失敗した。
だって、この戦いだけは余計なことを考えずに、これだけに集中できた。
だから、楽しかった。
私は、余計なことを考えずに、ただ思うままに生きれば良かった。
「ありがとうございます。私を殺してくれて」
だから、最後にあなたに感謝を——。
◇
「終わったみたいだね~。さっすがリピアネムさん」
「良かった。中が見えないから、少し不安だったんだ」
しかも、相手は能力すらわかっていない転生者だしな。
あとは、実はこれが偵察のためであって、本体が遠くにいたり、死んでも逃げられる力とかでないかだけど……。
「ピルカヤ、ルイスらしき存在は?」
「一応見える範囲にはいないね~」
「ダスカロス、ダンジョンにも?」
「ああ、見当たらない」
「プネヴマ」
「えっと……魂、地底魔界で……漂っています……」
大丈夫そうだな。
ウルラガのほうも、リグマが回収して吸収していたので、しばらく療養すれば問題ないらしいし、これでとりあえずは安心か。
あとは、苦戦したらしく傷だらけになっているリピアネムを迎えに……。
「終わったぞ!」
なんか、血まみれのリピアネムが駆け寄ってきた。
尻尾ふるな。血がそこら中に飛び散っているのはいいとしても、それで倒れでもしたらどうする。
「どうだ? 私は強いだろう?」
「ああ。さすがは四天王最強だ。よくやってくれた」
俺の言葉に、リピアネムは満足気に目を細めた。
テンユウはピルカヤが、ルイスはリピアネムが倒してくれたようだし、ひとまず危機は去ったみたいだな。
……相手は転生者。それはもはや珍しいことではない。
だけど、何かが違えば、うちにいる転生者のように仲間にできたのかもしれない。
きっとルイスは、俺たちを悪と思い行動に出た。
それが間違いでないのが、相いれない最大の理由なんだろうな……。
今後も俺は悪として、自分が守りたい者のために、世界を害するということを忘れてはいけないのだと思う。