【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ルイスのほうは倒せたが、問題はテンユウのほうか」
いや、こちらも倒せてはいるのだけど、むしろ倒したらまずかったというべきか。
本当に、勇者って面倒な相手だよなあ……。
「そうだ、レイ。さっき言っていた虚無の種子、ボクにちょうだい」
「ああ、そうだったな。リピアネムにも、何か褒美を……」
「む……褒美褒美……むむむ……」
「思いついたらでいいぞ」
そもそも、リピアネムって物欲とかなさそうだしなあ。
ピルカヤもそうだったけど、今回は虚無の種子を欲しがっているというのは珍しいな。
まあ、めったにそんなことないのだから、どうせ使わない虚無の種子を渡すことなんてなんでもないけれど。
「じゃあ、これ」
「やった~。ありがと~」
カーマルに取り寄せてもらっていた虚無の種子を渡すと、ピルカヤは嬉しそうにどこかに行ってしまった。
何に使うんだろう? まさか、あの中で誰にもばれないように、ずっと働き続けたりしないよな……?
「そうだ。ルイスをエピクレシがアンデッド化させて、何度も私と戦うというのはどうだろう?」
「それ以外の褒美で……」
ルイスの能力が不明だったときよりは、警戒度は下がった。
だけど、リピアネムが言うにはコピーの能力を持っていたらしいからな……。
もしも、あの戦闘で晒していない能力があり、それでダンジョンの外に情報を拡散でもされたら、たまったものではない。
アンデッド化した場合、加護は使用できないと検証結果は出ているものの、サンプルケースも少ないから、万が一があっても困るし。
ヨハンもそうだったけれど、強敵をこちらに寝返らせるというのは、それだけリスクが高いんだよなあ。
「そうだ。褒美として、魔王様に戦っていただくというのは」
「フィオナ様かあ……」
強者との戦いを望んでいるというのは、さすがにもうわかっている。
だけどそれだけでなく、相手には全力で挑んでほしいというのがリピアネムの望みなんだよなあ。
フィオナ様が全力なんか出したら、リピアネムですら一瞬で炭化しそうで怖い。
蘇生薬はまだ予備があるし、不死鳥の羽もあるけれど、それで彼女は満足するだろうか?
「もう少し鍛えてからのほうが良くないか?」
「む……やはり、いまだ遠い頂か」
「気にするな。あの魔王様、なんかバグってると思う」
「言うに事欠いて、なんてことを!」
背中を指でぐりぐりと押してこないでください。
それですら、力加減次第では穴を開けられるでしょう。
リピアネムですら、それだけのパワーありませんからね?
「では……リグマやプリミラと戦うというのは」
「えぇ……。なんか火が付いちゃってるよ。何があったんだよ。あのルイスって転生者と……」
「私は、訓練になるのでむしろありがたいですが」
「おじさん、もっとゆっくりしたいんだけど……ねえ、なんで担がれてるの? おじさん、まだ喋ってるよね?」
そのままリピアネムに担がれて、リグマは戦闘可能な場所へと運ばれてしまったようだ。
この前みたいにちゃんと加減もするだろうし、そのくらいなら好きにやってもらおう。
「コピー……コピーですか」
「能力のコピーに敵のコピー。さらに自身までコピーできるとか、かなり強力な力だったみたいですね」
「もしかして、魔力を注入した後の宝箱をコピーすれば……」
「ハズレが増えそうですね」
「そろそろ当たると思うんですけど~」
袖を引っ張らないでください。
まあいいですけど。一旦落ち着いたので、宝箱を作るくらいならいつでもやりますけどね?
「さて、そろそろどかんと大アタリの気配ですよ!」
そんな期待を込めてフィオナ様は、宝箱に魔力を注入し終える。
無言でうなずかれたので、俺もそれを開けてみるが、中に入っていたのは……。
「……虚無の種子ですね」
「そっちじゃない!」
前回は俺が引いたわけだし、一万ガシャの景品なのかと思ったけれど、これも蘇生薬と同じくフィオナ様も引けるアイテムだったか。
ピルカヤに渡した途端に、ストックが増えるというのは、間が良いのか悪いのか。
「レイにあげます……」
「ありがとうございます。でも、魔王ボックスに入れなくて良いんですか?」
「さっきピルカヤにあげたので、無くなったでしょう? なので、レイにあげましょう」
「そうですか。ありがとうございます」
やっぱり、自分のことよりも部下を優先してくれるいい魔王様なんだよなあ。
悪いのは運くらいか。あと仕事への意欲。それと生活リズム……は、最近は改善されているな。
「はあ。本当にそれの中に入って、二人で一万年くらいさぼりましょうか」
「そういうことなら、俺が預かっておきます。フィオナ様、本当にこの中でさぼりそうですし……」
「じょ、冗談ですよ~」
どうでしょうね。今の目は、わりと本気でもあった気がしますよ。
ことあるごとに、俺と一緒に引きこもろうとするのは、プリミラでいうアヒルみたいな扱いだからだろうな。
「まあ、今は引きこもらずこれで我慢してください」
とりあえず、魔王様の機嫌を取るために俺は頭をなでておいた。
安上がりと思ってはいけない。この魔王様、定期的にこうしないと本気でどこかにこもりそうだし。
「一万年分なでてくださいね?」
「無茶言わないでください。俺に時間操作の能力とかありません」
「それくらい、心を込めることを所望します」
「まあ、やってみますけど……」
とんでもない密度を要求されたものだ。
その後しばらくなでられて満足したらしいので、俺はいつのまにか時間を超越する技能を手にしていたのかもしれない。
◇
「さて、ここならいいかな」
誰もいない。魔王軍も、従業員も、転生者も、モンスターさえもいない。
いるのは本体であるボクと、テンユウを倒した分体であるボクだけ。
もらったばかりの虚無の種子を植えてすぐに、念のため、本体のほうの姿は隠した。
「それじゃあ、後片付けしないとね」
そうしてしばらくして、リピアネムさんが倒した転生者が使っていたような空間が作成される。
こっちはなんか色が違うけど、まあ効果は似たようなもんだよね。
分体のボクをその中に入れて、本体は離れた場所で中の様子を探る。
「いるんでしょ?」
今度はさっきの逆。
向こうがボクに呼びかけていたみたいに、ボクがテンユウに呼びかける。
戦闘が終わったときに気が付いたけど、ボクの分体の中におかしな魔力が混ざっていた。
テンユウが死ぬ直前、ボクの体に何かしていた。
だから、虚無の種子の中という逃げ場もなく、地底魔界の様子も探れないような別空間で決着をつけることにした。
「ばれちゃった? いやあねえ」
出てきたのは、魔力が弱々しくなったテンユウ。
いや、これはたぶん本体というか、魂のかけらみたいなものかな?
少しほっとした。ボクと同じように、分体を囮に死んだふりをしたってわけじゃないみたい。
ボクがテンユウを殺していたのは間違いなく、このくらいの存在ならほうっておいても消えるはず。
……いや、消えちゃ困るなあ。このテンユウの残滓に負けて死んだふりができたら、今度こそ何の憂いもなくなりそうなのに。
「ばれるも何も、君わざとボクに気付かせたでしょ?」
「さすがに優秀ねえ。魔力に関しては、あのリピアネムよりも上なだけあるわ」
今のリピアネムさん。ボクより魔力高いけどね。
でも、魔力の操作とかならまだまだ負けていないし、そもそも勇者にそんなことを教える必要もないけど。
「それで? ボクの体に自分の魔力と魂のかけらを潜ませて、時間をかけて殺すつもり?」
なら、楽なんだけどなあ。
自然に勇者に殺されたことを演出できる。
だけど、さっきも考えた通り、この程度じゃボクを倒せないということは、テンユウもわかっているはず。
「いいえ。残念ながら、そんな力はないわ。このアタシは、そのうち消滅するでしょうね」
「だろうね」
「だから、単なるお話をするために、手の込んだことをさせてもらったってわけ」
話……。嫌だなあ。ボク、君みたいなの苦手なんだよねえ。
なんか、気付いたら利用されていそうだし、そういうのはダスカロスに任せたい。
でも、他の魔族を巻き込むわけにはいかないし、ボク自身がなんとかしないといけないんだろうなあ……。
「残り時間も少なそうだし、単刀直入に言うわ」
おちゃらけた様子から、真剣な表情へと変わった。
……それだけ本気なんだろうけど、だったらなおさら、魔王軍であるボクと話すことなんてないと思うけど。
「一時休戦して、共闘しましょ?」
「は?」
ほら、だから嫌なんだよ……。
何が目的かぜんっぜんわかんない!