【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「それにしても、テンユウが男だったとはなあ」
顔を隠していた状態では、動きや口調から女性かと思っていた。
声も中性的だし、背の高さくらいしか男要素なかったからなあ。
素顔を見たら、一目瞭然だったけど……。
「だから言ったじゃない。変な勇者だって」
「俺が想像していた変とは、ベクトルが違った……」
テイランという独自の文化とか、魔法体系とか、そういうことを言っているのかと思ったけど、そっち方面だったかあ。
「まあ、それは良いんだけど。それよりも驚いたのが……」
「どうかしました? 僕のかわいさに見惚れました? よし、いつでもどうぞ!」
襲われそうなポーズをとるな。
そんなタマじゃないだろう。お前。
いや、むしろこれこそがイピレティスか。
この見た目で敵を油断させて、一瞬で首を斬るのが彼女……いや、彼の得意技ってわけだ。
「イピレティスも、テンユウと一緒だからね~」
「む、さすがに僕のほうが、かわいいと思うんですけど!」
「まあ、イピレティスは、素顔を見ても女の子にしか見えないからな」
「ですよね~! さすがレイ様! どうします? 僕のこと襲います?」
むしろ、俺が襲われる側だろ。
俺ごときが、十魔将に勝てると思うなよ。
あと、なんかいつも以上に密着してきてるのはなぜだ。
「いったん離れようか」
「あれ~? 僕がくっついて何か問題あるんですか~? いやあ、レイ様も男ですもんね~」
そういえばそうだな。
今までは、イピレティスが女かと思っていたから、ベタベタとくっついていたら注意していたが、男であるなら別に関係ないか。
「いや、問題なかったな。つい、イピレティスが男ということを忘れそうになる」
「あ、あれ……本当になんの邪念もないですねぇ……。僕かわいくないですか?」
「かわいいけど、男だからな」
「う~ん……手強いですねぇ」
そう言いながら、なぜかイピレティスは腑に落ちない様子で俺の傍で控えた。
いつもどおり、従者のように振る舞ってくれている。
「さて、事後処理の話としよう」
そんなやり取りが終わったところを見計らって、ダスカロスが口を開く。
なんか、気が抜けていてごめんな。
「まずはテンユウか。テンユウとの連絡は、蘇生後に行うけれど、いつ蘇生するかはわからないんだよな?」
「ああ。だが、数日ということもないだろう。ピルカヤには、毎日アイテムを使ってもらっているが、まだまだかかりそうだ」
なら、これは連絡が折り返されるまでは保留と……。
「ルイスのほうは、完全に死んだということで問題ないか?」
「リピアネムが倒したルイスの魂は、プネヴマに調査してもらった。蘇生の兆候もなく、そもそも意識は眠っている。他の魂と同様だな」
つまり、完全に沈静化していると。
「あれが分体って可能性は?」
「魂の比重で考えると、その可能性も低いそうだ。ピルカヤもルイスらしき存在は見つけていない」
保険として、力の一部を分割しているとか、ピルカヤ対策をしているとかの可能性もあるが、一応ルイスは撃破したとみて良さそうだな。
「ちなみに、ルイスのアンデッド化は?」
「やめておいたほうが良さそうですね。どんな加護を隠し持っているかわからない以上、肉体を与えた後の行動が読めません」
「下手なことはしないほうがいいか」
「はい。ヨハンといいルイスといい、アンデッド化に値する相手ほど、リスクがあるんですよねえ……」
藪をつつくこともないだろう。
まして、魔王軍はいまだに全員の蘇生が済んでいないのだから、人員をというのであれば、危険な転生者よりは、安全な魔王軍を優先すべきだ。
こっちはこっちで蘇生薬が必要になるけど……。
「あとは……ピルカヤとリピアネムへの報酬だな」
「え、ボクもうもらったけど?」
「虚無の種子は、テンユウとの会話のためだったし、報酬ってわけじゃないだろ」
「う~ん。でも、ボク物欲ないからなぁ」
リピアネムも似たようなものなんだよな。
彼女の場合、報酬としてリグマとプリミラと戦闘訓練をしたけれど、あっちはあっちで、また報酬とは違う気がするし。
フィオナ様が、なにか二人に合うアイテムでも与えられたら良いんだけど。
「……む、レイが私にガシャを回せと言っている気がします!」
「気のせいです」
「そうですか? おかしいですねえ」
……さては、宝箱を出すまで離してくれないな?
いつの間にか、後ろから抱きしめられているし、俺が力を入れても抜け出せないよう、相変わらず絶妙な力加減をされている。
うわっ……身動き取れないのに、全然苦しくない。
「……わかりました。宝箱を作りますよ」
「ふふん、レイはいつでも私の味方ですもんね」
わかっているなら、そろそろ離してくれませんか?
逃げやしませんから……。
「では、二人への報酬は魔王様に決めていただきます。ひとまずは、こんなところだな」
「ああ、気にすべきはテンユウのことだけど、蘇生までは動けないか」
「あまり気を張り続けていても仕方あるまい。その時が来るまで、いつもと変わらず過ごすべきだな」
まあ、動けないのであればそのとおりか。
すでにいつも通りの魔王様が、こうして俺を抱きしめているし、なんとも説得力がある。
◇
「レイ! 影冠樹の魔力はいくつですか!」
「教えません」
「な、なぜ……。魔王なのに……」
教えたら、過剰分全部ガシャに注ぎ込みそうだったので、つい。
そもそも影冠樹の魔力、俺では測れませんし。
「むぅ……」
「二十連くらいなら許しますよ」
その言葉を聞いて、フィオナ様は嬉しそうに抱きついてきた。
そういうことされると、今後も甘やかしそうなので、なんとか堪えないと……。
ただ、今回はピルカヤとリピアネムへの褒美を引かないといけないので、多少は浪費しても問題ないはずだ。
「蘇生薬、蘇生薬~」
褒美は?
まあ、邪念がこもっていないほうが、当たりやすいかもしれないし、このまま回してもらうか。
「万能薬」
「テンユウが病の話なんてするから!」
ひどい言いがかりだ。
もしもテンユウが蘇生していたら、今ごろ濡れ衣を着せられていることを察していたかもしれない。
「不死鳥の羽」
「最近、わりと出番があるので、まあ……」
俺やドリュのように、死んでも復帰できるからこその行動には役立つからな。
あるに越したことはないし、やはりなかなか良いアイテムだと思う。
「契紋の環」
あれ、知らないアイテムだ。
同じような腕輪が二つ。両腕につけるのか?
いつもならアイテムの効果を教えてもらうが、今日のフィオナ様は、流れに身を任せてガシャを回し続けているし、後でいいか。
「蘇生薬。……そ、蘇生薬!?」
「なんでフィオナ様が一番驚いているんですか」
「い、いえ、そろそろくるとは思っていましたし、別に驚いていませんけど?」
驚いていましたよ。
なんでそこで強がるんですか。ふだん情けないくせに。
「幸先良いですねえ! この調子で、どんどんいきましょう」
◇
……どんどん逝きましたね。
フィオナ様は、魔力も気力も尽きたらしく、俺に抱きついてこねくり回している。
ぬいぐるみで情緒を回復させようとしているかのようだが、一つはアタリだったから良いじゃないですか。
「思えばこの蘇生薬が罠でした。これで心を乱された結果、欲望が隠しきれずに……」
悔しそうに自己分析していますが、単なる運です。
物欲センサーみたいなシステムはありません。
「しかし、そうなるとピルカヤとリピアネムへの褒美は……」
「あ、ボクこれで良いです」
ピルカヤが苦笑いしながら、ランタンのようなアイテムを手に取った。
一応アイテムらしいが、炎が長持ちするだけのものであって、特段珍しくも強力でもないらしい。
「なんか最近、テラペイアとダスカロスだけじゃなくて、レイまで休めって言うからね~。この中で休憩でもするよ」
「寝床ってことか。ピルカヤが休めるなら良いことだな」
さすがに、口を酸っぱくして注意したかいあって、ピルカヤもようやく休むことを受け入れてくれたようだ。
それにしても、ランタンの中で休憩か。
さすがは炎の精霊。姿も大きさもわりと自由らしい。
「では、私はこれで」
リピアネムが手にしたのは……これまたアイテムではあるものの、やはり平凡な調理器具だった。
こちらはこちらでぴったりだな。
そうか……リピアネムも、料理のためにそういうものを使う段階になったんだな。
「かつての私ならともかく、今の私であればこれらを壊さずに使える気がする」
「そうだねえ。ネムちゃん頑張ってるし、良いと思うよ」
マギレマさんのお墨付きということであれば、こちらも有効活用してくれそうだな。
「うぅ……部下にちゃんとした褒美すら与えられない、情けない魔王ですみません」
「まあ、魔王様が宝箱から目当てのものを入手できるなんて、期待してませんし!」
「蘇生薬1個引けましたし!」
ピルカヤのからかう言葉に反発するが、そのピルカヤですら気遣ってランタンで良いと言うほどの惨状だったもんなあ……。
アタリを引けたはずなのに、なぜか今回も惨敗したような雰囲気なのは、フィオナ様にそういうイメージがついてしまったからだろうか……。
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契紋の環
互いに誓約を交わすことで、双方の身に同じ紋が刻まれる腕輪。
その契約は絶対であり、いかなる力によっても破棄することはできない。
古の時代、王と臣下の間に用いられたとされるが、やがて人は恐れた。
この環により交わされた誓いは、裏切りや背信といった「選択肢」そのものを奪うからである。
自由を代償にしてまで交わされる絆は、果たして真実の絆と呼べるのか。
その答えを環は決して示さない。