【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
テンユウ様が死んだ。
それ自体は、あり得ることだった。
勇者であるテンユウ様は、女神の力で蘇生できる。
あの方は、それすらも前提として、時に死さえも策に含めるからだ。
「……ただ、今回はちょっと違うわよね」
「レンシャは、直接聞いたんだよね? テンユウ様が、ちょっと死んでくるって言ったの」
そう。あの方はまるで散歩するような気軽さで、そんなことを私に告げた。
スイリョウとレイライが不在であり、私もたまたま欲望のダンジョンに向かっていなかったため、テンユウ様は私に言伝を残した。
どうやら、一人のほうが動きやすかったらしい。
かくして私は、二人にテンユウ様の言葉を伝えるために、テイランに残り続けたのだった。
「魂はすでに戻られているから、あとは蘇生を待つだけだけど……」
「テンユウ様を殺すほどの脅威って、魔王軍? それとも転生者?」
あるいは……まさか、勇者であるテンユウ様さえも、病が悪化した……?
もしもそうであるならば、私たちに残された時間は想像以上に短いということになる。
テンユウ様や私たち、一部の耐性が強い者たちでさえ蝕まれたのであれば、テイランが滅ぶのは時間の問題ね……。
そして、テイランから次々と外界へ……。
女神は、いまだに動いていない。
きっと、人類がほぼ死滅するまで動こうともしない。
「二人の成果は?」
「快復の湯は、やっぱりうちで再現するのは無理そう……。湯を作るのも、水質を保持するのも、内部の魔力を調整するのも、どれもとんでもない技術だから……」
一番期待できる快復の湯、それを調査していたスイリョウは、申し訳なさそうにしていた。
でも、スイリョウで無理なら、残念ながら再現できない。
「喜びのダンジョンの大量の宝箱は、たぶん高効率で生成しているからだと思う。あの場所の魔力なのか、転生者の力なのか、そこまでは何度挑んでもわからない……」
大量の宝箱を安定して入手できるのであれば、万能薬や蘇生薬さえも手に入る可能性が高まる。
だから、レイライは喜びのダンジョンを調査していた。
だけど、こちらも結果は芳しくない。
まあ、そうよね……。宝箱を自在になんて、ダンジョン自身か転生者くらいしか、どうにもできないだろうから。
「レンシャは?」
「こっちも駄目。ロペスくん自身は、宝箱を作る力じゃないみたいだし、あくまでもダンジョンからかき集めているみたいよ」
「それ、私たちでもできないかな?」
「無理そうね。ロペスくんたちは転生者。だからこそ、ダンジョンを安全に効率的に探索できているんだと思うわ」
こちらの調査もレイライと似たようなもの。
宝箱の安定した入手は、転生者であるロペスくんたちの特権らしく、どうにも真似できそうにない。
欲望のダンジョンで、とっかかりを見つけるか、あるいは薬を入手できないかとも思うけど……こちらも、成果は出ていないわね。
「宝箱から出てきたアイテムを譲ってもらおうにも、万能薬って高いからねえ……」
「蘇生薬なんて、国レベルでのやり取りになるし、自分たちで入手しないと、国がどんどん貧しくなるわ」
まいったわねえ……。
復活するとはいえ、テンユウ様が亡くなられたためか、私たちの話し合いはどうにも暗い内容になってしまう。
「気晴らしに、カジノでも行ってきたら?」
そんなに暗かったのだろうか?
二人に勧められるも、今はさすがにそういうわけにもいかない。
テンユウ様が、復活されたときにお傍にいるべきだし、今の状態を見られたら、リズワン王やロペスくんに余計な心配をかけそうだからね。
あの二人、聡いから私の様子なんて、筒抜けでしょうね。
「テンユウ様、龍神様の調査進んでいるのかしら?」
「一度死ぬ必要があったのって、もしかして神様関係だからかな?」
わからない。
わからないけれど、今はそう思っておこう。
あの方なら、きっとテイランを救ってくれる。
それだけが、滅びゆくこの国の望みなのだから。
◇
「テンユウ~……駄目だ~」
「今日も反応は無いか」
「死んでんじゃないの~?」
「だろうなあ。復活まで、毎日連絡して様子をうかがうとしようか」
それまでは、こちらはこちらで準備を進めるか。
おそらく、快復の湯が必要なので、その改良ができれば良さそうだな。
……とはいえ、これが案外難しい。
テラペイアが魔力を調整し、ルトラが水質を調整しても、一向に改良できる気配がない。
世良の聖女の力を混ぜてみたり、風間の勇者の力を混ぜてみても、やはり今の快復の湯から変わらない。
快復の湯は、この状態が完全であり、改良の余地はないのだろうか……。
できれば、作っただけで俺たちの手を離れたら、もっと扱いやすいんだけどなあ。
ルトラとテラペイアが付きっきりにならずにすむのなら、大量に作成してあとは自由に使ってもらえばいい。
「やっぱり、いったん毒混ぜとく?」
「君の考えは、たまに私たちですら理解できないことがあるね」
「テラペイア、たまにじゃないぞ。わりと頻繁にだぁ……」
アナンタがなんか失礼なこと言ってる。
スイカだって、甘くするために塩を振るだろ。
快復の湯も、きっと毒という反対のものが混入されることで、より快復力を高めてくれるかもしれないじゃないか。
「ルトラ、毒入れたらどうなると思う?」
「温泉のように見える毒の罠が完成すると思います」
「また悪質な罠作ろうとしてんのか、お前はぁ……」
いや、今のは違う。
ルトラの想像力が不足している可能性だってあるだろ。
……いや、こと温泉に関しては、ルトラの意見が正しいかあ。
「仕方ない。毒はあきらめよう」
「お前の説得、こんなにめんどくさいのかよぉ……」
「納得したならすぐに折れるけど、毒の可能性も捨てたもんじゃないと思うんだ」
「捨てろぉ。そんなわけのわからない持論」
しかし、そうなるとどうしたものか。
わりと、正攻法の改良は試してきた。
万能薬を追加しても効力が増さなかったことから、それ以外の視点が大事だと思ったんだけどな。
「手当たり次第に作るか」
ならば、基本に帰ろう。
罠やモンスター、ダンジョンのメニューは何度も使うことで解禁され、強化されてきた。
つまり、快復の湯も何度も作って練度を上げることで、上位版を作れるかもしれない。
……そういえば、俺のレベルってどうなっていたっけ。
魔力ばかりが伸び続け、その魔力も頭打ちとなってから、あまり気にならなくなっていた。
ふと気になり、温泉作りの片手間でステータスを確認する。
……うん、やっぱりこんなものか。
魔力だけは、すでに99まで達した。
だけど、そこから魔力は伸びなくなった。
いったんの上限だろうけれど、四天王や勇者は100を超えるし、フィオナ様なんかさらに上の次元だ。
壁を破るようなことができれば、俺もこの先に到達するんだろうか?
……いっそのこと、魔力のほとんどを消費させて快復の湯を作るか。
快復の湯の消費魔力は60その1.5倍も魔力を使えば、あるいは効能が増したりしないだろうか。
「よし、贅沢に使うか」
ちまちまと、回復して作っては消してはもうやめだ。
必要以上に魔力を注いで、さらなる強化を目指そうじゃないか。
そうして、メニューを念じながら選択する。
罠のパラメータをいじるときのように、作成時にちょっとしたオプションを付与するイメージだ。
そこまで決めたらあとは作るだけ。
大部分の魔力を消費することで、俺はたしかに90ほどの魔力を失ったと直感でわかった。
消費は予定通り、あとは効能だが……。
「なんか、すごいことになった」
「滝……ですかね?」
「お前、なにしてんだよぉ……」
「……快復の湯よりも、効果が高い。だが、これは温泉か?」
ええと、メニューには……。
快復の源泉:消費魔力 90
なるほど、源泉。
いや、源泉ってこんなに豪快だったっけ?
「快復の源泉らしい」
「意味わかんねぇ……」
アナンタは思考を放棄したらしい。
だけど、俺にもわからない。まあ、ダンジョンマスタースキルさんのことだし、変に考えずに受け入れるのがいいだろう。