【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さて、温泉のほうは改良できたとして、もう少し準備を進めるか」
「罠じゃねえだろうなぁ……」
「罠は、テイランでの治療の準備が全部終わってからにする」
「諦めろ。アナンタ」
アナンタが無言で俺を指さしダスカロスを見るが、ダスカロスは俺の味方をしてくれたようだ。
大丈夫。アナンタたちがいれば、新しい罠だろうとうまくバランス調整されるから。
「準備ということは、さらに温泉を改良するんですか?」
フィオナ様に尋ねられるも首を横に振る。
もちろん、温泉がさらに強化できるのなら良いのだけど、残念ながらそう簡単に強化はできないと思う。
なので、今回は温泉とは別のアプローチで、病人の治療をスムーズに行えるよう準備したい。
「いいえ、人手を増やそうかと思いまして」
「人手ですか。うちもレイのおかげで大所帯になりましたし、わりとたくさん使える手はあると思いますが」
たしかに、現地の人類や転生者。それに迫害種といった人手は増えている。
種族や性格にあった作業を割り振れば、みんなしっかりと働いてくれることも知っている。
だが、今回はそういう人手ではなく、より専門職を増やそうと思うのだ。
「マギレマさんたちのおかげで、ダンジョン魔力はかなり溜まっています。だから、ちょっと蘇生薬を大量に増やそうかと思いまして」
「なるほど! ついに、レイが本気を出すのですね!」
いえ、俺はいつも全力かつ本気で取り組んでいるつもりなんですけど……。
アナンタがそれにブレーキをかけているから、結果的に本気に見えていないのかな?
「テラペイア」
「なにかね?」
「テラペイアの部下って、何人くらいいる?」
「私の、となるとそうだなあ。二十一だな」
なるほど。それだけいれば、テラペイアの負担もだいぶ軽減されるだろう。
テイラン一国を治療することを考えると、テラペイア一人で作業させるのは酷だしな。
そしてそれは、ルトラにも同じことが言える。
「じゃあ、ルトラの部下は?」
「私ですか? ええと、水質管理を手伝っていた者たちは、そうですねえ。十七です」
ということは、全部で三十八。
よし、ちょっとがんばってみるか。
「じゃあ、蘇生薬を三十八個引くまで回します」
「なんと!」
フィオナ様が驚愕しつつ喜んでいる。
今回は必要なことですからね。これを機に魔王軍の再興をさらに進めてしまいましょう。
「レイ、レイ」
そう意気込んで宝箱を作成しようとすると、服のすそをフィオナ様が引っ張った。
……その上目遣い。ドキッとするからやめてほしいです。いえ、二人きりのときなら良いんですけど。
「二人の専属の部下なら全部で四十程度ですけど、専属ではない助手みたいなのもあわせると百以上は……」
「今回は、専属の部下だけ蘇生させますね」
目に見えてショックを受けた顔をしないでください。
そんな顔したって、甘やかしませんからね?
まったく……。さっきのかわいらしい姿から出てくる言葉は、結局ガシャのことばかりなんだよなあ……。
「それじゃあ、ちょっと気合入れて回すとしますか」
◇
「……君には、本当に驚かされる」
「さすがのレイ様でも無理かと思いましたが、本当にこれほどの蘇生薬を」
ダスカロスとプリミラが驚いているが、もしかして俺の発言を冗談だと思っていたのだろうか?
俺としては、ダンジョン魔力から考えると十分に達成できる量だったから、本気のつもりだったんだけど。
まあ、変にドツボにハマったら、こうもうまくはいかなかっただろうし、無事に数を揃えられてほっとしているが。
というわけで、ダンジョン魔力こそがっつりと減ってしまったが、なんとか蘇生薬を揃えることができた。
「……おい、ロペス。宰相様がやばい」
「なんだ。いまさらわかったのか」
ハーフリングたちがどよめいているのを見るに、やはり蘇生薬は相当価値が高いんだろうな。
まあ、うちはそれで稼ぐよりも、フィオナ様の仲間を蘇生させるために惜しみなく使うんだけど。
あと、ダークエルフたち、なんか俺のことを拝むのやめてくれ。
「フィオナ様。どうぞ」
「ええ、これでまた一歩魔王軍再興に近づけました。ありがとうございます」
あ、美人なほうのフィオナ様だ。
いつものように、太陽のような明るい笑顔ではなく、月明かりのようなやわらかい笑顔でお礼を言われる。
前者はかわいく、後者は美しく、この魔王様は印象がころころ変わる。
まあ、どっちも好きなんだけど。
「それでは、蘇生していきましょう」
そうして、およそ四十ほどの蘇生薬を、フィオナ様は惜しみなく使用していった。
さすがに、かなりの人数だからなあ。名前と特徴を覚えきれるよう、努力していこう。
少なくとも、誰がテラペイアの部下で、誰がルトラの部下かくらいは、判別できないとな。
一人一人の顔や姿をしっかりと見ながら、そう考えていると、蘇生は手早く完了したようだ。
誰もがフィオナ様の姿を見た瞬間に、その場にひざまずく。
「顔を上げなさい。あなたたちには、新たな魔王軍として再び力を貸してもらいます」
フィオナ様の命令ということもあり、さすがに無視してひざまずく者はいなかった。
顔を上げる魔族たちには、少なからず困惑の表情が読み取れる。
きっと、新たな魔王軍という言葉がぴんときていないんだろうな。
「あなたたちを蘇生した者は、ここにいる魔王軍宰相のレイです。ちなみに、私のです」
あと、毎回それ言わなきゃ駄目なんですか?
言わなくても、別に誰も盗りませんから。俺をお気に入りの道具扱いするのはあなただけです。
「レイのおかげで、魔王軍の復興は順調に進んでいます。まずは新たな施設や従業員に慣れてください」
誰も反論こそしないものの、やはり困った表情をしているのはわかる。
フィオナ様は、そんな困惑する部下たちのために、あえて席を外すようだ。
あるいは、魔王モードでいるのが限界だったのかもしれないが……。
ともかく、俺もフィオナ様に腕を引かれたため、この場は他の魔王軍のみんなに任せるとするか。
最後に、なんとか特徴だけ覚えておこう。
ええと、テラペイアの部下たちは、人型の魔族が多いな。
なんかナースっぽい姿をした悪魔みたいな者とか、眼鏡をかけた頭の良さそうな吸血鬼みたいな者が見える。
ルトラの部下のほうは、わかりやすいな。なんせ、水っぽくて精霊っぽい者ばかりだ。
それともスライムだろうか? 透明な体の男性や、一見少女のようだが体は水で髪が水草みたいな者もいる。
よし、これなら少なくとも誰の部下かはわかりやすい。
フィオナ様に引きずられながらも、なんとか最低限のことだけは覚えられた。
◇
「宰相……ですか」
「ええ、ピルカヤ様を含めた私たちを蘇生してくださった方です。ピルカヤ様とも仲良くされております」
「なんと……つまり、私たちは平伏すべきということですね」
「いえ。魔王様もレイ様も、そのような態度は望んでおりません。最低限の礼儀だけは忘れなければ、特に咎められることもないでしょう」
「最低限……」
「難しいのはわかります。少しずつ覚えていきましょう」
よし、こっちは問題ないな。
ルトラ様の部下たちは、わりと臨機応変に動ける者も多い。
体すら変化が容易なためか、融通が利く魔族だらけだ。
「ということで、君たちには私のサポートをしてもらう」
「はい! 再びテラペイア様に仕えることができ、私たちは幸運です!」
「特に……働きすぎる者が多いからな。多少手荒でも良い。ピルカヤだろうとマギレマだろうと、力ずくで休ませてくれ」
「あ、あのお二人を力ずくで……?」
こっちも問題なし。
テラペイア様の言うことだからな。逆らう方が怖いということは、専属の部下であるあいつらが一番わかって……。
いや、わかっていなさそうなやつ見つけた。
表面上はテラペイア様の言葉にうなずいているし、表情からも読み取れない。
だけど、あからさまに不満そうな雰囲気が伝わってくる。
当然、テラペイア様もそれには気付いているため、きっとこの後その者たちだけに懇切丁寧に説明するつもりだろう。
だが、そこで手をわずらわせるよりは、俺が動いたほうが早い。
「よう、不満そうだな」
「ドリュか。お前も蘇生していたんだな。あの宰相を名乗る魔族の手で」
「ああ。そんでお前らの考えもよくわかっている。不満なんだろ? 見知らぬ魔族がいきなり、そんな上の立場にいることが」
「その通りだ。いくら魔王様の命令とはいえ、実力も分からない者に指示されるなど……」
よし、確保。
アスピダとあとは……プシシモあたりも協力してくれそうだな。
もはや言葉を交わさずとも、俺の意図を汲んでくれているっぽい。
「そんじゃあ、ちょっと話そうか」
「話? アスピダやプシシモもか?」
「ええ、先輩として教えてあげるわ。あなたたちが今どれだけ危険なことを考えているか」
「というか、一番危険なのが宰相様ってことを……」
二人の様子に若干戸惑いを見せているが、大丈夫。どうせすぐわかるから……。
俺たちが宰相様のやばさを伝えていくと、不満そうだった表情はみるみるうちにドン引きした表情へと変わっていく。
よし……。これで、レイ様にたてつくなんて命知らずなことはしないだろうな。