【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「温泉の準備も整ったけど、まだテンユウと連絡も取れないことだし、ダンジョンを作ろう」
「うわぁ……」
ついにアナンタが声を荒げなくなった。というか、なんというか引いてる?
まだ怒るタイミングじゃないというだけで、やりすぎたらまた怒られそうだ。
「まあ、怒られながらがんばっていこう」
「えぇ……怒られる前提……。今日の仕事も疲れそうだなぁ……」
「テラペイアに喉の調子でも見てもらうか?」
「心配しなくとも、再生しちまうんだよなぁ……。そもそも、胃のほうが負担がでかい」
アナンタって戦闘が好きじゃないみたいだから、分体の中でも特に高い再生能力を持て余していると思っていたが、案外日常で役立っているらしい。
つまり、俺のおかげで能力を十全に発揮できているということだな。
「お前がその顔しているときは、大抵的外れなときなんだよなぁ……」
そんなにわかりやすい表情だっただろうか……?
いや、どうせアナンタのことだから、ちょっと大げさに言っているだけだし、問題ないな。
「はぁ……。諦めて、プリミラとダスカロス呼んでくるから、勝手なことしないで待ってろ」
「わかった。とりあえず、いくつか罠を先に設置して準備しておく」
「あれ? 俺の言葉届いてない? 勝手なことしないで待ってろって言ったよなぁ……」
「言ったな」
それはそうなんだけど、勝手なことの範囲がちょっと俺とアナンタの中でずれているようだな。
勝手なことってあれだろ。ダンジョンを先に全部作るとか、そういう話だろ?
「何もしないで待ってろ……」
「待ってる時間がもったいなくないか?」
「だめだこいつ……。昆虫兵より扱いづらい……」
昆虫兵は、ちゃんと命令したら働いてくれるからな。
まあ、そんなことよりも、ダスカロスとプリミラを呼んでくれないと先に進めない。
とりあえず……いくつか先に罠を。
「わかったから、ちょっと待っとけ。馬鹿ぁ!」
……確認しようとしただけなのに、ひどい言われようだ。
メニューを確認する俺を見て、アナンタは二人を呼びに走り去ってしまった。
というか、ピルカヤに頼めばいいのにな。変なところで抜けているやつだ。
◇
「よし! 何もしてないな!」
「信用がないなあ……」
「なんというか。君も大変だな……」
「そうなんだよ。アナンタが全然信用してくれなくて」
ダスカロスはわかってくれているらしいので、少し不満げにそう返した。
すると、肩で息をしていたアナンタが、再び大きな声を上げる。
「お前じゃなくて、俺への言葉だぁ!」
そんな声を荒げなくても……。
アナンタは、今日も楽しそうだな。
「ということで、空き時間でダンジョンの改築をしようと思う」
「お、改築だったのか? なんだ、俺はてっきり……また、悪魔のようなダンジョンを新たに作るのかと」
「悪魔をなんだと思っているんですか」
プリミラはプリミラで、俺をなんだと思っているんだ。
その言葉だけ聞くと、俺が悪魔よりやばい何かのようじゃないか。
「しかし、バランス調整は慎重にしないといけない。まずはどのダンジョンを変えるつもりだ?」
「ああ。喜びのダンジョンをちょっとな」
ダスカロスの言うとおり、試行錯誤の結果、今のダンジョンはそこそこ安定している。
侵入者を撃退できているだけでなく、それなりに奥に進めるようになっているし、たまにはボスも倒せるくらいだ。
難しすぎて侵入者が減るということにはなっていないし、たまには新しい罠を試すこともできている。
アナンタがうまく調整してくれるので、俺は遠慮せずに思い付いた案を試していけば良い。
「あそこの難易度上げるなら、もっと強力なアイテム渡さねえと駄目だからなぁ?」
「難易度は変えずに、マップを大幅に変えるっていうのは?」
あのダンジョンは、いわばゲーム的な楽しみ方をさせるためのダンジョンだ。
小規模な変更は、これまでも散々行ってきた。
ボスを変えたりマップを変えたり、その程度ならもう挑戦者たちも慣れている。
なので、これはいわば大型アップデートみたいな感じにしたい。
その一つが、溶岩の源泉で思いついたマグマ系のエリアだ。
「炎や溶岩系を集めたコンセプトのダンジョンに変えてみようかなって」
「ふむ……。悪くないのでは?」
「はい。あのダンジョンは、楽しんでいる侵入者が多いので、飽きさせないというのも大切です」
「まあ、そこまでは俺も反対しねえけど……。また、調整が大変そうだなぁ……」
全員賛同してくれたのだが、アナンタの言葉にダスカロスとプリミラも、わずかに天を仰いでいる気がする。
みんなでがんばろう。俺もがんばって、色々な仕掛けやモンスター考えるから。
◇
「レイライの姐さん、最近姿見せないな……」
「ああ、喜びのダンジョンの主がいないと、なんだかさみしいな」
「美人だしね~。ほんと、男ってこれだから」
「ち、ちげえよ。レイライの姐さんが頼りになるのは、お前だってよくわかってるだろ!?」
「どうだか」
いや、たしかにレイライの姐さん美人だけど……。
なんというか、俺たちとは別の世界の人間というか、俺としてはもっと親しみやすい女性のほうが……。
「何?」
「いや、別に……」
はあ……。軽口を叩けるのはいいが、そのせいでムードがないことだ。
さて、そんな浮ついた考えは、ここから先は捨ててしまえ。
そうでないと、探索は失敗に終わってしまう。
いくら死ぬことがないとはいえ、どうせならしっかりと成果を得て終わらせたいからな。
「そろそろ宝箱部屋だな」
「ええ。ここからは、真剣に行くわよ」
「ん? なんか、看板が増えていないか?」
仲間の声に視線を向けると、たしかに看板が設置されている。
入り口の看板なら、もはや見慣れたものだけど、こんなの見たことないな。
ええと……。
「溶岩エリア発生中……?」
意味が分からん。
いや、意味はわかるんだけど、相変わらずおかしなダンジョンだ。
薄々気付いてはいるけれど、これ魔族と無関係のダンジョンだろ……。
安全なうえ、このようにわざわざ親切にお知らせまでしてくれる。
きっと、転生者が経営している遊技場みたいなものなんだと思う。
であれば、この看板の内容も罠とかではなく、真実なのだろう。
「とりあえず、炎系の敵や罠に気を付けつつ、それらの耐性が高いアイテムや装備を優先していくか」
「ええ。きっと、この看板は本当のことを書いているでしょうからね」
「となると、これまでとは違った取捨選択が必要か」
さすがに、俺たちはもう慣れているので、こんな突発的な変化にも順応している。
仲間たちは、すでに新たなエリアとやらの対策を考えた行動を心がけているようであり、なんとも頼れるパーティメンバーだ。
「よし、それじゃあさっそく」
……なにここ? 魔王の拠点か何か?
目の前を流れる溶岩の滝。道の端にはそれらが川のように流れている。
松明がないせいか、いつもより暗いダンジョンは、装備品がなければ熱気でかなり過酷な環境となっていただろう。
「さすがに、ここに落ちたら無事とはいかないだろうな。慎重に進もう……」
大丈夫だよな? モンスターたちが、ここに突き落としてくるとかないよな?
まずは安全第一だ。絶対にこの溶岩に落ちないよう心がけて進むとしよう。
「っ! マグマスライム!?」
しまった。溶岩に擬態しているため、気付くのが遅れた。
灼熱の肉体から、炎の塊を飛ばしてくる攻撃に、体勢が崩れる。
まずい……このままじゃ、溶岩の中に……。
あ、これ死んだな。
そう思っていた俺の体は、溶岩ではなく固く頑丈な壁にぶつかった。
壁……じゃない。ゴーレム!?
マグマの中に隠れて、こちらを攻撃しようとしていたのか。
だが、あのまま俺を放っておけば、勝手に死んだのに、やはりモンスターは知能が低いということか。
「え、ちょっと……」
俺は、両足をゴーレムに無造作につかまれたせいで、身動きが取れなくなった。
なんだよ……。結局、このままマグマの中に落とされるのか。
本当に、無駄なことを……痛っ!?
こいつ、俺のことを軽々と投げやがった。
……あれ? なんか、助かったな。マグマに落ちるはずだったのに、気付けば通路に寝転んでいる。
「だ、大丈夫!? とりあえず、すぐに撤退するわよ!」
「う……悪い。俺のせいで」
そうして、初回の溶岩エリアは、残念ながらこれ以上の調査ができなかった。
今回はさすがに死ぬかと思ったが、なんか結局は安全なダンジョンだったなあ……。