【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

500 / 501
第500話 眠らない街のよく眠る女

 けたたましい魔力音が鳴り響く。

 しかしながら、それを不快と思う者はここにはいない。

 人によっては耳障りな騒音と感じるだろう。だけど、俺を含めた誰しもが、この音にどうしようもなく惹かれているのだ。

 

 ふと、見知ったハーフリングの男が近づいてくるのが見えた。

 賑やかな場所ではあるが、スロットから響く魔力音は、この空間中を支配しているというわけではない。

 談笑や休憩を可能とするスペースも設けられているため、俺はそちらへと歩みを進める。

 

「リズワンの旦那。今日は朝からかい?」

 

「ああ、今日は勝てると思う」

 

 俺の言葉に、ロペスは困ったような表情で笑った。

 侮られている。心配されている。申し訳ないと思われている。

 このカジノのオーナーである以上、こうして言葉を交わす仲であれ、最後は敵というわけだ。

 俺との一騎打ちに連戦連勝しているため、ばつが悪くなったというところか。

 

「それじゃあ、宝箱は」

 

 そう言いかけた男の言葉を止めるように、手のひらを向けて言葉を制す。

 悪いがまだだ。挑まないという選択肢はないが、いつ挑むかが重要だからな。

 そんな俺の考えを理解しているからか、ロペスはやはり苦笑するだけだった。

 

「まあ、楽しんでいってくれ」

 

「無論だ」

 

 運気を調整し、祈りを確かなものとし、そうして宝箱へと挑む。

 そうするだけの価値がある。そうしなければ、勝ちはない。

 まずは、宝箱以外のギャンブルで、コンディションを整えるのが良いだろう。

 

 改めて、戦場にふさわしい騒音にまみれた店内を闊歩する。

 大声で敗北に打ちひしがれる者。声もなくしみじみと勝利の余韻に浸る者。皆この戦場で死力を尽くした戦友であろう。

 であれば、こちらが知った顔も非常に多く、もはや見知らぬ顔というものは珍しくもある。

 それが、人だかりの中で大いに目立っているのであればなおさらだ。

 

「お、リズワンさん」

 

「うむ、大した人だかりだな。大当たりでもあったか?」

 

 割り込むような真似はせず、その者を取り囲む人だかりの外にいた顔見知りへと話しかけ、事情を尋ねる。

 すると男は、彼自身にもその熱が伝染しているかのように、嬉々として彼女のことを教えてくれた。

 

「いや、ほんとすげえんだよ。どうやら開店直後から来ているみたいなんだけどな。あの美人ずっと、迷わず賭け続けているんだ」

 

 なるほど、たしかに美しい。空色の長い髪に、飾りすぎていないが高貴さを思わせるドレス。

 そして、その顔は万人が美しいと称するほど、整った顔立ちだった。

 やはり、見覚えがないな。あれほどの者であれば、一目見たら忘れることも難しかろう。

 

「七番に全賭けです」

 

 女の言葉に周囲がどよめく。迷いがない。臆することなどまるでない。

 まるで、自分が勝利の女神に愛されていると言わんばかりに、堂々とルーレットの数字に全てのチップを賭けていた。

 その行為は周囲の者たちをも狂わせ、同じ番号へ次々とチップが賭けられていく。

 その結果は——。

 

「すげえ。また勝った……」

 

 騒音だらけのこの空間だというのに、負けじとばかりに耳を突く歓声が響いた。

 ルーレットの目は七。女が賭けたのと同じ数字だった。

 便乗した者たちは大いに喜び、女に感謝する。

 しかし、女はそんな感謝にも、ギャンブルに勝ったことさえも興味がなさそうに、無垢な瞳で次の目にやはり全てのチップを賭けるだけだった。

 

「あれだけ当たってまだ続けるのか……」

 

「賭博の鬼だな」

 

「見ろよあの表情。勝つだけでは、もはや飽き足らないんだろうさ。きっと彼女は、ひりつくような勝負を求めているだけなんだ」

 

 彼女の暴挙とも思える行動に、さすがに周囲の者も頭を冷やされているらしい。

 今度は続く者がいなかった。しかしそれも仕方がない。

 先ほどあれだけ勝利した以上、再び全てを賭けるなど誰も真似したくないだろう。

 手元にそれだけの資金があるからこそ、人は狂気に身を投じることもできず、勝負から退いてしまうわけだ。

 

「ま、また勝った……」

 

 ゆえに、稼いだ額など気にしていないあの女こそが、真のギャンブラーということになる。

 そんな女がいくら稼いでも止まるはずもなく、チップの全賭けと勝利が繰り返されていった。

 もはや熱などまるでない、周囲の者たちは恐れすら感じながら、彼女の行動を静かに見守っていた。

 

    ◇

 

「全て魔力回復薬に」

 

「かしこまりました」

 

 女の言葉に、周囲は大いにどよめいた。

 あれだけ大勝しておきながら、購入するものが魔力回復薬?

 それも、またも全賭けだ。儲かった資金全て……いや、一部はさすがに残しているから、ほとんどを使った買い物。

 そもそも、それだけ在庫がある提携の商店も商店だ。

 店長らしきウサギの獣人が、オーガの女性を引き連れて持ってきたアイテムの量は、カジノの一角を完全に埋め尽くしているではないか。

 

「何考えてんだ……あの女」

 

「わかんねえ……。あれくらい意味不明なことしないと、カジノで勝つことはできないのか?」

 

 俺も同感だ。

 全賭けし続けるのはまだわかる。共感こそできないが、理解はできる。

 だが、それで得た資金をなぜあんなアイテムに……。

 

 注目の的となった女は、俺たちの視線などまるで気にしていないように、次のギャンブルへを目指し進んで行く。

 彼女が向かったその先、それは奇しくも俺が本命としていた宝箱だった。

 

「これで、挑戦できるだけお願いします」

 

「は、はい!」

 

 慣れているはずの店員が動揺する。

 それほどの意志、それほどの狂気、なるほど……あれこそが、勝利するために必要な志だったか。

 ならば見守らせてもらおう。同志ともいえるお前の挑戦を、俺はこの目に焼き付けようではないか。

 

 女は、店員が用意した宝箱に魔力を注入し始めた。

 いいぞ。しっかりと祈りも込めているようだな。

 孤独に一人で戦うお前を、せめて俺が応援しようではないか。

 

 そうして準備を終えた女は、初めて感情を出すかのように、緊張した面持ちで店員を呼んだ。

 

「あなたが開けてください」

 

「え、ですが……」

 

「何が出ても責めません。なので、お願いします」

 

「か、かしこまりました……」

 

 む? それはいかんぞ。

 最後まで自分の手で行うべきであろう。そうして、自分の手で手繰り寄せるからこそ、勝利をつかめるのだ。

 ……いや、もう何も言うまい。その真剣な表情、それに水を差すのは無粋極まる。

 

「あ、あの……不死鳥の羽ですね」

 

「ぐっ……」

 

 と、とんでもないものが出てくるものだ。

 さすがの女も、表情を崩すのは仕方あるまい。

 震える手でアイテムを手に取る姿を笑う者はどこにもいなかった。

 というか、見ている者たちですら震えている。

 あれほどの希少なアイテムが宝箱から出る瞬間を目撃するとはな……。

 

「次です」

 

 だというのに、女はいまだ満足していないらしい。

 先ほど購入した魔力回復薬を浴びるように飲み……いや、それ無駄ではないか?

 宝箱を連続して開けるために、魔力回復薬を服用する者は他にもいるが、あの量はどう見ても多すぎるだろう。

 ……なるほど! 一見無駄に思えるどころか、事実無駄なことではある。

 だが、その不合理を以て勝利を手繰り寄せようということだな!

 

「万能薬です」

 

「……」

 

 こうして、カジノ中の店員と客に見守られながら、女は次々と希少なアイテムを入手し続けるのだった。

 すさまじい……。あれほどの者がいるとは。

 俺も、負けてはいられんな。そう思ったのは俺だけではなかったようで、女が立ち去った後のカジノは、普段よりも活気づいているように思えた。

 

    ◇

 

「なぐさめなさい!」

 

「俺に怒らないでくださいよ……」

 

 それは、魔本の話が切欠だった。

 性別を変えられる魔本や、動物になれる魔本。

 それらの魔法が込められているというのは、本当に魔法の技術力が高い証明である。

 ということは、魔力が高いし制御もできているフィオナ様って、似たようなことができるのかな? という、ちょっとした疑問だった。

 

 結果として、フィオナ様はさすが魔王というだけあって、魔本なしで男性になったり犬になったりした。

 犬になって頭をなでることをねだられた。

 そこまでいくと、一つ気になるのが、別の種族へと変装できないかということ。

 

 それができるのであれば、もしかしたらフィオナ様を勇者の襲撃から隠せるからな。

 そんな俺の思惑は、残念ながら半分だけが成功した。

 目の前の空色の髪の美人は、フィオナ様が変装した姿であり、人間にしか見えない。フィオナ様とは全くの別人だ。

 だが、勇者や女神には、さすがにばれるらしい。魔王という存在のため、女神やその直属の駒をごまかすことはできないらしい。

 

 使い道はないかと諦めたところ、この魔王様とんでもないこと提案してきた。

 ちょっとカジノに行って、宝箱に挑戦してきます。

 楽しそうにそんなことを言うものだから、俺としては見守るしかなかった。

 

「心がこもってませんよ! もっとなぐさめなさい!」

 

 その結果が、大敗というか。いつもどおりの負けだな。

 カジノの客にバレた様子はないから良いけど、目立つだけ目立って敗北して去っていったのは、なんとも残念だ。

 

「あ、そういうことですか」

 

 そんなことを考えていると、俺に抱きついているフィオナ様は、何かに気付いたように声をあげた。

 そして魔力を操作したかと思えば、空色の髪は見慣れた金色の髪へと変わり、その姿は魔王であるフィオナ様のものへと変化する。

 

「どうですか! これで、レイが大好きな私に戻りましたよ~。さあ、思う存分なぐさめなさい!」

 

「いえ、まあ……」

 

「ほら、さっきより心がこもっています。まったく、失念していました。レイは変装していない私が大好きということを」

 

「合っているのでそれでいいです」

 

「でしょう? ふふん」

 

 なんか、勝手に上機嫌になってくれているし、この分だともう少しなでていたら、元通りのフィオナ様に戻ってくれそうだな。

 そんな計算をしながら、今日も俺は魔王様の機嫌を取り続けるのだった。

 

    ◇

 

「なあ、ボス」

 

「どうした?」

 

「もしも、ビッグボスがカジノの客に、リズワン王たちにバレた場合、まずかったんじゃねえか?」

 

「そのときは、カジノごと潰そうかと思っていた」

 

「まじか……。え、ビッグボスを止めるという選択肢は?」

 

「フィオナ様が遊びたがっていたからな。最優先はフィオナ様だ。それでカジノを潰すことになっても、しょうがない」

 

「そ、そうか……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。