【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「来たみたい」
「へえ、本当に相手からの反応がわかるんだな」
ピルカヤの日課となっていたアイテムへの魔力注入。
今日も今日とて無意味に終わるかと思ったが、ついに向こうから反応が返ってきた。
魔力を受信したアイテムは、光りながら震えており、スマホの着信を思い出す。
「ということは、いよいよテンユウがこちらに来るということか」
「今回はばれてもいいし、入り口付近をよく見張っておくよ。合図をしたら虚無の種子を使ってくれたら、そこまでテンユウを誘導するね」
「ああ、頼んだ」
テンユウと直接話すことになるのは、当事者であるピルカヤと俺とテラペイアとルトラ。
どうせ顔見せすることになる、テラペイアとルトラの部下たちにも、全員控えていてもらう。
あとは、念のためいつでも駆け寄れるように、フィオナ様や四天王は待機しておいてくれるそうだ。
特にプネヴマは、俺が死んだら即座に魂を回収するよう張り切っている。
「いいですか? 何かあったら、まずは逃げることを最優先してください。自爆しないで、逃げるんですよ? いいですね?」
「わかっていますって……」
自爆をするなとすごく念押しされるけれど、俺だって自爆するべきときは見極めますよ。
ゼラシアの巣のときは、他に戦闘手段がなかったうえ、女王を自爆で倒せると思ったからこその行動だ。
逃げれば味方だらけの地底魔界で、それも倒しても無意味とも言える勇者相手に、自爆するつもりはない。
「ピルカヤ。テラペイア。ルトラ。もしものときは、レイを守ってください」
「了解で~す」
「ええ、足止めくらいはしてみせます」
「魔王様もおっしゃっていたが、素直に逃げてくれよ? レイ」
壁くらいは作るつもりだけどな。
イドのときのように、一旦拘束して攻撃して、それで逃げるのが一番良さそうだ。
向こうを自由に動かした場合、何をしてくるかわからないしな。
「魔王様。モンスターも護衛として配置するのはいかがでしょうか?」
「採用です。さすがはダスカロス」
なんか、みんなが随分と心配性だ。
蘇生薬のストックもあることだし、最悪死んだとしても切り替えていけばいいと思うんだけどな……。
まあ、モンスターも一緒というのは、わりと助かる。
勇者相手にどこまで食らいつけるか、近くで観察できるのなら今後のためにもなるし。
「なんか、すでにテンユウが裏切って襲う想定だなあ……。一応、向こうも会話する気でくるはずなんだけど」
「それはそれ、これはこれです。リグマ。用心するに越したことはありませんからね」
「俺の分体、レイくんの服にしのばせておきます?」
「採用……いえ、う~ん……。テンユウの場合、小さな分体でも感づきそうですかね。残念ながら、不採用としましょう」
フィオナ様がわりと真剣に魔王様している。
さて、俺も準備するか。モンスターたちを連れて行く許可が下りたので、適当に見繕って一緒に来てもらおう。
「ソウルイーターとゴブリンとケルベロスと……食人花とバジリスクと……」
「逆にテンユウがはめられたと思わないかねえ」
「モンスターと十魔将と魔族だらけの空間ですからね。戦意があると思われるかもしれませんが、軽率なことはしないはずなので、大丈夫でしょう」
リグマの心配をプリミラが否定する。
本当に話し合いに来た場合は、こちらが多少戦力多めだったとしても問題ないみたいだな。
よし、それならもう少し超位モンスターも……。
◇
さて、超高速で力を取り戻したわ。
あらかじめ、モンスターが大量発生している場所を調査しておいたおかげね。
そこでしっかりと戦えることも示したし、レンシャもスイリョウもレイライも、もうアタシに付きっきりでもなくなった。
ということは、いよいよピルカヤたちとの話し合いかしら。
毎日毎日ご丁寧に連絡されるけれど、ようやく反応を返すことができる。
でも、一つ心配ね。従者たちがついてこないように、アタシ一人で大丈夫と証明するために、力を取り戻してしまった。
話し合いと言ったくせに、そんな万全の状態で向かってしまったら、アタシに戦意があると勘違いされないかしら……。
「……」
欲望のダンジョンの前につくと、うっすらと火の球が浮かんでいる。
ピルカヤね。攻撃してこないし、こうしてアタシを案内してくれている。
この子は、今のアタシを見て何を考えたのかしら? やっぱり、力を取り戻すことなく会うべきだったかしら?
洞窟に足を踏み入れると、以前と同じく賑やかなカジノの音が聞こえ、海につながる道も見え、商店に宿も充実している。
……魔王軍と転生者が協力して、こんな施設ができているとしたら、その転生者の力は本当に大したものよねえ。
ただ、うちのレンシャもそうだけど、ただ搾取されているというわけでもなく、なんというか人類と共生しようとしているようにも見えるのよね。
であれば、今回の休戦というか協力関係への不安も薄れるわ。
魔王軍と人類が手を組む日が本当にくるとしたら……いえ、無理ね。今回みたいな理由でもないかぎり、いつまでも仲良くなんて夢物語にすぎない。
アタシは勇者。人類に期待されてしまっている。望まれてしまっている。だから、アタシが人類を裏切るわけにはいかないのだから……。
「ここね」
道中では罠も起動しなければ、モンスターにも遭遇しなかった。
そんな安全なダンジョンの奥まで進むと、ひと際大きな部屋の中にポツンと空間の歪みが見える。
まあ、疑っていたわけじゃないけれど、あの短期間に本当に新たな虚無の種子を手に入れてたのねえ……。
魔王軍、もしかしてとんでもない力を蓄えてない?
まあ、それも全て後回し。
今はこちらに戦意がないことを証明し、なんとか協力して……いえ、救ってもらわないといけないのだから。
◇
……そんなこと考えていたアタシが馬鹿みたいじゃない!
なに!? ピルカヤは、まあいいわ……。わかるわ。
後ろにいるのは、テラペイアとルトラよね? 十魔将が二人……。まあ、これもいいでしょう。
十魔将の部下たちも思ったよりも多い。生き延びた者たちがいたのか、あるいは決戦から避難していたのか、わからなくもない。
問題は……。
「魔王軍宰相のレイだ。よろしく」
なにあんた!?
いえ、あんたじゃない。あんたの周りの大量のモンスターどういうつもりよ!?
え、はめられた? アタシ殺されるの? 自分が少し力を取り戻して、相手に戦意がないか疑われることを心配していたのが、馬鹿らしくなる。
なんなの。この勇者と決戦しようというような戦力は。
それでいて、戦意なさそうなのがもう意味わかんないわよ!
「えっと……。勇者のテンユウよ。よろしくね~」
そんな風に、普段の自分らしく返せたのことを褒めてほしいくらいだわ。
ええと、ケルベロス? ケツァルコアトル? セルケト?
それが、なんかたくさんいるわね……。
あと、あんたなんでソウルイーターに巻き付かれているの? 捕食寸前なの? 助けよっか?
「まずは、このアイテムでお互いをルールで縛ろうか」
「あらあ、準備万端ねえ」
なにこいつ……。なんで、その状態で淡々と話を進められるの?
えぇ……。魔王軍の宰相って言ったわよね。なんか、頭のネジ外れたのが出てきちゃった……。
大丈夫かしら? アタシ、この場で雑に殺されたりしないわよね?
ソウルイーターに巻き付かれた男は、それにまったく動じることもなくアタシと会話を続ける。
いや、誰かあの姿に何か言いなさいよ。アタシ試されてるの?
あれを指摘するの、もしかしてアタシの役目なの?
不安を抱えていた魔王軍との交渉。
それが、まったく予想だにしていない別の路線で心配になってきた……。