【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「契紋の環……。虚無の種子といい、ずいぶんと珍しいアイテムを持っているのねえ。蒐集家なのかしら?」
「いや、なんか出てきた」
「……ま、そりゃあそうよねえ。真実を話すつもりはない、と。それでいいわ。勇者と魔王軍、本来なら相いれない存在なんだから」
あれ? なんか、俺がごまかしたと思われている。
本当に、フィオナ様のガシャのハズレで、なんか出てきただけのアイテムなんだけど。
テンユウは、仕方ないというように笑った。
「それで、そのアイテムでどんな誓約を結びたいのかしら? さすがに、アタシだけ不利になるような約束はできないわよ? 例えば、勇者テンユウは二度と魔王軍に逆らえないとかはね」
「こっちもそこまでできるとは思っていない。誓約の内容は、こちらの情報を他言しない。それだけだ」
「あら、随分と気前が良いのねえ。救ってもらう身。休戦を申し出た身。そこで知りえた情報なんて、当然黙っているつもりだったけど……」
テンユウは、しっかりとこちらの目を見つめて真意を探ってきている。
そこで、ふと視線を下に逸らし、困ったようにやはり笑うだけだった。
「そっか……。ま、信用できないわよね。いいわ。誓約結びましょ?」
拍子抜けするほどにあっさりだ。
俺が何者なのかを聞きもしない。十魔将が生存していることも、何も尋ねられていない。
その部下がこれだけいるというのに、口出し一つしない。
罠か……? 契紋の環で取り決めた誓約を破る方法を知っている?
「代わりに、あんたたちは全力でアタシたちの国の病を治療する。そこも疑っていないわ。最初は驚いたけど、そこにいる魔族たちは治療に必要な人員ってことでしょ? それを隠さずアタシに見せた。そちらの本気は伝わったわ」
なるほど。十魔将たちを隠さなかったから、むしろこちらを信じるつもりになったということか。
それに、誓約を一方的に強いられるでもなく、しっかりと向こうの国のために働くよう念を押された。
向こうもそれだけ切羽詰まっているのかもしれないな。
「それじゃあ、さっさと誓約結んじゃいましょ。このままじゃ、話もできそうもないもの」
そう言いながら、テンユウは周囲を見渡した。
テラペイアにルトラ。それにその部下たちは、今もテンユウの一挙手一投足を見逃さずに監視している。
たしかに……。テンユウにとっては、随分と居心地が悪そうな状況になっているな。
「俺は、テイランの病を手を抜かず本気で治療する」
「アタシは、そのために必要なことは全て手伝い、この件で知りえた魔王軍の情報は何一つ口外しない。あと、あんたたちを裏切らない」
互いに取り決め、契紋の環に二人分の魔力を注入する。
すると、腕輪は魔力を発しながら光り輝き、俺の体に何らかの魔法がかけられたことがわかった。
「さ、これで誓約は完了したわ。ということで、アタシはあんたたちの敵じゃないって信じてもらえたわね?」
「そのようだな。この期に及んで、裏切って攻撃を仕掛けるというのは無理だろう。勇者の君であっても」
「ええ、ちょっと不安だったけどね。アタシ勇者だし、契紋の環なんて効果がないと思っていたけれど、しっかりと効果が発揮されてよかったわあ。ということは、あんたそれだけの実力者ってことよね?」
テラペイアの言葉に、どこか力を抜きながら返答するテンユウは、俺に問いかけた。
そうか。やはり勇者には効かない可能性があったわけか。
だけど、俺は魔力だけは高いからか、あるいは女神の加護を所有しているからか、テンユウ相手でも契紋の環はしっかりと仕事を果たしてくれたらしい。
「魔力は、それなりに自信がある」
「ええ、アタシにもわかるわ。ピルカヤほどではないけど、あなた大した魔力ねえ。それも宰相だっけ? 前に地底魔界を攻めたときには見かけなかったし、裏方みたいね」
「まあ、そんなところだな」
そのあたりは、テンユウも特に追及はしなかった。
契紋の環がある以上知られても問題ないだろうけれど、必要以上に話すこともない。
向こうもそれがわかっているんだろうな。
「というか、あなたそれいいの?」
「それ?」
テンユウが俺を指さすが、心当たりがない。
何か問題でもあったか? もしかして、契紋の環がうまく機能していないとか?
「それよ。そのソウルイーター。なんか、あんたを捕食する寸前にしか見えないんだけど」
「ああ。これなら、いつものことだし」
「とんでもないいつもを送っているのねえ……。そっか、やっぱり魔王の力が弱まっているから……モンスターたちを制御できていないのね」
そう言いながら、納得したようにモンスターたちを見回している。
いや、制御できているぞ。ちゃんと言うことを聞いてくれる良い子ばかりだし。
こうしてソウルイーターが俺に巻き付いているのも、俺の身を守ってくれているからだろうな。
「それならテラペイアにルトラ。あんたたちが助けてあげなさいよ。あんたたちのところの宰相が、モンスターまみれになってかわいそうでしょうが」
「いや、彼女たちはレイの護衛だ」
「はい。むしろレイ様がここに連れてきました」
「あんたのしわざなの!?」
はい。俺のしわざです。
だって、勇者が相手だったし、護衛として強力なモンスターを配置するのは当然じゃないか。
「あんた宰相で、アタシと対話する意思があったのよねえ……?」
「そうだな。だから、こうして誓約を結んで会話もしている」
「アタシ、この空間に入った瞬間罠にかかって殺されると思ったんだけど!」
「え、なんで……?」
「きょとんとしてんじゃないわよ! そりゃあ、十魔将と魔族たちはともかく、それだけのモンスターで待ち構えられていたら、誰だって罠だと思うでしょうが!」
そうか?
たしかに、相手が一般的な冒険者なら過剰気味な戦力だけど、相手は勇者だぞ。
戦いになった場合、これでもほんの足止めにしかならないと思う。
……もうちょっとモンスター呼んでおくか。
「なにしれっとモンスター増やしてんの!? え、やっぱ殺すの? アタシを殺す罠?」
「いや、相手は勇者だし、護衛のモンスターは多いほうがいいと思って」
「え~……ずれてる~……。アタシの常識じゃわかんな~い……。魔族と人間の壁をここまで感じたの、久しぶりよ」
俺も元は人間なんだけどなあ。
魔族と人間、やはり壁というものが存在するのか。
「あんたが魔王軍の中でも特に偉いのは理解できたわ。これだけ厳重に守られていて、モンスター増やしたときに誰も諫めないどころか、誇らしげな顔してるし。テラペイア、ルトラ、あんたたち従うばかりが忠義じゃないからね?」
「レイの行動を止めるのは、私では無理だ」
「レイ様の行動は、概ね正しいですから」
「テラペイアはまだしも、ルトラはもう駄目みたいねえ……」
そうだな。俺を止めるのはアナンタだもんな。
それでも無理なら、ダスカロスとプリミラが出てくるので、さすがにその前に自重はしたい。
「まあ、あんたたちのことはなんとなくわかったわ。あとは……ピルカヤはいないのかしら? ここまで案内してくれたし、あの子に何かあったとは思ってないけど」
「今回はあくまでも、テイランの治療についての話し合いだからな。ピルカヤには、テンユウが何かおかしなことしたときに、真っ先に攻撃してもらうよう待機している」
「しれっと、怖いこと言うわね。あんた……」
いや、そうならないとわかったからこそだ。
これでも、そちらへの疑念はほぼなくなっているんだぞ。
まだ誓約を結んで軽く話しただけだというのに、なぜかテンユウはすでに疲れているように見えた。
◇
「……」
「魔王様。そわそわしてるね~」
「そりゃあそうでしょ。レイさんが、勇者と話をしているんだから」
「勇者でしょ? 風間くんみたいな人なら、安心じゃない?」
「そうとは限らないわよ……。テンユウはともかく、イドとか最悪だったし」
な、なんか江梨子ちゃんがダーク江梨子ちゃんに……。
ダークヒーローの鳴神くんと一緒に、ダーク転生者チームになっちゃいそう。
どうしよう。私もダーク時任になるべき?
「なにその顔」
「ダーク時任らしく、不敵な表情をしてみた!」
「ただのドヤ顔じゃない」
あれ? できてなかった?
でも、たまに魔王様もレイさん相手にこういう顔するしなあ……。