【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さて、テンユウが敵でなくなった以上、安心して話ができる」
これでようやく本題に、そう思ったが、そんな俺にストップをかけたのは、他ならぬテンユウ自身だった。
「待ちなさい。勘違いしちゃ駄目よ。あくまでも一時的な休戦と共闘。アタシとあんたたちは、敵ということを忘れちゃ駄目よ?」
「大丈夫。今は敵じゃないってことだろ? 敵になったら、ちゃんと潰すから」
一時的な休戦が確かだと言うのであれば、何も問題はないだろう。
約束通りテイランの病を全力で治す。
テンユウは、俺たちの情報を一切口外しない。
それで、テイランから世界に拡がる病は解決だ。
人類や魔族にまで感染が及ぶこともなければ、女神に異変を勘付かれることもない。
「あ、あら……。ちゃんとわかってそうね。なんか、あんたアタシが知ってる魔族と違って、怖いわね」
「いや、俺より他の魔族のほうが怖いと思うぞ」
その言葉を聞いたテンユウは、呆れたように肩をすくめた。
俺の言葉じゃ信用できないか?
まあ、まだ話したばかりだし、疑ってかかるのも仕方がない話ではある。
「本題に戻るけど、テイランの病が快復の湯で治るってことでいいんだよな?」
「可能性、の話だけどね。なんせ、外に連れ出すこともできやしない。持ち帰って試そうにも、効力は失われる。でも、アタシたちは、それにすがるしかないの」
わりと切実な状況なのは、なんとなく伝わってくる。
どこか疲れた様子のテンユウは、きっとこれまでも様々な可能性を求めて奔走してきたのだろうな。
「なるほどな。ということは、今の快復の湯を利用するのは難しそうか」
「そこが問題よねえ。罹患者を運ぶことはできるけど、周囲への影響を考えると良くないわ。オルナスに怒られちゃう」
アルマセグシアだもんなあ。
そこから病が拡がってしまったら、一気に収拾がつかなくなりそうだ。
「じゃあ、やっぱりテイランの近くまで行って作るか」
「そうねえ……。作る? え、作れるの?」
「なんとかする」
「……なんか、信じられないんだけど、やけに説得力があるような気がするわあ」
作ること自体は簡単だからな。
魔力回復薬もあるし、数分の作業だろう。
「だけど運用する場合は、テラペイアやルトラの協力がいる」
「ああ、やっぱり? 医療と水の専門家だもんねえ。それで、あんたたちが勢ぞろいで、話し合いをしているわけね」
「ああ、別にこの人数で襲おうとかじゃないから」
「この期に及んでそれは心配してないわ。ということは、そのモンスターたちも、何か役割があるのかしら?」
テンユウは、最初に比べると落ち着いた様子で、モンスターたちをまじまじと見回している。
ソウルイーターが、もぞもぞと俺に巻きついているが、もうそこまでの警戒も要らなそうだな。
「テンユウが襲ってきたときの保険というか護衛だな」
「結局それ!? 思っていたより物騒ね!」
しょうがないだろ。
お前勇者なんだから、最大限に警戒する対象だぞ。
なんなら、俺はここで殺されて蘇生薬で蘇るまで考えていたくらいだ。
「だから、襲わないでくれ」
「襲わないわよ……。それで、そこのソウルイーターがずっと巻き付いていたのね」
この子の場合、甘えてるだけの可能性も否めないけどな。
わりとちゃっかりしているので、護衛兼甘えなのかもしれない。
「とにかく、あの病治療温泉がテイラン付近にできるなら助かるわ。ただ、国民にあんたたちのことがバレたら騒ぎになるし、眠らせるとかは必要かもね」
「全身麻酔か」
テラペイアの言葉に、テンユウは頷いてみせた。
それなら、患者の意識もないし、安心して治療に専念できるか。
ただ、少し気になることがある。
「テラペイア。麻酔薬って、テイランの国民全員分あるのか?」
「さすがに、そこまでは無いかもしれんな」
「うちでも都合するわよ? というか、うちが率先して提供すべきだし」
それで足りるのか?
消耗品をどかっと使うのは、なんというか勿体ない気がする。
もちろん、人命には代えられないっていうのはわかるけど、治療そのものとは無関係だしなあ。
要するに、患者の意識がなければいいんだろ?
「大量にナイトメアシープを配置しておくか?」
「悪くないな。こちらの正体を隠すだけであれば、単純に眠らせるだけでも良いだろう」
「え、良いか悪いかなら良いんだけど……そんな都合よくモンスターたちを集められるの?」
「大丈夫」
「……根拠がなさそうなのに、なんで説得力あるのかしらねえ」
段々と、テンユウからの視線が、変なものを見るようになっている気がする。
まあ、慣れてもらうしかないだろう。
「とりあえず、大まかな方針は決まったな。テイラン付近に快復の湯を作る。患者は眠らせる。その間に快復の湯とテラペイアとルトラとその部下たちで治療する」
「なんか悪いわねえ。あんたたちに完全に任せっきりで、何か協力できることがあれば何でも言ってね?」
「じゃあ、女神の殺し方とか……」
「無茶言わないでくれる!?」
やはり無理か……。ついでに聞き出せれば良かったんだけど。
「そもそも、神相手には誰も戦いにもならないわよ。神という存在と同じ次元に立たない限り、一方的にやられるだけなの」
同じ次元か……。つまり、高次元……。
そういえば、そんなアイテムがあったよな?
「じゃあ、深淵の書とかいうのを使えば……」
「待ちなさい」
倒せるんじゃないか? と言う前に、俺の言葉は遮られた。
ピルカヤのように、どこか親しみやすく陽気な雰囲気のテンユウが、真剣なまなざしで、こちらをまっすぐ見つめている。
あ、なんかやばそう。
「聞き間違いじゃないわよね? 深淵の書って言った?」
「言ったな」
「……え? 持ってるの?」
「なんか、手に入った」
その言葉に、テンユウは目を細めてため息をつく。
まるで、出来の悪い生徒を相手にして疲れた教師みたいだ。
アナンタが頻繁にする態度だからわかる。
「いい? 絶対、使うな」
「もしかして、かなりやばいもの?」
「やばいなんてもんじゃないわよ! やばいやつらが、やばいやつと接触するために、やばい手段で作ったアイテムじゃないの!」
やばいという言葉だらけだった。
作ったやつも、使用した際の交信相手も、それを作った方法も全て普通ではないらしい。
「滅ぶわよ。世界」
「滅ぶか~」
「アタシたちの国の病がかわいく見えるわよ。そんなものに比べたら」
神らしきものと接触して、あの女神を倒してくださいというのは無理っぽいな。
いや、できなくはないけど、制御できないってことか。
「それにしても、詳しいんだな」
「まあねえ……。アタシの趣味で、古い歴史を調べているけどね。そこで世界が滅びかけた記録もあるのよ。その原因が、あんたの言ったアイテムってわけ」
「やばいものじゃん!」
「だから言ってるでしょ!」
駄目だ、そんなもの。
ビブリオンとフィオナ様が封印していたし、絶対使わないようにしよう。
「なんなら、アタシが封印したいけど、そこまでは信用しないでしょうし、やめとくわ。いい? しっかりと封印しといてよ?」
「ああ、間違っても使えないようにしておく」
時任とか、なんかの拍子に使いそうだしな。
それで世界が滅びかけるようなら、魔王時任の誕生か。
「なんか、あんたたちの話、とんでもない厄ネタばかりな気がしてきたわ……。そもそも、快復の湯一つとっても、規格外だしね」
なぜだろう。
わりと包み隠さず話しているのに、テンユウからはむしろ距離を置かれている気がする。
ここまで話して、信頼されるどころか、呆れられつつ避けられるとか、外交って難しいな……。
宰相として、もっとうまく話せないと。
とりあえず、テイランに向かう時期と、良さそうな土地の選別。
実際に現地に向かった後の作業スケジュール。そのあたりをしっかり話して挽回しようか。
◇
「やっべえやつね……。宰相? あんなのが裏にいたなんて」
一見したら人畜無害のくせに、最終的には十魔将どころか四天王よりやばいやつよ。あいつ。
だけどまあ……味方でいるうちは、頼もしいともいえるけれど。
快復の湯、虚無の種子、深淵の書。
出るわ出るわ。やばいアイテムや設備。
きっと、深掘りしたらもっと出てきたんでしょうねえ……。
「あれと……戦うのかあ」
一時的な休戦。あくまでも、互いに利があるからこその、つかの間の共闘。
というか、アタシたちはただ頼っているだけ。
それが終わったら、また勇者と魔王軍。
だけどねえ……。魔王に加えてあんなのまでいるのなら、簡単じゃないわよね……。
「あ~あ。勇者って、貧乏くじよねえ」
誰にも聞かせられない。そんな言葉は、今だけは誰にも聞かれずに空へ向かって消えていった。
それでも、国民のためにがんばらなくっちゃね。