【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
さて、やることいっぱいね。
最低限だけど、力は取り戻せたし、ここからは準備に費やしましょ。
「テンユウ様! また、お一人で!」
「あ~ら、レンシャ。ちょうど良かったわ」
「へ?」
人手ゲット。さあ、ばりばり働いてもらうわよ~。
アタシの考えが、うっすらと伝わってきたのか、レンシャは後ずさりしている。
以心伝心で嬉しいわ。でも、甘いわね。この間合いで、アタシから逃げられるはずないでしょ。
「レンシャ~。テンユウ様はいた~?」
「ここにいるわよ~。そして、人手追加ね。さあ、手伝いなさいな」
入れ食いね。
続いてスイリョウが手伝いに来てくれたみたい。
本人にそんな意思はない? アタシは勇者で、この子たちは従者。
なら、あんたたちの意思なんて、紙切れのように薄っぺらいと知りなさい。
「……」
「待ちなさい。レイライ。二人の様子を見て、無言で引き返さない」
「そうよ。レイライ! あんたも、巻き込まれなさい!」
「テンユウさま~。なんで、こんな古びた洞窟の掃除なんて~……」
仕方ないじゃないの。
あんたたちは知らないでしょうし、今後も会わせるつもりはないけれど、相手は魔王軍よ。
国賓と言っても良いじゃない。ただでさえ、こんな洞窟にしか招けないんだから、せめて綺麗にしておきたいじゃないの。
それに、仕込みが必要だしね……。
さすがに、ここで魔王軍に活動なんでさせたら、絶対に女神にバレるもの。
だから、この洞窟全体を、アタシの全力を以て隠蔽する。
女神にバレたらまずいのは、あちらだけじゃない。
魔王軍と手を組んだ勇者なんて、女神に何されるかわかったもんじゃないからねえ。
「ほんっと! やること山積みで、いっそ笑えてくるわねえ!」
「テンユウ様も、手伝ってくださいよ~」
「あら、ごめんなさい。それじゃあ、たくさん働いて、テイランの国民を救いましょ」
良い子たちね。
それを聞いた途端に、誰もが真剣な表情で、真面目に動き出した。
この国は、アタシたちの国よ。だから、アタシたちで守らないと。
「テンユウ様」
「何かしら?」
「本当に、テイランは救われるんですか?」
スイリョウの不安そうな顔に、アタシはできるかぎり安心させるように微笑む。
大丈夫。確実にとは言えないけれど、可能性が最も高いところに、アタシは賭けた。
あとは、彼らに任せるだけ。
ほんっと、頼むわよ~……? 丸投げして悪いけど、あんたたちに、世界の命運がかかっているんだから。
「ふふっ」
「どうしました?」
「いいえ。ちょっと、面白い状況になってきた、と思ってね」
ほんと、意味わかんない。
勇者が魔王軍にすがるなんて、意味不明な状況よね。
もうわかっている。あんたたちは、きっと悪なんかじゃない。
だけど、アタシは、あんたたちとは敵対するしかない。
女神だけでなく、世界中の人々がきっとそうなのだから。
かつての魔王軍の恐ろしさを知っているから。今さら手を取りあうことはできない。
勇者ではあるけれど、人類を代表するつもりはないけれど、それでも、人類が弱くてごめんね。
◇
「さて、こんなところかしら」
まあ、さすがにダンジョンみたいに、綺麗な場所にはできないわよね。
だけど、最初に比べたら、ずっと良くなったんじゃないかしら?
じめっとして冷たくて、こけ臭い場所だったけれど、魔法で温度を調整し、テイラン自慢の香りの香も用意して、ちょっとはおしゃれになったわね。
「テンユウ様。その魔法……」
「ええ、ここで内緒の宴をするの」
「……ついに、協力者が?」
「そうね。だけど、アタシたちの国を救えるほどの力。おいそれと、その情報を広めるわけにはいかない。だから、決して誰にも見つからないように、秘密裏に行動するの」
ほんと、悪いわねえ。
本来なら、国中で感謝して、あなたたちを称えなければいけないのに。
返せるものはなく、それどころか、その恩を仇で返すだけ……。
「やっと……国の人たちが、救われるのですね」
だけど、アタシは、やっぱりこの国が好きだから。
きっと、アタシはろくな死に方をしないんでしょうね。
蘇生できる安っぽい死ではなく、蘇生できなくなったときの本当の最期。
不義理なアタシにお似合いの、ひどい末路が待っているのだろう。
◇
「テンユウ様! また、魔力の暴走が!」
「待ってなさい! すぐ、行くから!」
都に戻ると、症状が軽い者たちが、すでに戦闘を開始していた。
ああ、またなの。すぐに、アタシも駆けつけ、最前線へと立つ。
「あ……あははは! すごくきれい! みんな、凍ってちょうだい!」
「まったくもう。あなたの魔法は綺麗だけど、そんな風に他人に迷惑かける子じゃなかったでしょ」
魔力の暴走が、この子を蝕んでいる。
正気が定まらない様子から、それはすぐにわかった。
この子は、もっと大人しい子だった。こんな風に誰かを傷つける子じゃなかった。
皮肉なものよねえ。
あれだけ魔法を研究し、魔力を増やしたがっていた私たちだというのに。
病のせいで、タガが外れて、望み通り魔力が増え続けた結果が、これなのだから。
正気を失い、ただ暴走するだけの存在になってしまうなんて。
仲間同士で、戦うことになるなんて。
「眠りなさい」
「あ……」
全てを凍結させようとする攻撃を解析し、分解する。
相手に返すことはしない。だって、この子は敵じゃないのだから。
「す、すみません。テンユウ様。お手をわずらわせてしまい」
「いいのよ。だって、これがアタシの仕事だもの。それよりも、その子、第三段階よ。隔離して」
「はい……」
第三段階。魔力に精神と肉体を支配される。
こうなってしまうと、基本的には周囲をただ傷つけるだけの生き物になる。
隔離できる場所も、あといくつ残っていたかしらねえ……。
本当に、最近になって第三段階への変異が多すぎる。
余計なことしてくれるわ。女神の加護で、勇者の国が攻撃されるなんて。
そもそも、病を蔓延させる女神の使者って、どういうことよ!
ぶん殴りたいわ。もう、死んじゃったみたいだけど。
「あなたたちも、休みなさいな。第一段階とはいえ、楽ではないはずよ。熱はあるし、体もだるいでしょ」
「し、しかし、他の者に比べたら」
「駄目よ。まともに動ける、アタシたちとは違うのだから。無理したら、悪化しちゃう」
アタシの言葉に、みんな納得してくれたみたいで、頭を下げて去っていく。
律義ねえ。病人なんだから、さっさと帰って寝なさいな。
『テンユウ様』
今度は何かしら?
レイライが、伝令魔法を使用して話しかけてきた。
また、別の場所で、魔力を暴走させた子でも出てきたかしら?
『イドが、訪問しています』
「あら? すぐ行くわ。待たせておいて」
珍しいわね。
勇者だから、病に罹患する心配はないけれど、それにしたって、あの子がわざわざこの国に来るなんて。
待たせたらまた怒りそうだし、ゆっくりと行くことにしましょ。
◇
「遅え!」
「あ~ら、ごめんなさ~い? ちょっと、忙しくってねえ」
「嘘つくんじゃねえ。てめえのパーティメンバーから話は聞いている。用事はすんだはずなのに、なにをぐずぐずしていやがった」
「え~。なんのこと~? わかんな~い」
言っても無駄だと思ったのか、イドは舌打ちして本題を切り出すみたい。
あら、切り替え早くて嫌あねえ。やっぱり、向かうのを遅くしておいて、正解だったわ。
「お前、死んだらしいな?」
「まあねえ。勇者といっても、死ぬときは死ぬわ」
当然、自分自身が一番知っていることだからか、イドは反論しない。
ほらね? この子、冷静なときは、頭が回るから駄目なのよ。
「そんなことは知っている。それよりも、問題は、誰がてめえを殺したか。だ」
「あら~。心配してくれているの? 立派になったわねえ」
「うるせえ。お前が、簡単に殺されるほどのやつだ。情報をよこせ」
さて、ここからね。
悟られないように、しっかりと話さないと。
多少なりとも、イラついているおかげで、なんとかバレずにすみそうだからね。
「転生者よ。さすがに、女神の加護というだけはあるわ。アタシたちにまで、届きうる力を持っている場合がある」
「うちにいたやつは、大したことなかったけどな」
「そりゃ当然。ピンキリですもの。アタリもハズレもあるわよね」
「どんなやつだ。どんな力だ。お前を殺したのは」
「なあに? まさか、報復でもしてくれるの? 成長したわねえ」
アタシの言葉に、イドは明らかに嫌そうな表情を浮かべていた。
なによその反応。怒らせようとしたんだけど、予想外の反応しないでくれる?
「安心なさい。殺されたといっても、こっちだって勇者よ? ちゃんと、相討ちにまでは持って行ったわ」
「……」
探られている。
だけど、色々と揺さぶったおかげか、冷静には判断できていないわね。
イドは、しばらく黙った後、席を立った。
「あら、もう行くの?」
「俺の獲物じゃないようだからな。ここにいても、時間の無駄だ」
「そう。ま、それがいいわね。残念ながら、テイランは、相変わらず病が蔓延している。いくらあんたでも、長居しないほうがいいわ」
「……治療の目途は?」
「ぜ~んぜん。ほんと、嫌になるわねえ」
心配してくれているのかしら?
でも、悪いわね。本当のことは言えないの。
アタシの様子を見て、イドは今度こそ立ち去っていった。
獲物ねえ……。例の寄生の転生者とかいうやつかしら?
あの子はあの子で、なんか本当に変な転生者と遭遇しているわねえ。