【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「設置完了シマシタ」
「ああ、ありがとう」
昆虫兵の報告により、いよいよもって準備が完了した。
クララとテクニティスが設置してくれた転移魔法陣。それによって、テイランまで伸ばしたダンジョンへと移動できる。
「テンユウが用意した土地は、人通りが少ないし罠もないみたいだよ~」
「ああ、ありがとうピルカヤ。誓約で縛られている以上無理だけど、念のため確認したかったからな」
互いに裏切らないとはいえ、何か抜け道があったとしたら大変だ。
テンユウと実際に話してみて、なんとなくその人となりは理解したし、そんなやつではないんだろうけど、ついつい心配してしまう。
これはもう、俺自身がそういう性格だからだろうな。
「では、いざテイランに行きますか」
やたらと気合を入れてフィオナ様が宣言する。
もしかして、外出ということで気分が高揚しているのか?
だが、残念ながらテイランに行くと行っても、俺たちはあくまでも地底魔界を進むだけだ。
外に出ることはないし、ダンジョンの延長線上での活動となる。
「向こうの文化はしっかりと勉強しましたからね! 辛い料理が多いそうですが、私はそれも好きなので大丈夫です」
あ、やっぱり勘違いしてるな、これ。
どうやらフィオナ様の中では、テイランで観光しつつ治療することになっているようだ。
……仕方ない。俺が訂正するしかないか。
「フィオナ様。テイランの国には入りませんよ? あくまでも、地底魔界で治療します」
「ええ!?」
「さすがに、魔王軍が国にいたら問題ですからね。人目につかない場所を用意されたので、そこで活動する予定です」
「ぐう……。ま、まあ、別にいいですけどね! 私は地底魔界好きですし!」
本当のことだろうけれど、楽しみにしていたのも本当なんだろうな。
なんか心なしか肩を落としたような姿に、なぜか罪悪感が浮かんでくる。
「魔王様~。料理なら、あたしが作りますよ?」
「ありがとうございます、マギレマ。あなたの料理のほうが美味しいですからね」
それも本当だろうけれど、やはり楽しみにしていたのか、まだガッカリした様子が伝わってくる。
「この件がすんだら、俺がテイランの街並みでも再現できるよう、ダンジョンマスターの力をフル稼働させますか?」
「いえ、さすがにそんな無駄遣いをさせるわけには……」
「フィオナ様のためなら、無駄なことはありませんけど」
視線を逸らし申し訳なさそうにするフィオナ様。たまに弱気になるんだよな、この魔族。
ということで、ここはちょっと強めに言うくらいがちょうど良いとみた。
「俺の魔力は全部フィオナ様のためのものですから。なんでも言ってください」
「そうですか。では……宝箱ガシャを百連」
「そういうのはやっていません」
「うそつき!」
そっち方面に流れたら、もうどうしようもないんです。
こういうときは、なんかわりと粘り強いからな、この魔族。
だから、かなり強めに却下するくらいがちょうど良いんだよ。
「馬鹿なことやってないで、さっさと行きますよ」
「あれ? 今プリミラ、私のこと馬鹿って言いました?」
「大丈夫です。俺も馬鹿って言われました。宰相なのに」
だが、否定できないし、プリミラが正しい。
俺たちは叱られた者同士、傷を舐め合うかのように仲良く転移するのだった。
余談だが、手をつないだ俺たちを見て、プネヴマが倒れた。
……テラペイアもテイランに向かっていなくなるのに、プネヴマは大丈夫なんだろうか。
◇
転移した先は、まあいつも通りというべきか。岩肌がむき出しになっている洞窟だな。
ひんやりと涼しく、土の匂いがわずかに混ざっており、今では慣れ親しんでほっとするような場所だ。
「いつも通りの景色ですね~」
だが、フィオナ様はそんな見慣れた景色に、少々がっかりしている。
「俺は好きですけどね。俺の居場所ですし」
「……まあ、他の国より地底魔界のほうが、いい場所ですからね!」
フォローしておくと、フィオナ様の機嫌も直ったようで、笑顔を咲かせながら俺の頭をなでた。
他の国を楽しみにしているのか、それとも対抗意識を燃やしているのか、よくわからない状態だなあ。
さて、改めて見回してみると、広さは十分だな。
テイランの国民の治療というだけあって、治療のための場所はかなり大きめに確保してくれたようだ。
俺だったら、ダンジョンマスターの力で作成できるけれど、テンユウの場合はそうもいかない。
よくもまあ、こんな場所を探し出してくれたものだ。
この広い空間には快復の源泉を作るのが良さそうだな。
そして、その先にはスタッフルームではないけれど、通路の先にまた人を収容できる空間がある。
この通路を壁で塞いでおけば、テイランの患者たちと顔を合わせる心配もなさそうか。
ということで、とりあえず魔王軍のみんなは、この部屋で待機するとしよう。
「とりあえず、俺たちはこっちで作業しましょうか」
「そうですね。向こうの広い空間に温泉を作るのであれば、こちらを従業員のための部屋にするのが良さそうです」
フィオナ様からも賛同してもらったので、魔王軍のみんなで移動する。
さすがに四十人くらいとなると、大所帯だな。
くれぐれも、テンユウ以外には見つからないようにしておこう。
「壁作成」
全員が移動したのを見計らい、壁を作成して通路を遮る。
まだ慣れていないのか、テラペイアとルトラの部下たちが、びくっと肩を震わせているけれど、早く慣れてね。
あとは、このまま単なる洞窟では体を休めにくい。
しっかりとした部屋にしてしまおう。
「広間作成」
「こ、こんなに簡単に改築が……」
「慣れなさい。レイは、そういうやつだ」
テラペイアの言うとおりだ。
俺はなんかもうそういう存在として、みんなには受け入れてもらおうと思う。
「宿作成」
「ルトラ様」
「慣れてください」
よし、これで十分休める場所へと変わったな。
元々用意してもらっていた空間だけでは足りず、壁をえぐって宿を作成したけれど、まあ許してもらえるだろう。
そもそも、地底はフィオナ様のものだからな。ここは、魔王軍の縄張りと思ってもいいはずだ。
「レイ~。テンユウが来たよ~」
作業もひと段落し、その成果を見ながら満足している俺に、ピルカヤが声をかける。
彼には、こちらでも相変わらず見張りを頼んでいるが、早速活躍してくれたみたいだ。
「ちょうど良かった。それじゃあ、フィオナ様とピルカヤ以外の四天王は、こっちで待機していてください」
さすがに、あのときテンユウと対面した者以外を見せるつもりはない。
なので、作ったばかりのスタッフルーム兼休憩室で、休んでもらいつつ、何かあったら駆けつけてもらおう。
「消去」
テンユウが到着する前に、壁を消して俺とピルカヤ、テラペイアとルトラだけが、快復の源泉設置予定の部屋へ移動する。
そうして再び壁を作ってしまえば、テンユウでさえ容易にはあの奥へと入り込めない。
イドなら、一発でぶっ壊すだろうけどな……。
「あら、ピルカヤ。やっぱりあんたも来たのね」
「そりゃあ、ボク四天王だからね。君が悪さしないように、よ~く見張っておいてあげるよ」
「しないわよ、そんなこと。今回は、全面的に協力してもらう身だもの。ここで足を引っ張っても、誰も得しないじゃない」
テンユウは両手を上げて降参するようなポーズをとった。
なんとなく、ピルカヤと相性よさそうだよなあ。普段は軽いやり取りをしているところが似ている。
ただ、そんな姿を見せながらも、一瞬で意識を切り替えるのがピルカヤだ。
それに似ているテンユウも、今はこうして和やかにやり取りできていても、次の瞬間には敵という可能性もある。
「というわけで、改めてよろしくね。……え~と、代表者って、ピルカヤ? それとも宰相のあなた?」
「レイのほうだね」
「やっぱりねえ……。なんというか、あんたすごいもんね」
「なあ、テンユウ」
「何かしら?」
会話を遮るようで悪いが、何よりも気になることがある。
それを解決しないことには、安心して話はできないし、そもそもこの場から即撤退する心づもりだ。
「ここは、虚無の種子みたいに別空間じゃないぞ。魔王軍と勇者が話していて大丈夫なのか?」
女神に目をつけられないように、だからこそ今までは虚無の種子で話していた。
そして、そこで作業内容も全て取り決めたため、こうして再びテンユウと話すことになるとは思っていなかった。
だからこそ気になる。今のこの状況、女神に筒抜けじゃないのか?
「安心してちょうだい。ここはテイラン、アタシの祖国よ。勇者という立場もあるし、地の利だってある。だから、しっかりと準備すれば、女神さえも認識できない結界も張れるの」
「たしかに、ボクもろくに見えないもんね~。だから、いつもテイランって調査しづらかったんだ」
「そういうこと。これで、少しは安心できたかしら?」
ピルカヤに目配せすると、彼はこちらを安心させるように頷く。
そんな俺たちの様子を見て、テンユウは困ったように笑うのだった。
ピルカヤが問題無いと判断しているし、そもそも女神にばれたら困るというのはテンユウも同じ。
ならば、ここは疑うべき場面でもないか。
「ああ、悪かったな。話を遮って」
「気にしてないわ。それじゃあ改めてよろしくね。レイ」
「ああ、よろしく」
今度こそ、とテンユウは俺に手を差し伸べる。
俺のほうも、ここで拒絶する理由などないので、それに応じて握手をした。
「無防備ねえ。駄目よ? 敵との握手に簡単に応じちゃ」
「え、なんかされた?」
とりあえず、起爆岩で……。
「待った待った! なんもしてないから! なんか、あんた一瞬でスイッチ入るから怖いわね!」
「レイだもん」
「魔王軍の宰相様ってだけあるわよねえ……。あくまでも、忠告よ。無防備に握手に応じたから、油断してるのかと思ったけど……そんな感じじゃないわねえ」
いや、だいぶ油断していた。
たしかに俺たちとテンユウは敵同士だもんな。
ここで慣れ合ったとしても、最後はしっかりと敵として別れるよう改めて心がけておこう。