【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第507話 窓際族の旅立ち

「テンユウ様……。本当に、私たちは、そちらで手伝わないほうが、良いのでしょうか?」

 

 スイリョウが、心配そうに……いえ、不満そうに聞いてくる。

 でも、悪いわねえ。こればっかりは、アタシ一人でやるしかないの。

 

「ちょっと、危険な伝手を使ってるの。だから、アタシ以外は、決して手伝っちゃ駄目」

 

 こういうのは、下手にごまかさないほうが良いからね。この子たちの場合。

 危険と言った時点で、各々思うところがありそうな表情を浮かべたけれど、勝手に動いたら、アタシも危ないとわかってくれたみたい。

 これで、魔王軍たちのことは、大丈夫。

 魔王軍というか、女神にバレたら、絶対ろくなことにならないからねえ。

 

「ただ、こっちの作業以外は、任せたわよ。あの洞窟の中に、患者たちを連れてきてちょうだい。優先順位は、しっかり見極めてね」

 

「はい!」

 

 アタシは、しばらく外の様子を見ている余裕がないからね。

 一時的に、この国のことは、この子たちに任せる。それが一番良いはず。

 

「じゃあ、さっそく始めるわよ。テイランの存亡を賭けた戦い。病魔なんて、すぐに倒しちゃいましょ」

 

 もっとも、戦うのはあの魔王軍たちだけどねえ……。

 ほんと、情けない話ね。これまで調べてきた魔法、技術、知識では、結局太刀打ちできなかった。

 

 ……でもねえ。言い訳すると、あれがだいぶおかしいわよ!

 さっきも様子を見に行ったけれど、アタシたちがわりと苦労した洞窟の内装、さらに洗練されてるじゃないの!

 到着したばかりのはずよね!? なんで、そんな短時間で、快適な空間作り上げてんの!?

 あ~……これも、誰にも言えないし、魔王軍のやばさが、アタシの中だけに留めるしかなくなっていく。

 

 そりゃあ、あんな万能薬みたいな温泉も作れるわよねえ。

 というか、温泉もパワーアップしてない? なによ。あの滝は……。

 味方だと頼もしいんだけど、いずれ敵になる……。

 あ! もしかして、欲望のダンジョンで、アタシたちを執拗に狙っていた、あの悪辣な罠!

 あれ、あいつのせいか!!

 

「……なによもう。なんで、あんなやばいやつが、今まで表に出ていなかったのよ」

 

 あの洞窟。大量の医療スタッフもいたわね。

 それだけじゃなくて、本当にナイトメアシープまで、用意されていた。

 つまり、それだけの力が、魔王軍にはあるってこと。

 きっと、その要があのやばい男。レイなんでしょうね。

 

「テンユウ様。連れてきました」

 

 っと、考えるのは、ここまでね。

 いずれ戦わないといけない相手。その強大さに恐れおののくなんて贅沢は、まずはこの国を救ってからよ。

 大きな借りができて、それを仇で返すことになる罪悪感とか、そういうものは、一旦全部忘れなさい、アタシ。

 

「さ、安静にしたままにしてね。勇者が、ようやくあなたたちを救ってあげられるから」

 

「テンユウ様……よろしく、お願い……します」

 

「喋らないの。もう少ししたら、無理しなくても楽に喋れるようになるから」

 

 だから、拝まないで。

 あなたたちを助けることができなかったアタシを、役に立たなかった勇者を、そんな風に拝む義理なんてないんだから。

 

    ◇

 

「ついたわよ~。まずは、眠ってしまいなさい。目が覚めたころには、体も良くなっているはずだから」

 

 幸い、自分の足で歩くこと自体はできている。

 だけど、足取りは非常に重く、ふとした拍子に第三段階へと移行するため、油断はできない。

 そう考えると、魔王軍のことを隠すための、このナイトメアシープたち、ほんとありがたいわね。

 眠ってしまえば、さすがに暴走状態になることもないはずだから、ここまで来れば、あとは治療をするだけだもの。

 

「患者は全員眠ったようだな。順次快復の湯へ運べ。各自で患者の容体が急変しないよう、細心の注意を払え」

 

 頼りになるわねえ。

 敵にしていたときは、無限に魔王軍を治療する、厄介極まりない男だったけど、今回は非常に頼りになる。

 

「各自、担当した快復の湯の水質を、テラペイアたちと連携しなさい」

 

 そして、万全の体勢で治療に尽力してくれる、この精霊の存在もありがたい。

 この期に及んで疑う気はないけれど、しっかりとアタシたちのために、動いてくれるのがわかる。

 ここは、彼らに任せて大丈夫ね。アタシは、しっかりと患者たちを安心させて、ここに導かないと。

 

    ◇

 

「治ってる……。まさか、本当に」

 

 テンユウ様が、忙しそうに行き来する洞窟。

 そこから出てきた者たちを引き受けると、誰もが皆、たしかに完治していた。

 

「テンユウ様。いったい、どうやって」

 

 どんな治療法を見つけた、というのだろう。

 一様に感謝する人々を見ながら、きっと私たちは、同じことを考えていた。

 もとより疑うつもりなどないが、あの方は、疑いようもなく勇者だったのだ。

 

「よし、私たちは私たちで、やるべきことをするわよ!」

 

 レイライとスイリョウと一緒に、完治した患者たちを隔離する。

 万が一にでも、再発なんてさせるわけにはいかない。

 あの方の努力をふいにするなど、従者としてあってはならないのだから。

 

    ◇

 

「ナイトメアシープ足りてそうだな」

 

『そうですねえ。ちゃんと、患者たちは、全員眠っています』

 

 俺の独り言に、フィオナ様の声が聞こえる。

 ぶっちゃけると、俺にやれることがなくて暇なので、正直なところピルカヤの気遣いは助かる。

 忙しそうにしているのは、医療チームと水質チームだけであり、俺は手持無沙汰なのだ。

 

「……もう少し、ナイトメアシープを生成するか?」

 

『やめておきなさい。魔王様が言ったように、数は足りているだろう』

 

「そうか」

 

 フィオナ様とダスカロスが言うのなら、間違いないのだろう。

 みんな、忙しそうだなあ……。

 

「快復の源泉、増やすか」

 

『まだ、頼まれていないみたいなので、やめておいたほうが良いと思います』

 

 プリミラがそういうのなら……。

 魔力は、有り余っているんだ。それに、魔力回復薬もあるんだ。

 だから、俺はいつでも動けるぞ。

 

「……」

 

 みんな、大変そうだなあ……。

 何かできること、何かできること……。

 ルトラとその部下は、快復の湯にそれぞれつきっきりになって、水質を絶え間なくチェックしている。

 テラペイアとその部下は、そんな彼女たちの指示を受け、魔力を注いで患者の状態を最適なものへと変えている。

 うん、どっちも俺には手伝えそうもない。

 

 テンユウのほうは、一人で慌ただしく、患者を連れてきては、完治した者たちを外へ連れ出しているようだ。

 こっちはこっちで、手伝うわけにもいかない。

 魔族の俺が、テイランの民たちに顔を見られるわけにもいかないからな。

 

「いっそ、フィオナ様たちのほうへ戻るべきか?」

 

 案外、俺のやることってないのでは?

 そう思っていると、テンユウが申し訳なさそうな顔をして、こちらへ駆け寄ってきた。

 なにか問題が起きたか?

 

「ごめんなさい! 負担をかけて、ほんとに悪いんだけど、快復の湯、増やせないかしら? ちょっと、容体が急変しそうな患者が多いの」

 

 それが聞こえていたからか、テラペイアとルトラが、即座にこちらの会話に割り込むように声をあげた。

 

「かまわん! こちらには、まだ余力がある!」

 

「私たちのほうも、問題ありません!」

 

「よしきた! じゃあ、作ろう」

 

 ようやく、俺にもやれることができた。

 さあ、すぐに作ってしまおう。

 ……といっても、指先一つ動かすだけで、終わりなんだよなあ。

 

「ね、ねえ。アタシ、無茶な面倒ごとを頼んだつもりなんだけど。なんで、あんたたちのところのお偉いさん。あんな嬉しそうなの?」

 

「レイだからな。諦めたまえ」

 

「レイ様ですから」

 

「ほんっと、わかんないわねえ……」

 

 その後も、効力が薄れた快復の源泉の再作成が依頼されるため、どうやら俺にもちゃんと仕事があったみたいだ。

 良かった、仕事があって。安心した。

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