【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「テンユウ様……。本当に、私たちは、そちらで手伝わないほうが、良いのでしょうか?」
スイリョウが、心配そうに……いえ、不満そうに聞いてくる。
でも、悪いわねえ。こればっかりは、アタシ一人でやるしかないの。
「ちょっと、危険な伝手を使ってるの。だから、アタシ以外は、決して手伝っちゃ駄目」
こういうのは、下手にごまかさないほうが良いからね。この子たちの場合。
危険と言った時点で、各々思うところがありそうな表情を浮かべたけれど、勝手に動いたら、アタシも危ないとわかってくれたみたい。
これで、魔王軍たちのことは、大丈夫。
魔王軍というか、女神にバレたら、絶対ろくなことにならないからねえ。
「ただ、こっちの作業以外は、任せたわよ。あの洞窟の中に、患者たちを連れてきてちょうだい。優先順位は、しっかり見極めてね」
「はい!」
アタシは、しばらく外の様子を見ている余裕がないからね。
一時的に、この国のことは、この子たちに任せる。それが一番良いはず。
「じゃあ、さっそく始めるわよ。テイランの存亡を賭けた戦い。病魔なんて、すぐに倒しちゃいましょ」
もっとも、戦うのはあの魔王軍たちだけどねえ……。
ほんと、情けない話ね。これまで調べてきた魔法、技術、知識では、結局太刀打ちできなかった。
……でもねえ。言い訳すると、あれがだいぶおかしいわよ!
さっきも様子を見に行ったけれど、アタシたちがわりと苦労した洞窟の内装、さらに洗練されてるじゃないの!
到着したばかりのはずよね!? なんで、そんな短時間で、快適な空間作り上げてんの!?
あ~……これも、誰にも言えないし、魔王軍のやばさが、アタシの中だけに留めるしかなくなっていく。
そりゃあ、あんな万能薬みたいな温泉も作れるわよねえ。
というか、温泉もパワーアップしてない? なによ。あの滝は……。
味方だと頼もしいんだけど、いずれ敵になる……。
あ! もしかして、欲望のダンジョンで、アタシたちを執拗に狙っていた、あの悪辣な罠!
あれ、あいつのせいか!!
「……なによもう。なんで、あんなやばいやつが、今まで表に出ていなかったのよ」
あの洞窟。大量の医療スタッフもいたわね。
それだけじゃなくて、本当にナイトメアシープまで、用意されていた。
つまり、それだけの力が、魔王軍にはあるってこと。
きっと、その要があのやばい男。レイなんでしょうね。
「テンユウ様。連れてきました」
っと、考えるのは、ここまでね。
いずれ戦わないといけない相手。その強大さに恐れおののくなんて贅沢は、まずはこの国を救ってからよ。
大きな借りができて、それを仇で返すことになる罪悪感とか、そういうものは、一旦全部忘れなさい、アタシ。
「さ、安静にしたままにしてね。勇者が、ようやくあなたたちを救ってあげられるから」
「テンユウ様……よろしく、お願い……します」
「喋らないの。もう少ししたら、無理しなくても楽に喋れるようになるから」
だから、拝まないで。
あなたたちを助けることができなかったアタシを、役に立たなかった勇者を、そんな風に拝む義理なんてないんだから。
◇
「ついたわよ~。まずは、眠ってしまいなさい。目が覚めたころには、体も良くなっているはずだから」
幸い、自分の足で歩くこと自体はできている。
だけど、足取りは非常に重く、ふとした拍子に第三段階へと移行するため、油断はできない。
そう考えると、魔王軍のことを隠すための、このナイトメアシープたち、ほんとありがたいわね。
眠ってしまえば、さすがに暴走状態になることもないはずだから、ここまで来れば、あとは治療をするだけだもの。
「患者は全員眠ったようだな。順次快復の湯へ運べ。各自で患者の容体が急変しないよう、細心の注意を払え」
頼りになるわねえ。
敵にしていたときは、無限に魔王軍を治療する、厄介極まりない男だったけど、今回は非常に頼りになる。
「各自、担当した快復の湯の水質を、テラペイアたちと連携しなさい」
そして、万全の体勢で治療に尽力してくれる、この精霊の存在もありがたい。
この期に及んで疑う気はないけれど、しっかりとアタシたちのために、動いてくれるのがわかる。
ここは、彼らに任せて大丈夫ね。アタシは、しっかりと患者たちを安心させて、ここに導かないと。
◇
「治ってる……。まさか、本当に」
テンユウ様が、忙しそうに行き来する洞窟。
そこから出てきた者たちを引き受けると、誰もが皆、たしかに完治していた。
「テンユウ様。いったい、どうやって」
どんな治療法を見つけた、というのだろう。
一様に感謝する人々を見ながら、きっと私たちは、同じことを考えていた。
もとより疑うつもりなどないが、あの方は、疑いようもなく勇者だったのだ。
「よし、私たちは私たちで、やるべきことをするわよ!」
レイライとスイリョウと一緒に、完治した患者たちを隔離する。
万が一にでも、再発なんてさせるわけにはいかない。
あの方の努力をふいにするなど、従者としてあってはならないのだから。
◇
「ナイトメアシープ足りてそうだな」
『そうですねえ。ちゃんと、患者たちは、全員眠っています』
俺の独り言に、フィオナ様の声が聞こえる。
ぶっちゃけると、俺にやれることがなくて暇なので、正直なところピルカヤの気遣いは助かる。
忙しそうにしているのは、医療チームと水質チームだけであり、俺は手持無沙汰なのだ。
「……もう少し、ナイトメアシープを生成するか?」
『やめておきなさい。魔王様が言ったように、数は足りているだろう』
「そうか」
フィオナ様とダスカロスが言うのなら、間違いないのだろう。
みんな、忙しそうだなあ……。
「快復の源泉、増やすか」
『まだ、頼まれていないみたいなので、やめておいたほうが良いと思います』
プリミラがそういうのなら……。
魔力は、有り余っているんだ。それに、魔力回復薬もあるんだ。
だから、俺はいつでも動けるぞ。
「……」
みんな、大変そうだなあ……。
何かできること、何かできること……。
ルトラとその部下は、快復の湯にそれぞれつきっきりになって、水質を絶え間なくチェックしている。
テラペイアとその部下は、そんな彼女たちの指示を受け、魔力を注いで患者の状態を最適なものへと変えている。
うん、どっちも俺には手伝えそうもない。
テンユウのほうは、一人で慌ただしく、患者を連れてきては、完治した者たちを外へ連れ出しているようだ。
こっちはこっちで、手伝うわけにもいかない。
魔族の俺が、テイランの民たちに顔を見られるわけにもいかないからな。
「いっそ、フィオナ様たちのほうへ戻るべきか?」
案外、俺のやることってないのでは?
そう思っていると、テンユウが申し訳なさそうな顔をして、こちらへ駆け寄ってきた。
なにか問題が起きたか?
「ごめんなさい! 負担をかけて、ほんとに悪いんだけど、快復の湯、増やせないかしら? ちょっと、容体が急変しそうな患者が多いの」
それが聞こえていたからか、テラペイアとルトラが、即座にこちらの会話に割り込むように声をあげた。
「かまわん! こちらには、まだ余力がある!」
「私たちのほうも、問題ありません!」
「よしきた! じゃあ、作ろう」
ようやく、俺にもやれることができた。
さあ、すぐに作ってしまおう。
……といっても、指先一つ動かすだけで、終わりなんだよなあ。
「ね、ねえ。アタシ、無茶な面倒ごとを頼んだつもりなんだけど。なんで、あんたたちのところのお偉いさん。あんな嬉しそうなの?」
「レイだからな。諦めたまえ」
「レイ様ですから」
「ほんっと、わかんないわねえ……」
その後も、効力が薄れた快復の源泉の再作成が依頼されるため、どうやら俺にもちゃんと仕事があったみたいだ。
良かった、仕事があって。安心した。