【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「テラペイア先生! ランゲツさんの症状完治しました!」
「テンユウに引き渡して、次の患者の対応をしろ」
「ルトラ様! 万能薬の成分強化完了しました!」
「では、テラペイアたちに連絡を。すぐに、次の患者を浸けてしまいましょう」
大騒ぎだなあ。
テラペイアチームとルトラチームが、ひっきりなしにやってくる患者を次々と治療している。
テイランにはびこる病とやらに、快復の湯が効くかどうか不安はあったが、この様子だとそこは問題ではなさそうだ。
それにしても、不治の病と聞いて動くこともできない重病人を想像していたが、どうやらそういうわけでもない。
彼ら彼女らは、しっかりと自分の足で歩くことができているし、重症とは程遠い姿に見えた。
「驚いた?」
「テンユウ」
テラペイアやルトラと違い、俺のように若干手隙になっているためか、テンユウに話しかけられる。
先ほど治療したグループを、また別の場所に移動させたため、どうやら彼もそこまで忙しいわけでもないらしい。
「思っていたよりも元気そうでしょ? うちの国民たち」
「ああ、もっと見るからに危険な状態なのかと思っていた」
「でも、たしかに不治の病なのよ。世界を滅ぼすほどのね」
テンユウの表情は、真剣そのものであり、今も患者たちの様子をそわそわと気にしている。
俺には、あれがそんな恐ろしい状態には見えないが、テンユウには違うものが見えているのだろう。
「テラペイアから聞いたよ。テイランの人たちって、魔力が溢れすぎているんだって?」
「そうね。自分の許容量を超えて、魔力がどんどん溜まっちゃうの」
「それだけ聞くと、むしろパワーアップしているって感じだけどな」
まるで、フィオナ様が前々から求めている、魔力一万にもなれる夢のような症状じゃないか。
だが、この表情を見るに、そんな甘い話ではない。
「アタシやアタシの従者みたいに、魔力の操作が長けているのであれば、問題ないんだけどねえ」
「国民は、そうでもないか」
「ええ。体内にあふれる魔力に蝕まれて、第一段階では体温が上昇し、体がだるくなる」
風邪みたいな感じだな。
現に、今治療している患者たちは、自分一人で歩ける程度には元気だし。
「第二段階では、体内の魔力が暴走する。あなたのいうパワーアップっていうのも、あながち間違いじゃないわね」
「魔力のおかげで、強化されるってことでいいのか?」
「ええ。それぞれが得意分野における強化をされるわ。ピルカヤみたいに火が得意なら、火力や持続時間が上がるでしょうね」
そこまで聞くと、やはり良いことのほうが大きく思える。
ということは、その先の症状が問題ってことなのかもしれない。
「そして、第三段階。魔力に精神と肉体を支配される」
なんか、一気にきな臭い話になってきたじゃないか。
テンユウ自身も、事の重大さを理解しているためか、その表情は彼らしからぬ余裕のないものだった。
「支配とはおだやかじゃないな」
「まったくもってそのとおり。この症状は、生きる魔力でもある精霊たちにさえ効果があるもの」
「ピルカヤやルトラにも?」
「ええ、きっとあらゆる種族に感染するわね」
そもそもピルカヤやルトラが、魔力そのものだったことにも驚いているが、感染した結果どうなるというんだろう。
「蓄えすぎた魔力は、本能のままに行動させてしまう。獣人ならひたすら戦闘を求め、精霊だったら自由奔放の大暴れでしょうね」
「理性がなくなるってことか?」
「そうね。それに加えて、破壊衝動と種族ごとの特性が強化されるってところかしら?」
「人間や魔族の場合は?」
「人間の場合、アタシみたいなのなら、好き放題魔法の実験かしらね。魔族の場合、あんたみたいなのは……モンスターを大量に作って好き放題暴れさせるとか?」
なるほど、なんとなく想像がつく。
であればフィオナ様の場合……。無限にガシャを回しては外す、悲しい生き物になりそうだ。
「テイランの人たちが、そうなったってことか?」
「一部はね。テイランの場合、攻撃性が増して周囲の者を襲ったり、魔法をところかまわず撃って破壊したり、そんな患者が出ていたわ」
過去形……。すでにその者たちが、治っているというのならいいが、そうじゃないんだろうな。
治っているのなら、わざわざ魔王軍に助けを求めない。
取り押さえているのなら、真っ先に治療しているはずだ。
そのどちらでもないのなら、もうこの世には……。
「第三段階の患者は放置できなかった。まったく、勇者なんて名前ばかり、自分の国の者を手にかけるなんて、ほんと嫌になるわ」
そう呟いたテンユウの表情は、後悔に満ちていた。
勇者として、国への被害を最小限にするために、仕方がなかったのだろう。
そして、その行為が勇者として矛盾していると、今も彼自身の傷となっているのかもしれない。
「だから、あんたたちには感謝してるの」
「たしかに、これが世界中に蔓延したら、うちも危険だったんだろうな。大暴れするピルカヤとか、地底魔界ごと焼かれそうだし」
「魔王に感染しただけでも、わりと世界の終わりよねえ。あの力なら、地底も地上も簡単に滅ぼせるわよ」
いや、そこはたぶん大丈夫だ。
あの魔族の本能は、かなり善に近いものだから。
強いて言うのなら、やはりガシャ沼に沈んでしまっているところか。
やっぱり、本能のままにガシャを回すな。むしろ、魔力が溢れるから無限に回せると喜ぶかもしれない。
「でも、何度も言うけどアタシは敵だからね?」
「わかっているさ。ちゃんと、殺すから大丈夫」
「なら良いわ。アタシは、この国のために今後も勇者であり続ける。あんたも、今後もずっと魔王軍でしょ?」
「そうだな。それは変わらない」
それだけ強い意志で、テイランという国を想っているんだろうな。
俺が地底魔界やフィオナ様を大切にしているのと変わらない。
だからこそ、この勇者とは最後は戦うしかないこともよくわかる。
「なあテンユウ」
「あら、なにかしら?」
「地底魔界は平和だぞ。争いもないし、人類も満足して毎日生活している」
「でしょうねえ。なんせ、うちの子たちが、あんたの作った施設に全員とられちゃったからね!」
「それはすまないけど、なら、テイラン全員でうちに移住するとかは」
「駄目よ」
やっぱりな。こちらも駄目元での提案だ。
彼の意志は固い。女神のためではなく、テイランという国のためなので、切り崩しようもない。
「虚無の種子の中や、アタシが全力で用意した地の利を生かした空間で、ようやく仲良くできるくらいなんだから、女神の目はそう簡単にはごまかせないの」
「やっぱり、あいつが問題か」
「それに、もしも女神がいなくても、やっぱりアタシはあんたたちの庇護下には入らなかったと思うわ」
「魔族は信用できないか?」
「大きすぎる組織が、全てを支配するのが問題ね。仮にあんたたちが世界中を支配して、平和な世界を築いたとしましょうか。もしもある日、誤った道を進んだら誰が指摘できるの? 誰が止められるの?」
たしかに、それじゃあ対等な関係じゃないよなあ。
テイランを移住させたとしても、単に魔王軍の配下にするようなものだし。
「対抗できる組織や国が必要ってことか」
「ま、あんたたちの魔王強すぎて、今でも対抗できるか微妙だけどね~。だからこそ、勇者であるアタシは人類を裏切らない。裏切れないの」
女神を除外した場合、魔王軍の最大の敵が勇者だもんな。
それらが裏切った場合、人類は絶望するかもしれない。
魔王軍に支配されて平和に暮らせる者はいいが、それに適合できない場合逃げ場もない。
それら全てを救わないといけないのか。勇者って、本当に貧乏くじだなあ……。