【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第508話 勇者の役割

「テラペイア先生! ランゲツさんの症状完治しました!」

 

「テンユウに引き渡して、次の患者の対応をしろ」

 

「ルトラ様! 万能薬の成分強化完了しました!」

 

「では、テラペイアたちに連絡を。すぐに、次の患者を浸けてしまいましょう」

 

 大騒ぎだなあ。

 テラペイアチームとルトラチームが、ひっきりなしにやってくる患者を次々と治療している。

 テイランにはびこる病とやらに、快復の湯が効くかどうか不安はあったが、この様子だとそこは問題ではなさそうだ。

 

 それにしても、不治の病と聞いて動くこともできない重病人を想像していたが、どうやらそういうわけでもない。

 彼ら彼女らは、しっかりと自分の足で歩くことができているし、重症とは程遠い姿に見えた。

 

「驚いた?」

 

「テンユウ」

 

 テラペイアやルトラと違い、俺のように若干手隙になっているためか、テンユウに話しかけられる。

 先ほど治療したグループを、また別の場所に移動させたため、どうやら彼もそこまで忙しいわけでもないらしい。

 

「思っていたよりも元気そうでしょ? うちの国民たち」

 

「ああ、もっと見るからに危険な状態なのかと思っていた」

 

「でも、たしかに不治の病なのよ。世界を滅ぼすほどのね」

 

 テンユウの表情は、真剣そのものであり、今も患者たちの様子をそわそわと気にしている。

 俺には、あれがそんな恐ろしい状態には見えないが、テンユウには違うものが見えているのだろう。

 

「テラペイアから聞いたよ。テイランの人たちって、魔力が溢れすぎているんだって?」

 

「そうね。自分の許容量を超えて、魔力がどんどん溜まっちゃうの」

 

「それだけ聞くと、むしろパワーアップしているって感じだけどな」

 

 まるで、フィオナ様が前々から求めている、魔力一万にもなれる夢のような症状じゃないか。

 だが、この表情を見るに、そんな甘い話ではない。

 

「アタシやアタシの従者みたいに、魔力の操作が長けているのであれば、問題ないんだけどねえ」

 

「国民は、そうでもないか」

 

「ええ。体内にあふれる魔力に蝕まれて、第一段階では体温が上昇し、体がだるくなる」

 

 風邪みたいな感じだな。

 現に、今治療している患者たちは、自分一人で歩ける程度には元気だし。

 

「第二段階では、体内の魔力が暴走する。あなたのいうパワーアップっていうのも、あながち間違いじゃないわね」

 

「魔力のおかげで、強化されるってことでいいのか?」

 

「ええ。それぞれが得意分野における強化をされるわ。ピルカヤみたいに火が得意なら、火力や持続時間が上がるでしょうね」

 

 そこまで聞くと、やはり良いことのほうが大きく思える。

 ということは、その先の症状が問題ってことなのかもしれない。

 

「そして、第三段階。魔力に精神と肉体を支配される」

 

 なんか、一気にきな臭い話になってきたじゃないか。

 テンユウ自身も、事の重大さを理解しているためか、その表情は彼らしからぬ余裕のないものだった。

 

「支配とはおだやかじゃないな」

 

「まったくもってそのとおり。この症状は、生きる魔力でもある精霊たちにさえ効果があるもの」

 

「ピルカヤやルトラにも?」

 

「ええ、きっとあらゆる種族に感染するわね」

 

 そもそもピルカヤやルトラが、魔力そのものだったことにも驚いているが、感染した結果どうなるというんだろう。

 

「蓄えすぎた魔力は、本能のままに行動させてしまう。獣人ならひたすら戦闘を求め、精霊だったら自由奔放の大暴れでしょうね」

 

「理性がなくなるってことか?」

 

「そうね。それに加えて、破壊衝動と種族ごとの特性が強化されるってところかしら?」

 

「人間や魔族の場合は?」

 

「人間の場合、アタシみたいなのなら、好き放題魔法の実験かしらね。魔族の場合、あんたみたいなのは……モンスターを大量に作って好き放題暴れさせるとか?」

 

 なるほど、なんとなく想像がつく。

 であればフィオナ様の場合……。無限にガシャを回しては外す、悲しい生き物になりそうだ。

 

「テイランの人たちが、そうなったってことか?」

 

「一部はね。テイランの場合、攻撃性が増して周囲の者を襲ったり、魔法をところかまわず撃って破壊したり、そんな患者が出ていたわ」

 

 過去形……。すでにその者たちが、治っているというのならいいが、そうじゃないんだろうな。

 治っているのなら、わざわざ魔王軍に助けを求めない。

 取り押さえているのなら、真っ先に治療しているはずだ。

 そのどちらでもないのなら、もうこの世には……。

 

「第三段階の患者は放置できなかった。まったく、勇者なんて名前ばかり、自分の国の者を手にかけるなんて、ほんと嫌になるわ」

 

 そう呟いたテンユウの表情は、後悔に満ちていた。

 勇者として、国への被害を最小限にするために、仕方がなかったのだろう。

 そして、その行為が勇者として矛盾していると、今も彼自身の傷となっているのかもしれない。

 

「だから、あんたたちには感謝してるの」

 

「たしかに、これが世界中に蔓延したら、うちも危険だったんだろうな。大暴れするピルカヤとか、地底魔界ごと焼かれそうだし」

 

「魔王に感染しただけでも、わりと世界の終わりよねえ。あの力なら、地底も地上も簡単に滅ぼせるわよ」

 

 いや、そこはたぶん大丈夫だ。

 あの魔族の本能は、かなり善に近いものだから。

 強いて言うのなら、やはりガシャ沼に沈んでしまっているところか。

 やっぱり、本能のままにガシャを回すな。むしろ、魔力が溢れるから無限に回せると喜ぶかもしれない。

 

「でも、何度も言うけどアタシは敵だからね?」

 

「わかっているさ。ちゃんと、殺すから大丈夫」

 

「なら良いわ。アタシは、この国のために今後も勇者であり続ける。あんたも、今後もずっと魔王軍でしょ?」

 

「そうだな。それは変わらない」

 

 それだけ強い意志で、テイランという国を想っているんだろうな。

 俺が地底魔界やフィオナ様を大切にしているのと変わらない。

 だからこそ、この勇者とは最後は戦うしかないこともよくわかる。

 

「なあテンユウ」

 

「あら、なにかしら?」

 

「地底魔界は平和だぞ。争いもないし、人類も満足して毎日生活している」

 

「でしょうねえ。なんせ、うちの子たちが、あんたの作った施設に全員とられちゃったからね!」

 

「それはすまないけど、なら、テイラン全員でうちに移住するとかは」

 

「駄目よ」

 

 やっぱりな。こちらも駄目元での提案だ。

 彼の意志は固い。女神のためではなく、テイランという国のためなので、切り崩しようもない。

 

「虚無の種子の中や、アタシが全力で用意した地の利を生かした空間で、ようやく仲良くできるくらいなんだから、女神の目はそう簡単にはごまかせないの」

 

「やっぱり、あいつが問題か」

 

「それに、もしも女神がいなくても、やっぱりアタシはあんたたちの庇護下には入らなかったと思うわ」

 

「魔族は信用できないか?」

 

「大きすぎる組織が、全てを支配するのが問題ね。仮にあんたたちが世界中を支配して、平和な世界を築いたとしましょうか。もしもある日、誤った道を進んだら誰が指摘できるの? 誰が止められるの?」

 

 たしかに、それじゃあ対等な関係じゃないよなあ。

 テイランを移住させたとしても、単に魔王軍の配下にするようなものだし。

 

「対抗できる組織や国が必要ってことか」

 

「ま、あんたたちの魔王強すぎて、今でも対抗できるか微妙だけどね~。だからこそ、勇者であるアタシは人類を裏切らない。裏切れないの」

 

 女神を除外した場合、魔王軍の最大の敵が勇者だもんな。

 それらが裏切った場合、人類は絶望するかもしれない。

 魔王軍に支配されて平和に暮らせる者はいいが、それに適合できない場合逃げ場もない。

 それら全てを救わないといけないのか。勇者って、本当に貧乏くじだなあ……。

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