【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「あら、終わったみたいね。本当にとんでもないわあ。快復の湯」
「テラペイアやルトラたちがいないと、ここまでの効果は無いけどな」
「でも、この温泉を気軽に作れるのも大概よ」
一度メニューに登録されたら、あとは簡単だからな。
俺は魔力を消費して、指を動かすことしかしていない。
完治した患者の移動さえも、テンユウに任せきりだ。
まあ、こちらは姿を見られるわけにはいかないし、こればかりはどうしようもないのだけど。
完治した患者を先導しに行くテンユウの背を見ながら、こちらはこちらで次の準備を進める。
「テラペイア、ルトラ。快復の湯は足りているか?」
「そうですね。いくつかは、作り直していただいたほうがよろしいかと」
「よし、案内してくれ」
さすがに短時間に連続して使用しすぎているためか、あるいは魔力に関する病のためか、快復の湯は何度か使用したら効力が薄れているらしい。
世良に管理してもらっている快復の湯は、こんなことがなかったが、今回は作り直しも必要ということだ。
やはり、俺もこちらに出向いていて正解だったな。
そう思いながら、ルトラの案内に導かれ進もうとしたところ、背後から焦りを隠さない声が聞こえた。
「どういうこと!?」
テンユウの声だな。
あの感じからすると、なにか想定外の問題が発生しているらしい。
「不測の事態らしいな」
「ああ、とりあえずテンユウが来るのを待とう」
こちらに駆けてくる音が洞窟内に響く。
その焦りが伝わるような音に、なんとも嫌な予感だけが募っていく。
「ごめんね。ちょっと、問題発生よ!」
「何があった?」
息を切らしながら駆け込んできたテンユウは、息を整えることもなく俺たちに事情を説明する。
要するに、それほど切羽詰まっている状況ということだ。
「戻ってるの。たしかに完治したはずの病が、またもとに戻っている……」
「治しきれなかった……。とかではないんだよな?」
俺の言葉に、テラペイアもルトラも、そしてテンユウも頷いた。
そうだよな。この三人が完治したと診断した以上、病はたしかに治っているのだろう。
ということは……。
「また感染したってことか」
「そう……なるわね」
テンユウは、目を細め悔しそうな表情に顔をゆがめる。
当然だ。長らく悩んでいた病が治ったと思ったら、再び発症してしまったのだから。
「まだ完治していない者たちから感染したか?」
「いえ、しっかりと隔離してあるから、そんなヘマはしていないわ」
「となると、テイランの土地そのものが、その病の温床となっている……?」
だとしたらかなりまずいな。
下手したら、俺たちさえもこうしている間にも感染している可能性がある。
フィオナ様は大丈夫なのか?
「それもしっかりと調べてあるわ。この場所が安全なことは検証済み。現に、あなたたちも無事でしょ?」
「まあ、そのとおりだな。私たちの身体は、健康そのものだ」
ということは、感染するはずがないのに、病がぶり返しているということだ。
原因がわからない。一度完全に治療したし、どこからも感染しないはずなのに、なぜ再び病に苦しむことになっているんだ。
「どこかに、病を引き起こす転生者でも潜んでいるのか?」
「厄介だな。テイランではピルカヤの目が使いにくい。隠れるにはうってつけだ」
「そんなに甘くないわよ。うちの国は。ピルカヤほどでないにしても、侵入者の対策と監視はできている。だから言わせてもらうけど、うちにそんな転生者は潜んでいないわ」
その線も可能性は低いか……。
テイランの外から力を使っている? たしか、前にうちに侵入した転生者は、遠隔から病を発生させていたからな。
「ピルカヤ、念の為にテイランの外から病を拡げている者がいないか、探ってみてくれ」
「りょうか~い」
指示を出すと、ピルカヤはすぐに分体を作り出してくれた。
これで敵を見つけられるなら良いのだが、なぜテイランを狙うんだ?
「テンユウ。患者の症状は? 再び罹患した者たちのほうが、症状が重いというのであれば、優先順位は変える必要があるぞ」
「ええ、だけどそれは大丈夫。治療前は、他の病との合併症で悪性へと変異していた。でも、今は元通り。病は患っているけれど、日常生活は送れるわ」
つまり、テイランの国民たちが、元から抱えていた病の症状と同じということか。
至急対応しなければならないわけではないが、結局のところ病と付き合いながら生きることになる。
「……とりあえず、残りの患者の対応を優先してもらえるかしら? あと少しだもの……」
そう判断したテンユウは、疲れたように見えた。
当然だ。完全に治ると思っていたが、また振り出しに戻っただけなのだから。
テラペイアとルトラは、その言葉に反論はないらしく、彼の言葉通りに患者を優先することにしたようだ。
「まいったなあ……。治せないじゃなくて、治しても再発する病とは」
「それでも、症状が悪化する前までには戻ったから、だいぶマシだけどね」
国民全員の病が悪化し、それらが外部に流出しかけていたという問題自体は解決しそうだ。
しかし、どうにもすっきりしない終わり方になりそうだな……。
◇
そうして妥協したままの治療を続け、ひとまず全ての患者を治療することができた。
だが、全員が病を再発させてしまった。
ふりだしか……。そう気落ちする俺の肩に手を置き、テンユウは穏やかな表情で口を開く。
「たしかにゼロには戻ったわ。でも、マイナスではない。あんたたちがいなかったら、マイナスのまま滅びていた。だから、そんな顔しないで」
「悪いな。根本から治療できるのが一番だったのに」
「ほんと、敵ながら心配になるわねえ。適当に治療して、滅ぼすくらいでいいのよ。あんたたちの立場ならね」
うちに被害はなくなっただろうし、人類がここから滅ぶこともないだろう。
そういう意味では、今回は大成功といえるのかもしれない。
だけど、快復の湯で治療できない事実が気持ちが悪い。
治療できないというのも少し違うな。治療したのに、再び発症だから、もうわけがわからない。
「さ、これでアタシたちは敵同士。気を付けて帰りなさい。もてなしもできなくて悪いけどね」
「ああ、そっちも……」
元気でというのも違うか。
病はまだ治っていない、そして今後は敵同士。
だから、ここでの馴れ合いはおしまいで、むしろ忘れるべきなのだろう。
「次は殺すからな」
「ええ、楽しみにしてるわ」
握手はしなかった。
だからだろうか、テンユウは満足そうに微笑み俺を見送る。
テラペイアとルトラは部下たちを指揮するため、先に進んでもらっている。
あとは、俺とピルカヤの二人が撤収すれば、テンユウとの関係も終わりとなる。
「じゃあ行こっか。レイ、先進んでね。ボクが護衛してあげるからさ」
「ああ、悪いなピルカヤ」
念のため警戒してくれているらしく、ピルカヤはテンユウと俺の間に降り立って、先に進むよう手を動かした。
腑に落ちない点はあるが、一応目的は達した。
あとでみんなと考察するとはいえ、ここでできることはもう何もない。
改めて振り返ると、患者もいなくなり、快復の湯が並んだだけの広々とした空間だけが残っている。
この温泉を消去したら帰るか。
そうして見渡していた視線の中で、俺の目には映し出されてしまった。
テンユウの攻撃を無防備に受けるピルカヤの姿が……。