【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第510話 死の神話

「なんの……つもりかな?」

 

「何って、倒そうとしているだけよ? あんたは魔王軍でそれも四天王。アタシは勇者。何か不思議?」

 

 不思議ではない。

 だけど、まさかここで仕掛けてくるとは……。

 再三の忠告が脳裏によぎる。

 テンユウは、自分たちは敵だと言い続けていた。

 なら、これはこちらが油断しすぎていたということか。

 良いだろう。それならやってやる。

 

「マグマ温泉作成」

 

 こっちの戦力はピルカヤ一人。

 ならば、俺は彼の強みを最大限まで引き出す戦場を作り出すべきだ。

 指で操作しながら、声に出しながら、快復の湯に紛れさせて大量のマグマ温泉を作成する。

 これら全てがピルカヤの力になるのなら、テンユウもさすがに苦戦するだろう。

 その証拠に、彼は焦ったような嫌そうな表情で、こちらに目を向ける。

 

「よそ見してる余裕あるのかなぁ!?」

 

 しかし、すぐに顔を逸らすと、ピルカヤの攻撃を受け止めていた。

 よし、前衛はピルカヤ。後衛は俺だ。

 互いの役割をしっかりこなせば、勇者相手でも渡り合える。

 

「効かないわよ。そんな攻撃」

 

 テンユウがあっさりと炎の支配権を奪う。

 ピルカヤに反逆したかのように、燃え上がる火球の数々は彼自身へと殺到した。

 

「ボクにも効かないんだよね~。炎は得意だから」

 

「どうかしら? それは、ただの炎ならの話でしょ?」

 

 不敵に笑うピルカヤを見ながら、テンユウも余裕そうな表情で口角を上げた。

 ……何かされたのか? ピルカヤのほうを見ると、彼は動きがピタッと止まっていた。

 

『レイ! 動かないで!』

 

「動くんじゃないわよ」

 

 思わず駆け寄ろうとするも、残っていた火球が俺を狙う。

 威嚇なのか、こちらにまで狙いを絞る余裕がなかったのか、火球は全て足元に直撃したが、俺に当たっていたらただでは済まなかっただろうな……。

 

「さて、今度はちゃんと殺してあげる。さようなら、四天王」

 

 ピルカヤは、まだ動けないのか?

 なら壁を作成して……。

 

『レイ、転移温泉作って』

 

 転移温泉? マグマ温泉じゃなくて?

 いや、何か考えあってのことだろう。迷ってる暇があったらすぐに作ってしまえ。

 

「転移温泉」

 

 とりあえず、ピルカヤとテンユウの間に作成したが、これでどうなるっていうんだ?

 逃げるってことでいいのか?

 こちらの不可解な行動に、テンユウも本気になったのか、あいつの発した魔力は俺でも理解できるほどに強大になっている。

 

「じゃあね。次は魔王よ」

 

 そうして、ピルカヤはテンユウが操る魔力に呑み込まれ、そのまま消滅した。

 

    ◇

 

 ……まずいな。ピルカヤの声が聞こえない。

 そしてテンユウは未だ健在。ゆっくりとこちらに向かって歩みを進め……止まった?

 こちらに手のひらを向けて、攻撃しようということか?

 なら、その前にメニューを……。

 

 そう判断し指を動かそうとした瞬間、俺はその場から動けなくなった。

 テンユウが何かをしたわけではない。

 あまりにも不快で、それでいて危険な存在を近くに感じたからだ。

 

「見事ですね。テンユウ。四天王をこうも簡単に殺すとは」

 

「ま、アタシも勇者ですもの。四天王相手にいつまでも足踏みなんてしていられないわ」

 

 この声は……。

 

「その勢いで、ぜひとも魔王も殺してほしいものです」

 

「まだ無理ねぇ……。あの魔王強すぎるわ。もっと力をくれないかしら? 女(・)神(・)様(・)」

 

 女神……。

 ここは、女神にバレないって話だったはずじゃないのか……?

 まさか、そこから騙されていた?

 テンユウのほうを見ると、まるでこちらを制するように手のひらを向けたままだった。

 

「それで、女神様が何の用かしら? こんな辺鄙な場所に来るなんて珍しい」

 

「本来ならば、この世界のことはあなた方に任せるつもりでしたが、気になることがありましてね」

 

 ……俺たちのことか? いよいよ、女神に魔王軍のことがばれた……?

 さすがに女神はまずい。それがよく理解できてしまう。

 こうして近くにいるだけで、あいつの理不尽な強さが伝わってくる。

 フィオナ様でさえ、太刀打ちできないという意味がよく理解できた。

 こいつ、強さの次元が違いすぎるんだ。

 

「あなたがこそこそと隠れて、何をしていたかと思えば、テイランの国民を治療していたのですね」

 

「ええ。だってアタシはテイランの勇者だもの。国民のため、粉骨砕身でがんばってるなんて、健気な勇者よねえ」

 

「それを私に気付かれないように隠していたということは、あなたも薄々気付いているのではないですか?」

 

 女神がついにこちらに視線を向けてきた……。

 よし、いったん死のう。ここで自爆してしまえば、魔王軍の情報は得られないかもしれない。

 興味を持たれないかもしれない。すぐに……。

 なんだ? テンユウが口を開いて何かを……。動くなってことか?

 

「特にその一角。随分と厳重に、秘匿されていますね。私にも隠したい大事な物が、そこにあるんですか?」

 

「まあねぇ。勇者と言っても人間だもの。乙女に秘密の一つや二つはつきものでしょ?」

 

「……まあ、良いでしょう。私はあなた方人間に、別に興味ありませんし」

 

「そうよねぇ。だから聞いてるの。そんな女神様が、どうしてわざわざこんな場所へ?」

 

 ……気付いていない?

 いや、テンユウが最初に言ったとおり、この場所は女神でさえ見えないようになっている?

 それも、今の話からすると、その効力を解除したというのに、俺の周囲だけより強い力で覆われていて、いまだに女神には見えていないのか?

 

「そうでした。テンユウ、あなたにはテイランの病を治療することを禁じます」

 

「っ! ど、どうしてかしら?」

 

「無意味だからですよ。その病、いくら治しても再発するようになっていますから。そんな無駄なことに時間をかけるくらいなら、魔王をさっさと倒してください」

 

「……まるで、あなたがそうしているように聞こえるわねえ」

 

「そうですか? まあ、どう思おうが興味はありません。あなたの役割は魔王討伐。それ以外に熱中するのはいただけませんね」

 

 テイランの病は再発するようになっている……?

 もしかして、この女神が……。

 あるいは、そういう設定だから?

 病に侵された国テイラン。その設定は覆らないということなのか?

 

「はあ……。わかったわ。女神様の忠告だもんね。聞いたほうがいいんでしょ?」

 

「わかってくれましたか。では、その無駄な温泉は、すべて消滅させますね」

 

 一瞬で、快復の湯もマグマ温泉も、そして転移温泉までもが霧散した。

 ……やろうと思えば俺も同じことはできる。

 だけど、なんだか恐ろしい力の一端を見た気がしてならない。

 

「それでは、期待していますよ。勇者テンユウ」

 

「ええ。気長に待っててちょうだい」

 

 そう言い残すと、女神はあっさりとこの場から姿を消した。

 あまりにも自然に、あまりにもあっさりと消えたため、いっそ罠なのかと疑ってしまう。

 だが、そんな俺を見て口を開いたテンユウから、やつが本当に去ったことはわかった。

 

「……はぁ。もういいわよ。悪かったわね」

 

「説明、してもらえるか?」

 

 思っていた以上に緊張していたのか、体から力が抜けるのが分かる。

 それだけ女神という存在が危険だったことでもあり、皮肉にもそれが去った証明でもあった。

 

「魔族との協力なんてバレたらアタシもまずい。だから、女神にバレないようにここを用意した。それは覚えているわよね?」

 

「ああ、現に俺がいる場所は、女神には見えなかったみたいだし」

 

「あの女神、ほとんどのことに興味が無いのが助かるわ。おかげで、あなたは道端の石ころみたいな扱いで、最後まで興味を持たれなかったの」

 

「ああ、なんかわかるかも」

 

 あいつ、俺を転生させるときも途中から無関心だったもんな。

 少しでも異論を唱えようものなら、煩わしそうにしたことは覚えている。

 

「とにかく、そういう結界を張っていたの。だけど、それが何の前触れもなく破壊された。あんたがいた強固な結界以外はね」

 

 ということは、あのとき女神には俺以外が見えていたわけか……。

 

「ピルカヤのこともバレていたってことか?」

 

「そうね。勇者と四天王、仲良く一緒にいるなんてありえないわ」

 

 そりゃあそうだ。そんな姿を見られたら、それこそ勇者と魔王軍が手を組んだと思われても不思議ではない。

 

「だから、ピルカヤを殺したってことか」

 

「全力で戦わないと、さすがに目の前では誤魔化しようもないからね」

 

 だろうな。あいつ性格が最悪ではあるが、神という途方もない存在であることは事実だ。

 その実力は、俺たちの小細工など看破してしまう。

 ……まあ、俺の姿は隠せていたし、わりと対処法もありそうだが。

 

「そうか……。まあ、助かったと言えば助かったのかもな」

 

 ただし、それはピルカヤという犠牲のもとでだ。

 帰ろう。すぐに帰って、ピルカヤを蘇生しよう。

 そう決心した俺に、聞き慣れた声が届いた。

 

『どう? 女神いなくなった~?』

 

 ……あれ、ピルカヤ? 生きてる……のか?

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