【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なんの……つもりかな?」
「何って、倒そうとしているだけよ? あんたは魔王軍でそれも四天王。アタシは勇者。何か不思議?」
不思議ではない。
だけど、まさかここで仕掛けてくるとは……。
再三の忠告が脳裏によぎる。
テンユウは、自分たちは敵だと言い続けていた。
なら、これはこちらが油断しすぎていたということか。
良いだろう。それならやってやる。
「マグマ温泉作成」
こっちの戦力はピルカヤ一人。
ならば、俺は彼の強みを最大限まで引き出す戦場を作り出すべきだ。
指で操作しながら、声に出しながら、快復の湯に紛れさせて大量のマグマ温泉を作成する。
これら全てがピルカヤの力になるのなら、テンユウもさすがに苦戦するだろう。
その証拠に、彼は焦ったような嫌そうな表情で、こちらに目を向ける。
「よそ見してる余裕あるのかなぁ!?」
しかし、すぐに顔を逸らすと、ピルカヤの攻撃を受け止めていた。
よし、前衛はピルカヤ。後衛は俺だ。
互いの役割をしっかりこなせば、勇者相手でも渡り合える。
「効かないわよ。そんな攻撃」
テンユウがあっさりと炎の支配権を奪う。
ピルカヤに反逆したかのように、燃え上がる火球の数々は彼自身へと殺到した。
「ボクにも効かないんだよね~。炎は得意だから」
「どうかしら? それは、ただの炎ならの話でしょ?」
不敵に笑うピルカヤを見ながら、テンユウも余裕そうな表情で口角を上げた。
……何かされたのか? ピルカヤのほうを見ると、彼は動きがピタッと止まっていた。
『レイ! 動かないで!』
「動くんじゃないわよ」
思わず駆け寄ろうとするも、残っていた火球が俺を狙う。
威嚇なのか、こちらにまで狙いを絞る余裕がなかったのか、火球は全て足元に直撃したが、俺に当たっていたらただでは済まなかっただろうな……。
「さて、今度はちゃんと殺してあげる。さようなら、四天王」
ピルカヤは、まだ動けないのか?
なら壁を作成して……。
『レイ、転移温泉作って』
転移温泉? マグマ温泉じゃなくて?
いや、何か考えあってのことだろう。迷ってる暇があったらすぐに作ってしまえ。
「転移温泉」
とりあえず、ピルカヤとテンユウの間に作成したが、これでどうなるっていうんだ?
逃げるってことでいいのか?
こちらの不可解な行動に、テンユウも本気になったのか、あいつの発した魔力は俺でも理解できるほどに強大になっている。
「じゃあね。次は魔王よ」
そうして、ピルカヤはテンユウが操る魔力に呑み込まれ、そのまま消滅した。
◇
……まずいな。ピルカヤの声が聞こえない。
そしてテンユウは未だ健在。ゆっくりとこちらに向かって歩みを進め……止まった?
こちらに手のひらを向けて、攻撃しようということか?
なら、その前にメニューを……。
そう判断し指を動かそうとした瞬間、俺はその場から動けなくなった。
テンユウが何かをしたわけではない。
あまりにも不快で、それでいて危険な存在を近くに感じたからだ。
「見事ですね。テンユウ。四天王をこうも簡単に殺すとは」
「ま、アタシも勇者ですもの。四天王相手にいつまでも足踏みなんてしていられないわ」
この声は……。
「その勢いで、ぜひとも魔王も殺してほしいものです」
「まだ無理ねぇ……。あの魔王強すぎるわ。もっと力をくれないかしら?
女神……。
ここは、女神にバレないって話だったはずじゃないのか……?
まさか、そこから騙されていた?
テンユウのほうを見ると、まるでこちらを制するように手のひらを向けたままだった。
「それで、女神様が何の用かしら? こんな辺鄙な場所に来るなんて珍しい」
「本来ならば、この世界のことはあなた方に任せるつもりでしたが、気になることがありましてね」
……俺たちのことか? いよいよ、女神に魔王軍のことがばれた……?
さすがに女神はまずい。それがよく理解できてしまう。
こうして近くにいるだけで、あいつの理不尽な強さが伝わってくる。
フィオナ様でさえ、太刀打ちできないという意味がよく理解できた。
こいつ、強さの次元が違いすぎるんだ。
「あなたがこそこそと隠れて、何をしていたかと思えば、テイランの国民を治療していたのですね」
「ええ。だってアタシはテイランの勇者だもの。国民のため、粉骨砕身でがんばってるなんて、健気な勇者よねえ」
「それを私に気付かれないように隠していたということは、あなたも薄々気付いているのではないですか?」
女神がついにこちらに視線を向けてきた……。
よし、いったん死のう。ここで自爆してしまえば、魔王軍の情報は得られないかもしれない。
興味を持たれないかもしれない。すぐに……。
なんだ? テンユウが口を開いて何かを……。動くなってことか?
「特にその一角。随分と厳重に、秘匿されていますね。私にも隠したい大事な物が、そこにあるんですか?」
「まあねぇ。勇者と言っても人間だもの。乙女に秘密の一つや二つはつきものでしょ?」
「……まあ、良いでしょう。私はあなた方人間に、別に興味ありませんし」
「そうよねぇ。だから聞いてるの。そんな女神様が、どうしてわざわざこんな場所へ?」
……気付いていない?
いや、テンユウが最初に言ったとおり、この場所は女神でさえ見えないようになっている?
それも、今の話からすると、その効力を解除したというのに、俺の周囲だけより強い力で覆われていて、いまだに女神には見えていないのか?
「そうでした。テンユウ、あなたにはテイランの病を治療することを禁じます」
「っ! ど、どうしてかしら?」
「無意味だからですよ。その病、いくら治しても再発するようになっていますから。そんな無駄なことに時間をかけるくらいなら、魔王をさっさと倒してください」
「……まるで、あなたがそうしているように聞こえるわねえ」
「そうですか? まあ、どう思おうが興味はありません。あなたの役割は魔王討伐。それ以外に熱中するのはいただけませんね」
テイランの病は再発するようになっている……?
もしかして、この女神が……。
あるいは、そういう設定だから?
病に侵された国テイラン。その設定は覆らないということなのか?
「はあ……。わかったわ。女神様の忠告だもんね。聞いたほうがいいんでしょ?」
「わかってくれましたか。では、その無駄な温泉は、すべて消滅させますね」
一瞬で、快復の湯もマグマ温泉も、そして転移温泉までもが霧散した。
……やろうと思えば俺も同じことはできる。
だけど、なんだか恐ろしい力の一端を見た気がしてならない。
「それでは、期待していますよ。勇者テンユウ」
「ええ。気長に待っててちょうだい」
そう言い残すと、女神はあっさりとこの場から姿を消した。
あまりにも自然に、あまりにもあっさりと消えたため、いっそ罠なのかと疑ってしまう。
だが、そんな俺を見て口を開いたテンユウから、やつが本当に去ったことはわかった。
「……はぁ。もういいわよ。悪かったわね」
「説明、してもらえるか?」
思っていた以上に緊張していたのか、体から力が抜けるのが分かる。
それだけ女神という存在が危険だったことでもあり、皮肉にもそれが去った証明でもあった。
「魔族との協力なんてバレたらアタシもまずい。だから、女神にバレないようにここを用意した。それは覚えているわよね?」
「ああ、現に俺がいる場所は、女神には見えなかったみたいだし」
「あの女神、ほとんどのことに興味が無いのが助かるわ。おかげで、あなたは道端の石ころみたいな扱いで、最後まで興味を持たれなかったの」
「ああ、なんかわかるかも」
あいつ、俺を転生させるときも途中から無関心だったもんな。
少しでも異論を唱えようものなら、煩わしそうにしたことは覚えている。
「とにかく、そういう結界を張っていたの。だけど、それが何の前触れもなく破壊された。あんたがいた強固な結界以外はね」
ということは、あのとき女神には俺以外が見えていたわけか……。
「ピルカヤのこともバレていたってことか?」
「そうね。勇者と四天王、仲良く一緒にいるなんてありえないわ」
そりゃあそうだ。そんな姿を見られたら、それこそ勇者と魔王軍が手を組んだと思われても不思議ではない。
「だから、ピルカヤを殺したってことか」
「全力で戦わないと、さすがに目の前では誤魔化しようもないからね」
だろうな。あいつ性格が最悪ではあるが、神という途方もない存在であることは事実だ。
その実力は、俺たちの小細工など看破してしまう。
……まあ、俺の姿は隠せていたし、わりと対処法もありそうだが。
「そうか……。まあ、助かったと言えば助かったのかもな」
ただし、それはピルカヤという犠牲のもとでだ。
帰ろう。すぐに帰って、ピルカヤを蘇生しよう。
そう決心した俺に、聞き慣れた声が届いた。
『どう? 女神いなくなった~?』
……あれ、ピルカヤ? 生きてる……のか?