【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「良かった。生きてたんだ……。まったく、心配させないでくれ」
『ボク、優秀だからね~』
「アタシが優秀なのよ」
音の共有ではなく、普通に松明から話かけているため、ピルカヤの声はテンユウにも筒抜けだった。
隠す必要もないということだろう。ピルカヤが無事でもまるで動じていないところを見るに、テンユウが何かしてくれたみたいだからな。
『まあ、君が最初の攻撃ついでに、ボクに女神がいることを知らせたのはたしかだけど。その後の機転はボクの手柄だもん』
「そうねえ。正直なところ、女神に存在をばれていないレイはともかく、ピルカヤは本気で殺すつもりだったんだけど。どうやったのかしら?」
『レイに転移温泉作ってもらって本体は逃げた。君が倒したのは、ボクの分体ってわけ』
なるほど。それで急に転移温泉を作成してくれと頼んだのか。
すっかり本体のピルカヤがテンユウに殺されたのかと思ったが、あれは単なる分体だったようだ。
なんの相談もなしに、急に目の前で死なれたものだから、さすがにこちらも気付かなかったぞ。
『時間がなかったし、あの女が近くにいたから相談はできなかったけど、レイがすぐに動いてくれて助かったよ』
よくわからなかったけど、あの状況でピルカヤが俺に頼んだものだからな。
無駄なことはないだろうし、何も考えずに作るくらいわけない。
そもそも、俺ってとりあえず作ってから考えるスタンスだし。
「転移……温泉?」
……あれ? テンユウが若干引いてる。
これって、もしかしたら勇者にばらしたら、まずかったんじゃないのか?
「よし、戻れた。ただいま~」
炎が揺らめき、そこから人の形を作ったかと思うと、俺がよく知っている姿へと変化した。
どうやら、この洞窟内の松明を触媒に、ピルカヤの本体が移ったようだ。
「あれ、どうしたの? あの嫌な女もいなくなったし、そんなふうに頭を抱える理由なんてある?」
「そう……ねえ。え、転移温泉? なあにそれ。そんなもん作れるの? この宰相様」
作れます。
ただ、転移先は相変わらずランダムなので、ピルカヤみたいにどこにいても帰ってこられないと、仲間には使えない。
ならば侵入者に使うかというと、こちらはこちらでランダムに転移という使い勝手の悪さを考えると、あまりよろしくない。
「えぇ……。ただでさえ、魔王って厄介なのに、裏にこんな宰相がいたの? いやあねえ……」
勇者であるテンユウが、疲れたような声を出す程度には有効ってことか。
だけど、それならここでばらしてしまうのは、もったいなかったかもしれないな。
もちろん、ピルカヤが死ぬことに比べたら、罠の一つがテンユウにばれる程度どうってことはないけれど。
そう割り切ってしまっていると、テンユウはふとピルカヤに鋭い目を向けた。
……戦闘に発展するってわけではなさそうだけど、なんか真剣な表情だな。
「あんた……わざと、転移温泉の説明したでしょ」
「あれぇ? ばれちゃった~?」
どういうことだ?
単に、女神の目をごまかすために、転移温泉と分体を使って死んだふりをしたんじゃないのか?
「そうよねえ……。今回の件で得た魔王軍の情報は、口外できない誓約だもんねえ」
「だねぇ。色々知っちゃったみたいだけど、君、それを仲間に話せないねぇ」
「今後も、転移温泉のこともレイのやばさも、アタシは仲間に伝える術がないってことね」
たしかに、そういう取り決めだな。
だからピルカヤは、あえて余分に情報を与えたのか。
どうせばれるのなら、今のうちのほうがこちらにとっても都合が良い。
今ならテンユウは、知りえた情報を共有できず、自身の中に抱えるしかできないのだから。
なるほどなあ。そこまで考えていたってことか。
「ほんと、抜け目ないわよねえ。ま、それを改めて確認できただけでもよしとしましょ」
「ボク優秀だから」
「まったくよ。じゃあ、今度こそ気を付けて帰りなさいな。そうねえ……。次は、殺しに行くから」
「ああ、返り討ちにするよ。じゃあな。テンユウ」
これで今度こそテイランの騒動は解決か。
いや、解決ではなく、振出しに戻っただけか。
なんとも腑に落ちないというか、釈然としない結末ではあるが、これ以上は望めない。
ほがらかに手を振るテンユウの見送りを背に、俺たちは互いの日常へと戻っていった。
◇
「無事ですか!」
「はい、無事です」
テンユウから離れて進んだ道の先。
まだ地底魔界とも呼べない場所で、フィオナ様が勢いよく抱き着いてきた。
あれ? 先に戻っていてもらうように言ったのに、律義にも待っていてくれたのか?
フィオナ様だけでなく、四天王たちもテラペイアとルトラもいるな。
「どうしたの? なんか忘れ物?」
「いや、あの女神のやつが降臨しただろ? おじさんたち、玉砕覚悟で挑もうとする魔王様止めるのに必死だったんだよ」
「レイ様とピルカヤ様であれば、うまく対処してくれるとは思いましたし、実際にお二人が無事なことはわかっていましたが、さすがに女神相手となると魔王様もご心配されていたようでして」
「さすがはレイ殿とピルカヤだな。女神相手に、うまく切り抜けられるとは」
ああ、それで。
たしかに、テンユウが機転を利かせてくれなかったら、女神に発見されて殺されていたかもしれないな。
みんなもそう思っていたから、ここで様子を伺ってくれていたのか。
そして万が一俺たちが傷つけられていたら、そのまま戦いを挑んでくれていたのかもしれない。
あの、勝ち目が一切見えない理不尽な存在に……。
「あの女に変なことされてませんね?」
「大丈夫なので、やたらと色々とまさぐらないでください」
そういうのは、俺が女性になっているときでお願いします。
今やられると……こっちも、色々と変な気分になってしまうので。
「あ、そうだ。テラペイアとルトラ」
「なにかね?」
「テイランの病が治っていない原因。もしかして、女神が関係していないか」
「女神……ですか」
二人とも、揃って様々な方面から可能性を模索しているようだ。
立ち止まって周囲を気にせずに考え始める。
「そもそも女神がやってきた理由は、テイランの病を治療したかららしい。それに、どうせ治しても再発するから無意味なことはするなとも言っていたな」
「それは、ほぼ答えなのでは?」
「ええ、ですがそれなら、あの不自然な病の再発にも納得できます」
だよなあ。完治はしていたんだ。確実に。
それなのに、あんなにも不自然に同じ病に罹患するということは、やっぱり女神がテイランの国民を病で苦しませているのだろう。
理由は……? 俺たち魔族ならともかく、勇者という女神の優秀な駒がいる国なのに?
もしかして、テンユウをそれで縛り付けようとしているのか? だとしたら、ますますもってテンユウとは敵対するしかないんだろうなあ……。
「あいつのやりそうなことですね」
「フィオナ様、心当たりが?」
「いくらでもありますよ。魔族の扱いもそうですし、迫害種だってそう。あいつは、この世界の平穏なんて望んでいないのですから」
「もしかして、何か理由も知っていたりしますか?」
「それはわからないんですよねえ……。単に、自分の支配下の世界の者たちが苦しんでいるのを見て、楽しんでいるだけなのかもしれません」
最悪じゃないか。趣味が悪いのもほどがある。
しかも、あいつ普段はこの世界を気に留めてもいないんだろう?
たまに見たときに、苦しんでいる者がいればそれでいいってことか?
そのために、テイランの国民のように恒久的に苦しむように、設定が付与されている?
「最悪ですね……」
「ろくなもんじゃありませんよ。神なんて」
フィオナ様のその言葉に、反論するものなど一人もいなかった。
改めて、あいつにだけは見つかったら駄目だな。
もしも俺たちが地底魔界で楽しく暮らしているなんてわかったら、全てをぶち壊しにきそうだ……。