【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「女神が決めたせいで、病のままか……」
「なんだか、理不尽な話ですよねえ……」
「神様なのにひどい!」
風間と時任だけでなく、俺と同じ転生者組はみんな少なからず悪い印象を抱いている。
そりゃあそうだ。いくら神でも、あまりにも身勝手すぎるじゃないか。
俺たちを、勝手にこちらの世界に送ったときもそうだけど、こちらの意思などまるで関係ないと言わんばかりの暴挙だ。
だが、そう思っているのは俺たちだけのようで、魔王軍の他の面々はなんだか大して気にも留めていないようだ。
「まあ、あいつのやりそうなことですよねえ」
「私たちも迫害認定されたうえ、それを撤回することもありませんでしたから……」
「この世界で最も力が強いから、好きに生きているのでしょう」
フィオナ様の言葉に、クララもナツラも同意する。
ダークエルフとオーガ、それに昆虫人たちという迫害種たちも、元をただせば女神のせいだ。
だというのに、彼女たちはそれを仕方がないと諦めているようだった。
あの女神に目をつけられたのが不運だった、そう納得しているように見える。
「女神って、いつもこんな感じなんですか?」
「まあ、ろくなやつではないですよね。そして誰も逆らえないのも事実なのです」
実際に近くで見てしまったからわかる。
転生させられたときには気付けなかったが、あいつの強さは次元が違うと感じた。
フィオナ様に初めて会ったときもそうだが、気分一つでこちらの命など簡単に摘み取られることがわかった。
何が恐ろしいって、転生するときはその本性や力がわからなかったところか。
俺のときは途中で化けの皮がはがれていたが、きっと優しい女神様を演じて向こうの世界の人間を何人も送り込んできたのだろう。
どおりで、誰も彼も魔王軍を悪と認識しているはずだ。
あれでも神としての演技はきちんとできているらしい。邪神のくせに。
「俺たちが平和に暮らすためにも、あいつには目をつけられないのが一番ですね」
「ええ。この世界では、どの種族もそれを理解しています」
神のくせに干渉してくるなよ。
まあ、俺たちの存在がいまだにバレていないところをみるに、この世界を監視まではしていないんだろうけど。
テイランのときのように、あいつが決定したことを覆すような真似をすれば出て来るってことか。
例えば、迫害種たちの待遇を改善し、世界中の者たちが彼女たちを対等に扱った場合も、あいつがやってくるのかもしれない。
「フィオナ様が地上を征服しないのも、女神の存在を危惧しているからですか?」
「いえ、だって地上なんて征服してもしょうがないじゃないですか。仕事が増えますよ?」
増えるけど……。そんな理由なのか。
いや、フィオナ様らしいといえばそうなんだけどね。
「というわけで、テイランで働いていたレイには、しっかりと休暇を与えましょう」
「それは、ありがとうございます……?」
「む、休暇をありがたいか疑問に思うとは……。いけませんね。上が休まないと、下も休みませんよ? 私を見習ってください」
たしかに、魔王様は休んでばかりだけど……。
それの効果のほどは疑問を感じてしまう。これだけ休んでいる魔王様の部下のピルカヤがあれだし。
「どうしたの?」
「いや、ピルカヤって休まないなと思って」
「そうですね。ピルカヤもテンユウと一人で戦ったことですし、しっかりと休んでください」
「はぁい……」
なるほど、あれが休暇をありがたいと思わない社畜の姿か。
だが、さすがにフィオナ様直々の命令ということもあり、ピルカヤはきちんと休もうと考えていることだろう。
念のため、あとでリグマにピルカヤを休ませるようお願いしておこう。
◇
「というわけで、レイがしっかりと休むために、今日は一日中私が付き添いましょう。そう! 一日中ずっとです!」
「そんなに強調しなくても、逃げやしませんよ」
しかも、逃がさないように腕に抱きついてくるからなあ。
当たってますよ。俺はこのまま、一日中煩悩と戦わないといけないんですか?
「じゃあ、部屋に戻って一緒にお昼寝を」
「別に良いですけど、いつも通りですねえ」
「む、たしかに……。それはいつでもできますし、それじゃあ地底魔界を見て回りますか」
そっちのほうがいいかな。
一緒に寝るって言っても、どうせ今夜はそうなるだろうし。
日中に眠りすぎると夜眠れなくなる。夜眠れないと、俺の理性がついにはもたなくなる。
だけどそうもいかないから、ダンジョンの効率のことばかりを考えることになる。
結果、アナンタが死ぬ。
「そうですね。アナンタが死なないためにも、一緒にダンジョンを見回りしましょう」
「アナンタに何が起きているんですか!?」
何が起きるというか、これから起きるというか……。
まあ、とにかく一緒に……。いえ、そんな押しつけられると、起きていてもダンジョンのことを考えることになります。
駄目だ。もうアナンタは助からないんだ……。
「アナンタのことは諦めたので、とりあえず二人でみんなががんばっているところを見に行きましょう」
「アナンタ……いったい何が……」
悲痛そうな顔を浮かべる俺とフィオナ様。
まあ、冗談だけどね。それがわかっているからだろう。
フィオナ様と俺は同じタイミングで、つい吹き出すように笑ってしまった。
◇
「あ、魔王様とレイさん。お買い物ですか~?」
「時任たちの仕事ぶりを見に来た」
「上司が仕事を観察しにきた! どうしよう、ハルカちゃん!」
「真面目に仕事すればいいだけでしょ……。ハルカが困ってるから、ちゃんとしなよ。店長」
おろおろする時任。無茶ぶりされておろおろするハルカ。それを呆れた目で見るカーマル。
なんというか、カーマルも苦労人に見えてきた。
リグマの分体、そういう気質なのか? 本体も、口では怠け者だけど、実は仕事を抱え込むタイプだしな。
「うちの店長はこんななんで、適当に見ていってください。魔王様」
「トキトウはいつも賑やかですねえ」
これでちゃんと店員というか店長としての仕事はこなすからな。
もう少ししたら、ここでの従業員たちもやってくるだろうし、彼らにちゃんと指示も出すことだろう。
……今は、なんかガチガチに緊張して動いているけれど。
「回復薬。魔力回復薬はあまりなし。むむ、これは知らないアイテム……?」
棚を物色していたフィオナ様は、装備品らしきもののコーナーで足を止め、目を凝らした。
フィオナ様も知らないアイテムなんて売っていたっけ?
ここの品物って、基本的には魔王ボックスから廃棄したものが並んでいるはずだけど。
「あ、それカールさんに習って風間くんが作った装備品なんですよ」
「なるほど。こうして品物として並んでいるということは、効果もしっかりとしているということですね」
「はい。たしかええと……」
時任がちらっとカーマルに視線を送る。
すると、カーマルは軽い溜息とともに答えてくれた。
「ほんの少しだけですが、肉体が頑丈になるという効果です。気休めに近いですけどね」
すごいな。そんなアイテムを作れるようになっていたとは。
あいつ、わりと多才だよなあ。
「買いますか? あ、いえ、魔王様だからお金はいりませんでした。持って行きますか?」
「いえいえ、ちょっと気になって見ていただけです」
フィオナ様も女の子だもんなあ。
宝箱だけでなく、こういう装飾品にも興味があるのなら何よりだ。
フィオナ様は、しばらくアクセサリー類を見てから、自分の指にはめていた暗影の指輪をそっと手でなでると、満足そうにその場を後にした。
「私には、レイがくれたこれがありますもんね」
そう言いながら、なんだか機嫌がよくなったフィオナ様は、満面の笑みで俺の腕に抱きつくのだった。
……まあ、悪い気はしない。というか、正直なところかなり嬉しい。
それを悟られると冷やかされそうだし、次の現場に向かうとするか。