【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第513話 なんの変哲もない一日

「それで魔王様と朝ごはん食べに来たんですね」

 

「そういうことです。さあマギレマ、レイ成分を多分に含んだ朝食をお願いします!」

 

「あはは、それはレイくんから直接摂取してくださいね~」

 

 マギレマさんは笑いながら厨房へと向かい、フィオナ様が俺の頭を抱きかかえて匂いを嗅ぎはじめた。

 臭くないなら、もうそれも好きにしてもらえばいいですけど、頭を抱きかかえるということは、当たっています。

 なんか今日は、スキンシップ過多ですね。

 このままでは、本当に性別を変更しないと耐えられません。

 

「はい、お待たせしまし……た……。えっと、ごゆっくり~!」

 

「料理ができたみたいですね。さすがはマギレマ、仕事が実に早いです」

 

「絶対、変な勘違いされていましたよね」

 

「何がですか?」

 

 俺の言葉に、フィオナ様はキョトンとした様子で、本当に理解ができないといった表情を浮かべていた。

 ……だよなあ。この魔王様に限って、変なことは考えていない。

 俺はこの方の道具だし、今後もそうあるべきなのだから。

 

「では、ありがたくいただきましょう」

 

「はいはい。いただきます」

 

 手を合わせて、食事と調理してくれたマギレマさんに感謝してから、俺たちは朝食をとることにした。

 ベーコンにスクランブルエッグにサラダ。どれも美味しそうだ。

 

 しかし、同じ注文なのに、なぜフィオナ様とはメニューが違うんだろう?

 向こうは目玉焼きやソーセージといった、こちらとは違う料理が皿の上に並んでいる。

 まあ、気にするほどのことでもないし、冷めないうちに食べるとしよう。

 

「そちらも美味しそうですね」

 

 フォークを口に入れると、向かいに座るフィオナ様からそんな言葉が聞こえてきた。

 気付けば、フィオナ様は手を止めてこちらを見つめている。

 

「……食べます?」

 

「良いんですか? では、少しだけ」

 

 フィオナ様が取りやすいように、俺は皿からフォークを除けた。

 しかし、いつまでたってもこちらの皿に、フィオナ様の手は伸びてこない。

 不思議に思い、フィオナ様のほうを見ると、なぜか目をつむって口を開いていた。

 ……あ、そっちでしたか。

 

「どうぞ」

 

 すぐにフォークで料理を取り、口へと運ぶと、フィオナ様は口を動かし始める。

 やはり、俺に取れということだったようだ。

 相変わらず変なところで魔王だなあ。偉い方だから、この程度のことも俺にやらせたのだろう。

 

「うん、美味しいです」

 

「簡単そうに見えて、他の人の料理より明らかに美味しいんですよね」

 

「そこがマギレマのすごいところですね。あの子、料理に対しては妥協を一切許しませんので」

 

 地底魔界って、得意分野に妥協しない魔族が多いからな。

 俺のダンジョンへの情熱みたいなものだろう。

 そんなことを考えていると、ふと目の前にフォークが差し出されていたことに気づく。

 フォークの先には、温かそうに湯気をたてるソーセージが突き刺されている。

 

「……えっと」

 

 食べろということだろうか。だろうな。

 この状況、さすがにそれ以外は思い浮かばない。

 

「どうぞ。今度はレイの番です」

 

「いいんですか?」

 

「当然です。もらうばかりの魔王ではありませんからね!」

 

 前言を撤回しよう。やはり、魔王らしくない魔王様だ。

 相変わらず部下のことを考え、対等に扱ってくれる方だなあ。

 その厚意を無下にするわけにもいくまい。せっかくなので俺も口を開いた。

 

 ……なるほど、目を瞑る理由がわかった。これ、わりと恥ずかしいな。

 まともにフィオナ様を見ていたら赤面しそうだったので、俺は目を閉じてそれを迎え入れた。

 ……美味しいけど、なんか緊張して味がわからなくなりそうだ。

 

「……こっちも美味しいですね」

 

「でしょう?」

 

「なんで、フィオナ様が得意げなんですか」

 

「マギレマは私の部下ですからね!」

 

 本当に楽しそうに語るものだ。

 あまりにも純真なその姿を見ると、少しでも照れていたことが恥ずかしくなる。

 そう切り替えるとあとは簡単なもので、俺とフィオナ様は交互に食事を食べさせあうのだった。

 

    ◇

 

「こ、こら! 駄目でしょあんたたち。今の魔王様とレイくんを邪魔したら、本気で怒られるからね!」

 

「マギレマ様、耐えてください」

 

「平然と食べさせあっていますね……。さすがは魔王様と宰相様」

 

「プネヴマ様がいなくてよかった……」

 

    ◇

 

「さて、次はカジノ……は、さすがにまだ早いので、魔導映写館か図書室か……」

 

「それなら図書室のほうが良いんじゃないですか? 魔導映写館は、そろそろ開店するので、俺たちが行くと邪魔になりそうですし」

 

「それもそうですね。図書室なら、内部の利用者のみなので、気軽に利用できますからね」

 

 ありがたいことに、魔導映写館も盛況だからな。

 朝一番に開店しても、客はやってくるほどにだ。

 なので、そんなごたごたと忙しい時間帯に、俺たちが向かっては大変だろう。

 

「では、ビブリオンのところに行きましょうか」

 

 フィオナ様も納得したのか、俺たちは図書室へと向かった。

 道中でモンスターたちを見かけると、みんな俺とフィオナ様に頭を下げたりと挨拶してくれる。

 ただ、いつもと違ってあまり近くに来ないな。

 ……隣にフィオナ様がいるから、緊張しているのかもしれない。

 

 そうして、歩いていくと図書室に転移する魔法陣が見えてきた。

 食堂はアルマセグシアと連結しているため、さすがに地底魔界から歩いて向かうのは遠すぎる。

 そのため、テクニティスやクララが設置してくれた転移のための魔法だ。

 ……転移温泉に流用したかったが、この魔法陣光も魔力も目立ちすぎるので、一発でバレるようだ。

 

「残念だな」

 

「え、私がですか?」

 

「いえ、違います。……まあ、フィオナ様もわりと残念ですけど」

 

「違わないじゃないですか!?」

 

 怒るフィオナ様も見て苦笑すると、向こうもすぐに怒った表情をおさめ、笑顔へと変わった。

 残念な姿も好きなので、残念でも別にかまわないんだよな。

 

    ◇

 

「さて、ビブリオンに挨拶を」

 

 転移が完了し、地底魔界の居住区というか、ダンジョンとは無関係の場所へとたどり着く。

 あとは図書室は目と鼻の先だ。

 扉を開けると、かなり広めに作った部屋が目の前に広がり、本特有の匂いが鼻に届く。

 まだかなりスペースはあるので、今後も本を仕入れてこの場所を埋めていきたいな。

 

「おやぁ、魔王様にレイ様。お二人で読書ですか~」

 

「はい、少しお邪魔しますね」

 

「どうぞどうぞ~。お二人なら、本も大切にしてくれますし、静かに楽しんでいただけるので、私は安心して眠っていられます」

 

 それでいいのか司書。

 そう言い終えると、彼女は瞳を閉じて腕を枕代わりにうつ伏せで眠ってしまった。

 猫系だからか、なんだか自由な魔族だなあ。

 

「では、適当に本を選びましょう」

 

 フィオナ様はフィオナ様で、ビブリオンはそれでいいと思っているのか、マイペースに図書室を楽しんでいる。

 ……俺も、適当に本を探すとするか。

 

 そうして本棚を物色すること十数分。

 少し時間がかかってしまったな。いまだに、タイラーやロペスや風間が定期的に仕入れてくれるため、新たな本は増えているので仕方がない。

 俺は手頃な本を手にすると、フィオナ様を探すように周囲を見渡した。

 

 いた。

 利用者が少ないとはいえ、すでに図書室はそれなりに人が入っている。

 各々が好みの本を手にし、テーブルに向かって、椅子に座って読書に没入している。

 そんな中、彼女がひときわ目を引くのは、やはりその美しさによるものだろう。

 

 近づいて、向かいの席に座ると、邪魔をしないように俺もページをめくる。

 静まり返った室内で、その音だけが時折聞こえ、邪魔する者がいないこの部屋は、誰もが脳内の物語へ、あるいは情報へと潜り続ける。

 

 ふと、前へと視線を向ける。

 彼女は、楽しそうに、真剣に、その本を読んでいる。

 どんな本を読んでいるのか、表紙を見ようとしたけれどやめた。

 後で話せばいい。今はただ、俺もどんな本を読んだか話すために、この世界へと入り込むことにしよう。

 きっと、フィオナ様もそれを望んでいる。

 彼女からも、時折視線を感じるような気がするので、それは間違いないだろう。

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