【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「それで魔王様と朝ごはん食べに来たんですね」
「そういうことです。さあマギレマ、レイ成分を多分に含んだ朝食をお願いします!」
「あはは、それはレイくんから直接摂取してくださいね~」
マギレマさんは笑いながら厨房へと向かい、フィオナ様が俺の頭を抱きかかえて匂いを嗅ぎはじめた。
臭くないなら、もうそれも好きにしてもらえばいいですけど、頭を抱きかかえるということは、当たっています。
なんか今日は、スキンシップ過多ですね。
このままでは、本当に性別を変更しないと耐えられません。
「はい、お待たせしまし……た……。えっと、ごゆっくり~!」
「料理ができたみたいですね。さすがはマギレマ、仕事が実に早いです」
「絶対、変な勘違いされていましたよね」
「何がですか?」
俺の言葉に、フィオナ様はキョトンとした様子で、本当に理解ができないといった表情を浮かべていた。
……だよなあ。この魔王様に限って、変なことは考えていない。
俺はこの方の道具だし、今後もそうあるべきなのだから。
「では、ありがたくいただきましょう」
「はいはい。いただきます」
手を合わせて、食事と調理してくれたマギレマさんに感謝してから、俺たちは朝食をとることにした。
ベーコンにスクランブルエッグにサラダ。どれも美味しそうだ。
しかし、同じ注文なのに、なぜフィオナ様とはメニューが違うんだろう?
向こうは目玉焼きやソーセージといった、こちらとは違う料理が皿の上に並んでいる。
まあ、気にするほどのことでもないし、冷めないうちに食べるとしよう。
「そちらも美味しそうですね」
フォークを口に入れると、向かいに座るフィオナ様からそんな言葉が聞こえてきた。
気付けば、フィオナ様は手を止めてこちらを見つめている。
「……食べます?」
「良いんですか? では、少しだけ」
フィオナ様が取りやすいように、俺は皿からフォークを除けた。
しかし、いつまでたってもこちらの皿に、フィオナ様の手は伸びてこない。
不思議に思い、フィオナ様のほうを見ると、なぜか目をつむって口を開いていた。
……あ、そっちでしたか。
「どうぞ」
すぐにフォークで料理を取り、口へと運ぶと、フィオナ様は口を動かし始める。
やはり、俺に取れということだったようだ。
相変わらず変なところで魔王だなあ。偉い方だから、この程度のことも俺にやらせたのだろう。
「うん、美味しいです」
「簡単そうに見えて、他の人の料理より明らかに美味しいんですよね」
「そこがマギレマのすごいところですね。あの子、料理に対しては妥協を一切許しませんので」
地底魔界って、得意分野に妥協しない魔族が多いからな。
俺のダンジョンへの情熱みたいなものだろう。
そんなことを考えていると、ふと目の前にフォークが差し出されていたことに気づく。
フォークの先には、温かそうに湯気をたてるソーセージが突き刺されている。
「……えっと」
食べろということだろうか。だろうな。
この状況、さすがにそれ以外は思い浮かばない。
「どうぞ。今度はレイの番です」
「いいんですか?」
「当然です。もらうばかりの魔王ではありませんからね!」
前言を撤回しよう。やはり、魔王らしくない魔王様だ。
相変わらず部下のことを考え、対等に扱ってくれる方だなあ。
その厚意を無下にするわけにもいくまい。せっかくなので俺も口を開いた。
……なるほど、目を瞑る理由がわかった。これ、わりと恥ずかしいな。
まともにフィオナ様を見ていたら赤面しそうだったので、俺は目を閉じてそれを迎え入れた。
……美味しいけど、なんか緊張して味がわからなくなりそうだ。
「……こっちも美味しいですね」
「でしょう?」
「なんで、フィオナ様が得意げなんですか」
「マギレマは私の部下ですからね!」
本当に楽しそうに語るものだ。
あまりにも純真なその姿を見ると、少しでも照れていたことが恥ずかしくなる。
そう切り替えるとあとは簡単なもので、俺とフィオナ様は交互に食事を食べさせあうのだった。
◇
「こ、こら! 駄目でしょあんたたち。今の魔王様とレイくんを邪魔したら、本気で怒られるからね!」
「マギレマ様、耐えてください」
「平然と食べさせあっていますね……。さすがは魔王様と宰相様」
「プネヴマ様がいなくてよかった……」
◇
「さて、次はカジノ……は、さすがにまだ早いので、魔導映写館か図書室か……」
「それなら図書室のほうが良いんじゃないですか? 魔導映写館は、そろそろ開店するので、俺たちが行くと邪魔になりそうですし」
「それもそうですね。図書室なら、内部の利用者のみなので、気軽に利用できますからね」
ありがたいことに、魔導映写館も盛況だからな。
朝一番に開店しても、客はやってくるほどにだ。
なので、そんなごたごたと忙しい時間帯に、俺たちが向かっては大変だろう。
「では、ビブリオンのところに行きましょうか」
フィオナ様も納得したのか、俺たちは図書室へと向かった。
道中でモンスターたちを見かけると、みんな俺とフィオナ様に頭を下げたりと挨拶してくれる。
ただ、いつもと違ってあまり近くに来ないな。
……隣にフィオナ様がいるから、緊張しているのかもしれない。
そうして、歩いていくと図書室に転移する魔法陣が見えてきた。
食堂はアルマセグシアと連結しているため、さすがに地底魔界から歩いて向かうのは遠すぎる。
そのため、テクニティスやクララが設置してくれた転移のための魔法だ。
……転移温泉に流用したかったが、この魔法陣光も魔力も目立ちすぎるので、一発でバレるようだ。
「残念だな」
「え、私がですか?」
「いえ、違います。……まあ、フィオナ様もわりと残念ですけど」
「違わないじゃないですか!?」
怒るフィオナ様も見て苦笑すると、向こうもすぐに怒った表情をおさめ、笑顔へと変わった。
残念な姿も好きなので、残念でも別にかまわないんだよな。
◇
「さて、ビブリオンに挨拶を」
転移が完了し、地底魔界の居住区というか、ダンジョンとは無関係の場所へとたどり着く。
あとは図書室は目と鼻の先だ。
扉を開けると、かなり広めに作った部屋が目の前に広がり、本特有の匂いが鼻に届く。
まだかなりスペースはあるので、今後も本を仕入れてこの場所を埋めていきたいな。
「おやぁ、魔王様にレイ様。お二人で読書ですか~」
「はい、少しお邪魔しますね」
「どうぞどうぞ~。お二人なら、本も大切にしてくれますし、静かに楽しんでいただけるので、私は安心して眠っていられます」
それでいいのか司書。
そう言い終えると、彼女は瞳を閉じて腕を枕代わりにうつ伏せで眠ってしまった。
猫系だからか、なんだか自由な魔族だなあ。
「では、適当に本を選びましょう」
フィオナ様はフィオナ様で、ビブリオンはそれでいいと思っているのか、マイペースに図書室を楽しんでいる。
……俺も、適当に本を探すとするか。
そうして本棚を物色すること十数分。
少し時間がかかってしまったな。いまだに、タイラーやロペスや風間が定期的に仕入れてくれるため、新たな本は増えているので仕方がない。
俺は手頃な本を手にすると、フィオナ様を探すように周囲を見渡した。
いた。
利用者が少ないとはいえ、すでに図書室はそれなりに人が入っている。
各々が好みの本を手にし、テーブルに向かって、椅子に座って読書に没入している。
そんな中、彼女がひときわ目を引くのは、やはりその美しさによるものだろう。
近づいて、向かいの席に座ると、邪魔をしないように俺もページをめくる。
静まり返った室内で、その音だけが時折聞こえ、邪魔する者がいないこの部屋は、誰もが脳内の物語へ、あるいは情報へと潜り続ける。
ふと、前へと視線を向ける。
彼女は、楽しそうに、真剣に、その本を読んでいる。
どんな本を読んでいるのか、表紙を見ようとしたけれどやめた。
後で話せばいい。今はただ、俺もどんな本を読んだか話すために、この世界へと入り込むことにしよう。
きっと、フィオナ様もそれを望んでいる。
彼女からも、時折視線を感じるような気がするので、それは間違いないだろう。