【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さあ、魔導映写館に向かいましょうか」
「ロマーナに聞いておきましたけど、この時間は内部用の上映らしいですからね」
地上向けと地底向けに交互に上映しているらしく、なかなか大変な仕事だと思う。
だが、それを苦と思っていないあたり、エルフってわりとブラックな労働だったのかもしれない。
ロマーナはロマーナで、働かせすぎないよう注意が必要か。
「魔王様、レイ様。席は確保しております。どうぞこちらへ」
「ええ、すみませんね。ロマーナ」
手際が良いな。俺たちはロマーナに案内されて席へとつく。
それにしても、案外盛況だな。
内部向けの上映なんて、さすがにもうそろそろ利用者も減ってくると思ったが、主に従業員たちが多いようだ。
魔族も多少はいるけれど、魔導映写館を作ったときほどではない。
あ、後ろにプネヴマが……なんで、両手で口を押さえているんだ?
俺の視線に気付いたプネヴマは、そのままぺこりとお辞儀をした。
ああ、納得した。バンシーだから、上映中に叫ばないようにしているのか。偉いな。
「今日は何を上映するんでしょうね」
「俺も聞いていませんけど、ロマーナなら面白い映像を選んでくれると思いますよ」
上映開始までの間、隣に座るフィオナ様と軽く話をする。
……もう少し時間はあるよな?
「フィオナ様、ちょっと席を外します。すぐ戻ってくるので」
「なるほど……。そうですね。トイレはすませておいたほうがいいですよ」
快く送り出してくれたのは良いんだけど、なんか勘違いされてしまった。
違うんだけどなあ……。訂正する時間も惜しいので、急いで向かうとしよう。
そうして用事を済ませ、両手に荷物を抱えて座席へと戻る。
フィオナ様は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにこちらの荷物を受け取ってくれた。
「ありがとうございます。なるほど、これを買いに行っていたんですか」
「買うというか、ただで渡してもらえますけどね」
改めて座席へと座り、ポップコーンとジュースを手にもつ。
これで完璧だ。映画館って、なんかこういうものと一緒に楽しみたくなるからな。
それじゃあ、あとはゆっくりと楽しませてもらうとするか。
◇
「……プネヴマ」
いつも通り口から魂が出ていった。
なんでだろう? たしかに、映像の元となった物語は良いものだったが、よほど琴線に触れたんだろうか?
「ロマーナがエピクレシを呼んでいたので、きっと大丈夫でしょう」
「エピクレシ、大変ですねえ」
文句を言いながらもプネヴマを回収する姿は、もう見慣れたものだ。
悪いがここは彼女に任せて、俺たちは立ち去ったほうが良いだろう。
◇
なんだか遊んでばかりの一日になっているな。
仕事を、とも考えたけれど、ダスカロスとプリミラに休みにしろと言われてしまった。
アナンタのやつ、あんなに喜びやがって……。俺と一緒に仕事をするのが、そんなに嫌なのか。
「さて、そろそろ夕飯の時間ですね」
「またマギレマさんのところに行きましょうか」
当たり前のように、マギレマさんの食堂はフル活用している。
朝昼晩全てがマギレマさん任せだ。
たまに、フィオナ様が料理を作ってくれることもあるが、さすがに魔王様にそれを毎日お願いするわけにもいかない。
……頼めばやってくれそうだけどな。
「あ、そうだ。せっかくですし、今日は気分転換として温泉宿で一緒に寝ましょう」
「ああ、そういえば、最近は行ってませんでしたからね」
断る理由もないし、俺はその提案に乗ることにした。
するとフィオナ様は嬉しそうに、俺の腕に抱きついてくる。
「歩きにくいです」
「またまた~。嫌じゃないくせに」
「嫌ではありませんけどね」
「むしろ好きなくせに~」
「好きですけど……」
勝ち誇った顔を浮かべるのはやめてください。
こちらが否定できないことを知っていて、こざかしい魔王様だ。
そうして転移した温泉宿へと入ると、従業員が慌てた様子でスタッフルームに駆け込む。
しばらくするとリグマを連れて戻ってきた。
「どうも~、魔王様。抜き打ちの監査か何かですか?」
「いえ、レイと一緒に今日はここで寝ます」
「なるほど、では部屋に案内しますので、存分に楽しんでいってください」
なんかしたり顔で部屋に案内された。
まあ、リグマが優秀なのは知っているし、その仕事ぶりを自慢するのは当然ともいえるか。
毎回急に訪ねても、こうして部屋を確保してくれているしな。
さすがに畳とはいかないが、木製の床の広々とした部屋も嫌いではない。
フィオナ様はさっそくベッドにダイブしている。
お召し物にしわがつきますよ? まあ、同じような服何着も持っているみたいだけどな。
ラプティキさんが、どんどん作り続けているし。
「とりあえず、温泉ですね」
「ええ、ゆっくりと浸かりましょう。……先に出ても、ちゃんと待っていてくださいね?」
「俺がフィオナ様を置いて行くはずないじゃないですか」
その言葉に満足したらしく、またも笑顔になった。
俺の好きな顔だ。よく笑うよな、この魔王様。
◇
入浴も終わり、その余韻を楽しむように入り口の休憩所で座って待つ。
フィオナ様はいないので、どうやらまだ入浴中なのだろう。
だけど、今までの経験からもう少ししたら……。
「お待たせしました」
ほら、やってきた。
「待っていませんよ」
だから、俺は正直にそう返すと、彼女は嬉しそうに笑ってくれる。
……湯上りということもあり、やたらと艶っぽいんだよなあ。
大丈夫、落ち着け俺。中身はフィオナ様だ。口を開けばいつものあれだから。
「では、部屋に戻ってご飯を待ちましょうか」
「ああ、やっぱり」
「やっぱりなんですか?」
「いえ、フィオナ様だなあ、と思いまして」
「え、私が偽物に見える要素がどこかに……?」
何を心配しているんだ、この魔王様は。
だけど、こんな会話も心地よい。
部屋に戻る間も、彼女は表情をころころと変えて、楽しそうに話すのだった。
「まったくもう! 魔王相手に良い度胸ですね!」
「宰相ですので」
そして、いつもの軽口の応酬。
たまにこれを見てロペスやクララがおののいているが、魔王といえどフィオナ様は優しいから、案外みんなもこんな感じで話して良いと思うぞ。
……そういえば、俺以外はそんな接し方していないな。
あえて言うならば、時任が一番それっぽいけれど、まだどこか遠慮はしているようだし。
「どうしました?」
「フィオナ様って、俺と会う前にはこういうやり取りできる相手というか、魔王として接する必要のない相手っていなかったんですか?」
そこも気になる。そういえば、この魔王様はたまに魔王であろうとするからな。
四天王たち相手にも、今はわりと素で接しているけれど、最後の最後では魔王としてみんなと話そうとする。
どこか、本来の自分で話すことを恐れているのでは? とも思わせる。
「……一人いましたね」
「そうだったんですか」
「ええ、とても大切な……今では、もう会えない相手が」
家族? それとも……。
なんだろう。
喜ばしいことじゃないか。
だけど、なんで少し嫌だと思うんだろう。
……まさかな。
自分で尋ねておいて、フィオナ様が孤独でなければいいと思ったくせに。
大切な相手がいたことに、嫉妬しているんじゃないだろうな……。
それはどのくらい? とは聞けなかった。
なんとも情けなく、なんとも自分の小ささを感じさせる。
「むむ! なんだか、暗い気持ちになりそうですね? そういうときは、ご飯を食べるのがいいとマギレマが言っていました」
そして、たかだかこれだけのことで、沈みがちだった気持ちが元に戻るのだから、俺も大概安上がりなんだろうな。
◇
「魔王様とレイさんが、本格的にデートしてた!」
「そうなの? 海には来なかったわね」
「服も買いに来なかったけど……魔王様、買う必要もないもんね」
「そういえば、ロマーナ先生の映画館にも行っていたらしいですよ」
「あれ? ロペスくんは?」
「カジノに二人が来たから、万全の体勢で歓迎するって張り切ってたわね」
「いいなあ。地底魔界デートか。いいなあ……。ねえ? 友香ちゃん」
「そうねえ新。いいわねえ」
「……今度、レイさんに施設の利用許可もらってくる」