【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第514話 その感情が嫉妬だよ

「さあ、魔導映写館に向かいましょうか」

 

「ロマーナに聞いておきましたけど、この時間は内部用の上映らしいですからね」

 

 地上向けと地底向けに交互に上映しているらしく、なかなか大変な仕事だと思う。

 だが、それを苦と思っていないあたり、エルフってわりとブラックな労働だったのかもしれない。

 ロマーナはロマーナで、働かせすぎないよう注意が必要か。

 

「魔王様、レイ様。席は確保しております。どうぞこちらへ」

 

「ええ、すみませんね。ロマーナ」

 

 手際が良いな。俺たちはロマーナに案内されて席へとつく。

 それにしても、案外盛況だな。

 内部向けの上映なんて、さすがにもうそろそろ利用者も減ってくると思ったが、主に従業員たちが多いようだ。

 魔族も多少はいるけれど、魔導映写館を作ったときほどではない。

 

 あ、後ろにプネヴマが……なんで、両手で口を押さえているんだ?

 俺の視線に気付いたプネヴマは、そのままぺこりとお辞儀をした。

 ああ、納得した。バンシーだから、上映中に叫ばないようにしているのか。偉いな。

 

「今日は何を上映するんでしょうね」

 

「俺も聞いていませんけど、ロマーナなら面白い映像を選んでくれると思いますよ」

 

 上映開始までの間、隣に座るフィオナ様と軽く話をする。

 ……もう少し時間はあるよな?

 

「フィオナ様、ちょっと席を外します。すぐ戻ってくるので」

 

「なるほど……。そうですね。トイレはすませておいたほうがいいですよ」

 

 快く送り出してくれたのは良いんだけど、なんか勘違いされてしまった。

 違うんだけどなあ……。訂正する時間も惜しいので、急いで向かうとしよう。

 

 そうして用事を済ませ、両手に荷物を抱えて座席へと戻る。

 フィオナ様は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにこちらの荷物を受け取ってくれた。

 

「ありがとうございます。なるほど、これを買いに行っていたんですか」

 

「買うというか、ただで渡してもらえますけどね」

 

 改めて座席へと座り、ポップコーンとジュースを手にもつ。

 これで完璧だ。映画館って、なんかこういうものと一緒に楽しみたくなるからな。

 それじゃあ、あとはゆっくりと楽しませてもらうとするか。

 

    ◇

 

「……プネヴマ」

 

 いつも通り口から魂が出ていった。

 なんでだろう? たしかに、映像の元となった物語は良いものだったが、よほど琴線に触れたんだろうか?

 

「ロマーナがエピクレシを呼んでいたので、きっと大丈夫でしょう」

 

「エピクレシ、大変ですねえ」

 

 文句を言いながらもプネヴマを回収する姿は、もう見慣れたものだ。

 悪いがここは彼女に任せて、俺たちは立ち去ったほうが良いだろう。

 

    ◇

 

 なんだか遊んでばかりの一日になっているな。

 仕事を、とも考えたけれど、ダスカロスとプリミラに休みにしろと言われてしまった。

 アナンタのやつ、あんなに喜びやがって……。俺と一緒に仕事をするのが、そんなに嫌なのか。

 

「さて、そろそろ夕飯の時間ですね」

 

「またマギレマさんのところに行きましょうか」

 

 当たり前のように、マギレマさんの食堂はフル活用している。

 朝昼晩全てがマギレマさん任せだ。

 たまに、フィオナ様が料理を作ってくれることもあるが、さすがに魔王様にそれを毎日お願いするわけにもいかない。

 ……頼めばやってくれそうだけどな。

 

「あ、そうだ。せっかくですし、今日は気分転換として温泉宿で一緒に寝ましょう」

 

「ああ、そういえば、最近は行ってませんでしたからね」

 

 断る理由もないし、俺はその提案に乗ることにした。

 するとフィオナ様は嬉しそうに、俺の腕に抱きついてくる。

 

「歩きにくいです」

 

「またまた~。嫌じゃないくせに」

 

「嫌ではありませんけどね」

 

「むしろ好きなくせに~」

 

「好きですけど……」

 

 勝ち誇った顔を浮かべるのはやめてください。

 こちらが否定できないことを知っていて、こざかしい魔王様だ。

 

 そうして転移した温泉宿へと入ると、従業員が慌てた様子でスタッフルームに駆け込む。

 しばらくするとリグマを連れて戻ってきた。

 

「どうも~、魔王様。抜き打ちの監査か何かですか?」

 

「いえ、レイと一緒に今日はここで寝ます」

 

「なるほど、では部屋に案内しますので、存分に楽しんでいってください」

 

 なんかしたり顔で部屋に案内された。

 まあ、リグマが優秀なのは知っているし、その仕事ぶりを自慢するのは当然ともいえるか。

 毎回急に訪ねても、こうして部屋を確保してくれているしな。

 

 さすがに畳とはいかないが、木製の床の広々とした部屋も嫌いではない。

 フィオナ様はさっそくベッドにダイブしている。

 お召し物にしわがつきますよ? まあ、同じような服何着も持っているみたいだけどな。

 ラプティキさんが、どんどん作り続けているし。

 

「とりあえず、温泉ですね」

 

「ええ、ゆっくりと浸かりましょう。……先に出ても、ちゃんと待っていてくださいね?」

 

「俺がフィオナ様を置いて行くはずないじゃないですか」

 

 その言葉に満足したらしく、またも笑顔になった。

 俺の好きな顔だ。よく笑うよな、この魔王様。

 

    ◇

 

 入浴も終わり、その余韻を楽しむように入り口の休憩所で座って待つ。

 フィオナ様はいないので、どうやらまだ入浴中なのだろう。

 だけど、今までの経験からもう少ししたら……。

 

「お待たせしました」

 

 ほら、やってきた。

 

「待っていませんよ」

 

 だから、俺は正直にそう返すと、彼女は嬉しそうに笑ってくれる。

 ……湯上りということもあり、やたらと艶っぽいんだよなあ。

 大丈夫、落ち着け俺。中身はフィオナ様だ。口を開けばいつものあれだから。

 

「では、部屋に戻ってご飯を待ちましょうか」

 

「ああ、やっぱり」

 

「やっぱりなんですか?」

 

「いえ、フィオナ様だなあ、と思いまして」

 

「え、私が偽物に見える要素がどこかに……?」

 

 何を心配しているんだ、この魔王様は。

 だけど、こんな会話も心地よい。

 部屋に戻る間も、彼女は表情をころころと変えて、楽しそうに話すのだった。

 

「まったくもう! 魔王相手に良い度胸ですね!」

 

「宰相ですので」

 

 そして、いつもの軽口の応酬。

 たまにこれを見てロペスやクララがおののいているが、魔王といえどフィオナ様は優しいから、案外みんなもこんな感じで話して良いと思うぞ。

 ……そういえば、俺以外はそんな接し方していないな。

 あえて言うならば、時任が一番それっぽいけれど、まだどこか遠慮はしているようだし。

 

「どうしました?」

 

「フィオナ様って、俺と会う前にはこういうやり取りできる相手というか、魔王として接する必要のない相手っていなかったんですか?」

 

 そこも気になる。そういえば、この魔王様はたまに魔王であろうとするからな。

 四天王たち相手にも、今はわりと素で接しているけれど、最後の最後では魔王としてみんなと話そうとする。

 どこか、本来の自分で話すことを恐れているのでは? とも思わせる。

 

「……一人いましたね」

 

「そうだったんですか」

 

「ええ、とても大切な……今では、もう会えない相手が」

 

 家族? それとも……。

 なんだろう。

 喜ばしいことじゃないか。

 だけど、なんで少し嫌だと思うんだろう。

 

 ……まさかな。

 自分で尋ねておいて、フィオナ様が孤独でなければいいと思ったくせに。

 大切な相手がいたことに、嫉妬しているんじゃないだろうな……。

 

 それはどのくらい? とは聞けなかった。

 なんとも情けなく、なんとも自分の小ささを感じさせる。

 

「むむ! なんだか、暗い気持ちになりそうですね? そういうときは、ご飯を食べるのがいいとマギレマが言っていました」

 

 そして、たかだかこれだけのことで、沈みがちだった気持ちが元に戻るのだから、俺も大概安上がりなんだろうな。

 

    ◇

 

「魔王様とレイさんが、本格的にデートしてた!」

 

「そうなの? 海には来なかったわね」

 

「服も買いに来なかったけど……魔王様、買う必要もないもんね」

 

「そういえば、ロマーナ先生の映画館にも行っていたらしいですよ」

 

「あれ? ロペスくんは?」

 

「カジノに二人が来たから、万全の体勢で歓迎するって張り切ってたわね」

 

「いいなあ。地底魔界デートか。いいなあ……。ねえ? 友香ちゃん」

 

「そうねえ新。いいわねえ」

 

「……今度、レイさんに施設の利用許可もらってくる」

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