【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「カ、カジノ……?」
「おう、従業員とはいえ金はとるが、自由に楽しんで良いぞ」
「植物園……」
「定期的に作物の収穫体験も開催しております。従業員は無料です」
「水族館ですか」
「新しい従業員の方……? なら、無料で利用できます」
「魔王軍、すごい……」
鳴神が連れてきた村人たちも、うちの福利厚生には満足してくれている様子だ。
やはり、まともな労働環境こそが大切だということがよくわかる。
ホワイトな勤務体系で働かせ、社員が喜ぶための設備を整える。
それこそが宰相の仕事の一つなのだ。
「俺の喫茶店も好評だ!」
「なんか、気付いたらテンユウが通ってるよな。あそこ」
「うむ。勇者すら魅了するコーヒーとして売り出すか!」
「他の勇者まで来たら嫌だから、やめて」
テンユウだからまだ良いが、イドが入り浸ったら最悪だぞ。
というか勇者のパーティメンバーとも、できることなら関わりたくないし。
「いっそのこと、新しい設備を考えますか?」
「おや、植物園と水族館を作ったばかりですけど、さらなる施設ですか。レイもなかなか強欲になってきましたねえ」
まあ、それらが順調に経営できていますからね。
俺自身の手は、わりと空いてきたというのもある。
それに、直近の目標だった十魔将の部下の蘇生も完了したので、次の目標を何か設定しておきたいのだ。
あとは……。
「色んな施設があったほうが、フィオナ様も喜びますよね?」
「……ちょっとレイちゃんになりません?」
「なんですか急に」
「過剰にスキンシップをしたくなりました」
それを聞かされて性別を反転させると思っているのか、この魔王は。
◇
「あ、今日はレイちゃんさんの日なんですね」
「邪魔しちゃだめよ。なんかもう、すごいことになってるじゃない」
まあ、なるんだけどさ。
そうしたら、めっちゃ触ってくるじゃん。この魔王様。
女性の場合、同性同士だとこんな過剰に触られるんだなあ。
「時任と奥居も普段こんな感じなのか?」
「ええっ!? 私、江梨子ちゃんのことは好きですけど、さすがにそういう好きではないので!」
時任にものすごい剣幕で否定され、奥居は嫌そうな顔をして時任から距離を取っていた。
うん、なんかごめんね。同居人同士なので、こんなものなのかなと思ったけど、やはりこの魔王様がおかしいだけだ。
「なんですか? 私に触られることが嫌なんですか?」
「いえ、別に私は気にしていませんけど」
「では、膝枕してください」
「はいはい……」
まあ、普段は私が膝枕をしてもらってばかりだもんな。
日頃のお返しというか、こういうときくらいは私がする側に回っても良いだろう。
……なんだこの魔族。顔を私のお腹にくっつけてくるんだけど。
「あ~……落ち着きます~……」
もう好きにしてください。
とりあえず、頭でも撫でておこう。
「ま、魔王様が赤ちゃんに! レイちゃんさんがママに!」
「なんてこというんだ。お前は」
どんな発想をしたら、そんな言葉が出てくるんだよ。
まあいいや。それよりも、せっかくだから従業員の意見を聞いておこう。
「最近手が空いてきたから、新しい集客か福利厚生施設を考えているんだけど、なにかないか?」
「え~……。その状態でお仕事の話しちゃうんですかあ……」
「そうですね……。人工海なら、やはりテクニティスさんやカールさんに協力してもらって、マリンスポーツができるようにしたいです」
「江梨子ちゃんもけっこうマイペースだよね!」
なるほど、となるとシュノーケリングやサーフィンはすでにあるから、パラセーリングとかジェットスキーだな。
あとあれだ。なんか水を放出して飛ぶやつ。フライボードとかいったっけ?
水上バイクと連動していた気がするけど、この世界なら水魔法を利用すれば単品で飛べる気がしてきた。
「水族館は? モンスター増やすか?」
「い、いえ……モンスターよりは、海洋生物の種類を増やしたほうが良いかと思います」
そうなると、私の力ではどうしようもないな。
タイラーか風間あたりに、アルマセグシアで仕入れてもらうしかなくなる。
「時任のほうは? 商店で何か売りたいものとかあるか?」
「う~ん……。私の場合は、周りの施設に関するお土産系を増やすべきですかねえ?」
なるほど。
たしかに、モンスター園関連の土産としてぬいぐるみを、植物園では植物の鉢を売るようにしたら、売り上げが伸びたからな。
「温泉饅頭とかどうですか? 私たちの職場の強みって、いろんな場所で遊んだ後に、温泉旅館でゆっくり休めることじゃないですか」
そういえば、そんな定番のお土産も作っていなかったな。
そもそも、この世界では温泉饅頭って定番なんだろうか?
「だけど、一考の余地はありそうか……。温泉って種類は増やしても、その周りには力を入れていなかったからなあ」
「サウナとコーヒー牛乳とマッサージチェアを作りましょう!」
「疲れてるの?」
「いえ! でも、休むときも全力で休むのが時任流です!」
わりと的を射ている気がする。
新しい施設を作るのではなく、既存の施設のサービスを充実させるか……。
品質を上げて、常連客を逃さないようにして、新規の顧客も獲得する。
結局、それが一番良いのかもしれない。
「あ、あと、温泉旅館といえば、ゲームコーナーですね!」
「カジノじゃ駄目か?」
「カジノも良いんですけど、もう少しこじんまりしたのも好きです!」
「なるほど……」
たしかに、カジノよりも落ち着いてリラックスできそうだもんな。
スロットはそのまま流用できるとして、メダルゲームみたいなのか?
それとアーケードのゲーム……。できるのか?
ここがゲームの世界であり、ゲームの中にミニゲームみたいなのがあるとすれば、可能性もあるが……。
ダンジョンマスターさん。無理ですか?
……なんだろう。なんかいよいよ、無理ですみたいな思念みたいなのを感じた気がする。
「時任、アーケードゲームは無理っぽい」
「そこまで望んではいなかったのですが!?」
なんだ。私の勇み足だったか。
ごめんダンジョンマスターさん。勘違いだった。
……心なしかほっとした感情が返ってきた気がするが、気のせいかな?
「よし、まずはロペスに意見を聞こう。温泉の設備を整えて、それが片付いたら時任や奥居の案も随時対応していく」
「は~い」
「私たちはいつでも良いので、そちらを優先してください」
◇
「で、俺が呼ばれたと」
「ああ、なんか良い案あるか?」
「その前に、ビッグボスが動かないのが、すごい気になるんだが……」
「寝た」
「まじかよ……」
フィオナ様は、私の腹部に顔を押し当てたまま眠ってしまった。
よく眠る方だとは思っていたが、まさかこの状況で眠るとは……。
息苦しくないんだろうか?
「それで、温泉旅館らしさについてなんだが」
「あ~……。悪いんだけど、そっち方面の知識で俺は当てにならないと思うぜ?」
「そうか?」
「そもそも、俺は温泉の文化に触れていない。日本人であるタケミやトキトウのほうが、よほど生産的な意見を出してくれるはずだ」
そういえばそうだったな。
この世界にいるとどうも忘れそうになるが、ロペスは風間たちとは別の国の者だった。
「だが、それで終わりじゃ芸がないし、ついでにカジノについて話をさせてもらおうか」
「ああ、何か意見があるなら大歓迎だ」
「ボスは最近モンスター業に力を入れているだろ?」
「まあ、そうだな」
ブラックゴブリンの件もあって、モンスター生成をしすぎた。
そうして作りすぎたモンスターたちを、なんとか働かせようと四苦八苦しているところだ。
「なら、カジノにも採用できると思うぜ」
「カジノで?」
さすがに無茶じゃないか?
たしかに、あの子たちは頭が良くて器用だ。
店員としても働けるだろうけど、果たして客がどう思うか……。
「モンスター同士のコロシアムやレースなんてどうだい?」
「ほう……」
面白そうな話だ。そう思ってつい前のめりになって話を聞こうとすると、膝に抱えていたフィオナ様がむぎゅっと声を上げた。
「あ、すみません。起こしました」
「いえ、心地よくて眠っていましたか……」
私のお腹にそんな力が……。
いや、私もフィオナ様に膝枕してもらっているときは、そのまま眠りそうになるな……。
今度、顔をお腹に押しつけてみるか?
そんな考えを見透かされたのか、ロペスは私たちのことを呆れた表情で見ていた。