人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者   作:せぞんのう

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1 転生者は悪魔に見初められる

 俺は死んでしまった。

 そして死ぬ時の恐怖は、想像を絶するものだったのだ。

 故に、強く願う。

 死にたくない、と。

 

 それは思わぬ形で叶えられた。

 気がついたら、俺は異世界に転生していたのである。

 王道の剣と魔法のファンタジー世界。

 ()()()()()()()()()()()()()世界だ。

 

 なんてことだ、これでは俺みたいな元一般人は簡単に命を落としてしまう。

 せっかく手に入れた二度目の命を、無様に散らしまたあの恐怖を体験するのか?

 

 ()()

 

 そんなこと、絶対に嫌だ!

 だから俺は生き残るためならなんでもすると決めた。

 いや、悪事に手を染めるつもりはない。

 そんなことをしたら、恨みを買って最後には前世より凄惨な死を迎えてしまうに違いないのだ。

 だから俺のやるべきことは、最初から決まっていた。 

 

 というよりも、この世界そのものが”それ”を推奨しているようなものなのだ――

 

 

 ◯

 

 

 俺は自分の体よりも巨大な岩を押しのけて、目の前に開いた入口を満足気に眺める。

 そこは石造りの階段になっており、地下への道が暗闇に向かって伸びていた。

 周囲を鬱蒼と生い茂る森に囲まれていて、明らかにここは人が足を踏み入れるような場所ではない。

 俺も、周囲の村々の伝承などからなんとかここを探し当てたのだ。

 入口を隠していた、魔力を用いて身体強化をしなければ入れないような大岩は、これまで動かされたような形跡は一度もなかった。

 

「だが……ようやく見つけたぞ」

 

 俺は、そう一言だけこぼして、中へ入っていく。

 ゆっくりと階段を下ると、両脇に設置された松明へ突然火が灯った。

 更に下へ下へと進むたび通過した場所の松明が煌々と周囲を照らし始める。

 暗闇も相まって、どことなく不気味な雰囲気だ。

 そして階段を降りきると、そこには石でできた祭壇があった。

 祭壇は苔むしているが、中央の魔法陣は今もその原型をとどめている。

 というよりも――

 

「魔法陣が光って――――」

 

 この場を訪れた時、俺に”資格”があるようなら自然とそうなるとは聞いていた。

 しかし、実際にその光景を目にすると、少しばかりの緊張が走る。

 とはいえ、何も起きないよりはずっとマシだ。

 少なくとも、機会は与えられたということなのだから。

 

 

「――――あぁ、待ちわびていたわ」

 

 

 不意に、魔法陣から声が聞こえる。

 それは少女の声だった。

 幼く、されどどこか畏怖を抱かせるような、遺跡に響く甘い声。

 やがて、魔法陣の光が一つの形となって俺の前に現れる。

 

 それは、炎だ。

 

 炎を纏った少女である。

 髪は美しく燃え盛り、その顔立ちはどこかあどけない。

 しかし吸い込まれてしまいそうな妖しい美貌を秘めており、彼女が人ならざる存在であると一目でわからせる力があった。

 衣服は纏っていないが、その体を覆う炎が衣服の代わりということだろう。

 背丈は小柄で、幼いと形容しても問題ない。

 それこそが、今俺の目の前に現れた少女にして――

 

 

「私は大悪魔が一柱、序列は五十八――――名を、アウナス」

 

 

 ()()だ。

 この世界は、概ねよくある転生モノの異世界だ。

 しかし、一つだけ大きな違いがある。

 それこそが、この悪魔と呼ばれる存在。

 彼らはこの世界の創造に関わったという人類にとっては絶対的な上位者だ。

 そんな彼らには、ある一つの特徴があった。

 それは――

 

「――貴方の願いを言いなさい。その願いに応じ、我ら悪魔は試練を与える。見事それを乗り越えた時、悪魔はその願いに惜しみない()()とともに応えるでしょう」

 

 ()()()()()()ということ。

 ただ、厄介なのはこれが人間の善良さを愛しているわけではないということ。

 善良な部分も、悪辣な部分も等しく愛しているのだ。

 彼らが愛するのは人の命の輝き、生き様だ。

 ゆえにこそ、試練という形でその輝きを引き出し、乗り越えたものには褒美を与える。

 それが、この世界の人と悪魔の関係というやつだった。

 

「――力を」

 

 俺は答える。

 この場にやってきたのは、言うまでもなく悪魔に願いを叶えてもらうためだ。

 

「誰にも負けない――死を恐れる必要のない力がほしい」

「……あはっ」

 

 俺の言葉に、アウナスと名乗った悪魔は嗤った。

 それは、心底愉しげな、実に悪魔らしい笑みだ。

 

「いい、いいわね。その目――覚悟に染まってしまった人間の目。私にはわかるわ。貴方は死ぬのが怖いのね!」

「ああ、そうだ。俺は死にたくない。そのためには、悪魔の力が必要だ」

「いいでしょう。であれば、試練を始める前に一つだけ聞いてあげる」

 

 いやそう言ってますが? と言いたくなるアウナスの素直な感想に、けれども空気を読んで突っ込まず。

 俺は、アウナスの言葉を待つ。

 アウナスは手のひらに炎を生み出して、言った。

 

「試練の難易度を()()にすれば、その望みをより素晴らしい形で叶えてあげるけれど、どう?」

「……まずは、試練の内容を聞きたい。それから考える」

「賢明ね」

 

 いいながら、アウナスは俺にゆっくりと近づいてくる。

 そして手のひらの炎を俺にかざして見せた。

 

「これはね、その人の最も恐ろしい過去の記憶を呼び覚ます炎よ。()()()()()に刻まれた記憶から、私が指定した難易度に応じて恐怖を引き出すの。そのときに感じる恐怖は、実際に記憶の中で感じた恐怖と同等」

「……」

「最悪を選択した場合、肉体の記憶から最も恐ろしい記憶を、長時間その身に浴び続ける。これに耐えられる人間はいないわ。――それでも、最悪を選択するなら私は止めないわ」

 

 俺は、少しだけ考える。

 アウナスの言葉に嘘はないはずだ。

 悪魔は嘘をつけない。

 意図的に真実を隠すことはあったとしても、今アウナスが言っていることに間違いはないなず。

 なら――

 

()()()()()()()なんだな、呼び覚ますのは」

「あら、他になにがあるというの? 記憶というのはそういうものでしょう?」

「――わかった。なら、受ける。最悪で構わない」

 

 返答をまって力強く頷いた。

 ()()()()何も問題はない。

 

「いいわね」

 

 俺の言葉に、アウナスは浮かべていた笑みを深めた。

 三日月のような、狂気に染まった笑みが俺の愚行を嘲笑う。

 

「でも、残念だわ。貴方のその覚悟が――無駄になってしまうでしょうから」

 

 そして、俺の体を炎が包む。

 熱はない。

 熱はなくとも、こうして炎に包まれているという事実そのものが恐怖を煽る。

 けれども俺は、それに恐怖することはなかった。

 

「――うふふ、強いわね」

 

 次に、俺が()()()()()()()()()からの記憶を想起する。

 幾度となく死にかけた記憶。

 あの時感じた恐怖が、俺の脳裏を激しく刺激した。

 けれど――

 

 

「……やっぱり、こんなものか」

 

 

 俺は一切、それに動じる様子を見せなかった。

 

「えっ」

 

 素で驚いた声を上げるアウナス。

 しかし、どこにおかしなことがある?

 想起するのは、今の俺の肉体の記憶。

 けれど、俺には()()()()()という肉体に依存しない記憶が宿っているのだ。

 そして俺にとってもっとも恐ろしい記憶など、語るまでもない。

 前世で死にゆく、まさにその瞬間の記憶。

 それに比べてれば、()()()()の記憶なんて、何も怖いことなんてない。

 アウナスの言葉を聞いた時、こうなるのではないかと推測を立てた俺は最悪の難易度とやらに挑戦し、乗り越えた。

 

「――俺を恐怖させたかったら、こんな()()()()()()()恐怖じゃ意味ないぞ」

「っ!」

 

 その言葉に、どこかアウナスは驚いた様子で――あるいは呆けた様子で目を見開く。

 それはなんというか、どこか嫌な予感を感じさせる表情だ。

 どう表現するべきだろう。

 悪魔というのは人ならざる存在だ。

 その感性は決して人と交わらない。

 だけど、なんというのだろう、これは――

 

 

「――――素敵」

 

 

 まるで、()()()()()であるかのような。

 

「……え?」

「だって、だって、だってそうでしょう? この試練は、私が考える限りもっとも難易度の高い試練なの。人間が、もっとも苦しみ、そして輝きを放つ試練なの!」

 

 いや、いやいや。

 何を言っているんだ、この悪魔は?

 こんな単純な試練が?

 いや、確かにもっとも苦しむ試練という言葉は納得できる。

 本来であれば、危険な試練であることに違いはない。

 でも、試練そのものは非常に単純というか――安易な代物だった。

 これを、さもアウナスにとって”一番”の試練であるかのような――

 

 

「ああ、()()()()()()()()()()()()()人が、こんなにも素晴らしい人間だなんて!」

 

 

 ――――初めて。

 その言葉に、俺はなんとなくすべてを察してアウナスを見る。

 幼い少女だ。

 悪魔らしい容貌をしているものの、どこか立ち振舞にはあどけなさが残る。

 実際の年齢は知らないが、いくら悪魔だって人と関わりを持たなければ、その情緒は育たない。

 つまり、ええと――アレだ。

 

「ねぇ、ねぇ、私の初めての契約者さん? 貴方の名前を教えてちょうだい!」

 

 俺はこの、幼い少女の――未熟なる大悪魔の、初めての相手になってしまった。

 それも、アウナスの考える限り最高の出会いでもって。

 なんというか、それは――

 

「俺は…………ルセラ」

「ルセラ…………まぁ、素敵な名前! ねぇルセラ、貴方に――()()の力を与えてあげる」

 

 とんでもない相手に()()()()()()しまったんじゃないか?

 そう、考えざるを得ないのだった。

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