人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者   作:せぞんのう

10 / 10
10 悪魔よりも、悪魔らしい

「俺は――悪魔を殺したい」

 

 アミィの言葉に、俺はただそう答えた。

 するとアミィは一瞬だけだらしない顔をしてから、すぐにそれを元の真面目な顔に戻す。

 

「それは、私もいずれは殺してしまいたいということ?」

()()。俺が殺したい悪魔は、人々に悪意を振りまき、俺の生存を邪魔する悪魔だけだ」

 

 悪魔と言ってもピンキリで、ただただ命の輝きを楽しみたいだけの無邪気なヤツもいれば、契約者を騙して嘲笑いたいヤツまでいる。

 中には正義を掲げ、正しきものを導くために契約者を作る悪魔や、アミィのようにそもそも契約者が俺しかいない変なやつまで。

 その中で俺が殺したいのは、俺の生存を邪魔して、この世界のあらゆる人々に悪意を振りまく悪魔だけ。

 それこそ、アンドラスのような。

 

「ふぅん、でも……それだけじゃないわよね?」

「……ああ」

 

 頷く。

 悪魔を殺すことの意味、それはもっと単純で――

 

「俺は、()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 悪魔とは、完全なる上位存在とされている。

 人類よりも強大な力と、エルフなんて比じゃない長大な――永遠の寿命を持つ。

 それゆえに世界をゲームのようにしか捉えず、自分は駒を動かすプレイヤーであると自認するのだ。

 

「でもそれってさ――果たして()()()()()()()()()()()()()()のか?」

「……」

「どこまで言っても他人事なんだ、この世界の当事者になれないから」

 

 だからもし、人が悪魔を殺せると証明できれば。

 悪魔も、この世界の命の一つでしかないと、知らしめることができれば。

 その時こそ、悪魔は自分がこの世界の当事者であると認識するだろう。

 

 

「だから俺は、悪魔を命の一つに引きずり下ろしたい」

 

 

「どうして、そんなことをするの?」

 

 俺の言葉に、アミィはただそう問いかけた。

 

「そうした方が、悪魔も慎重になるだろ? 自分を殺すかも知れない相手に、変なちょっかいをかけたい悪魔はそういないはずだ」

「逆に、殺せるかもしれない相手に嬉々としてちょっかいをかけてくる悪魔もいるかもしれないわ」

「むしろ好都合だ。そういう奴らは油断してるから、いくらでもやりようはある」

 

 だから俺は、そんな悪魔の傲慢と、驕りと、そして矜持を――悪魔を利用してでも、この世界で生き残る。

 

 

 ◯

 

 

「ふざけるなふざけるなふざけるな! 僕は悪魔だぞ!? お前のような人間ごときが、僕に逆らっていいわけないだろうがああああああああ!」

「ごとき、か。これで死んだら、お前も悪魔ごときだな!」

 

 俺は炎をアンドラスに叩きつける。

 それをアンドラスは闇色の光で受け止めつつ、反撃に闇色の弾丸を飛ばしてくる。

 これらは光という熱エネルギーではなく、魔力を力に変えた結果視認できるようになっただけのものらしく、炎では操れない。

 正確には最初は熱量も伴っていたのだが、俺が操って暴発させた結果、アンドラスが戦い方を変えたのだ。

 腐っても悪魔ということか。

 

 アレから、俺とアンドラスの戦いは続いていた。

 アミィは退避させてある。

 魔法陣に魔力を注ぎ込むのに力の大半を使ったからだ。

 逆に言えば、アンドラスはアミィが退避する前にそれを殺すのが最適解だった。

 とはいえそんなことは俺が一番よくわかっているから、当然妨害はする。

 しかし、それ以前にアンドラスは魔法陣の外に出られない。

 こういった魔法陣は祭壇と同じ効果を発揮するのだ。

 悪魔である以上、力の半分を他者と共有しない限り、この魔法陣を突破することはできない。

 そしてそれはアンドラスのプライドが許さないだろう。

 

「クソクソクソ! 僕に近づくなああああああああ! 僕は、お前みたいな薄汚い人間に、殺されるなんて……ありえない!」

「ありえないことを起こすために、俺はここにいる!」

 

 アンドラスはとにかく俺を近づけないように必死だ。

 この状況で奴が俺をどうにかする方法は二つ。

 一つは普通に俺を殺害すること。

 アミィでもよかったが、そちらは退避を許したことでほぼ不可能になった。

 もう一つがこのまま時間切れまで粘ること。

 と言ってもこちらは現実的ではない。

 アミィがかなりの魔力を魔法陣にぶち込んだからだ。

 退避時の保険も考えてそこそこ残してはあるはずだが、それでも一時間はこの場にアンドラスを留まらせることが可能だろう。

 仮にアンドラスをその一時間で殺しきれなかった場合、アンドラスを制圧できていればさらにアミィや俺の魔力を注ぎ込むことでおかわりが可能だ。

 

「だいたいなんなんだよお前ぇ! わけがわからない、生き残るためにバカそのものとしか言えない選択を取ることもそうだが、その目! その目ぇ!」

「だからどうした……!」

()()()()()だろうがああああああ! なぜそうもブレない! なぜそうも輝いている! その目は悪魔を狂わせる目だ。お前みたいな異常者がいるからあああ!」

 

 そんなアンドラスの弾幕を、俺は炎で受け流しながら近づいていく。

 どれだけバカみたいに弾をばら撒こうと、本体が動けないのであれば目指すべき場所ははっきりしすぎている。

 俺は弾幕を掻き分けるようにしながら、ゆっくりとアンドラスに近づいていった。

 

「……そうか、ずっと疑問だった。悪魔ってのはどいつもこいつも命の輝き中毒だ。なのにどうしてお前だけ、悪魔が目をかけることのない連中にばかり力を与えるのか」

「それがなんだよ……!」

「羨ましいんだな、お前はそういう連中が……! 賞賛よりも先に嫉妬がくるから、お前は悪魔にとって好ましい奴らと契約しない!」

「黙れぇ!」

 

 アンドラス以外にも、悪魔が好ましいと思わない連中と契約しようとする悪魔はいる。

 その理由が嫉妬によるものだとしたら、

 

「お前たちは生きてるよ……! 悪魔!」

「人の物差しで悪魔を測るな!!」

「だが……!」

 

 やがて、俺はアンドラスの目前に辿り着いた。

 怒りと焦燥と、そして羨望に歪んだ視線が俺を睨む。

 

「この、クソ! なんで悪魔の攻撃をものともしない! ただ悪魔の魔力を半分持っているだけじゃ、そんなことはできな」

「……だからこそ、人を弄び、俺の命を狙うお前は……邪魔だ!」

「が、ああああああっ!」

 

 そして、拳を振り抜いた。

 吹き飛んだアンドラスが魔法陣に叩きつけられ、停止する。

 そこへ俺は、さらに拳を振り絞った。

 

「いいことを教えてやるよ。人の魔力と悪魔の魔力は、同じ魔力であっても別物だ。だから人の魔力で身体強化をして、さらにその身体強化の効果を悪魔の魔力で増幅させるなんてこともできる」

 

 俺は、生まれた時から他人と比べて魔力が多かった。

 それを鍛えて、鍛えて、鍛え続けて今がある。

 十二の頃には魔物相手に負けることはないだろうと驕れるくらい強くなり。

 それでも契約者やオークのような強大な魔物には届かず。

 だとしても腐ることなく鍛えた魔力は、俺を裏切ることはなく。

 こうして、悪魔との契約によって完成する!

 

「そこに契約によって手に入れた身体能力を合わせれば……!」

 

 魔力を込めて、強化して、上乗せする。

 先ほどの一発とは比べ物にならない全力の一撃は、

 

「……っ、やめろおおおおおおおおおおお!」

 

 

 アンドラスを一撃で、叩き潰した。

 

 

 ◯

 

 

 悪魔が死んだ。

 そのことを知るものは、まだこの世界には数少ない。

 しかし、いずれはそれが少しずつ広がっていくことだろう。

 アンドラスの契約者に宿っていたはずの魔力が消失したことで。

 その先にあるものを、悪魔の死という事実に果てにどのような未来が訪れるのか、悪魔にすらそれはわからない。

 だが、確かにこの時、世界は動き始めた。

 悪魔の降臨より千年。

 もはや当然となった悪魔という上位存在が凋落し、混沌へと時代は動き出す。

 その中心には、ただ生き残りたいと願うだけの人類がいることを、世界はまだ、知らない。




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