人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者   作:せぞんのう

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2 悪魔、食い物にされる

 俺の前世は単なるどこにでもいる一般人だったが、そうも言っていられないのが異世界だ。

 田舎の寒村に転生した俺は、そこで自然の厳しさと向き合いながら魔力の扱い方を鍛えた。

 とにもかくにも死にたくないという感情だけは強く持っており、他にすることがないのもあって人間としてはうまく魔力を扱えるようになったほうだと思う。

 とはいえ、そんな程度じゃ生きていけないのがこの世界の過酷さなのだが。

 

 俺の住んでいた村が壊滅したのは、俺が十二になる頃だっただろうか。

 原因は、悪魔と契約を果たし、力を手に入れた盗賊だ。

 この世界には悪魔という上位存在がいるということは、以前から聞いていた。

 しかし、村の周辺に悪魔はいない。

 それにこんな片田舎じゃ、悪魔と関わることなんてそうそうないと思っていた俺の考えは甘かったのだろう。

 何より、悪魔はどうだか知らないが、魔物とそれなりにやりあえるだけの実力はあった。

 悪魔と契約した人間を倒すことはできなくても、撃退することくらいできるのではないか。

 そんな慢心も、どこかにあったのだ。

 しかしそれは、あまりにも甘い考えにすぎない。

 悪魔と契約しているか否か、その二つにはあまりにも越えがたい壁のようなものがあったのだ。

 

 この世界という盤上に駒として上がることのできる権利を持つ存在は、そのすべてが悪魔との契約を果たしている。

 現在国を統べる王族は、代々悪魔と契約を果たしそれを王権としているそうだ。

 それくらい、悪魔との契約は権力を手に入れるのに必要なことなのである。

 

 悪魔が契約するのは、真っ直ぐな人間。

 自身の中に強い信念を持ち、その信念に従ってただ愚直に進み続ける事のできる人間だ。

 それを悪魔は「生を謳歌し、輝いている」と評価する。

 しかし、その輝きの色に対して悪魔は貴賤を設けない。

 他者を博愛する正義の心を持つ人間と契約したりもするし、ただ己が欲望のために悪事を働く人間とも契約を結ぶ。

 そしてその契約元となる悪魔が、どちらも同一だなんてことがよくあるのだ。

 

 結局、この世界は悪魔が支配するボードの上に成り立つゲームなのだろう。

 しかし、俺はそれでも構わないと考える。

 結局、俺は自分が生き残れればそれでいいのだ。

 とはいえ、他者を蹴落としてまで生き延びようとは思わない。

 それでは俺の故郷を奪った盗賊と同じになってしまう。

 だから俺は、悪魔たちが言うように、生きて、生きて、生き抜いて、その輝きとやらを見せつけてやろうと決めたんだ。

 

 そんな俺だが、契約する悪魔の選択に関しては慎重だった。

 まず、悪魔はその総数が七十二柱と非常に豊富な種類が存在する。

 加えて、それぞれ得意とする権能が異なり、契約した際に得られる能力もまちまちだ。

 更に、有名な悪魔の能力は非常に詳細に知られており、下手すると簡単にこちらの能力を知られてしまう。

 だったら、あまり知名度のない悪魔と契約するのがいい。

 他にも一つ大事な理由があるんだがこっちはまあ今は触れなくてもいいだろう。

 

 そこで各地を巡って、伝承を集め、知られざる悪魔を探し出した。

 おかげで村が壊滅してからそこそこの年数が経ってしまったし、危険な経験も何度かあったが、ようやく目的の悪魔の元までたどり着いたのである。

 

 それが、アウナス。

 まさか契約した人間はおろか、試練を与えた人間すらいないなんて思わなかった。

 おかげでアウナスは、何やらやたらと俺のことを気に入ったようである。

 別に悪いことというわけではないだろうけれど、果たして今後どうなってしまうのか。

 俺にはさっぱり、見当もつかないのであった。

 

 

 ◯

 

 

「――ねぇ、ねぇねぇねぇ、ルセラ、ルセラルセラルセラ! 貴方は私を、私だからこそ契約したいと思ってくれたのね!? 嬉しい、嬉しいわ!」

 

 俺が試練を乗り越えた後、アウナスは俺のことを知りたがった。

 初めてやってきた人間だからだろう。

 だから話したのだ、これまでの経緯を。

 別に隠すようなことではない。

 とはいえ、一応言い方には気を使ったけどな。

 知名度が低いからとか、そういう身も蓋もない理由じゃなくて、力を知られていないことの方が大事だと強調して。

 するとその言い方をずいぶんと気に入ったのか、こうしてアウナスは俺の周りを楽しげに浮遊しながら嬉しい嬉しいと喜んでいる。

 

「なぁ、アウナス」

「――アミィでいいわ。親しい悪魔はみんなそう呼ぶの。……もうずっと呼ばれていないから、ルセラは人間だけど特別に呼ばせてあげる!」

「じゃあ……アミィ。それで、最高の力っていうのは……どんなものなんだ?」

 

 とはいえ、ずっとそうやってさせているわけにも行かないだろう。

 時間に余裕がないというわけではないが、このままにさせておいても仕方がない。

 そういうわけで問いかけると、アウナス……アミィはにんまりと笑みを浮かべた。

 

「もう、せっかちさんなのね、ルセラ。ええ、いい、いいわ。与えてあげる。貴方は最悪の試練を乗り越えたのだもの」

「それはどうも」

「もっと喜んでいいのよ? 普通の人間にやったら、きっと心が壊れてしまうでしょう。それなのに貴方はああやって何気なく……ああ、思い出したらまた胸がドキドキしてきちゃった!」

 

 それから両手を頬に当てて、くねくねと悶えるようにしながら語る。

 なんだか、悪魔というよりはませた少女にしか見えない。

 最悪な試練といっても、アレは非常に単純極まりない試練だった。

 人によっては、難易度を最悪に引き上げても普通に耐えることならできるのではないだろうか。

 いや、アミィは長時間試練を与えると言っていた。

 なら、俺の場合効果が見込めないから早めに切り上げただけで、本来ならもっと長く責め苦を味わっていたのだろう。

 そう考えれば、単純極まりないからこそゴリ押しで最悪になりうる試練なのだな。

 まぁ、今は気にすることでもないけど、ようするに――アミィは未熟ながらも悪魔であるということだ。

 油断してはいけない。

 

「じゃあ、これ! じゃじゃん、この指輪! キレイでしょう!」

「……燃える宝石のようだな」

 

 そう言ってアミィがとりだしたのは、一つの指輪だった。

 それはリングそのものが朱々(あかあか)と輝きを放ち、どこか吸い込まれてしまいそうな力を秘めている。

 

「これはね、私の力をいっぱい込めた指輪なの。これを身に着けている限り、貴方は私の力を最大限引き出すことができるわ!」

「へぇ、それは便利だ」

「ただし、()()()()()使()()()()()()()()。身につけてさえいれば、誰でも力を使うことができるの」

 

 ――なるほど、流石に悪魔との契約は一筋縄ではいかないようだ。

 

「もしこの指輪が他者に奪われるようなことがあったら――それが貴方の敵対者なら、私が貴方に与えたこの力は、きっと貴方に牙を剥くでしょうね」

「……なるほど」

「ねぇ、力っていうのは道具にすぎないのよ? それを使うのは、貴方という人間。だからこそ――試練を乗り越えた貴方には、それをどのように使うのか、しっかり考える責務がある」

 

 ふと、アミィの笑みにどこか深淵へ引きずり込まれるような末恐ろしさを感じる。

 悪魔は上位者だ。

 人を弄び、高みから人を見下ろして嗤う超越者。

 アミィもまた、その一つであることを否応無く実感させられる。

 だからこそ俺は――その指輪に手を伸ばす。

 ただ触れるだけでも、沸き立つような力がその身に宿る。

 ああ、これが求めてきた悪魔の力。

 この世界を生き抜くための――生存の権利。

 それを俺は――

 

「ありがとう、アミィ」

 

 

 口の中に放り込んで、飲み込んだ。

 

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――えっ?」

「これで、俺は……どうした?」

「な、なんで……なんでのみこむの……?」

「いや、だって……身につけてるかぎり力を使えるんだろ? だったら()()()()()()()、肌身から離す必要は無くなると思って……」

 

 最悪、別の穴から出てきてしまう危険性はあるものの、悪魔の力なら取り込めばなんとかなるだろうと思っての行動だ。

 悪魔なんだから、そういうことくらい想定しているかと思ったが、していなかったらしい。

 しかしアミィは、更にとんでもないことを言ってのけた。

 

「あの、えっと……その……その指輪には……私の力の()()を込めたの。だから、えっと……今の貴方は半分私……というか……」

「……え?」

「悪魔は…………半分以上の力を他者に分け与えると……その他者も()()()()とみなされるの」

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………えっ?

 俺達は――完全にどうすればいいかわからなくなって、互いを見つめ合うことしかできないのだった。

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