人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者 作:せぞんのう
「……なんでそんな物渡しちゃったんです?」
「だ、だって……私の初めての契約相手だし……私にとって最悪の難易度の試練をこんなに簡単に突破するんだもの……気合い入れて力を渡そうと思っちゃうわよ……」
「……完全に半分の力を渡す必要はなかったんじゃないです?」
「与える力なんて後からいくらでも調整できるもの……あと敬語やめて……他人行儀で嫌だわ……」
「お、おう」
なんとも微妙な空気が流れていた。
アミィの力でともされたであろう炎に照らされた、地下の薄暗い祭壇。
ジメジメとした、古ぼけた臭いが鼻腔をくすぐる。
そんな状況が、どこどこなく最適な状況に思えてしまうくらい、微妙な空気だ。
涙目になって顔を俯かせるアミィと、どうしたものかと視線を彷徨わせる俺。
き、気まずい……
「と、とりあえずそれなら……力を回収してみるってのはどうだ? 道具の状態でできるなら、吸収されてもできるんじゃないか?」
「……できないわよ」
「えっ」
「だって吸収されてるんですもの! 完全に貴方のものになってるんですもの!」
――そもそもの話、普通悪魔の力をこうやって目に見える道具として渡すことはほとんどない。
大抵の場合は、身体に魔法陣を刻んだりして力を明け渡すそうだ。
道具を人に願われた場合でも、力を直接与えて道具を作るのではなく、その力を使って道具を”生み出す”ことになるらしい。
これに関しては、俺もこれまで契約に関して調べてきた中で知っている。
ただ、すべての事象について調べたわけではないから、今回みたいに道具に力を込めて渡すこともあるんだろう……と、疑問には思わなかったのだ。
「そもそもどうして道具に力を込めるなんて……」
「他の悪魔達がやってなかったからよ! 最初に考えた時は、すごいナイスアイデアだと思ったの! それがこんなことになるなんて……」
「ああ……」
アミィの言うことは、なんとなくわからないでもなかった。
たまにあるよな、そういう思いついた時はいい考えだと思ってたやつ。
でもそういう誰も挑戦したことのないことに挑戦するって、大抵は先人が思いついたけどやらなかったことなのだ。
四次元殺法コンビもそう言っている。
「しかしそれだと、普通の契約でも身体に刻まれた魔法陣を皮膚ごと切り取って食べれば、力を奪えるんじゃないか?」
「こ、恐いこと言わないでちょうだい!? それはできないわよ、あくまで魔法陣は契約の”証”。力を与えているのは目に見えない”パス”のようなものがその役割を担ってるの」
「…………多分だけど、それはこうやって力を明け渡すと俺みたいなやつに吸収されるから、それが自然な方法になったんじゃないか」
「やめてやめてやめて、私はお馬鹿じゃないの! おたんこアミィじゃないのよ!」
なんか、今までにもそうやってバカにされてきたんだろうな、みたいな蔑称だ。
悪魔内でのアミィの力関係が、なんとなく察せられてしまう。
「……私って、どうしてこうなのかしら」
「ええと……」
「昔からこう、おっちょこちょいで、ドジで、気合を入れたことほど空回りするの。悪魔が人類と契約を交わすと取り決めた時もそう。私は流されるままに契約悪魔の一柱になって……」
……なんか語り出したぞ。
これ、俺が聞いていいやつか?
「最初のうちは、私もやる気だったのよ? でも、今思い返せば周りにいいように吹き込まれて、やる気にさせられてただけなのかしら。だって、与えられた契約の祭壇は、こんな貴方しか来ない寂れた場所だったのよ」
「それは……」
「――――
……千年。
それは、悪魔たちが地上に降臨して、人と契約を交わすようになってからの時間と一致する。
この千年間、アミィはずっとこの場所で人間を待ち続けたのか?
いや、そもそもだ。
悪魔っていうのは、こういった祭壇や、召喚魔術で呼び出されない限り人前に姿を表さないという。
悪魔が人々を観察する方法は、自分の契約相手を介して周囲を確認すること。
だから契約相手――眷属を悪魔は増やそうとする。
人間の輝きを、特等席から鑑賞するために。
つまりそれって――――
「アミィは千年ものあいだ、ずっとここに閉じ込められてたのか」
俺の言葉に、アミィは言葉無く頷いた。
再び、沈黙が広がる。
なんとなくその沈黙が、アミィの抱えてきた孤独に思えてならなくて、俺も言葉を失ってしまった。
そりゃあこんなにもアミィの悪魔としての試練は洗練されてないし、俺に対しての評価を上げるわけだ。
何より、アミィはあんなにも嬉しそうだったわけだ。
それを視ていると俺は、なんとなくアミィを放っておけなくなってしまう。
アミィは悪魔なのに――俺の故郷を奪ったやつと、その本質は何も変わらないのに。
するとふと、あることを思いついた。
というか、思い至ってしまったというか。
「……なぁアミィ? ちょっと試したいことがあるんだが」
「な、何かしら」
「これが成功すると、ちょっとおもしろいことになるかもしれん。失敗すると……とんでもないことになるんだが。というかなってるんだが、すでに」
「ええと……ど、どうぞ」
……そもそも許可いるか? これ。
いや、とにかく。
「アミィって、こうやって地上に存在している場合。どこまで移動できるんだ?」
「どこって……この魔法陣の上だけよ」
「じゃあもう一つ、俺は完全にアミィの半身になったんだよな?」
「ええそうよ。私は貴方で貴方は私。どちらかが死ねばもう片方も死に、貴方は私の力を使える」
そこまで一心同体だったのか。
とはいえ、今はそこが問題になるわけじゃない。
大事なのは、
「じゃあ、俺が外に存在できるってことは、
その言葉に、アミィはぽかんと口を開けて俺を見た。
感情が表現できない、そういいたげな表情だ。
でも不思議なことじゃないだろ。
アミィの半分が俺ってことは、アミィの半分は俺……つまり人間なんだ。
この魔法陣が悪魔を閉じ込める檻のようなものならば、半分人間のアミィなら、抜け出すことだって不可能じゃないはず。
だから俺は、躊躇うことなく手を差し伸べる。
「俺と一緒に行かないか、アミィ」
「…………え」
それは、思ってもみないようなことを言われた顔だった。
いや、一瞬脳裏をよぎったけど否定した、みたいな顔だ。
「なんだよ、行きたくないのか?」
「い、いえその! そんなこと全然ないわ! 行きたい! 外に行きたい! ……でも、一緒に行ってくれるだなんて思ってもみなかったのよ」
「まぁ、外に行くだけなら俺がいなくなった後に行けばいいからな」
「そ、そうよ! 貴方にとって利点がない! だって私は……その……見ての通りポンコツ悪魔だし」
どことなく不安げな顔だ。
けれども、俺は力強くそれに返す。
「利点ならあるさ。――俺は生き残りたい。どんな手を使ってでも、生きて、生き延びるんだ。そのために――
「なっ、あ――」
何よりアミィは俺の半身だ。
これを放置して、知らないところでアミィが死んでしまうよりは、近くで守れたほうがいい。
だから俺は、アミィの力を欲しいを思う。
「それに君はまだ、他の誰とも契約したことがないんだろ? だったら何も気にすることはない。何も悪いことしてないんだから、俺は君を拒絶する理由なんてどこにもないよ」
その言葉に、アミィはしばらく顔を伏せた。
何かを言いたげな、けれども言い出せない表情。
アミィにも、何か秘密があるのだろうか。
けれども、悪魔の特性を考えればアミィは嘘をついているわけではないことは確かだ。
だから俺は、アミィを信用している。
そんなアミィは……
「――もう、貴方って……とっても悪い人なのね」
どこか弱々しげな、けれども幸福そうな笑みを浮かべて、俺の手を取るのだった。