人の生き様大好き系上位存在が蔓延る世界に生まれ落ちた生存本能極振り転生者 作:せぞんのう
大悪魔、序列五十八位、アウナス。
アミィとも呼ばれるこの悪魔は、悪魔の中で”落ちこぼれ”と呼ばれる存在だった。
この世界において、悪魔の序列は純粋な力――魔力量で決まる。
ただこの序列と実際の強さがイコールかといえばそうではなく、魔力量の少ない下位の悪魔の中には、特殊な能力を有し上位の悪魔に勝る存在もいた。
しかしアミィの能力は、炎を操るというただそれだけのもの。
他の悪魔はもっと複雑な能力を持っていたり、複数の能力を使い分けたりすることも可能。
アミィだけが、ごくごく当り前の力しか使えない欠陥品なのである。
序列が五十八位というのもよくない。
中途半端に低いのだ。
これが一番低いのであれば、それはそれで特別とも言えるだろう。
序列最下位、七十二番目の悪魔”アンドロマリウス”やその一つ上の”ダンタリオン”などは序列一桁の悪魔とやり合っても一歩も引くことはないはずだ。
だからこそ、アミィは祭壇の割り当ても最悪だった。
少なくとも悪魔たちが地上に降り立った当初は、周囲に人など住んでおらず、祭壇の場所も森の中のこれといった特徴のない場所。
更にはルセラの話だと、そもそも祭壇の上に岩が置いてあったという。
誰がそうしたのかは知らないが、これでは人が入ってこないのも当然だ。
少なくとも、千年の間アミィはこの祭壇で孤独に過ごしたのである。
――だが、そんなアミィのもとにも、救いの手は差し伸べられた。
ルセラがやってきてくれたのだ。
十代後半くらいの青年に見える。
肌の色が少し浅黒いのは、別種族の血を引いているからかもしれない。
ダークエルフ辺りの血を引いているとしたら、不幸なことだ。
アミィの記憶が正しければ、千年前はそういった”闇の種族”は激しく迫害されていた。
今だと少しはマシになっているのだろうか。
悪魔という闇そのものが跋扈しているのだから、多少はマシになっているかもしれない。
だが、そんなことよりもアミィが惹かれたのはその瞳だ。
あまりにも、その瞳には一つの渇望が焼き付いていた。
生存という、人類ならば誰もが望むその感情を、ルセラは誰よりも強く抱いている。
一体どのような経験をすれば、ここまで生にしがみつこうと考えるのだろう。
どちらにせよ、ルセラの存在は悪魔からしてみれば垂涎ものだ。
どんな悪魔だろうと、この瞳を見せられたら一発でやられてしまうに違いない。
アミィの場合、それはひどいものだった。
なにせ千年も王子様の到来をアミィは夢見続けてきたのだ。
人との付き合い方なんて、想像の中でしかしてこなかったアミィである。
理想の存在がいきなり眼の前に現れるという状況は、あまりにも衝撃的すぎた。
しかもその存在が、精一杯考えた”最悪”の試練をやすやすと突破してみせたのである。
運命を感じずにはいられない。
――が、その直後に自分の力の半分を食い物にされて、アミィはパニックになった。
少しでも威厳を持って取り繕おうとしていた仮面も剥がれ、素のままの姿で右往左往するしかない。
しかもその後に起きたことはルセラにとっても想定外だったようで、二人して空を仰いでしまった。
どうすればいいんだ、こんなの。
だが、ルセラはそれでもアミィに道を示してくれた。
悪魔は普通、現世に干渉することはできない。
大抵の悪魔はルールの裏を突いて間接的に介入したりしているそうだが、アミィにはそんな力もなければ知恵もなかった。
半分を人間に与えることで自分の半分を人間として、魔法陣の”檻”をすり抜けるなど、思いつくはずもない。
全ては偶然に偶然が重なった結果。
けれども、アミィは確かにルセラの手で、この牢獄から抜け出したのである。
きっと、悪魔としては初めて、自分の”足”で地上を踏みしめたのだ。
――しかも、君が欲しいだなんて。
ルセラはあまりにも情熱的だ。
こんなにもアミィのことを思ってくれるなんて。
アミィは幸せものである。
あまりにも幸せすぎて、幸せすぎて、幸せすぎて――それを手放すことが、怖くなってしまうくらい。
だが、だからこそ。
アミィは怖かった。
自分が弱いと知られることが。
落ちこぼれだと、役に立たないのだと罵られることが。
『グォォォォオオオオオオ!』
――外に出ると、そこには巨大な豚の魔物が立っていた。
オーク、とかいったか。
この森に昔から生息する、人型豚の魔物。
「チッ……岩をどかした時の音で、ここの存在に気づいたか」
「ま、魔物は祭壇の中に入れないわ……ずっとルセラが出てくるのを待っていたのね」
「ああ。ここに来るまで、ずっとこいつらの目を盗みながらスニーキングしてたからな、その生態は多少解ってるつもりだ」
それを前に、ルセラはオークを睨みつけながら、言う。
「こいつは――俺を弄ぶために、ここで待っていたんだ」
「……っ」
弱者を甚振るため。
まるで、先程までただの人間だったルセラと、落ちこぼれのアミィを嘲笑うかのように。
オークは――嗤っていた。
「だが……もうさっきまでの俺とは違う」
「あっ……」
「悪いが、ここは通してもらうぞ!」
そんなルセラが、掌に炎を浮かべた。
煌々と燃え盛り、火の粉を散らすそれ。
アミィの力を、もう扱えるようになったのだ。
多分力そのものを取り込んだから、使い方も自然と理解できるのだろう。
赤子が、ひとりでに立ち上がって歩けるようになるのと、同じように。
しかし――
「喰らえ!」
『グゥゥゥォオオ!』
――
燃え盛る炎は、確かにオークへ直撃した。
想定外だったのか、それとも受けても問題ないと判断したのか。
どちらにしろ、炎は一時的にオークを覆い――中から、傷を負いながらも生き延びたオークが飛び出してくる!
『グォオオオオオオ!!』
「チッ!」
「あっ……!」
ルセラは隣で不安そうにしていたアミィを抱えると、そのまま横っ飛びする。
回避自体は余裕があった。
というよりも、オークは明らかに弱っているのだ。
炎が効いていないわけではない。
もう一発当てれば、おそらく倒せるだろう。
しかし――
「……弱い」
ぽつりと、アミィは零していた。
悪魔の力の半分を手に入れた男の攻撃としては、あまりにも弱いのだ。
オークは決して弱い魔物ではない。
悪魔と契約していなければ、どれだけ鍛えても人間が勝利することはありえないだろう。
しかし、悪魔と契約していればなんてことはない敵でもある。
そんな魔物を、アミィの力は一撃で倒すことすらできない。
それはあまりにも――悪魔として、
「……ああ」
バレてしまった。
自分が弱いということが。
ルセラをがっかりさせてしまうだろう。
ああ、こんなことなら――アミィはルセラと契約するべきではなかったのだ。
ルセラなら、どんな悪魔とだって契約できる。
それをアミィという役立たずに縛り付けてしまった。
悪魔との契約は、一人につき一度だけ、一生につき一度だけ。
もうルセラは、「生き残りたい」という願いを叶えることは――――
「――――そんなことはない、アミィは強いよ」
だが、まるでそんなアミィの考えはお見通しとばかりに、ルセラは言う。
「え――」
「炎は、原初の力だ。人々に文明を与え、そして生き残るための知恵を与えた。そんな力が、弱いわけがないだろ。それに、炎を操れるなら、使い方はただ相手にぶつけるだけじゃない」
言いながらアミィを下ろすと、ルセラは両手に炎を浮かべた。
それが、ゆっくりと剣の形に”収束”していく。
やがて、その色は赤から黄色、白、そして青へと変わった。
まばゆい光のように、ルセラの手に収まっている。
「たとえば――」
『グォォォォ!』
「敵を
――――そして、飛び出したルセラは襲いかかるオークを炎の剣で切りつけた。
すると、ドロリと切った部分が熱を帯びて
真っ二つになったオークが、自身の死を悟るまもなく地に倒れた。
アミィはその後姿を見た。
見てしまった。
それを、美しいと胸のウチで思う。
容姿が、ではない。
在り方が。
魂の形が。
まるで、自分に寄り添うかのようにそこにある。
ただ、ちょっと怖いところも彼にはあった。
いきなり指輪を飲み込んだり、初見のはずのアミィの力をアミィよりうまく扱ってみせたり。
でも、だからこそ目が離せない。
もっともっと、気になってしまう。
そんな存在に、欲しいとまで言われてしまったら。
――まぁ、言うまでもなくその者の脳みそは、木っ端微塵に破壊されたあとまったく別の形に再生してしまう。
好き、好き、好き、ルセラ、好き、好き、好き、ルセラちょっと恐い、でも好き、恐いところを見ると更に好きになる、好き、好き、好き。
今のアミィはだいたいこんな感じの思考回路をしていた。
世の中には、ヤンデレという言葉があるが、なんというか。
流石にこれでヤンデレになってしまうのは仕方がないところがあるし――ちょっと可愛そうだと思う。