いつしかの誰かさんが言った、流木みたいなやつとは、こういう事を指していたのだろう。恐らく流しに流され、そこらの川辺で干からびて死ぬのが私の人生の落ちなのだろうかなんて、くだらないこと思いながらもやることをやる。
仕事上特殊な装いと
というか、自分からバラさなきゃバレないのだからそんな問題は的外れなものであるからして…
「ビンゴ」
吐いた言葉は、正解の音。ここは『ジャックポット…!』の方がカッコよかったか?なんて思いながら、隠し通路の奥と非現実的な仕掛けをもって厳重に保管された紙の束を手に内容を軽く通す。
私たちのような、この筋で飯を食ってる奴らにとっちゃザルな警備ではあるが…、うん探してたもので間違いない。坊主丸儲け極まりない仕事であったが、これで
念のため、紙の内容を影にして事務所に飛ばしたところで私の仕事はお終いとなる。
まあ最も、私はその前にここから逃げおおせる必要があるわけだ。
それじゃ
(あとは任せたぞ)
暗転する視界。
そこで私の意識は黒で塗りつぶされた。
▼
人間なんて似たり寄ったりで、どいつもこいつも信用に値する奴なんかいない。なんせ、些細なことで大きくズレてしまう奴なんてこの世にはごまんといるのだから。
だが、それにしてもこいつは酷い。
部屋の中には血、肉、骨、血、肉、骨。
死屍累々、屍山血河なんて言葉は、こんな時に使うのだろう。生きててこんな言葉を思い浮かぶ場所なんて、数えるほどしか出会わないだろうが…。
これらは、もとは目的の人物が運営していた会社の従業員。その成れの果て。自前の個人情報物質と目の前のそれらが嫌なほど一致してしまっているのがその証拠。目の前で
最後まで彼らは、自身の雇い主及び会社を信じていたのだろうか。真実は分からないが分からずじまいだが、結果がこれ。やっぱり人は信じるもんじゃないな、と思い浮かべ、隣のヤツに問う。
「どうだ?お前でもこいうのは気持ち悪いか?いや、悪い…無粋な質問だったか」
「…」
「ふっ何となしにお前の気持ちが分かるようになってきたな」
「…」
「そういうわけだ、気負いなく殺せ。最後までオペレーターは勤めてやる。そういう仕事だからな」
「…」
「聞いてるんだろ
「…?」
「貴様は首を傾けるな、ジョークだ…流せ。
それよりも…
来るぞ!!」
「がアああァアァ!」
疾走、音速、ナニカに取り憑かれ、常軌を逸した体の構造から来る尋常ならざる速さ。それが、「 」へと迫る。それだけでなく、周囲に散らばったかつての体の破片たちが、鋭い礫となり、部屋を彷徨い始める。嘆きが怨嗟がかつて起きた悲劇が、化け物となり、私たちの敵となる。
「そこは私たち味方になるトコだろ」
「モウ少シ…!!モウ少シデエエエエ!!!アラスナアアア」
「散々人様の人生を荒らしといてよく言うよ…灸を据えてやりな!!」
「…!!」
赤い爪を振りかざし、赤黒い血がダラリと垂れた口もとから生える牙をもって襲い来る。だが、単調で理性のかけらもない本能から来る殺意は、男にとっては退屈なものだった。公園を闊歩する鳩を見るような気持ちで化け物を見る。捌き、払い、また捌く。これらを幾度となく繰り返す内に、化け物の癖が見えてくる。個人に生来から宿る厄介な線は致命的な弱点だ。
が、男が気にするのはそこではなかった。周りの礫どもだ。今も冷気を放ち、空中に留まる悲劇の証左は、常に男に標準を定め、群れとなして肉を抉らんとする。銃などで壊そうが、また液となって
「なるほど、火か」
超高温度且つ圧縮した炎を、気のいいおじさまたちに投げ飛ばす。あらやだ奥さん、ストライクですわよ。周りのこれらが、ちょっとやそっとの熱では蒸発しきらないだろうことは一目瞭然。こいうのは、0か100で試すのがよかったりする。この場合、隣の男は最適解を選んだわけだ。みるみる内に部屋が掃除されていき、元の部屋の面影が表出され始める。そして残り始めるは、元素Caの塊。あーあ、こっちの方が妙にリアリティ出てくるなあ、と思った矢先、化け物は叫んだ。
「ヤメテクレレレエエエエ!!ワタシノ…ワタシノタカラ!カゾク!!ジュウギョウインタチヲヲオコロサナイデクレエエ!!!」
「醜いなあ!こっちは金がかかってんだ!お前の言い分なんざ知るか!言い訳は依頼の発生前にしとけ!!」
化け物は更に加速し始めた。それだけではない。モーションの変化も顕著だ。癖は相変わらずだが、より大振り、より荒々しい獣のような動きになりだした。シルエットも大きく膨らむ。獰猛な獣のようにかわり始める。まるで血に救いを求める某狩人のゲームに登場する聖女のようだ。あっちは女性であった分幾分かマシだったが、こっちは脂ぎったおっさんである。よりグロデスクだ。
「お仲間さんは、どうにかなったがあの豚の体力は依然として底なしだ。
あたりに転がっている骨で突き刺してみたらどうだ?案外効果覿面やもしれんぞ」
「アァア嗚呼ァガアア!」
私の思いつきに従うよう、男は颯爽に下に散らばった骨を持ち上げ、敵の攻撃を軽くあしらいつつも鋭い風で研ぎ上げた。骨のナイフの完成である。人の弱点は相場が決まっている。ゾンビゲーや
百発百中、穿つは脳天。狙いは完ぺきであったがそれは丸太のような腕に阻まれ、それに突き刺さる。
「アアァア ィダイ イタイイイイイ!!!」
「やっぱりコイツラの本音はお前を憎んでいたらしいな。自分都合の思い込みは、他人に敷くもんじゃない。いつしかしっぺ返しを食らっちまう。今みたいにね。
にしても見たかい、やっぱり弱点はコイツらしい。目には目を歯には歯を、妄執には怨念をってね」
「…」
「少し違うって?細かいことは気にするな。さあラストスパートだ!」
男は、徐に懐からへんてこなデバイスを取り出すし、角にあるスイッチを押した。
『カチッ』
気持ちのいい音ともに、デバイスは淡い青緑色の線を描く。同調、拡散、同意、結合、一瞬の出来事ではあるが、世にも奇妙かつ複雑な工程をもってして、それは1対の刀と銃を作り出す。
【特殊塗装武具:怨骨黒刀】
【特殊装填機構:氷煙骨黒銃】
どちらも元は、「黒刀」と「黒銃」という武器だが、周囲の物質をデバイスを通して特殊魔素に変換し、一次的な特殊塗装を施す。すると、このように全く別の(塗っただけ)武器が出来上がるわけだ。
今回用いたのは、化け物の有効打となる骨。正確には人の恨み辛みと心のこもった気持ち。
よく人の怨みや辛みを髪の毛に込める奴がいるが、あれと似たようなものだ。
これを作った奴は、『いちいち一から武器作るの嫌だ』の一言を理由として作成した。その期間たったの2日。夏休みの自由研究でもなしに、よく作り上げたものだ。
そして今、奴はこたつの中で惰眠とみかんを貪り尽くしている。
『ニートサイコー!』
あーなんか聞こえた気がするが無視しよう。こちとら、今も脂ぎったおっさんと隣の無口ヤロウと血みどろランデブーだ上等だコノヤロウ!!
化け物は爪を投げナイフのように飛ばし、男はそれを刀ではじき飛ばす。動きは完全に見切ったが、身体をもう少し慣らすのと、もう隠し玉みたいなのがないかの確認の為だ。体を少し切ってみる。血飛沫と悲鳴を上げる。
肩と脇を撃ってみる。また鮮血と呻き声が舞う。
というか…
「お前、遊んでるな…」
「…ッ!」
「いや、最近こういう仕事がなかったからな…カンを戻してる…か?」
「…」
「仕事熱心なのは結構だが、私は早く帰りたいんだ。お前の取り分を多めにしてやるから早くしろ」
男が体を少し震わせた気がしたが恐らく気の所為だ。
そしてその後、世界から音が消えた。
一閃
そして崩れゆく膝。
嫌に耳に残る発砲音が鳴り響く。
最後は肩が地面に着いた音がなった。
後ろを見ると、喉元に大きな切り筋と後頭部に小さい穴。特徴的な姿は、中肉中背な一般男性となっていた。化け物に変わりきる前の標的だ。
つまるところ、依頼達成。
あとは、例の通路に転がっているだろう『私』を回収して任務完了である。
「やはり気持ちのいい仕事じゃない。
これを洗い流せるのは、仕事後のシャワーと依頼達成後の銀行残高を見た時の爽快感だけだな」