初投稿に伴い、初日は複数回投稿をいたします。
初日投稿は18:00に第1話(本話)、19:00に第2話、20:00に第3話を投稿予定です。
その後はストックが切れるまで毎日18:00に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。
死刑囚の心境というものを想像したことがあるだろうか?毎日定刻まで自分の刑の執行が確定したことを知らせる刑務官の足音に怯え、何事もなく過ぎていくときの『まだ生きていられる』という安堵と、『まだこの地獄は続く』という絶望がないまぜになった心境。
断頭台に上げられ、いつ落ちてくるのかわからないギロチンの刃に怯える気持ちと言えばもう少しわかりやすいかもしれない。
しかし今俺が置かれている状況と決定的に異なるのは、俺自身が何か死刑となるような罪を犯していない点である。
なんの因果か転生という現象を経験し、目覚めた世界では破滅が約束され、更にはその前段階で理不尽かつ避けようのない死が待ち構えている。俺が一体何をした、と悲嘆にくれたのも一度や二度ではない。
だが途方に暮れているばかりで状況が好転するはずもなし。案ずるより産むが易しという先人の知恵に従い、自分が今できることを最大限やった。転生後の行動をまとめたり、知識が抜け落ちないように幾重にも備忘録を残したり、果てはワンチャンできないかと転生後の世界の技能を再現してみたり。
…予想外にもうまくいったのは不幸中の幸いと言ったところか。今は何の役にも立たないが、後々必ずや力となってくれるはずである。
そして、今日も死刑が宣告される(可能性のある)日がやってきた。五限目の古典という、俺の胃を盛大に破壊していくイベントのある日だ。願わくばこのままただの杞憂で終わってほしい。…それが叶わぬ願いであるという絶望的な確信もあるのだが。
「…ひどい顔、だね。
「あぁ
「見える、よ。…何か、悩みごと?」
いつの間にかそばにいた少女に返事をする。
周囲は彼女の容姿を理由に遠巻きにするが、意味がわからない。不思議な愛嬌があって可愛いだろうに。
「悩みごと、なぁ…五限の古典が憂鬱といえば憂鬱だな。昼飯食った後っていう一番眠い時間帯に、古典っていう一番眠くなる科目のコンボだぜ?たまったもんじゃねぇよな」
「うーん…それはわからなくもない、けど。でも、健吾くんが居眠りしてるどころか、うとうとしてるところも、みたことない、気がする」
「まぁ寝ないように頑張ってるからな。…でも、俺だって人間なんだ。寝る時は寝ちまうだろうよ。岡咲先生の授業で寝るなんてしたくないから、気合い入れてるけどな」
「……ふふっ。そっか」
ヘにゃりと笑い、その吸血鬼を思わせる鋭い犬歯が彰子の口元から覗く。…うーん、チャーミング。
…まぁ、いつ死ぬのかわからないから眠れないし、憂鬱なんだとは言えないな。
申し遅れたが、今の俺の名前は
◇ ◆ ◇ ◆
(……0.4秒の視線のズレ、微量の呼吸量の減少、瞳孔の縮小、脈拍の加速……健吾くん、無理してる)
(いつか君の隠し事を、教えてくれる日が来るといいな)
◇ ◆ ◇ ◆
「___そして右近の中将が三天の君に恋文を送ったことで、白滝の大納言が___」
件の地獄がやってきた。表面すら上手く取り繕えているか不安で仕方ない。俺の内心は発狂寸前である。
予習復習は欠かしていないので先生に当てられても問題はないが、それとこれとは全く別問題。もし死をあてになどして宿題を疎かにし、学業の成績が下がるなどしたら笑い話にもならない。
並列思考でこれくらいのマルチタスクは問題なくこなせるはずだが、今日はいつにも増して悪寒が酷い。夏場で冷房が効いている室内だから、という理由では断じてない。
ふと見上げた黒板には『恨みを持ちつつ情を断ち切れぬ女心』と書かれている。…恋文だの女心だの、そんなものにうつつを抜かしている暇など俺にあるものか。内心でどうにもならないツッコミを入れた。
「それでは傍線部①の時の三天の君の心情を…夏目くん!答えてください!」
おっと、早速当てられたか。えぇと、そこの答えは確か…。
「はい。『風情を理解しない右近の大将へのお断りの手紙を___」
そして、悪寒が最大に達する。
咄嗟に天井に目をやれば、思った通りの光景が広がっていた。
亀裂が拡大し、そこから放たれる圧で全身が押し潰される。
…あぁ、くそったれ。やっぱりこの過程からは逃れられないのかよ…。
そして、こちらを見つめて微笑みながら俺と同じく苦しむ彰子の姿を最後に、俺の意識は闇へと溶けた。
◇ ◆ ◇ ◆
「___流石に予想外が過ぎましたね。まさか放置していた世界から私を狙い撃ちにした魔法を使ってくるとは」
一つの部屋にて1人の女がSFじみたコンソールを操作しながら何らかの作業を行なっていた。とはいえそのデスクの上には多種多様なスナック菓子の袋が散乱し、そばには炭酸飲料の入ったペットボトルが置かれている。
加えて発言とは裏腹に声色や表情は全く乱れていないことから、その存在にとっては痛手でも何でもないことを意味していた。
「……これでよし。あの教室にいた全員の魂を転生させる処理は終わりですね」
女が一つのボタンを押し、画面いっぱいに『EXECUTION START』の文字が表示される。女の宣言通り、あの教室にいた自分への攻撃に巻き込まれたものたちへの補填は完了したのだろう。
そして再びスナック菓子を食べようと箸を伸ばそうとして___
「……ん?」
違和感に気づく。
瞬間、女の頭脳はその原因を特定する。処理の遅延を引き起こしている原因、その究明を終わらせ…
「……マジ???」
口角を釣り上げ、その表情を喜悦で彩らせる。
魂の大きさ、質、純度…全てにおいて人間の範疇を軽々と逸脱し、並みの神性存在にすら匹敵あるいは凌駕しているだろう。下手をすれば、女自身にすら届きうるほどの素質が眠っていることすら否定できない。
「……面白っ」
そして女は『何もしない』ことを決めた。
それが壊れかけの世界で何をなすのか、どんな結末を辿るのか、それを娯楽として鑑賞するために。