この世界線における『学園』とは高校のようなものである、としてご覧ください。
展開の問題で少々内容を変更いたしました。ご了承ください。
シュレイン・ザガン・アナレイト___シュンは転生者である。何の因果か自身が『山田俊輔』だった頃の記憶を持ってアナレイト王国の第四王子として生まれ、その知識と精神をもって幼少の頃から鍛錬を積んだ結果、常人とは比較にならない実力を持つに至った少年である。
そんな彼は妹のスーレシア——スー、そしてカルナティア——カティア___彼女も転生者であり前世の名は『大島叶多』___と共に学園へとやって来ていた。何のことはない、彼らも学園へと入学するというだけの話だ。
入学前にはエルフに転生した彼らの先生フィリメス・ハァイフェナスことオカちゃん先生とも再会し、学園に入学するための手続きを代わりにやってもらっていた。
そして入学式の終わった今、会わせたい者がいるからしばし待っているように言われ、三人は大人しく待機しているのだった。
『それにしても会わせたい人って誰なんだろ。普通に考えれば俺たちと同じく転生者なんだろうけど…』
『ほぼ確で転生者だろうな。具体的に誰かまでは分かんねぇけど、京也とか結花とかならいいんだがな』
『叶多みたいに二人とも性別が変わってないことを祈るよ』
『今それいうか!?』
シュンとカティアはお互いに日本語で会話を行う。知られたらまずいと思ってのことだろうが、近くでスーが聞いており、自分が理解できない言語で女と会話していることに嫉妬していることに気づいているのだろうか。
(……どうして兄様はこの女と…私だって、兄様の言葉が知りたいです……)
スーはまごうことなき天才である。剣も、魔法も、学問も、兄であり転生者という下駄を履いているシュンに負けず劣らずの成績を叩き出す生粋の現地人である。
しかしそんな彼女でも、シュンの日本語を解読するには至っていなかった。内容から類推しようにもサンプルとなる情報があまりに乏しく、推理しようにも元手が少なすぎてはいかに天才といえどもどうにもならない。
それを息をするように操る赤髪の女にスーが妬ましい気持ちを抱いていると、遠くから三人の人間を連れたエルフがやって来た。
フィリメス・ハァイフェナスとかいうチビながらも自分とは比べ物にならない力を秘めた存在。兄に近付く異性に無差別に殺気を撒き散らしていたスーに冷や水を被せた存在であり、何やら兄とも関係がある様子。
三人の人間は男が一人、女が二人。うち一人は男の側に控えており____見た瞬間に敗北を悟る。
___勝てない。
そう瞬時に理解してしまうほどに、その女は格が違った。自分も大概容姿は優れているという自覚のあるスーだが、そんな自分でも足元にも及ばない。否、勝負そのものが成立していない。
「ご紹介しますぅー。こちら未来の剣帝様と、次代の聖女様ですぅー」
あぁなるほど。
フィリメスの説明を聞いたスーは遅ればせながら理解した。
聖女であったならば仕方がない。アレはもはや人の域を超越した存在だから。人の領域で美を磨く自分が立つ土俵ではない。
何故か男の側に控えているのは気がかりだが、もしやそういう関係なのだろうか?
だがその理解は全くの的外れであった。
「お初お目にかかります、シュレイン殿下、スーレシア殿下、カルナティア嬢。レングザンド帝国第一皇子のユーゴー・バン・レングザンドと申します。以後お見知り置きを。こちらは私の従者のソフィアです。ソフィア、お三方にご挨拶を」
「はい」
ピシリ。そう擬音がつきそうになるほど硬直する。
この女は聖女ではない?どころか、この男の従者??
呆然とするスーの耳には目の前のソフィアなる女の自己紹介は入ってこなかった。
ようやく驚愕から復帰したスーが再起動したのは、すでに自己紹介が終わった後だった。
ちなみに本物の聖女のことはスーの頭の中から完全にすっぽ抜けていた。哀れなり、ユーリーン・ウレン。泣いていいぞ、長谷部結花。
◇ ◆ ◇ ◆
___なんで、こいつだけ。
彼…ユーゴーを見た時、シュンが真っ先に思ったことはそれだった。
女性からの人気は別れそうだが、それでも整っている顔。
背が高く、がっしりとした鍛え抜かれた実戦重視の体格。
瞳に宿る理性の静かな光と、落ち着いた理知的な雰囲気。
そして何より___すぐ側に控えるソフィアなる絶世の美女。
シュンとして生まれ変わってから数多の美少女や美女を身分の都合で見て来たが、ソフィアはそれら全てを色褪せさせるほどの美貌を誇っていた。
オカちゃんがいうにはこのユーゴーなる男は『夏目健吾』の転生した姿なのだという。
シュンは___俊輔は前世の頃から健吾のことが苦手であった。
健吾という男は究極的に公平なのだ。能書などではなくその者の本質を見て、人と接する際に一切感情的な分け隔てをしない。
その生き様を貫きつつも、他者とぶつかりそうならば譲ることもあるが決して芯は曲げない。
そんな彼の近くにいると自分の醜さや未熟さが浮き彫りにさせられるようで、俊輔は彼に対してとても大きなコンプレックスを抱いていた。
___お前はここでも、俺より上に行くのかよ…!!
思わずシュンは歯を食いしばる。自らのうちに燻る嫉妬の炎から目を背けるために。ユリウス兄様の弟がこんな感情を抱いてはならない、と己に言い聞かせるかのように。
それでもまだ諦めることはできなかったのか、シュンは鑑定スキルを発動させる。
コツコツ鍛えた影響でLVは9になり、詳細なステータスすら見通せるほどになった鑑定を持ってすれば、こちらが情報アドバンテージを得ることができると思って。
そして鑑定結果が表示されようとした瞬間___
___パチンッ!!!
「がっ____!?!?」
目の前で火花が散った。
痛みは全くない。しかし、いきなりのことで鑑定が完全に中断されてしまった。
「失礼。虫が飛んでいたもので」
シュンがようやく視界を取り戻した際、ユーゴーはシュンの目の前で親指と人差し指だけで羽虫を捕えていた。
羽虫は潰れておらず、バタバタともがくのみ。
それをピン、と明後日の方向へ弾き飛ばし、ソフィアから差し出された清潔なハンカチで手を拭いながら、ユーゴーは言葉を続けた。
「そういえばシュレイン殿下。これは余談なのですが…皇族や王族を無断で鑑定することは、一発で不敬罪としてその場で切り捨てられても文句は言えない所業だそうです。下手人が王族であれば即刻国際問題となり得るそうで……実に恐ろしい話だとは思いませんか?」
そうにこやかに告げるユーゴーに、シュンは曖昧に微笑むことしかできなかった。
◇ ◆ ◇ ◆
学生としての生活を送る裏で転生者を保護する活動を行っていたフィリメス・ハァイフェナス___岡崎香奈美はここ最近あることに頭を悩ませていた。
(……あの異常すぎるステータス。彼らは一体どんな手段で手に入れたというの…?)
フィリメスの有するスキル『生徒名簿』には、彼女の受け持つクラスの生徒全二十五名の情報が書かれている。
大まかな過去と未来、前世の名前、さらには現在のステータスまで。
しかしそのスキルで得た情報は『守秘義務』が課されることで他者へ直接的・間接的問わず漏らすことができなくなるという制約がある。その代償はとても重く、シュンやカティアに『夏目健吾=ユーゴー』ということを教えるだけでも自身の有するほとんどの神性領域を削られてしまった。
少なくとも、ソフィアの方の正体を伝えることはできそうにない。
フィリメスは死を恐れてはいない。恐れているのは何も成せず、何も守れず、何の意味もなく犬死にすることだからだ。
(ユーゴー=夏目くんということは二人には伝えました。二人ならばそこからソフィア=根岸さんということにも辿り着けるはずです。…かなり難しいでしょうけど)
前世の夏目健吾と根岸彰子の関係性を知っていれば、辿り着けなくもない事実。……その難易度が極めて高いことからは目を背けつつ、フィリメスはユーゴーとソフィアのステータスを思い返す。
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人族 LV1
個体名:ユーゴー・バン・レングザンド
《ステータス》
HP:99999/99999(緑)
MP:99999/99999(青)
SP:99999/99999(黄)
SP:99999/99999(赤)
平均攻撃能力:99999
平均防御能力:99999
平均魔法能力:99999
平均抵抗能力:99999
平均速度能力:99999
《スキル》
「HP超速回復LV10」「MP超速回復LV10」「MP消費大緩和LV10」「魔力精密操作LV10」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「SP超速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「気力精密操作LV10」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「鑑定LV10」「探知LV10」「外道無効」「重魔法LV10」「試練」「n%I=W」
スキルポイント:99500
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人族 吸血鬼 LV1
個体名:ソフィア・ケレン
《ステータス》
HP:99999/99999(緑)
MP:99999/99999(青)
SP:99999/99999(黄)
SP:99999/99999(赤)
平均攻撃能力:99999
平均防御能力:99999
平均魔法能力:99999
平均抵抗能力:99999
平均速度能力:99999
《スキル》
「上級吸血鬼LV10」「不死王LV10」「HP超速回復LV10」「MP超速回復LV10」「MP消費大緩和LV10」「魔力精密操作LV10」「魔神法LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「SP超速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「気力精密操作LV10」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「狂愛」「鑑定LV10」「探知LV10」「外道無効」「重魔法LV10」「n%I=W」
スキルポイント:79500
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あまりにも異次元のステータス。そして数こそ少ないが一つ一つが最上級かつレベルがカンストしたスキル群。極め付けにそれを持っている相手は『守らなくてはならない子供』である。
(……カラクリがあるはずです。おそらく夏目くんの方は『試練』スキルによって実態とはかけ離れたステータスとスキルに膨れ上がり、根岸さんはそれを『狂愛』スキルによってコピーした。そうでなければここまで一致するステータスになるはずがありません)
そうして、フィリメスの中では二人は『チートスキルによって実態とかけ離れた力を得た子供』というラベルが貼られた。
彼女の脳内の前提が『二人は精神的に未熟である』というものであり、『死線を潜り抜けて来た自分に及ぶはずがない』という無意識の見下しからくる固定観念である。
(……いざとなれば、外道魔法で精神を縛って私の『救恤』スキルで強引にステータスを没収する。彼らは悲しむかもしれませんが、実際にシステムが崩壊した結果無理やり剥がされて死ぬよりはマシなはずです)
だからこそ、フィリメスは気づかない。否、気づこうとしない。
異常極まりないステータスとスキルに思考リソースを奪われ、その作戦がすでに破綻している要因を見ようとしなかった。
『外道無効』。
異様なスキル群にひっそりと紛れたそれに気づきさえすれば、きっと別の作戦を思いついただろう。ユーゴーの仕込みに気づくことだってできただろう。
『剣の才能』や『魔法の天才』などの才能系スキル。
物理系、重魔法以外の属性系、状態異常系の攻撃・強化・耐性・無効化スキル。
天命、天魔、天動、富天といったステータス成長ブースト系スキル。
それらが一切ないことにも違和感を抱くはずだった。だが彼女は一切の疑問を抱かなかった。
『基礎を徹底的に鍛えた結果、洗練されたスキル構成になった』という印象に帰結した。…してしまった。
この場にポティマスも一緒にいたならば、それに違和感を抱いただろう。だが現実にはフィリメス一人であった。
フィリメスは愚鈍ではない。しかし、相手が悪すぎたのだ。
◇ ◆ ◇ ◆
「ご主人様、ネクタイが少々曲がっております。お直しいたしますね」
「ご主人様、お髪が少々乱れております。整えましょう」
「ユーゴー様。……うふふっ。呼んでみただけです」
近い。ソフィアの距離がとても近い。彼女の甘いフェミニンな香りや吐息、温かい体温、柔らかい感触がモロに伝わってくるほどにソフィアは接近してくる。
ネクタイは曲がってないし、髪は乱れてないのに、やたらと身体を近づけてそれを直すフリをしている。…要するにイチャつくための口実だ。
くっ、こっちが手を出せないのをいいことに好き勝手しやがって…だが俺は負けないぞ。全てを終わらせるまでは、理性で本能を制御し続けるのだ。
そうでなければ、俺は一度約束したことを破る人間になってしまうからな。誰かが許してくれるとかは関係なしに、俺が俺を許せなくなる。
…………だがしかし、柔らかくて暖かくて甘いのは事実なんだよな………。思考を切り替えよう。どんどんドツボにハマりそうだ。
魔王軍に加入してからかれこれ五年が経ち、俺とソフィアは人族の学園に潜入していた。アリエルさんが宣言通り三日でポティマス確殺の準備を終え、仕上げの段階に突入できたからこそ出来ることである。
何もラブコメするために潜入しているわけではなく、現地で人間側の支配者スキル持ちの情報を抜くためという目的がある。俺はそもそも学園へ教養のために行く予定があったし、着いてきたがったソフィアは従者枠としてツテとコネを使って捩じ込んだ。
既に『怠惰』や『傲慢』、『叡智』の支配者スキルをオーブ化した時点で『純潔』に『慈悲』、『色欲』に『強欲』に『嫉妬』は適合者がおらず宙吊りの状態だった。
その時点でオーブ化して確保しておけば潜入などしなくて済んだのだが、それをしてしまうとDが『つまらん』と余計な茶々入れをしてきかねない。だからこそオーブ化はせず、予定通りシュンたちに獲得させてから叩き潰し、奪取する予定である。
…一応予備プランまで含め作戦は複数個用意していたのだが、予想以上にうまく種まきが終わってかなり拍子抜けしている。もしかするとシュンとスーは支配者スキルを複数個保有する羽目になるのではなかろうか?…俺がアレコレ考える必要はないか。
ともかく、彼らが支配者スキルを獲得した瞬間にことを起こすつもりである。
…それから、シュンの近くにいるあの竜はなんだろうか…?原作にあんな間抜けな姿の竜っていたか…?
……分からんが、要警戒だな。もしかするとバアラより強くなってしまうかもしれないし。あとやたらと俺の方を見てくるのは何故なのだろう?野生の勘ってやつか?
「あら、ご主人様。ソースが口元についておりますわ」
ソフィアはずいっと近づいて指でツゥ、と俺の唇をなぞる。………あかん、性癖が歪む…!!
「……もう少し抑えてくれ」
「これは失礼いたしました♪」
ペロリと舌を出すソフィア。…あぁもう、周囲の目線がとんでもないことになっておる。シュンなんか俺を射殺さんばかりに睨みつけてるじゃないのさ……。
でもシュンだってすぐそばに自分のことを理解してくれる女の子がいるじゃんね。カ、なんとかさんって言うんですけど。そっちに気づいてからでも遅くはないと思うのだがな。
…そして、最大の問題のオカちゃん先生はニコニコしながらも常に視界に俺を収めている。…なんとも可愛らしく健気な警戒法である。