学園生活が始まって三ヶ月が経過した。完全にクラスのカーストは固まり、俺とソフィアを『いないものとして扱う』ことが暗黙の了解と化した。
原作のシュンがされたように喧嘩をふっかけてきたり、ソフィアに粉をかけようとするアホがいるかとも思ったが、予想に反して一人も存在しなかった。処理する手間が省けて喜ばしいことである。
何度かあの竜…フェイのことを観察したり『解析』してみたりしたが、どうにもアレの中身は転生者らしい。前世の名は
正直境遇に同情する余地はないが、Dに目をつけられてかわいそうに、とは思う。シュンのもとで元気に育つといい。
…バアラくらい強くなられるとアリエルさんから『殺せ』と命令が来るかもしれないが、その時は諦めてくれ。そうならないように事前にステータスは奪っておくくらいはするから。
それはそれとして、本日の授業は学外での演習である。…なんだか今日は事態が進展を見せそうな気がする。楽しみにすると同時に警戒しておこう。
◇ ◆ ◇ ◆
「みんな、諦めちゃダメだ!全員の力を合わせれば、きっとこの難局を乗り切れる!俺に続け!!」
___オオォォォォォォッ!!!!
予想通りと言うべきか、予想以上と言うべきか…地竜が学園の演習場へと乱入してきた。
…流石にシュンたちと言えどもキツいのではなかろうか…?フィリメスもいるが、いかんせん数が数だ。質も伴った物量の前に押しつぶされる未来しか見えない。
…仕方がない。シュンたちの活躍を奪わない程度に助力しますか。
「うふふっ。お供いたしますわ、ご主人様」
「俺の思考は共有できるな?ステータスのどれかが千以上の個体は先んじて排除するぞ」
「了解いたしました」
流石にそれほど強い個体は今のシュンたちには荷が重すぎる。中にはフィリメスすら苦戦する地龍への進化寸前の個体もいることだし、あらかじめ間引いておくか。
それでは頑張ってくれたまえ、未来の勇者くん。
◇ ◆ ◇ ◆
「これで…終わりだぁぁぁぁぁっ!!」
気闘法と魔闘法の合わせ技によって、シュンは最後に残っていた地竜を撃破する。
非常に手強かった。全ステータスが900前後と今のシュンたちの倍ほどもある圧倒的な強さの地竜であり、他の個体も300から500と決して楽な敵ではなかった。
だが、自分とみんなの力を合わせ、その死線を制することができた。その事実はシュンの中で確かな自信に繋がった。
(…この戦いのとき、ユーゴーのやつは何をしていたんだ?どこにも姿を見かけなかったが…まさか隠れていた?)
そう考えると少しだけ胸がすく思いであった。ドロドロとした汚泥のような感情が浄化され、優越感へと至る。
いつの間にかいたユーゴーとソフィアを見つけたシュンはユーゴーへとわずかに勝ち誇った表情を向け、ソフィアには執着の視線を向ける。
それらを全く意に介さない二人の姿は、今のシュンには強がりにしか映らなかった。
事実として活躍したのは自分。この群れの鎮圧の主力となったのも、主導したのも自分。アイツは何もしていなかった。
周囲からの歓声や自身を褒め称える声も、今のシュンにとっては至上の讃美歌のように聞こえていた。自身の功績を周囲が証明してくれる。それも憎き相手が全く手出しできなかった事件を、他でもない自分が主体となって解決したことを賞賛することによって。
誰もユーゴーを見ていない。対して、誰もが自分を見ている。
(……いい気味だ)
内心で嘲るシュン。昔から劣等感を抱いていた相手が何もせず、自分は活躍した。それはシュンの自尊心を大きく高めたが、同時に現実を認識する力を大きく引き下げていた。
そして肥大化した自尊心は、突如身を貫いた悪寒に木っ端微塵に打ち砕かれた。
突然衝撃波がシュンたちを襲う。砂塵が舞い上がり、視界が遮られた。
しばししてようやく砂煙が収まり、明瞭になった視界が捉えたものは___先の地竜とは比較にならない存在だった。
全身を覆う防御と攻撃を兼ねた鋭い鱗。
その身体から迸るオーラ。
絶対強者たる威風。
先ほどシュンが倒した地竜など、この存在に比べればエサでしかないのだろう。
そしてようやくシュンは理解した。このスタンピードは目の前の存在に怯えた魔物たちが一斉に逃げ出したことで起こったのだと。
「………カティア。援護を頼む」
「しょっ、正気ですかシュン!?アレは絶対に戦ってはならない存在です!挑むのなんて自殺行為ですわ!!」
「それでもだ。俺はここで逃げたりしない。必ず、力を合わせれば…」
「現実を見なさい!私たちは先の戦闘で大きく消耗しているのです!これ以上の戦闘継続は不可能ですわ!ましてや、相手は先ほどの地竜とは明らかに次元が違う強さだと見て分かりませんの!?」
しかし絶望に打ちひしがれても、シュンは諦めない。
カティアの説得も聞かぬまま、剣を構える。
(………負けるもんか。ここでコイツを倒して、ユーゴーよりも強いと証明する!!ソフィアさんにかけられた呪縛を解いてあげるんだ!!!)
しかし、そんな決意など知らぬとばかりに目の前の存在はシュンたちのことがまるで見えていないかのように駆け出す。
駆け出した先は…ユーゴーのいる場所。
そしてユーゴーに向けて飛びかかり、爆風を伴って着地した。
(………死んだ?)
知り合いの死に呆然とする気持ちと、目の上のたん瘤が消えたことに仄暗い喜悦が湧き上がる。
…だが、それはその数秒後に打ち消された。
___ゴルルルルルルゥ♪
「よしよしよし…お前は本当に甘えん坊だな。他の地龍とはえらい違いだ」
そこには鋭い尻尾をビュオンビュオンと風切り音がうるさく鳴るほど振り回しつつ、ユーゴーに鱗を撫でられてご満悦な様子の怪物がいた。
「…………………えっ??」
理解できる範疇を容易く飛び越えた光景に、シュンの思考が停止した。
◇ ◆ ◇ ◆
ユーゴーが地龍…地竜の中でも長い時を生きて進化した個体をてなづけていることが判明し、シュンの中では先の勝利がガラクタのようなものに見えてしまっていた。
(……なんだよそれ……おかしいじゃんか……だってあの時、アイツは何もしてなかった……これを理不尽と呼ばずしてなんて言うんだよ…!!)
実際にはシュンたちの手に余る個体を処理していたのだが、それにシュンは気づけない。気づこうともしない。それらは全て都合よく彼の中で処理されてしまっているのだから。
だからこそ、彼は決定的な間違いを犯してしまう。
(……そうだ、あの地龍、実は弱いんじゃないか?地龍になりたてで地竜に毛が生えた程度の力しかないんだ。きっとそうに違いない。そうじゃないと、それを手なづけているユーゴーが化け物みたいな強さということになっちまう)
そしてそれを裏付けるべく地龍へ向けて『鑑定』を使った。
そこで見えたものとは___
=====
地龍カグラ LV56
《ステータス》
HP:8750/8750(緑)
MP:7988/7988(青)
SP:8425/8425(黄)
:8436/8436(赤)
平均攻撃能力:8560
平均防御能力:8473
平均魔法能力:7544
平均抵抗能力:7781
平均速度能力:8259
《スキル》
「地龍LV8」「天鱗LV7」「重甲殻LV9」「神鋼体LV3」「HP高速回復LV8」「MP高速回復LV7」「MP消費大緩和LV8」「魔力感知LV8」「精密魔力操作LV2」「魔神法LV5」「大魔力撃LV5」「SP高速回復LV9」「SP消費大緩和LV9」「闘神法LV7」「大気力撃LV7」「大地攻撃LV10」「大地強化LV10」「破壊大強化LV8」「斬撃大強化LV10」「貫通大強化LV10」「打撃大強化LV10」「空間機動LV10」「立体機動LV8」「命中LV10」「回避LV10」「確率大補正LV8」「隠密LV10」「消音LV8」「消臭LV7」「迷彩LV10」「危険感知LV10」「気配感知LV10」「熱感知LV10」「動体感知LV10」「土魔法LV10」「大地魔法LV10」「火魔法LV10」「火炎魔法LV10」「破壊大耐性LV5」「斬撃大耐性LV7」「貫通大耐性LV5」「打撃大耐性LV8」「衝撃大耐性LV7」「大地無効」「火炎無効」「光耐性LV4」「水耐性LV8」「風耐性LV8」「闇耐性LV8」「状態異常無効」「腐蝕耐性LV7」「苦痛無効」「痛覚無効」「暗視LV10」「視覚領域拡張LV10」「視覚強化LV10」「望遠LV10」「予測LV10」「未来視LV10」「聴覚強化LV10」「聴覚領域拡張LV10」「嗅覚強化LV10」「触覚強化LV10」「天命LV8」「天魔LV6」「天動LV7」「富天LV7」「剛毅LV8」「城塞LV8」「天道LV5」「天守LV6」「韋駄天LV7」
スキルポイント:82500
=====
___見たこともない異次元のステータスであった。
(………………は???)
そして次の瞬間、シュンは前後不覚に陥るほどの恐怖に襲われた。
発生源はユーゴーに撫でられていたはずの地龍カグラ。いつの間にかご機嫌な様子が鳴りを潜め、代わりにその捕食者の眼光をシュンへと向けていた。
___痴れ者が。身の程を知れ。
暗にそう言われているほどの殺気がカグラから放たれている。
「あ、あぅ………ぅぁぁ………」
シュンはガチガチと歯を鳴らし、情けない声を上げつつ腰を抜かす。シュンの股間から温かいものが漏れ出るが、それを笑う者は一人もいなかった。直接殺気を向けられたシュンほどではなくとも、その場にいる全員が恐怖に震えている。
シュンのみならず、全員が理解していた。シュンはこの災害の化身の逆鱗に触れたのだと。
しかしそんなシュンを後ろに庇うものがいた。
フシュルルルルル…!
脂汗を流し、弱々しく威嚇しながらもカグラの前に立ち塞がったのはフェイ。どう見ても恐怖で発狂寸前なのが丸わかりなほどの状態だが、その目はキッとカグラを睨みつけている。
カグラはシュンに向けていた視線をフェイに移す。フェイはびくりと震え、より一層震えがひどくなるがそれでも睨みつけるのをやめない。
___グルルルルル…
カグラが低く唸るのと同時に、フェイの脳はそれに込められた意思を理解する。
___極めて薄いが、あの方の血を感じる。
フェイには全く理解できなかった。脳内で疑問が乱舞するフェイを尻目に、カグラは殺気を収めて再びユーゴーに撫でることを強請った。
___グルルルァン♪
「……なるほど、バアラも元気にしているみたいで何よりだ」
空気に満ちていた重圧が消え失せ、生徒たちが心肺が強制停止させられていた活動を再開する。当のカグラはユーゴーに撫でられてまたもやご満悦な様子。
その様子をシュンを筆頭に大多数の生徒は怯えた目で、フェイは思考に耽り、フィリメスは真剣な表情で見ていた。
◇ ◆ ◇ ◆
波乱に満ちた演習があった日の夜。シュンは誰もいない訓練場で、一人剣を振るっていた。
魔物を倒したことでレベルが上がり、鍛え抜かれた成長ブースト系スキルの影響も相まってステータスだけでもあのボス個体の地竜を超えた。だが、相変わらずカグラの足元にも及ばない。
(クソッ、クソッ、クソクソクソクソッ!!!なんで、なんでアイツだけが全てを得ている!なんでアイツだけが!!!)
剣を振るうシュンの心中では、激しい嫉妬が渦巻いていた。自分にはない強さ、知性、容姿、そして女。その全てを得ているのに全く驕らず、誰に対しても公平に接する。
…そんなアイツが心底妬ましかった。
《条件を満たしました。個体名:シュレイン・ザガン・アナレイトがスキル『嫉妬』を獲得しました》
《支配者権限を確立しました。称号『嫉妬の支配者』を獲得しました》
だが、あの状況では自分が戦うことこそが最善だった。一番強い自分が、ユリウス兄様の弟たる自分が戦わなくてどうするというのだ。カグラはユーゴーがいなければ自分達を殺そうとしていたかもしれないのだから。
そう。弱き者たちを慈しみ、守ることこそが自分の使命なのだから。
《条件を満たしました。個体名:シュレイン・ザガン・アナレイトがスキル『慈愛』を獲得しました》
《支配者権限を確立しました。称号『慈愛の支配者』を獲得しました》
そしてふと気づく。自らの内に歪みと信念が同居していることに。
(…違う、違う、違う。ユリウス兄様の弟が、勇者の弟がこんな感情を抱いていいはずがない。俺は、嫉妬なんて、して、ない)
しかし、システムアナウンスの前にはそれは空虚な言い訳でしかなかった。世界に認められた『嫉妬』の持ち主。それこそが支配者の資格であるからして。
(……そうだ。俺は嫉妬なんてしていない。アイツが、ユーゴーのやつが『悪党』だから倒さないといけない、そう思ってるだけだ)
だからこそ、その歪みは信念を持ったことで拡大する。
外道耐性を持たぬシュンの心が、スキルによって飴細工のように捻じ曲げられ、汚染され、変質させられる。
(そうだ!そうに違いない!!アイツはみんなを洗脳しているんだ!今はアイツの力が強すぎるからどうにもできないが、俺ならいずれアイツを打ち倒してみんなを救える!そしてソフィアさんもきっと、アイツではなく俺を見てくれる!!!)
《条件を満たしました。個体名:シュレイン・ザガン・アナレイトがスキル『正義』を獲得しました》
《支配者権限を確立しました。称号『正義の支配者』を獲得しました》
(……打ちひしがれてる場合じゃない!少しでも特訓をして、アイツに追いつくんだ!お前ならやれる、山田俊輔!!)
かくして次代の勇者は力を得た。
悪を打ち倒す力を得る『正義』。
敵の力を封じる『嫉妬』。
味方を蘇らせる『慈愛』。
三種の支配者スキルを持つに至ったシュンは、しかし己の本質から目を逸らした。
彼の行く末がどのようなものになるのかは、神のみぞ知る。
◇ ◆ ◇ ◆
「………私は、どうすれば」
シュンが一人訓練場で剣を振っていたのと時を同じくして、スーは学園のベンチにて一人黄昏ていた。
彼女の悩みは単純明快、兄たるシュンのことである。
彼の周りには魅力的な女が群がり、自分が幾ら牽制しても次から次へと湧き出てくる。
そして当のシュンはソフィアに異常なまでの執着を見せている。…よりにもよって、自分が何をやっても勝てそうにない相手に。
「………どうすれば」
「夜風に当たりすぎるとお身体に差し障りますよ」
「っ!?」
声をかけられるまで、そこにいることに気づかなかった。スーが飛び上がるように振り返った先には、かのソフィアの主人たるユーゴーがいた。
…
「……何かご用でしょうか。ユーゴー様」
「なに。こんな夜更けにお一人でいらっしゃる殿下が見えたので、お身体に障ってはならないと申し上げようとしただけです」
「…そうですか。ご助言感謝いたします」
話は終わりだ、と暗に告げるようにその場を去ろうとしたスーをユーゴーは呼び止める。
「……ときに殿下。貴女はどうにもシュレイン殿下のことで思い悩んでおられるご様子」
「兄様は天才ですから。置いていかれないようにしようと必死なんですよ」
「なるほど。ならばこう言いましょうか。『貴女がシュレイン殿下に懸想をしておられる』件について、です」
表向きの言い訳には耳を貸さず、ユーゴーは的確にスーの耳に入りやすい話題を羅列する。
事実としてスーは足を止め、ユーゴーの話に食いついた。
「……それが、何か?」
「確かにそれは世間には受け入れられないでしょう。当然だ、彼らにとっての常識では血縁の近い者との婚姻は禁忌であり、また本能的に忌避するものなのですから」
「……………」
その言葉にスーの心は冷え込む。
___コイツも、『お説教』をするつもりなのか。
心が防衛反応を取る。防火扉が展開され、『ありがたい言葉』を聞き入れる体制を整える。
だが、その準備はまるで意味をなさなかった。
「ですが……それが何だというのです?」
「………は?」
「確かに近親相姦は生物学的な観点からは推奨されない行為です。それは事実としてそこにある。…ですが、だからと言って感情を規則で抑えつけてもいいのでしょうか?」
ユーゴーの話を、スーは目を大きく開いたまま口を半開きにして聞く。
アホ面と世間では言われるそれを晒しているが、ユーゴーはそれについて全く触れずに話を続ける。
「気持ちに対して規則で返すのは……美しいとは思えません。貴女はどう思われますか?スーレシア殿下」
「……………」
ユーゴーの問いに、スーは呆然とするばかりであった。
否定され続けてきた己の価値観が、初めて否定されなかった。それは決して肯定されたわけでこそなかったが、確かに否定されなかったのだ。
「貴女はその感情を表に出すことが不都合だと理解しておられる。とても聡明だ。…しかし、同時にとても窮屈ではありませんか?」
だからこそ、その言葉は今まで感じたことのない甘美な響きをスーに感じさせていた。
まるで、破滅へ導く悪魔の誘惑のように。だがそれを理解するには、スーの驚愕はあまりに強すぎた。今まで頭ごなしに否定されてきたものを、明確に否定されなかったのはそれだけ彼女の中では大きなことだったのだ。
「欲しいものを手に入れようと努力する。愛する者に振り向いてもらえるよう己を磨く。それらを否定することなど誰にもできません」
一拍、間が開く。それは果たして、単なるインターバルだったのか、それともスーの心の扉を開かせるための作為的な間だったのか。
「___欲しいのではありませんか?シュレイン殿下の心が、身体が、魂が…シュレイン殿下の全てが」
___お前の本音を言ってみろ。
スーの眼を射抜く視線から、スーはそう言われているように錯覚した。
沸々と内側から黒いものが湧き上がる。
ドロリとして重量を増し、熱を帯び、湿気を放つそれからスーは目を逸らさない。
そして己の本質を言語化する。
「私は____」
静寂が辺りを包み込む。
5秒、10秒、20秒と長い沈黙が続き___
___堰を切ってスーの感情が溢れ出した。
「欲しい、欲しい、欲しい欲しい欲しい!!!何処の馬の骨とも知らない女に掻っ攫われるなんて許せない!ぽっと出の女に横取りされるなんて我慢ならない!!私は、兄様の全てが欲しい!!兄様には私だけを見ていて欲しい!!!」
普段から被っていた天才王女としての仮面が剥がれ落ち、執着を迸らせるドロドロの女の側面が顔を出す。
抑圧されていた本音を吐き出す様は、あたかも噴火のよう。どす黒い感情が濁流となって、スーの口から次々に流れ出る。
それを見たユーゴーはわずかに目を細め、口角を上げた。
「………それでこそ、です」
その声は無機質だったが、わずかに恍惚とした響きがあったように感じられた。
「ならば、貴女はどうするのです?今まで通り指を咥えてシュレイン殿下に他の女性が擦り寄るのを眺めているのですか?」
「……そんなの、決まってます」
《条件を満たしました。個体名:スーレシア・アナレイトがスキル『色欲』を獲得しました》
《支配者権限を確立しました。称号『色欲の支配者』を獲得しました》
《条件を満たしました。個体名:スーレシア・アナレイトがスキル『強欲』を獲得しました》
《支配者権限を確立しました。称号『強欲の支配者』を獲得しました》
「兄様の全てを手に入れる。そのためなら、手段を選ばない。…たとえ、兄様を傷つけることになっても」
「……その先は茨の道ですよ?今ならまだ後戻りはできると思いますが」
「何を今更。大体、焚き付けたのはあなたでしょうに」
「これは手厳しい」
苦笑するユーゴー。
そしてスーの目には淡い光とドロドロの濁りが同居していた。
「……あぁ、兄様…………」
そしてその貌は、熱に浮かされ恍惚とした少女のそれであった。
かくして少女は己の本質を正面から認め、それを受け入れ、新たなる力を得た。
それが彼女の人生をどう歪めていくのかは…神ならざる人の身には分からぬことだろう