「___起きてくださいシュンくんっ!!」
「はいっ!?!?」
切羽詰まったようなフィリメスの大声によってシュンは叩き起こされた。
目覚めたばかりというのもあって混乱しているシュンの肩をフィリメスは掴み、真正面からつらつらと今の状況を説明した。
「いいですか、一度しか言いませんからよく聞いてください。今朝未明エルフの里の結界が破られ、魔王軍による攻勢が始まりました。敵の数や種類は未知数、シュンくん達はカティアちゃんと共に後方へ下がってください。いいですね!?」
「えっ、あっ、そ、その」
「二度言う時間はありません!」
よほど事態は一刻を争うのか、フィリメスは明らかに焦燥に駆られているような様子でシュンの寝床から出ていった。
ようやく頭が通常営業を開始したシュンは退っ引きならない状況下にあると理解し、とりあえず外の様子を窺ってみることにした。
___そして、絶句した。
「っ…!?」
寝床を出てすぐ、フィリメスはそれと戦っていた。
濃青色の結晶が歪に人を模したかのような、四脚二腕の巨大な物体。中央の赤い宝石のようなものから光線を出し、フィリメスを追い詰めていた。
しかし不思議なことに、フィリメスは得意とする魔法を一切使っていない。これほどの強敵相手ならばまず間違いなく使うはずなのに、だ。
(…魔力が切れているのか!なら、俺が援護しないと!)
そしてシュンは急いで得物を手に取り、魔法を構築しながら戦場へと飛び出した。
「先生!援護します!『聖閃』!!」
「っ!?シュンくんダメ____!!」
そしてシュンはコアと思しき赤い宝石に向かって、自身の取得している中で燃費・威力・発動速度すべてに優れた聖光魔法レベル7の魔法『聖閃』を放つ。
シュンが放った光線は見事に赤い宝石へと吸い込まれ…そのまま何ひとつダメージを与えられずに掻き消えた。
「……えっ?」
「っ、伏せて!!」
予想だにしていなかった事態に呆然とする旬だったが、フィリメスの咄嗟の声に反応して反射的に屈み込む。
次の瞬間、シュンの頭上を何かとんでもない熱量のものが通り過ぎた。
余波の熱風によって混乱し、何が起こったのか理解できずにいるシュンにフィリメスが冷静に種明かしをする。
「…あれはこちらが撃った魔法を分解し、エネルギーとして蓄積・利用してしまうんです。あれに対して魔法は無意味どころか利敵行為だと理解してください」
シュンはその事実に愕然とする。そんなつもりはなかったとはいえ、自分のせいで先生まで危険に晒してしまった。
エルロー大迷宮の悪夢の残滓や地龍に対してすら同じことをしていたのに、また自分は同じことを繰り返そうとしていたのか…?
「…すみません、先生!」
だからこそ、次に繋げようと今度は敵を鑑定することにした。こうして敵対している以上はもはや鑑定することによって敵対するデメリットはなく、情報を抜けるだけ抜き取ろうという魂胆である。
だがしかし、その行動もまた空回りしてしまっていた。
=====
鑑定不能
=====
「なっ…こいつ、鑑定できな___ガッ!?」
かつてフィリメスを鑑定した時は『鑑定が妨害されました』というメッセージが流れた。その後、それは支配者権限による鑑定妨害だと判明したが、そもそも鑑定ができないなんてことはなかったはずだ。
その衝撃から立ち直れなかったせいで、それの見た目の鈍重さを裏切る機敏な動きについていけず、シュンはその尖った結晶製の拳を叩き込まれる。
吹き飛ばされ、樹木に叩きつけられたシュンに、追撃するかのように結晶の拳を叩きつけようとしたが___それがシュンに届くことはなかった。
「ギリギリ間に合いましたわね!」
『セーフ!回収完了!』
カティアとフェイの参戦である。
カティアの支配者スキル『純潔』によって展開された結界に防がれ、その隙にフェイがシュンの後ろ首を咥えて離脱したのだ。
「っ、カティア、フェイ!すまなかった!アイツをここに釘付けにするのを手伝ってくれ!」
「…おそらく、しても無駄ですわよ」
『似たようなやつが見えた範囲だけで千体以上里中にいるのよ!結界の破壊に乗じてゾロゾロ攻め込んできたんだと思うわ』
「何だって…!?」
一体でもこちらは半壊状態だというのに、それが千体…??
シュンの心が絶望に支配されそうになる。
…しかし、心には再び
(……許さない。そんなことは、俺が許さない!!)
そして基準を満たした支配者スキルは活動を開始し、己の保有者の力を増幅させる。もしかしたら、この殲滅兵器を破壊できるかもしれないほどに。
「悪の尖兵の兵器め!俺がいる限り、これ以上の暴虐はもう許さないぞ!!」
その結晶兵器に向かって宣言するシュン。
得物を構え、渾身の一撃を叩き込もうとするシュンだったが…。
だがその決意もまた空回りした。
結晶兵器の背後に巨大なものが着地し、衝撃波とともに砂煙が上がる。
咄嗟に目を覆い、砂煙が収まるのを待っていたシュンたち。そして砂塵が晴れた時にその目が捉えたものとは。
「っ……スー!!」
「あぁ…お会いしとうございましたわ、兄様…♡」
複数の結晶兵器と、その肩に上品に腰掛けるスーの姿であった。
「スー!目を覚ますんだ!お前のやっていることは間違っている!お前の心はこんな残酷なことを望んじゃいないはずだ!正気を取り戻せ!」
「………うふふ。取り乱す兄様も素敵♡」
錯乱したかのように喚き立てるシュンをうっとりと見つめるスー。いつの間にか『正義』によるブーストは解除され、視線は虚空を泳いでいる。
「…スー、あなたの仕業ですか?この兵器を大量に投入して、エルフの里を襲わせたのは」
「違いますよ。この…えぇと何でしたか。何とかダイヤモンドはユーゴーさんの兵器で、投入したのもユーゴーさん。私は何体か借りてきただけです」
「…つまり、あなたがこの兵器の支配権を握っているのですね」
言うや否やフィリメスは素早く魔法を構築し、スーを狙って風の弾丸をいくつも撃ち込む。
それは狙い過たずスーの眉間を撃ち抜いた___かに思われた。
「……面倒な」
「…もしかしなくても、存外抜けてますね?近くにこの子がいるんですから、特性だって適応されると分かるでしょうに」
スーの座っていた結晶兵器___ダークダイヤモンドの近くに来た風の弾丸が分解され、エネルギーとなって吸収される。
浅はかな知恵をスーはせせら嗤う。そんな誰でも思いつくような対策などこちらも用意している、と言わんばかりに。
「ですが……ま、今回の目的は別にあるので。『場を整えてください』」
いきなりスーはダークダイヤモンドから飛び降り、何やら指示を出す。
するとダークダイヤモンドたちは四方に散らばり、スーとシュンたちを囲い閉じ込めるための直径百メートルほどの巨大な球形結界の檻を構築した。
「ようやく邪魔が入らなくなりましたね、兄様♡」
「スー……」
この期に及んでスーを信じたかったのか…或いは自身の信じる正義を守りたかったのか。
シュンはスーが操られているに違いないと決めつけ、彼女に対して鑑定を行なった。
=====
人族 LV78
個体名:スーレシア・アナレイト
《ステータス》
HP:14480/14480(緑)
MP:18460/18460(青)
SP:13379/13379(黄)
:12887/12887(赤)
平均攻撃能力:10976+4780
平均防御能力:10945+4460
平均魔法能力:12458+3218
平均抵抗能力:12774+3162
平均速度能力:11069+2980
《スキル》
「HP高速回復LV10」「MP高速回復LV10」「魔力精密操作LV7」「MP消費大緩和LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「魔神法LV10」「大魔力撃LV10」「SP高速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「闘神法LV10」「大気力撃LV10」「龍力LV10」「龍結界LV10」「氷獄攻撃LV10」「氷獄強化LV10」「暗黒攻撃LV10」「暗黒強化LV10」「斬撃大強化LV10」「打撃大強化LV10」「貫通大強化LV10」「破壊大強化LV10」「隠密LV10」「迷彩LV10」「隠蔽LV10」「無音LV10」「無臭LV10」「思考超加速LV10」「並列意思LV5」「演算領域拡張LV10」「遠視LV10」「万里眼LV10」「氷魔法LV10」「凍結魔法LV10」「氷獄魔法LV10」「影魔法LV10」「闇魔法LV10」「暗黒魔法LV10」「外道魔法LV10」「征服」「自失」「鑑定LV10」「探知LV10」「物理大耐性LV7」「氷獄耐性LV8」「暗黒耐性LV9」「聖光無効」「天風無効」「雷光無効」「状態異常大耐性LV9」「外道無効」「苦痛無効」「痛覚無効」「強欲」「色欲」「剣の英雄LV5」「大魔導LV7」「体術の天才LV5」「知覚領域拡張LV5」「五感大強化LV7」「神性領域拡張LV5」「天命LV10」「天魔LV10」「天動LV10」「富天LV10」「剛毅LV10」「城塞LV10」「天道LV10」「天守LV10」「韋駄天LV10」「禁忌LV8」
スキルポイント:134500
《称号》
「魔物殺し」「魔物の殺戮者」「魔物の天災」「竜殺し」「竜の殺戮者」「龍殺し」「龍の殺戮者」「強欲の支配者」「色欲の支配者」
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そして戦慄した。
あるはずだった『洗脳』『催眠』『魅了』といった状態異常にかかっていなかったのもあるが、何よりその異常極まるステータスに。
「んぅ…兄様の視線、とぉっても熱い…♡私の全てが見られてしまっています…♡」
支配者権限を持っているスーなら鑑定を弾くこともできたはずだが、スーはあえてシュンの鑑定を受け入れた。彼を絶望させたいというのもあるが、シュンであれば自分の全てを曝け出すことに否はなかったからである。
「強欲」スキルの支配者権限を確立したことにより、スーは倒した敵から『全ての能力をそのまま』収奪できるようになった。
当然そうなってくると余計なスキルまで手に入れてしまうため、スーは一計を講じた。『不要なスキルを収奪前にスキルポイントとして変換できないか?』と。
結果は成功し、不要なスキルを収奪前にスキルポイントに変換し、スキルポイントだけを収奪することでより効率的に力を鍛えてきた。その成果がこの異様なほどに効率化されたスキル群である。
その制約とでも言うべきか、変換したことで得られるスキルポイントは取得に必要なものと比べて三割まで落ちていたが、それでもスー自身が自在に割り振れるリソースとして回収できる点だけで十分お釣りがくる。
具体的には地竜を一体倒すだけで数千ポイントも収奪可能なのだ。さらに地龍ともなればその桁が跳ね上がる。
このステータスにはそんな背景があるのだ。
「…さて。兄様との逢瀬を楽しむためにも、夾雑物は排除しませんと」
そして静かにスーは闘神法と魔神法を起動させ、物理系ステータスを一気に底上げする。
こうして、シュンたちとスーの戦いは幕を開けた。
◇ ◆ ◇ ◆
(うわぁ……マジ??)
戦場を上空から俯瞰する白。彼女の前の光景は起こるべくして起こったにしては少々…いや、かなり想定外であった。
四脚四腕の機械兵器を四脚二腕の結晶兵器が一体一撃で破壊していく。
上空に浮かぶウニのような殲滅兵器や三角錐の如き浮遊兵器を結晶兵器が徹甲榴弾の要領で超高速回転しながら突撃し、装甲を容易く貫通して機体を爆散させていく。
更には突撃した端から弾頭となったダークダイヤモンドが周囲の炭素を回収して身体を再構築し、また別の兵器へと再度突撃を行う。
要するにユーゴーの作った兵器群は、ポティマスの兵器群に対してガンメタを張っていた。
一つ一つのスペックで圧勝し、数もそこまで負けていない。
魔術妨害は加速以外が物理攻撃な結晶兵器による徹甲榴弾式突撃には無力。
そもそも生身のエルフは結晶兵器の装甲にかすり傷すらつけられない。
戦術には疎いと自覚している白の目から見ても『こちらの負け筋が見当たらない』状態になっている。
(…あ。あれはちょっとまずそう?)
そんな中で異彩を放つ戦場へと白は意識を向ける。
そこには濃青色のダークダイヤモンドと、所々に機械が取り付けられた空色の結晶兵器が戦っていた。どうやらダークダイヤモンドを元にしてポティマスがコピーした兵器らしい。
数自体は空色の結晶兵器の方が圧倒的に少ないものの、一機一機のスペックでは大きく勝っているのかダークダイヤモンド相手にかなり優勢のようだ。
(んー……夏目くんからは『特に何かする必要はない』って言われてるし、何もしなくていっかなー?…おろ?)
空色の結晶兵器がダークダイヤモンドに入った亀裂を殴り続け、とうとう粉砕するに至った。
(あーあー、壊れちゃった。一体だけとは言え夏目くんのダークダイヤモンド負けちゃったよ。アレ壊すのに私でもすんごい時間かかったのに、時間食ってるとはいえポの字の奴すげーなー。…ん?)
空色の結晶兵器は破壊したダークダイヤモンドに目もくれず、別のダークダイヤモンドと元気に殴り合っている。
…そしてその後ろで徐々にダークダイヤモンドが周囲の炭素を回収して体を再構築していた。
(ちょいちょい待ちんさい、ポの字の奴まさかダークダイヤモンドの再生能力のこと知らねーの?アレ私でもどうにもできなかったのに?)
そして背後から殴られ、瞬く間に包囲されてすり潰された空色の結晶兵器群。こちらはダークダイヤモンドと違って再生能力は全くないようで、壊しても全く動き出さない。
否、再生する機構自体はあるのだろうが、ダークダイヤモンドが突き刺した結晶の拳によってエネルギーが吸い尽くされ、結果的に再生できなくなっている。
(うはー、何から何まで夏目くんの作戦勝ちじゃん。こっわー、戸締りしとこ)
原作であればギュリエディストディエスに対抗する技をいくつか編み出している白だったが、この世界においてはそれを全くやっていない。
そもそもギュリエディストディエスと敵対する予感が全くしなかったことと、そっちよりも遥かに面白いおもちゃを掘り当てているからである。
(ま、夏目くんで普段色々遊んでる分、今だけはちゃんと仕事しますかねー)
警戒を怠らないまま、白はふよふよと上空に浮遊して戦場を俯瞰するのであった。
◇ ◆ ◇ ◆
「なんということだぁっ!!素晴らしい、素晴らしいぞあの兵器はぁぁぁぁっ!!!今すぐ、今すぐ鹵獲しなくては、あの兵器の完成形を今すぐ入手しなくてはぁぁぁっ!!!!!」
一方、ポティマスはアリエルと自分の最終兵器が戦っているのを無視して空色の結晶兵器___ポティマス曰く『タイプΣ』と名付けられたそれに搭載していたモニター、それが記録した映像を齧り付くように見ていた。
その眼はギラギラと欲望に煮えたぎっており、彼の知識欲と蒐集欲が滲み出ているかのようだ。
本来であれば強敵であるアリエルから目を逸らすなどあり得ないはずだが、ポティマスはそれを無視してでもダークダイヤモンドを欲っしていた。
「あの再生能力、エネルギーの消耗が少なすぎる。どういう理屈だ?周辺の樹木がわずかに枯れていたことからそこから素材を得ているのか?そもそもアレは水晶ではない?…まさか全身全てがダイヤモンドか!?異次元のコストだが、ならば辻褄は合う!周辺の有機物を分解して炭素を取り出し、それをダイヤモンドの結晶構造に再構築している!ならばあの異次元の強度と魔術耐性にも理由がつけられる!!しかも奴のコアには明らかに残骸の進化系であろうMAエネルギー供給装置が眠っている可能性が___」
その目や脳内に、もはやアリエルのことなどかけらも残っていない。処理済みとしてラベリングされていたのだ。
現にアリエルはタイプΩ相手に何もできずに翻弄されている。システムが適応されない上にシステムに毒物判定されない二酸化炭素が充満する空間で動きが鈍り、さらにタイプΩのドリルによる攻撃で大量に血を失っている。
多少は持ち堪えているようだが、すり潰されるのも時間の問題だろう。
アリエルは後でどうとでも処理できる。だがダークダイヤモンドだけは今しか手に入らない。この機会を逃せば二度と同レベルのサンプルは手に入らない可能性が高い。
ポティマスの性根は軍人ではなく研究者である。作戦の遂行ではなく好奇心の探究を優先するため、『最大の障害』よりも『最大のお宝』に目が眩むのは当然の摂理であった。
だからこそ、アリエルが一瞬だけ見せた嘲笑うような笑みに彼は気づくことができなかったし、アリエルの首に下げられているピンポン球サイズのダイヤモンド球のネックレスに決定的な違和感を抱くこともなかった。