転生してからというものの、これといったイベントもないまま10歳を迎えた。着々と準備は進んでおり、つい先日『試練』抜きでのステータスがカンストした。
…とはいえ、なぜか俺の意思を無視して常時10まで制限されているので、わざわざ見ないと気づかなかったのである。もしかして『試練』って自動で補正されたりするのだろうか?…まぁいいか。
これでアリエルにも勝つる!俺の将来は安泰だ!!…と、思えるほど楽観的ならどれほど良かったことか。
システム外の力も今や同等以上に鍛えているが、彼女に勝てるビジョンが全く浮かばない。…そりゃー転生者ごときが高々十年ぽっち頑張ったとて、最古の魔王様には敵わんわな。原作で最後までシステム内最強を張ってるのは伊達じゃない。慢心は大敵である。
それはそうと数年前に『魔力精密操作』や『気力精密操作』がカンストし、統合されて『量子操作』へと進化した。それに伴ってカンストして久しかった『闘神法』と『魔神法』が統合されて『魔闘神法』へと進化した。
まぁぶっちゃけスキルのラベル名が変わっただけで、出来ることはそれまでの延長線上である。スキルが進化して最強に!などという"なろう的テンプレ展開"は起こらないのだ。
このまま管理者たちに目をつけられないよう、平穏無事に生き延びてやるぜ!!
…ふぅ。さて、現実逃避は終わりだ。潔く現実と向き合うとしよう。
俺の目の前には全身が真っ白な美女がいる。なぜか目を瞑っており、神秘性すら感じられる美女が。
………アイエェェェェェェェ!!!
白=サン!?白=サンナンデ!?!?なんで忙しい時期のはずのあんたがこんなところにいるんですか!?!?
…いや待て、落ち着け、クールになるんだ。今は一旦彼女の動向を観察するんだ。ワンチャン俺以外に目的があるはず!
「見つけた」
無理ぽ。目は閉じてるけどがっつりロックオンされてるのを感じる。
今からでも入れる保険ってありますか!?…そこにないならない?あ"ぁ"ゴミカスゥーッ!!
…だが生きるためだ、やるしかねぇ!!!
持ってくれよ…俺の表情筋と脳みそ!!
◇ ◆ ◇ ◆
「___年頃の女性が、ノックもせずに夜の異性の部屋に入ってくるのは感心しませんね」
ユーゴーが白を視認しての開口一番の言葉がそれであった。白の観察眼では一切の動揺はなく、瞑想の体勢を解いて理性と知性を湛えた目で白を見据えている。
(……何こいつ。自分で言うのもアレだけど、突然現れた存在に対してなんでこんな冷静なの??)
あまりの冷静さに却って戸惑う白。自分のことを棚に上げて突然の状況に戸惑う者を面倒だと唾棄する白だが、こうも冷静に対応されると逆にドン引きする。
(…まぁいいや。さっさと確認済ませちゃおっと)
そんな心境を一旦脇に置き、白は当初の目的を果たすことを優先する。
「異常」
…だがしかし、その確認方法は常人には到底通じないようなハイコンテクストの極みのようなものであった。
生来のコミュ障であることに加え、蜘蛛になってからろくすっぽ他者と交流した経験がなかったために『自分の思考は他者も完全に理解している』という前提で話す癖が染み付いてしまっているのだ。
アリエルやDだからこそ意思疎通に全く問題はなかったが、普通であればそれは通用しない。
……だがしかし、目の前の少年はその普通に当てはまらない存在だったらしい。
「…『その異常なステータスはどうしたのか』、という意味でしょうか?それでしたら幼少の頃から鍛えてきただけです。若い身空で死にたくはないですからね」
わずかに思考し、白の短すぎる発言に含まれる全ての意図を読み取って返答してのけた。
それがどれほど異常なことなのか、常人ならば察するのは容易かろう。だがしかし、白は生憎常人とは程遠かった。
(あ、この子と話すのすんごい楽。意図を全部察してくれて助かるわー)
その程度の感想しか抱いていない白。コミュ障を極めてしまってコミュニケーションの基本すらも忘れてしまったらしい。
それに気を良くした白は続け様にどんどんとハイコンテクスト極まる質問を投げかけていく。
「目的」
「……『そこまでして鍛える目的は何か』でしょうか?この
「転生」
「………『お前の中身は転生者だな?』ですね?その通りです。名前を言う必要は……ありそうですね。夏目健吾と申します。どうぞお見知りおきを」
「敵対」
「…………『こちらと敵対するか否か』ということであれば、そちらの立ち位置がわからない以上はなんとも。少なくとも現在の時点で貴女個人と敵対する意思はない、と明言しておきます」
その全てに、一秒未満の思考時間で返答するユーゴー。この時点でようやく白は違和感に気づく。
(…おかしいな。なんでこんなに正確すぎる受け答えができんの?確かに私の問いは全てこの会話の中で察することは可能。だけどそれは『理論上不可能ではない』というだけ。そのレベルのコミュニケーション能力があるってこと?………わからん!!!!)
そうして思考を放棄した結果白がとった行動は『なかまをよぶ』ことであった。
「…………待て」
白は一方的に一言申し付け、仲間…魔王アリエルに連絡を取ることにした。
考えるのが面倒になったのもそうだが、白はこの超短期間でユーゴーをものの見事に『おもしれーやつ』認定したのである。
彼我の力量差を見抜いているのかいないのかは知らないが、それでも突然現れた自分に媚びず怯えず驕らず、自分の意見を通している。
そんなおもしれー
◇ ◆ ◇ ◆
「やぁやぁ人間クン、私は魔王アリエルだ。短い間だけどよろしくね?」
白との会話で生き残ったかと思いきや、第二ラウンドが始まったでござるの巻。試験官は目の前の玉座に鎮座する、システム内最強の生命体こと魔王アリエルその人である。白の転移魔術によって魔王城まで強制連行されたのだ。
………運営!!何やってんだ運営!!難易度調整ミスってんぞオイ!!修正パッチはよ!!!
白は会話だけでどういうわけかなんとかなったが、これがアリエルが相手となればもはや詰みである。
/(^o^)\オワタ
というのが正直な心境だ。なんなら一周回って吹っ切れそうな気さえしている。ガチの上位存在相手にパンピー風情がどうにかできるわけないじゃんね。
はー、やってらんねー。
………でも、やらないと死ぬのは確定してるんだよな。だとしたらやらなきゃ損じゃない?
どうせ死ぬんだとしても、対策をやるだけやって死ぬ方が後腐れなく死ねる。俺の精神はもう無敵の人である。
テメェなんざ怖かねぇ!!野郎ぶっ殺してやるぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
…あ、ごめんなさい調子乗りました敵対するわけないじゃないですかヤダナァ…。
◇ ◆ ◇ ◆
「お初お目にかかります、魔王陛下。私、レングザンド帝国が第一皇子、ユーゴー・バン・レングザンドと申します。どうぞお見知りおきを」
恭しく、しかして媚びない態度で一礼する眼前の人間。それを見てアリエルはわずかに目を細めた。
(コイツ、
それと同時に察した。奴から放たれている気配があまりに弱すぎることに。その弱さときたら、まるで自身の最下層の眷属のそれである。
「……ユーゴー、お前やけに力を抑えているな?なぜそんなことをしている?」
「魔王陛下の御前で力を垂れ流すなど、失礼極まりないでしょう。私は陛下に喧嘩を売りに来たわけではございませんので」
至極冷静なユーゴーの返答にアリエルは更に面白がる。さらに…
(……一当てしてみようか)
内心でニヤリと嗤い、
「___なるほど、つまりお前はこう言いたいわけだな?『お前程度に怯えるほど私は弱い』と」
空間が歪み、重力が数倍になったかのような重苦しさがあたりに充満する。
アリエルが単に己の魔力を放射しているだけだが、彼女の一つの星のような魔力は放出するだけでも十分な攻撃となる。
しかし、そんな異常現象にもユーゴーは全く動じない。耐えているのではない、ただただそこに『在る』。ユーゴーはいつも通り冷静な顔を一切崩さず、さらりと言ってのけた。
「お
声色にも微塵も恐怖の色はない。媚び諂っているわけでも、敵対しようとしているわけでもない。ただただ理性的に『敵対しない』と繰り返すのみ。
「……お前、分かってて言ってるのか?」
「いえ、至らぬ身ですので」
(分かってないのか、分かってて言ってるのか…いや、どちらでもいいな。コイツは弱くない。だが、それ以上に
ユーゴーの返答を内心で評価し、アリエルはふと目を閉じる。
(……実力は申し分ない。額面だけなら私にも匹敵する。私や白相手に怯えず、媚びず、イキらない。それでいて自分の意思を通す。…………クククッ、なかなか面白いのを拾ってきたじゃんか、白)
今までの悪辣な笑みではない、ふっと年相応な笑みを一瞬だけ浮かべ、アリエルは圧を引っ込める。言葉にこそ出していないが、『合格』と態度で言っているのだとその場にいる全員が理解していた。
◇ ◆ ◇ ◆
ち、ちびるかと思った………。俺、ちゃんと首とかついてる?…ついてるね。ヨシっ!
…。
ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!
怖かったもぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!
まさかあんなガチの殺気を向けられるとは思わないじゃん!!!こっちはいつも通りナイトルーティンの瞑想をしてからスヤァしようとしてたのにさぁ!!それが何の因果か管理者+魔王による圧迫面接だよ!!
運営さん!!俺だけ難易度調整ミスってませんか!?早く修正パッチを当ててください!!!
…ふぅ、落ち着いた。やはり内心で絶叫するのはストレス軽減に最適だ。エシ○ィシもそう言っている。
圧から解放されて以降の記憶はほとんどなく、なんかアリエルさんと白が話した後、俺は『魔王軍の外部相談役』という必要なのか不要なのかよくわからないポジションにつけられることになった。
役割という役割はほとんどなく、ほぼ独立したユニット扱いなんだとか。ちなみに俺には白が訓練をつけてくれるそうです。…丁重にご遠慮したいところだが、有用なのは事実なんだよな…。
そんなことがありつつ今、俺は白に連れられて別の場所に連れられていた。なんでも紹介しておきたい人たちがいるらしい。…嫌な予感がするぞい。
「…白さん、紹介したい人とはどなたなのでしょう?」
「鬼と吸血っ子」
「……鬼と吸血鬼?白さんの庇護下に在る人物でしょうか?」
もう既に答えは九割ほど確信しているが、念のために聞いておきたい。会ってからのお楽しみ、というサプライズは求めていない。
そんな問いに白は一度立ち止まって振り返り…
「同じ」
俺を指差す。俺と同じ……転生者ってことか。ならもう確定だな。今から紹介されるのはソフィアとラース。原作では十三歳だった分少し早いが、まぁ許容範囲内の誤差か。
「俺と同じ転生者、ですか。ありがとうございます」
「ん」
そう言ってまた前を向いて歩き出し、俺はついて行った。
◇ ◆ ◇ ◆
一つの部屋に到着し、ノックもせずに白が入室する。内心で覚悟を決め、俺も部屋に足を踏み入れ___反応するより先に足が止まる。素早く抱きついてきた存在に反応するも、抵抗できなかった。
___それは、ひどく見知った体温だった。
『…やっと会えました』
抱きついてきた少女は
…………そうだ。何で忘れていたんだ?原作でソフィアが歪んでいたのは、中身が原因だと分かっていただろうに。それがこの世界では適応されないとなぜ思い至らなかった?
…いや、考えるのは後だ。彼女と会えて嬉しいのは、俺も同じなのだから。
『……俺もだ。また会えて嬉しいよ、彰子』
『っ、健吾、くんっ』
少女の…