白がユーゴーに接触し、アリエルと共に圧迫面接をかましている頃。ソフィアは白によって見知らぬ場所へと転移させられたことにため息をついていた。
何の説明もないまま『吸血っ子、出番』とだけ言われて森の中へと放り出されたソフィア。周辺数百キロにわたる魔力を読み取り、学園から百キロ弱離れた場所だと理解する。
「白様のことですから唐突なのは今更ですが…もう少し説明をしてくれてもいいと思いますの」
言っても変わらない上司に呆れつつも、自分をここに飛ばしたことには何か意味があるはずとソフィアはさらに探知範囲を広げる。
そして、ポツンと点在する周囲と比較して大きな反応を検知した。
「……これでしょうか?」
闇と同化するかの如く溶け、その反応の近くへと転移する。ソフィアが『
そして転移した先にいたのはソフィアより頭一つ分は大きい鬼。一心不乱に剣を振っている鬼に、ソフィアは声をかけることにした。
「もし、そこの方。少々お尋ねしたいことが___」
刹那、返答代わりに放たれた剣閃。雷光の如く鋭い一撃を、しかしソフィアは軽く首を傾けるだけでかわす。
「…あぁ、先にあなたの縄張りに入ったことは謝罪いたします。申し訳ござ___」
ソフィアの謝罪も意に介さず、次々と繰り出される剣撃をソフィアはひょいひょいといずれも最小限の動きで回避する。その斬撃はソフィアの髪の一房すらも切ることは叶わなかった。
あまりにも話の通じない鬼に、ソフィアはため息をつく。なぜ自分の接する相手はこうも話の通じない相手ばかりなのか、と。
「……人の言葉すら、解しませんか」
___であれば、仕方ありません。
ソフィアはそう呟くと徐に飛び退き、距離を空けた。そうして親指の腹を鋭い犬歯で噛み、血を流す。その血は意思を持つかのように流動し、ソフィアの両手に一対の紅い双剣となって収まる。
「会話が通じない以上は、力づくで話を聞いてもらいます」
そう言って鬼を見据え、構えを取るソフィア。
吸血鬼と鬼人。
互いに転生者同士の激闘が幕を開けた。
◇ ◆ ◇ ◆
しかして、戦いの趨勢は一方的なものであった。鬼人の攻撃は一つも当たらず、ソフィアの攻撃は全てが鬼人の外皮を容易く切り裂き、少なくない出血を強いる。
まともに撃ち合えば己の魔剣をガラス細工のように打ち砕かれるか、障子紙のように切り裂かれるかの二択しかないと悟った鬼人は距離を取る。
もし仮に二人を高位の鑑定持ちが鑑定したのならば、こう表示されていただろう。
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人族 吸血鬼 LV1
個体名:ソフィア・ケレン
HP(緑):45670/45670
MP(青):49498/49798
SP(黄):47410/47510
SP(赤):47410/47510
平均攻撃能力:45160
平均防御能力:45080
平均魔法能力:47960
平均抵抗能力:48800
平均速度能力:46430
《スキル》
「上級吸血鬼LV10」「不死王LV10」「HP超速回復LV10」「MP超速回復LV10」「MP消費大緩和LV10」「魔力精密操作LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「魔神法LV10」「SP超速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「気力精密操作LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「闘神法LV10」「鑑定LV10」「探知LV10」「外道無効」「重魔法LV10」「狂愛」「n%I=W」
スキルポイント:79500
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鬼人 LV45
個体名:ラース
HP(緑):2655/16077
MP(青):4788/19899
SP(黄):5340/15755
SP(赤):3028/15791
平均攻撃能力:15888
平均防御能力:15823
平均魔法能力:17660
平均抵抗能力:17808
平均速度能力:15773
スキル
「HP高速回復LV8」「MP高速回復LV10」「MP消費大緩和LV10」「魔力感知LV10」「魔力精密操作LV2」「魔神法LV2」「魔力付与LV10」「魔法付与LV2」「大魔力撃LV1」「SP高速回復LV1」「SP消費大緩和LV2」「闘神法LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV2」「大気力撃LV1」「剣神」「斬撃大強化LV1」「打撃大強化LV1」「貫通大強化LV3」「衝撃強化LV9」「破壊大強化LV1」「火炎強化LV1」「雷光強化LV5」「外道攻撃LV5」「龍力LV8」「火炎攻撃LV5」「雷光攻撃LV6」「念力LV7」「投擲LV10」「射出LV10」「空間機動LV2」「集中LV10」「思考加速LV8」「予見LV2」「並列意思LV1」「高速演算LV7」「記憶LV8」「命中LV8」「回避LV8」「確率大補正LV1」「暴君LV3」「鑑定LV2」「気配感知LV7」「閻魔」「呪怨LV3」「火魔法LV10」「火炎魔法LV6」「雷魔法LV10」「雷光魔法LV6」「治療魔法LV8」「外道魔法LV10」「空間魔法LV8」「魔王LV4」「矜持LV4」「憤怒」「祈祷LV3」「破壊大耐性LV5」「斬撃無効」「打撃大耐性LV5」「貫通大耐性LV5」「衝撃大耐性LV5」「火炎耐性LV2」「水耐性LV6」「氷耐性LV9」「暴風耐性LV1」「地耐性LV5」「雷光耐性LV2」「光耐性LV2」「闇耐性LV1」「状態異常大耐性LV4」「気絶耐性LV5」「恐怖大耐性LV2」「外道耐性LV9」「苦痛無効」「痛覚軽減LV9」「暗視LV9」「千里眼LV7」「五感大強化LV3」「知覚領域拡張LV3」「神性領域拡張LV4」「天命LV10」「天魔LV10」「天動LV10」「富天LV10」「剛毅LV10」「城塞LV10」「天道LV10」「天守LV10」「韋駄天LV10」「禁忌LV10」「命名LV10」「幻想武器錬成LV10」「n%I=W」
スキルポイント:0
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鬼人___ラースの圧倒的なスキル群に対し、ソフィアのスキル構成は非常に簡潔である。しかし、現に追い詰められているのはラースであり、ソフィアは汗ひとつかいていない。
(なんで、なんで攻撃があたらねぇんだ!?クソ、支配者スキルを持ってるせいで鑑定が通じねぇから、コイツの強さがイマイチわからねぇ…『憤怒』は気軽に使えねぇし、魔剣のストックは尽きかけてるし…)
(ふむ…保有する魔剣は少々厄介ですが、実力はこの程度ですか。どういうわけか理性も溶けているようで攻撃は至って単調ですし…支配者スキルのいずれかの影響でしょうか?)
ラースは苛立ちと焦りを募らせる一方で、ソフィアは冷静に状況を分析する。ラースはソフィアが紅い双剣を構えた瞬間に鑑定石を用いて鑑定を試みたが、ソフィアの支配者スキルによって弾かれてしまった。
結果、ラースはソフィアの具体的な数値を知ることができず、『当たれば倒せる』と勘違いしたまま憤怒を起動させずに戦闘を続けていたのだ。
『憤怒』がラースにとって多大な代償を伴う奥の手であるのはその通りであるが、ラースは開幕から即『憤怒』を起動させるべきだったのだ。
ラースは気づいていないが、ラースは自身が思っているより十倍は消耗している。ラースがスキルや魔剣による攻撃を無駄撃ちしたことによる消費に、ソフィアの紅い双剣の性質が加わってここまでの消費を気付かぬ間に強いられているのだ。
ソフィアの双剣に付与されている性質は『呪血』___ソフィアが吸血鬼の特性を魔術によって改変したものであり、斬られた対象のHPのみならずMPやSPすらも削り取り、スリップダメージを与えるという性質を持つ。
つまり、斬られれば斬られるほど長期戦のためのリソースがゴリゴリ削られていくのである。ラースの高速回復を持ってしても全く回復が追い付いていない現状、ラースは『憤怒』を使うにはあまりに遅すぎるほどに消耗していた。
(……………は???いやちょっと待て、待て待て待て待て待て!!!!!どういうことだ!?なんで、こんなに消耗してる!?無駄撃ちか!?スキルを無駄撃ちしすぎたのか!?)
ラースがふと自分に鑑定をかけてようやく事態を理解する。しかし、もう遅い。もう『憤怒』をろくに発動するリソースは残っていないのだ。
(………腹を括るか)
…ただし、一つの方法を除いては。
刹那、ラースの周囲の空間が歪む。ソフィアは何事かと目を細めつつ、状況の確認をいつも通りに行う。
(…なるほど、ステータスの急激な上昇ですか。であるならば確定ですわね。この鬼人が持つ支配者スキルは『憤怒』。健吾くんの記憶によれば、効果は確か『自身の理性を燃料にステータスを10倍にする』、でしたか?正直、溶かせるほどの理性がまだ残っていたことのほうが驚きですわ)
ラースの威力と速度を増し、システムの限界まで引き上げられた無数の攻撃をソフィアは風にゆらめく柳のように軽やかに避けていく。足取りはまるで乱れず、視線は一切ブレることなく戦場を俯瞰していた。
一撃でも当たれば即座に彼女の命を奪うであろう連撃は、しかしそれでも彼女に当たることはなかった。
(ですが、委細問題なし。動作はさらに単調に、少なくない消費で自滅も目前。ここからさらに畳み掛ける必要などありません。放っておけば向こうが勝手に倒れてくれるのですから)
方や理性を失い、ラッキーパンチに全てをかけた者。
方や理性を保持し、技術と効率を極限まで高めた者。
いくら前者が強くても、所詮はシステムの範囲内での強者に過ぎない。ソフィアはこれに加え、システム外での基礎スペックもステータスと同等くらいに存在する。
数値化できないそれらをソフィアは詳しくは知らないが、ユーゴーの知識を参照することでそれらが存在することは知っており、白との特訓によってそれらも鍛えていたのである。
更にソフィアは『狂愛』によるユーゴーからのおこぼれによるリソース確保と吸血鬼の特性による再生能力により、『試練』によるバグり散らかした成長速度を有するユーゴーに追随する成長を見せていた。
その結果技量が原作とは比較にならないくらいに磨き抜かれ、システム内外の強さという両翼が備わったことにより、原作より遥かに強さを増しているのだ。
だが、彼女の強さの本質はそこではない。彼女の本質はその『観察眼』と『適応能力』にこそある。
前世から健吾に対して常軌を逸した観察眼を有していたソフィアだが、それは戦闘にも応用された。相手の癖や気配、様子を具に観察し、一度見た攻撃や動作に完全に適応し二度と通用しなくする。そのコンボこそがソフィアの強さの根源なのだ。
だからこそ、ワンチャン狙いで自身の神性領域を燃料とした『憤怒』の強制発動が実を結ぶはずもなく。
(まず、間に合わな________)
糸が切れたように、ラースは倒れ伏す。今まであった荒れ狂うようなエネルギーの奔流は途絶え、虫の息となった鬼人だけがその場に残された。
死んだフリでないことをソフィアは二、三度背中を突き刺して確認し、漸く血の双剣を解除する。
「…全く、とんだ困ったさんですわね」
「うん」
独り言に対して突然返されたことにも動じず、ソフィアは振り返らないまま言葉を続ける。上司がいきなり現れるのはいつものことだ。気にしていても仕方ない。
…もう少しやり方を考えてほしくはあるが。
「この鬼人を回収なさるので?」
「うん」
「ふむ……支配者スキルでしょうか?或いは私と同じ転生者?」
「両方」
「なんと……ならば私の裁量を完全に超えておりますわね。処分はお任せいたします」
「うん」
相変わらず白はハイコンテクスト極まる文章ではあるが、ユーゴーの薫陶を(間接的に)受けたソフィアにとっては初歩的な暗号解読でしかない。容易く読み解き、奥にある意味を完全に把握する。
「あ、そうだ」
「なんでしょう?」
「お前の『運命』、連れてきた」
「…………本当でしょうか?」
そんなソフィアだったが、白の言葉に咄嗟に言葉を返すことができなかった。
場所も把握していたが、会えるようになるのはもう少し先になると思っていた。それが、今すぐに会っていい?
「…一足お先に失礼致します」
「うん」
礼もそぞろに、ソフィアは『影渡』によってその場からかき消える。後に残されたのは白と瀕死のラースのみ。
(いやぁ〜。吸血っ子、青春してんね〜)
しみじみと『いいことしたな、私』と言うかのようにうんうんと頷く白。しばらくして瀕死のままラースを放置していたことに気づき、慌てて治療したのはまた別のお話。
(こんなことなら吸血っ子に回復させてから行かせればよかったな…他人の回復ってチョチョイとできないから苦手なんだよな〜…あっやべっ)