破滅予定の皇子ですが、なにか?   作:爛れ炭化したサーロイン

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第6話 自主練の光景、既知の終焉との邂逅

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ…」

 

 決まった型を、常に一定の速度で反復する。全身に自身を中心とした大気圧の数百万倍の圧力をかけ続け、それに抗いつつ量子操作によって身体の動きを操作し、型を維持する。

 

 気を抜けば一辺数ミリの肉塊へと圧縮されてしまうほどの超高圧下で、システム外の基盤を鍛え続ける。

 重力では一方向にしか鍛えられなかったが、風の魔術を応用して全方向から圧力をかけることで全身をくまなく鍛えることができるようになった。やはりドラゴン○ール式鍛錬は正義だった。

 

 エネルギー操作能力の上昇と共に処理効率も上がっているのか、最近では圧力魔術、帝国にいる端末の操作、身体内外のエネルギー操作の三作業を並列して行うことになんの苦労も感じなくなってきた。

 並列思考や思考加速、神性領域拡張なんかのスキルも生えていないことから、これらを素面で行えている自分に驚愕する今日この頃。ソフィアの『狂愛』の性質からもうっすらと理解していたが、どうやら俺の魂は随分と大きいらしい。

 

 おかげで未使用領域がダダ余っており、それらが順次開放されていっているのだろう。スキルが生えるには『現状で頭打ちになる』必要があるため、生えていないということは全く頭打ちになっていないということを意味する。…自分のことながら恐ろしいものだ。

 

 ここ最近は『試練』がバグっているのか99999あったはずのステータスが常に1まで制限されてしまっている。システムからほぼ完全に脱却しているとはいえ、これでは勘違いさせてしまいかねない。

 

 ソフィアにも鑑定してもらったところ、『鑑定』スキルによる表示ではステータスが全て1になっており、『狂愛』による表示ではステータス末尾のカッコの内部に本来の数値が表示される仕組みになっていたらしい。

 自分で自分を鑑定する分には括弧の内部に本来の数値が表示されるのだが…『試練』とは摩訶不思議なスキルである。

 

=====

人族 LV1

個体名:ユーゴー・バン・レングザンド

HP(緑):1/1(99999/99999)

MP(青):1/1(99999/99999)

SP(黄):1/1(99999/99999)

SP(赤):1/1(99999/99999)

平均攻撃能力:1(99999)

平均防御能力:1(99999)

平均魔法能力:1(99999)

平均抵抗能力:1(99999)

平均速度能力:1(99999)

《スキル》

「HP超速回復LV10」「MP超速回復LV10」「MP消費大緩和LV10」「魔力付与LV10」「魔法付与LV10」「SP超速回復LV10」「SP消費大緩和LV10」「気力付与LV10」「技能付与LV10」「量子操作LV4」「魔闘神法LV4」「外道無効」「鑑定LV10」「探知LV10」「重魔法LV10」「試練」「n%I=W」

スキルポイント:99500

=====

 

 自分自身での鑑定やソフィアの『狂愛』による表示はこうだが、他者からの『鑑定』スキルによる表示は()そのものが消えるのだそう。試練による制限が見えていないのもそうだが、量子操作や魔闘神法までも見えなくなって旧スキルが表示されているのだとか。……一体どういう原理なんだろうか。

 

 とはいえ、他者に鑑定されて表示された画面を見ると、俺がとんでもないクソ雑魚ナメクジに見えてしまう。

 HPMPSPは超虚弱体質だし、攻撃力はミジンコだし、防御力は障子紙だし、魔法力はゴミだし、抵抗力は空気だし、速度はナメクジだし…良いとこなしすぎてよくここまで生きてこれたな…という同情を買いそうである。初期の蜘蛛子でももう少しマシだったぞ。

 

 俺の場合はシステム外の基盤をガチガチに固めているので大した問題ではないが、普通であればとんでもない弱体化である。なんせステータスがおよそ10万分の1なのだから。

 どれだけ高度な封印なんだと言いたくなるレベルだ。カンストしているステータスが一気に最弱まで落ちるなど、もはやシステムに対してハッキングでも仕掛けているようなものだろう。

 

 成長率100億倍というもはや想像すらつかない成長速度を叩き出す『試練』さんは今日も過重労働お疲れ様である。

 

 …そうこうしているうちに規定の回数が終えた。圧力魔術を解き、すぐさまクールダウンに移る。ふぅ〜気持ちいい〜。

 

 …そういえば、岡咲先生ことフィリメスは支配者スキルによって俺のステータスを没収できるのだろうか?システム外の基盤を整えている俺には全く痛手ではないが、原作で1000以下のステータスを引き剥がすのに死にかけていたフィリメスが俺のステータスを没収できるとは思えない。意外とステータスの大小は関係ないのかもしれないが、希望的観測で行動して大事故が起きては洒落にならない。

 

 そして死んでも俺のステータスを没収しようとして実際に死なれると…白の地雷をぶち抜いてしまう。

 

 正直な話、そんなにフィリメスのことが大事なら大切にしまって金輪際外に出すなと言いたいが、彼女相手に何を言っても無駄だろう。雑音として切断処理されるのが関の山だ。だからこそ、こちらが対策を練る必要がある。

 

 具体的な対策を考えつつ、俺は次の自主練の準備を続けた。

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

 魔王軍にスカウトされてから一週間ほど経ち、だいぶここでの生活にも慣れてきた。

 

 相変わらずソフィアはラインギリギリを攻めて誘惑してくるし、白は平然と殺すレベルの攻撃を連打してくるし、たまにアリエルさんも一緒になって戦闘訓練するし…アリエルさん、貴女そんなキャラでした?

 

 細々とした問題はあれども、概ね上手くいっていると言っていいだろう。

 

 …そう言えば、ついさっき笹島京也ことラースが目を覚ましたと聞いた。俺も何かお見舞いの品でも持っていくべきだろうか?魔術で適当なフルーツをいくつか()()栽培してプレゼントした方がいいだろうか?

 

 そうと決まれば魔術で土を生成し、簡易鉢植えを作成。その辺の雑草の遺伝子を魔術で弄り、果実をつける植物の種とする。それを鉢植えの中に突っ込み、魔術で強制成長。魔王軍入団前から練習していたちょっとした特技であり、一切のデメリットや弊害がないように調整するのが大変だった。

 

 なんせこの世界、甘味が全くないんだもの…それで果糖やショ糖を入手してアレコレ作り、自分用に食べていたのだ。やっぱ日本の農家の皆さんの血と汗と涙の結晶である果物や作物は別格でした。その分難しかったが、それだけの価値は十分にあったと言えよう。

 

 お見舞いの果物と言ったらリンゴだろうか?拳大の瑞々しいリンゴを4〜5個作って自分専用亜空間に収納し、ふと思い出す。そういえばラースって原作で俺を殺したんだよな。虫でも踏み潰すかのようにプチッと。

 

 もちろん殺した経緯はある種妥当だし、俺という前提が違う以上は殺すことはなくなるだろうが、しかしその能力はあまりに厄すぎる。

 

 『憤怒』。理性と引き換えに己のステータスを跳ね上げる支配者スキルだが、環境が環境だったとはいえラースはこれを発動させる引き金があまりに軽い。

 

 普段は平然としていても、次の瞬間には敵味方の区別なく周囲の生命体を皆殺しにし始める可能性のある味方など、普段から味方ヅラする分有能な敵より邪魔ですらある。

 

 アリエルさんもアリエルさんで、よくこんなのを軍団長に据えようと思ったものだ。俺なら絶対率いる立場に就かせないし、むしろ単独行動しか許さない。

 …まぁ彼女の考えとしては魔王軍がどうなろうが知ったこっちゃないし、むしろドンドン死んでサリエルにMAエネルギーを返せと言いたいだろうからむしろ合理的、なのだろうか…?

 

 ま、そこは俺の考えるところじゃない。

 

 端的に言えば俺はラースに会いにいきたくない。感傷でしかないと言われればそれまでだが、本能が会うのを忌避しているのだ。そりゃ話したり一緒に行動するのに支障はない。だが、それが『普段から一緒に過ごしたい』とイコールでつながっているわけではない。嫌なものは嫌なのだ。

 

 だが、よく考えてみれば魔王城はとても広い。ラースのいる部屋から遠ざかっていけば、ラースと会うこともないはず。勝ったなガハハ!風呂入ってくる!

 

「……久しぶり、って言っていいのかな」

 

 角を曲がった瞬間、見覚えのある顔にツノが生えた鬼人とばったり出くわす。

 

 …。

 

 お前から接近してくるのは聞いてないってばよ…。

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

 ラースが意識を取り戻したのは、ソフィアとの戦いから一週間が経った頃だった。

 死んだものとばかり思っていた自分が生きていることに驚きと戸惑いを隠せず、誰かが倒れた自分を介抱してくれたのだろうかと辺りを見渡せば、ちょうど扉が開いて誰かが入ってくるところだった。

 

 入って来たのは全身が真っ白な美女と、幼さが残りつつも見た目にそぐわない色気を醸し出す少女。そして少女の方にラースは見覚えがあった。

 

「っ……」

 

「あら、目を覚ましていましたのね。それと怯える必要などないわ。こちらに敵対するつもりはなくってよ」

 

「…あ、えっと…あ、あぁ……」

 

 記憶にある怜悧な視線に射抜かれ、思わず体を硬直させるラース。少女___ソフィアの言葉によって『自分が仕掛けて来たことをきっかけに戦いが始まった』ということを思い出し、戸惑いながらも僅かに身体から力を抜いた。

 

「白様、なぜ私を彼の元に連れてきたのですか?」

 

「仲直り」

 

「……はぁ。余計なお世話、という言葉をご存知ですか?」

 

「青春」

 

「出歯亀でしかありませんわよ」

 

 どことなく誇らしげにする白い美女と、呆れた様子でツッコミを入れるソフィア。そんなやりとりを呆然としながら見ていたラースだが、ふと白い美女に知り合いの面影があることに気づく。

 

「……若葉、姫色さん?」

 

「………」

 

「……あら?どうなさいましたの白様?」

 

 辺りに沈黙が降りる。白は自身の正体を言い当てられたことへの驚き、ソフィアはまだバレていないと思っていた上司への呆れ、そしてラースは二人の沈黙に『もしかして僕やらかした?』という気まずすぎる心境から、沈黙していた。

 

 三者三様の理由で黙り込んでいた空気を破ったのは白だった。

 

「読め」

 

 そう言って何やら本を二人に渡し、ラースには道着っぽい服も追加で手渡す。

 

「……相変わらずのハイコンテクストですわね。承知しました」

 

「…えっ?ええっ??」

 

 ため息をつくソフィアと戸惑うばかりのラース。ラースは原作では白のハイコンテクスト発言をかなり正確に読み解いていたが、目覚めたての状態ではそこまでの理解スキルがないのだろう。

 

 二人に本を手渡して去っていった白。ラースは助けを求める視線をソフィアに向ける。

 

「……とりあえず自己紹介からいたしませんか?まだあなたが誰なのか、私は知りませんもの」

 

「あっ、そ、そうだね。僕は…えっと、ラース。前の名前は笹島京也。…できれば、公私問わずラースって呼んでくれると助かる、かな」

 

「承知いたしました、ラースさん。では私の番ですわね。ソフィア・ケレン、前の名前は根岸彰子と申します。どちらも同じ私ですし、どちらで呼んでいただいても構いませんが、公の場ではソフィアと呼んでいただけると揉め事が起きにくいかと」

 

「……ね、根岸さんなんだ…その、なんというか、随分と変わったね」

 

「色々ありましたからね。性格も前とは違うものになるのも当然でしょう」

 

「あ、あはは……」

 

 信じられない。

 

 それがラースの心境であった。

 

 地球ではやや不気味な印象のある女子といった感じだった彰子。少なくとも京也だった頃のラースはお近づきになりたいとは思えなかった。

 

 彰子自身が『健吾くんの隣に立つに相応しくなりたい』と自発的に努力した結果、原作よりもかなり容姿が改善され、リアルホラー子こと"リホ子"呼ばわりこそされていなかったものの、その面影は残っていた。所詮は経済的に自立していない学生の努力では限界があったのだ。

 

 そしてそんな彰子が執着し、それを平然と真正面から受け止めていた健吾は、男子の間では変わり者扱いされていた。

 基本的に正しいことしか言わないが、その正しさを押し付けることは決してしない。反面一線を超えた者に対しては一切の情けや容赦が消え、徹底的に追い詰める。

 

 そんな健吾と彰子は、ある種の不可触存在(アンタッチャブル)だとクラスの中では暗黙の了解として認知されていた。

 

 京也自身、そんな一貫したスタンスを持つ健吾に好感を抱いていると言ってもよかった。なんせ自分が貫いてきたスタンスとは少し違うものの、似通った生き方をしつつ自分の生き様を恥じずに示しているのだから。

 そんな生き方に憧れや嫉妬をしたこともあった。

 

 そして今、ソフィアにも僅かながら嫉妬してしまっていた。

 ラースという名を名乗ったのは、ひとえに過去の自分の名前が嫌いだったからだ。京也という無謀な正義厨、ラズラズという無力な存在、それらを捨て、ラースという『憤怒に呑まれた者』を意味する烙印を自らに刻む。そうしなければ自分が保てなかった。

 対してソフィアは、『過去の自分も今の自分も、両方が自分』だと受け入れている境地にいる。だからこそどちらの名前で呼ばれても構わないし、『両方とも自分だ』と自己同一性を完全に確立している。…その強さがラースには羨ましかった。

 

 さらに何の因果かその不可触存在(アンタッチャブル)の片割れと殺し合うことになり、自分はものの見事に自滅した。それまでの戦闘は勝負にすらなっておらず、ソフィアの方は手加減をした上でラースの攻撃の悉くをいなしていた。

 

 …だが、理性がほとんどなかったとはいえ先に攻撃した上に制止の声にも耳を傾けなかったのは自分だと理解しているため、勇気を振り絞って声を上げた。

 

「……その、言い訳にしかならないけど…あの時、支配者スキルの『憤怒』に呑まれてて、自由意志がほとんどなかったんだ。本当に、ごめん」

 

 そしてベッドの上で姿勢を正し、その場で綺麗な土下座をする。

 近くの椅子に腰掛けていたソフィアはそれを見て一つ頷いて優しげに微笑む。

 

「気にしておりませんわ。大方、そんなものを常用しなくてはならない環境にいらっしゃったのでしょう?」

 

「っ……!なんで、知って」

 

「ただの状況証拠からの推測ですわ。多少性格が変化しているとはいえ、よほど切羽詰まった状況でもなければあんな代償が大きすぎるスキルを常用しようなんて思うはずがありませんもの」

 

 あたかも自分の過去を覗き見られたかのように正確に自分が置かれた環境を言い当てられたラースは、心底動揺する。

 

 しかしそんなことを気にせずソフィアは判断した理由をつらつらと述べる。…冷静に考えれば分かるとはいえ、常にそれができるソフィアの洞察力は異次元の領域に達している。

 

「……大変でしたのね」

 

「………うん。すごく、大変だったかな」

 

 ソフィアの声から滲む優しさに、僅かながら救われた気持ちになるラース。

 

 しかし、すぐにソフィアは声色を切り替え、正論でラースを射抜く。

 

「ですが、この一件で理性を手放すことの恐ろしさを少しは理解できたかと思います」

 

「…………嫌というほどにね」

 

 ソフィアがニコニコと穏やかな微笑みを浮かべる一方で、ラースの顔は苦虫を十数匹まとめて噛み潰したかのように極めて苦々しいものだった。

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

 その後、ラースに『憤怒』の侵食を抑えるために外道無効を獲得させるべく、自分を相手にひたすら鑑定を使わせたソフィア。探知による外道耐性も並列して稼ぎを行おうとしたが、ラースがスキルポイントを全て使い切っていたため断念。しばらくしてラースは鑑定LV8、外道大耐性LV3まで獲得した。

 

 そしてソフィアの去り際にラースは一つだけ尋ねた。『夏目健吾とはもう会ったのか』と。

 

「えぇ。もう既に魔王軍(こちら)にいらっしゃっておりますよ」

 

 そう笑顔で答えていたため、おそらくはソフィアと同じく保護されたのだろうと理解したラース。実態は白とアリエルにおもしれー奴認定された結果スカウトされたのだが、そこを理解しろというのは酷だろう。

 

 会わせてくれないかともついでに頼むが、予想外にも承諾してくれたために彼女に案内されて健吾…今世ではユーゴーの元へと向かった。なんでも彼女の支配者スキルの一つでユーゴーの位置がリアルタイムで把握可能なのだとか。

 

 …それってストーカーでは?という疑問は心のうちに秘めることにした。無闇に暴いてことを荒立てる趣味はないのだ。

 

 そうしてソフィアの案内の元ユーゴーに会うべく案内され、曲がり角にてしばし待機していた。

 

 そしてバッタリと会ったのである。

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

「…….久しぶり、って言っていいのかな」

 

「…そうだな。十年ぶりなのは久しぶりだと思うぞ」

 

 目の前の自分より頭一つ低い少年から漂うオーラは、ラースの知っているかつての健吾と確かにそっくりだったが、記憶にあるそれよりも遥かに洗練され、冷たく鋭利な雰囲気を纏っていた。

 

「えっと、夏目…あ、今はユーゴーだっけ。あー…どっちで呼べばいい?」

 

「どっちでもいい。好きに呼べ。笹島、お前は?」

 

「…今世ではラースって名乗ってる。できれば、そっちで呼んでくれると嬉しいかな」

 

「分かった。それでラース、俺になにか用か?それともただ挨拶に来てくれただけか?」

 

「………自分でも、何しに来たのかよく分かってなくて」

 

「……アレか?数学の教科書取ろうと部屋まで戻ったのに、いざ部屋に来たらそもそも何を取りに来たのか忘れちまったとか、そんな感じか?」

 

「あ、いやそういうのじゃなく…単純に、なんか会わないといけない気がして、根ぎ…ソフィアさんに頼んだんだ」

 

「………道理でこうもバッタリ出会したわけだ」

 

 ソフィアのスキルの仕様を知っていたのだろう、ユーゴーは軽くため息をつく。近しいもののスキルを個人的な目的のために利用したことに罪悪感を覚えるラースだが、聞きたいことを思い出し、そちらを優先することにした。

 

「その、ごめん。『憤怒』の影響で理性がほぼなかったとはいえ、ソフィアさんの制止も聞かずにこうげきしてしまって…」

 

 深々と頭を下げるラース。言わなきゃ知られることもなかっただろうに、とユーゴーはラースのバカ真面目さに内心嘆息するも、その素直さは高く評価する。

 

「ソフィアが気にしてないなら俺から何か言うことはねぇよ。事実、ソフィアに被害はなかったしな」

 

「………そう、だね」

 

 ユーゴの指摘にラースは再び苦い顔となる。しかし指摘の声色に皮肉や嘲りの色が一切なかったことですぐさま立ち直った。

 

「それで?言いたいことはそれだけか?」

 

「あ、うん」

 

「そうか。なら失礼する」

 

 言葉少なにユーゴーはその場を去り、ポツンとラースは一人残された。あたかもラースと一緒の空間にいたくないとでも言うかのように、素早く手際のいい撤退であった。

 

「………まぁ、そりゃそうなるよね」

 

 それを伴侶を傷つけられそうになったからだと誤解するラース。実態はそこまで間違っていないが、単純にラースと一緒にいるのが嫌なだけであることに彼は気付かなかった。

 

 こうして原作の世界線における殺害者と被殺害者の初邂逅は幕を閉じた。




ユーゴー
「あ、リンゴ渡しそびれた…まぁいっか」

(渡し忘れたリンゴは後日ユーゴーとソフィアが美味しくいただきました)
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