破滅予定の皇子ですが、なにか?   作:爛れ炭化したサーロイン

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第7話 管理者との不干渉協定、希望の萌芽

 魔王軍に入ってはや二年。光陰矢の如しとはよく言ったもので、ここ最近は忙しかったからか月日が経つのが異様に早い。その分研究も順調過ぎるまでに進んでおり、ソフィアとの未来を安定させる目処がついた。

 

 白とかいう傲慢で怠惰な神格持ちの蜘蛛女に感謝するのは癪だが、彼女がいなければここまでの進展はなかったのもまた事実。

 模擬戦の最中に何度か顔面に拳を叩き込めたことだし、毎回殺そうとしてくることは水に流してやる。…それからしばらくマジギレモードに突入して大変な目に遭ったけどな!!!

 

「___おい、聞いているのか」

 

「…聞いていますよ、()()()()()()()()()()()()

 

 目の前の真っ黒な男…ギュリエディストディエスに返事をする。

 

 彼も最初は俺をイレギュラー認定して排除に動こうとしていたが、白相手に予行練習を積んだ俺に死角はない。事前に準備していた諸々を使って不干渉協定を結んだのだ。

 

 取り急ぎ決めたのは『ユーゴーは世界を壊さない限りギュリエディストディエスはユーゴーの邪魔をしない』という条件だけであり、そもそもやらないと決めていたことを対価に最大の横槍を事前に防ぐことができたのは大きい。

 向こう側としても自身の信念を曲げるわけではなく、こちらの命令に従うわけでもないためかそれを呑み、基本的には不干渉であるが、時折自分の責務に抵触しない範囲で協力してくれている。

 

「ならば良い。MAエネルギー精錬・加工の理論と技術の進捗はどうだ」

 

「そちらはほぼ完成していますよ。現状は5%でも十分すぎますが、残る95%に手を出すならば更に安定はするでしょうね。代わりに更なる時間を要しますが」

 

「……我の責務を逸脱しない範囲で、できる限り協力しよう。更に利用効率を高めるぞ。保険は何重にも掛けておくに越したことはない」

 

「承知いたしました」

 

 彼としてもそこは譲れないらしく、信念を曲げない範囲でかなりの譲歩を見せた。

 

 愛する女のためにそこまでできる不器用な男には、応えたくなるのが人情というものだろう。

 

 そんな内心は明かさないままに、俺とギュリエディストディエスは更に研究に没頭した。

 

「………あやつには教えないのか?」

 

「確実に成功すると決まったわけではありませんから。偽りの希望を持たせて砕くのはいくらなんでも酷でしょう」

 

「………であれば、我は何も言うまい」

 

 わずかに言葉を詰まらせながら、ギュリエディストディエスは視線を俺から外した。

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

 テーブルを挟んで両側に座っている俺とソフィア。そのちょうど中間地点に色がそれぞれ異なる大きめのおはじきが等間隔で五つ置かれている。

 

 ソフィアがその右端のおはじきに手を伸ばして持ち上げようとするのを上から抑えつけ、ソフィアが手を引っ込める。

 

 俺が左から二番目のおはじきに手を伸ばして持ち上げようとするのをソフィアが上から抑えつけ、俺は手を引っ込める。

 

 言葉にすればこれだけだが、こんな攻防が一秒間に数万回繰り返されている。

 

 何をやっているかといえば、『叩いて被ってジャンケンポン』を超高速でやっているだけであり、鬼○の刃の蝶○敷における反応速度強化訓練である。アレとは違ってお茶の入った湯呑みではなくおはじきだが。

 

・おはじきを相手の頭に乗せた方の勝ち

・出していいパワーはステータス換算で100まで

・相手の手を止められるのは相手がおはじきを持ち上げる瞬間まで

・抑えられたらすぐさまおはじきから手を離さなくてはならない

 

 こんなルールを作ってやっており、俺のソフィア相手の勝率は六割といったところ。『狂愛』でリアルタイムで思考がバレている相手によく頑張っている方だと思う。

 

 ダミーの思考を混ぜたり、あえて何も考えていなかったり、多重に思考でフェイントをかけたり、そうすることよってソフィアの読みを外させることができるようになったのだ。…凄まじい早さで適応されたことには驚いたけど。

 

 …ソフィアの読みを崩した。五手先で決める。

 

「俺の勝ち」

 

「………参りましたわ」

 

 左から二番目のおはじきをソフィアの頭の上に乗せ、宣言する。…とはいえ、これもウォーミングアップに過ぎない。本番はまた別である。

 

「終わった?」

 

 いつの間にか鍛錬場に来ていた白に声をかけられる。…『私すっごく待ってましたけど?』とでも言いたげな様子だが、まだ予定の10分前なのだけれども。

 

 ちなみにこの訓練は白はやっていない。力加減が大雑把すぎて簡単におはじきを壊してしまうのである。三回ほどやって三回ともおはじきを砕き、それ以降はふて寝して参加していない。図体だけデカい子供か。

 

 白との特訓前の処理能力の準備運動としてこの作業は取り入れているのだ。そして白特有の面倒くさがりによって、俺とソフィアの特訓が一緒くたに行われることとなった。…とはいえ自由時間が増える分研究を進めるので、結局暇な時間はないのだが。

 

 …さて、今日もそのお綺麗なツラに拳を叩き込んでやる。覚悟しやがれ、怠惰で傲慢な邪神候補め。

 

 結局その日の特訓では五発叩き込むことができ、一発も被弾せずに特訓を終了することができた。それまではどちらか片方ならできていたものの、両方とも達成したのは何気に初の快挙である。

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

 場所を変えて別の鍛錬場にて。俺はメラゾフィスと一緒に研究を行っていた。とは言ってもメラゾフィスはひたすら棒立ちを続けているだけなのだが。

 

「……む、一瞬だけ僅かに嫌悪感がありました」

 

「うーん、ダメか。もう少し精度は落としても問題ないと思ったんだがな」

 

 今開発中なのは『システムに依存しない鑑定能力』だ。

 

 元々は支配者スキルによる鑑定阻害をすり抜ける目的で開発しているのだが、それに伴って『鑑定を受けた時の嫌悪感の解消』も同時並行で進めており、その雛形はすでに出来上がっている。

 

 名前は『解析』とし、対象のエネルギーや構造、状態ログを読み取り、ステータスやスキルへ逆算して落とし込むのが本質である。『支配者スキルの妨害無効化』『非システム依存』『被鑑定時の嫌悪感なし』を見事達成することに成功している。…のだが、先ほどはメラゾフィスが嫌悪感を覚えたことから分かる通り失敗してしまった。

 

 なにせこの技能はその性質上、演算負荷が桁違いに大きい。容量自体は問題ではないのだが、負荷の方向性が違うのだ。

 

 使用時には演算領域を占有し、他の作業にも悪影響を及ぼす。おかげで戦闘中の使用にはまだまだ練習が必要そうだ。…横着して精度を下げたせいで、当初の目的を達成できなかったことは反省しなくてはならない。

 

「支配者スキルによる鑑定阻害をすり抜けるだけでも十分実用的かと思われますが」

 

「まだ時間はあるんだ。突き詰められるところまで突き詰めたい。付き合ってくれるか?」

 

「承知いたしました」

 

 そして何度か『忍耐』の支配者権限持ちのメラゾフィス相手に『解析』を繰り返し、問題点の洗い出しを行なった。

 

 『解析』の実験を終えようとしていると、メラゾフィスが引き止めてきた。

 

「ところでユーゴー様。少々お話が」

 

「まだだ。そちらはもう少しかかる」

 

「…お嬢様からお聞きしました。理論と技術自体は完成しておられるのでしょう?」

 

「……余計なことを」

 

 思わずソフィアへの愚痴がこぼれてしまう。彼女は確かに俺の意を汲んでくれるが、それでも軽々と彼にそのことを話せばどうなるかは分かり切っているだろうに。

 

「だが、人間相手にまだ実行しないのは本当だぞ。まだ改善点は多々残っているしな」

 

「…………」

 

 ただでさえ情報量が多いものに挑戦するのだ、人間相手に行って失敗しました、では笑い話にもなりはしない。だからこそ今こうやって実験を繰り返しているのだから。

 

「ですがこれだけは覚えておいてください。このメラゾフィス、お嬢様のためであれば我が身我が魂を差し出すことに否はありません」

 

「お前の意思自体は嬉しい。だが、お前は従者である前にソフィアの保護者であり、親代わりだ。そんなやつにいい加減な準備で人体実験を行うのは絶対に認めない」

 

「…お心遣い、感謝いたします」

 

「……時が来たら必ず協力してもらう。返事はまたその時に聞く」

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

 場所は変わってエルロー大迷宮の中層。開けた場所にて一体の巨大な地龍が寝息を立てていた。

 

 その部屋にはいかなる魔物も近寄らず、地龍を決して刺激しないようにその部屋を迂回するようになっていた。

 

 そんな地龍がふと目を覚まし、喉を小さく鳴らしながらある一点を凝視する。

 

 その先の空間が小さく波打ち、一人の人間が現れた。

 

「……相変わらず健在なようで何よりだ、バアラ」

 

 バアラと呼ばれた地龍は立ち上がり、唸り声がどんどんと大きくなる。そしてその人間を双眸でしかと見据え、構える。

 

「……来い、バアラ」

 

 人間がクイクイと手招きするのを合図として、開戦のブレスをバアラは放った。

 

 

 

 

 

 

◇    ◆    ◇    ◆

 

 

 

 

 

 

 その開けた空間で激闘があったことを示す破壊痕があちこちに刻まれる中、無傷の地龍が地に座り、同じく無傷の人間がそのすぐそばで何か作業を行なっていた。

 

 結局バアラは人間に敗れ、事前の協定通りに人間のとある実験に協力することになっていた。

 

「____天鱗LV10、地龍LV10、神剛体LV10、その他成長ブーストスキルも問題なくオーブ化・返還可能、と」

 

___グルルァン。

 

「……『わずかに使用感が違う』?地龍の資格そのものをオーブ化して一度奪ったから、そうなるのも無理はない、のか…?どちらにせよ、まだまだ改善の余地は多いな」

 

___グルルルォォン!

 

「『他のスキルでも試してみるぞ』?…何というか、本当にお前は変わってるな。最初から他の地龍より頭三つ分は強かったことといい、この実験に最初から乗り気だったことといい」

 

___クルルルルルル。

 

「『お前ほどではない』?まぁそれは言えてるな。力の根源たるスキルのオーブ化なんて試してみようとする奇特なやつは俺くらいのものだろうさ」

 

 わずかな唸り声から地龍の意思を読み取り、意思疎通を難なく可能とする人間。

 

 この人間___ユーゴーが行なっていたのは『スキルをオーブ化して抽出し、それを無事に返還すること』である。

 

 ユーゴーは以前からこの手の実験に勤しんでおり、少し前まではエルロー大迷宮に生息する低級の魔物相手に実験を繰り返してノウハウを蓄積していった。この際にある程度スキルをオーブ化して抽出する技術やそれをそのまま返還する技術を会得した。

 

 次に目をつけたのが戦争にて捕えた捕虜や死刑囚であり、人間相手に実験するノウハウを身につけた。ここで『オーブ化して奪ったスキルを返還した際、気持ち程度使用感が異なる』という事実が判明した。

 

 そしてその次に目をつけたのが高位のスキルを多数保有し、知性を持つ魔物……地龍である。

 地龍たちを相手に『お前たちが負けたら殺さない代わりに実験に協力しろ』という条件で交渉し、戦って正面から打ち破った地龍たちに対して実験を行っていた。要するにスキルをオーブ化する実験の臨床試験である。

 

 この実験の目的は『支配者スキルをオーブ化して奪取すること』であり、その前段階としてノウハウを大量に蓄積しておく必要があった。

 それまでの過程で蜘蛛子がシステム外の生命体となったことで放棄した『怠惰』と『傲慢』、『叡智』はシステムから直接オーブ化して回収済みである。つまり支配者スキルをオーブ化する技術と理論自体はすでに確立しているのだ。

 

 その目的のターゲットとなっているのがポティマスやダスティンといった支配者スキル持ちの人間たち。彼らから支配者スキルを奪取することが彼の最終目標である。

 

 『叡智』は実質蜘蛛子専用スキルなことからダメ元で抽出を試みたのだが、予想外にも成功し逆に困惑してしまったユーゴー。単にDが面倒くさがって消し忘れていたのか、あえて放置していたのか…それはユーゴーにもわからない。

 

 そしてメラゾフィスが被験体として志願していたのは『生物が保有する支配者スキルをオーブ化する実験』というポティマスたちに使う技術の最終試験の被験体だ。

 

 当然ながらただのスキルとは違い、魂魄に直接接続する支配者スキルは生体への影響が極めて大きく、ユーゴーですら影響を完全にゼロにできるかは分からない。魂に直接触れるという関係上、ミスは絶対に許されないのだ。

 

 メラゾフィスはソフィアの保護者であり親代わりな存在である。いくら彼が自分の意思で志願しているとはいえ、セーフティも何もない状態で行うのは絶対に許可できない。メラゾフィスは決してそんなことで失ってよい存在ではないのだ。

 

 そういった背景から地龍たち相手に臨床試験を繰り返していたユーゴーだったが、そんな存在の噂を聞きつけたのが地龍バアラであった。

 

 元より地龍バアラは地龍アラバと並んでエルロー大迷宮に住まう地龍の中で双璧を成す存在であり、人間風に言うのであれば『ライバル』のような関係であった。そんな宿命のライバルが死んだと知った時には虚な心地になった。

 

 そんな折に現れたのがユーゴーであり、元より好奇心の強かったバアラにとっては最高峰の観察対象であった。

 バアラはユーゴーと出会った当時でも全ステータスが8000を超えているほどの個体だったのだが、ユーゴーと出会い実験の前に戦って経験を積むことでそれがさらに成長。全ステータスが2万を超えるほどにまで成長し、実力だけならば古竜を名乗れるまでになった。

 

 スキルのオーブ化というバアラには思いもつかない実験を行う理外の強者。この者が何を成し、どんな未来を辿るのかを観察し、ついでにこの者を砥石として自身を磨くことが最近のバアラの楽しみであった。

 

 ___アラバは死に、満たされぬ渇きと退屈に飽いていた。

 

 ___理由などどうでもよい。この人間は退屈を破壊する。理を弄ぶ。

 

 ___強き者。そして理の外側にいる者よ。お前がどんな道を行くのか、しかと見届けよう。

 

 アラバの死による空虚、生きる意味や実感の喪失、強者への渇望。それらが合わさったことにより、他の地龍は恐れて距離を取るユーゴーに対し、自ら近寄る。

 

 生来異端な地龍のバアラは人間の価値観では縛られず、龍としての自らの価値観に従って行動する。だからこそ、今こうしてユーゴーの実験に付き合っているのは自身の好奇心と闘争本能を満たし、退屈を殺すためでもあるのだ。

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