壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい 作:あまぐりムリーパー
ふらつく中、体が勝手に歩いている。これはどうなっているんだろう。ディオネが動いているのか?
わからない。思考がぼやけている。
「魔王は、人間と悪魔の融合体でしたね」
勝手に、口が開いている。
助けられた子どもたちは、イェルクの影の上に寝かされている。
勝手に、その子どもたちの元へと歩いていった。
「……何かの刻印のようなものを埋め込まれていますね。無力化しましたけど」
また、勝手に話した。
いや、違うのか?
これは、ディオネが話している?
「お前は、ディオネか」
「どうでしょうか。また殺して確認しますか、イェルク?」
イェルクの虚ろな瞳は、ただこちらを見ている。
何かを見極めようとしているのだろうか。
そして、興味を失ったかのようにこちらに背を向けて歩き出した。
「あら、ディオネ。つまらないわ。早く、ライに戻って?」
「また焼くつもりですか?ヴァレンティナ」
「うふっ、そんなつもりはないけれど。でもきっと、その時の悲鳴もとても綺麗なのでしょうね」
くすり、と妖しい笑みをヴァレンティナは浮かべる。
「気持ちの悪いことを」
「あなたほどじゃないわ、ディオネ。聖女ほど、気持ちの悪いものなんてないでしょう?」
浮かべていた笑みが剥がれた。まっすぐな瞳でこちらを見た。
そして、彼女も興味を失ったように離れていく。
「……ディオネ?久しぶり」
「クラリッサ、そうですね。久しぶりです」
「……辛い?だったら、私が助けてあげる」
まったく表情の動かないまま、クラリッサはこちらを見た。吐く息が白い。
「助ける、とは?」
「死ねなくて、どこへも逃げる場所がない……でしょ。だから、凍らせて封印すれば……苦しむことももうないよ」
「それは遠慮しておきます」
「……そう。やりたくなったら、言って」
善意で言ってくれたのだろう。でも、その言葉はきっと、了承してしまえば実行してしまう。
ああ、まるで無害そうに振る舞っていたあの少女も、立派な狂信者の一人なんだ。
例えば、今近づいてきている中性的な男みたいに。
「ディオネか」
「……セシル」
「地下からあの力を感じた。ディオネが魔王を屠ったのだろう」
出会った時に見せた興味なさそうな表情とは違う。目を見開いて、じっとこちらを見ている。
セシルが一歩踏み込んだ。
「なぜ、ディオネは閉じこもった?我々は、異端を殲滅しなければならない。その上で、あなたの冷酷無比なその仕事ぶりに魅せられた」
「……」
どくん、と鼓動が脈打っている。
セシルと目が合う。するり、と糸が張り巡らされているのが見える。
「あなたの信仰が揺らいでいるのであれば、その前にあなたに葬られたい」
「私の力は、そんなもののためにあるわけではありません」
「おうおう、ディオネじゃないか!」
「あなたは騒がしいので後にしてください」
「ははは、手厳しいな!」
緊迫した空気が、レオンハルトの介入によって、和らいだ。
こうして見てみると、やっぱりディオネはこの連中と仲良くはない。理由はわかるけど。
そもそもの話、この連中と比べるとディオネは普通すぎる気がする。
と、そんなことを考えているうちに頭がくらくらしてきた。
というよりも、俺の意識だけが薄れている?
口が動いてるような感覚はある。でも、何を話しているのかもいまいちわからない。
薄れ行く意識にしがみつこうとするが、そのまま視界は暗転して、俺は眠るように意識を失った。
◇◇◇
頭が痛い。体がうまく動かない。体がくらくらする?
確か、魔王と戦ってどうなったっけ。倒したような気がする。
「あっ、起きましたか?」
アクイラの覗き込む顔が見えた。
「あれ、帰ってたっけ」
「ええ、そうですよ?」
そういえば、勝手にディオネが動いていたような気がする。
……そうだとしたら、そのままディオネは体の主導権を取り返したりはしなかったのだろうか。
いや、できなかったりするのかな。だって、私が渡そうとしない限りは、できないって。
「ねえ、私ってこのまま帰ってきたの?」
「…………ええ、そうですけど。ふらついてて、話を聞いてもあんまり聞いてなさそうでしたよ?」
アクイラは間を置いて、少し困ったようにこちらを見てから、そう答えた。
何、その間は。私が何かしたっけ。
もしかして、疲れてる間に変なことしちゃったのかも。
「うーん、仕事をしたけど、疲れてたのかな」
「いやその、今も疲れてるんじゃないですか?」
「えっ、なんで?」
「……その、口調というか。ライさん、なんですよね?」
疑わしいものでも見るように、私のことを見てくる。
「ライじゃなかったら誰ってなるでしょ」
「いや、だから口調だって言ってるじゃないですか」
「え?」
「女の子みたいになってるというか」
「……は?」
……あれ、確かになんかそうなってる?
私……いや、私ってなんだ。
おかしい、疲れすぎていたのか?
なんだ、これは。
気持ちが悪い。なんでこんなことに?
まるで、俺がどこかに溶けて消えてしまったような。
「ライさん、大丈夫ですか?」
「ごめん、バグってたわ」
「そうでしょうね。今日は早めにお休みしますか?」
「そうしよかな」
どっ、と疲労感が体にのし掛かってきた。疲れた。
そういえば、今日の仕事のことを思い出す。
魔王は、子どもたちを捕まえてどうやら異端実体を作るような何かをしていたらしい。
恐怖を増幅する、か。それで異端実体が発生するのかがわからない。
それに、魔王の最後の方のこと。
人間には神聖力や神聖印があまり効かない。だから、魔王には効かなかった?
ディオネも言っていた、魔王は悪魔と人間との融合体だとか。
……まあいいや。それは気にしないでおこう。
子どもたちがどうなったのかだけ知りたい。
「そういえば、仕事のことってどうなったのかってアクイラ知ってる?」
「いえ、そこら辺はわからないですね。何かあったんですか?」
「子供がいたから、無事だったのかなって」
「……ライさんってなんだかんだいい人ですよね」
「えっ、何急に」
呆れたようにというか、ジト目で見られながらアクイラはご飯の用意を進めた。
「まあその、ディオネ様の中に入ったのがライさんでよかったのかな、と」
「アクイラ、デレた?」
「……なんか、褒めて損しました」
シチューを机に置いた後、唇を尖らせてぷいっと顔を背けた。
こうやって、アクイラと話してる間だけは心が安らぐ。
シチューに口をつけた。体が芯から温まる。
魔王とは今回戦うことができた。神聖印を使って、神聖力で無理やりぶつけることで戦う。
俺も、致命傷を受けて無理やりしなくてもよくなった。
だけど、あのディオネの力。疲れることもなく、凄まじい力で魔王を倒していた。
たぶん、あの力は爆発的な神聖力とか回復力だけじゃないってことなんだろうけど。それを使える時は来るんだろうか。
ただ、あの拳にべっとりとついていた感覚。
……あんな感覚は、あんまり味わいたくないな。魔王が、化物そのものだったらよかったのに。
そう思って、シチューを飲み干した。
◇◇◇
暗い空間の中で、ぼんやりとして何かが座っている。
いや、手を合わせている?
祈ってるんだろうか。
そうか、アクイラにお世話をされてお風呂だとか色々と済ませてそのまま寝たんだ。
これは、ディオネが祈ってる?
「主よ、どうか私の信仰を疑わないでください。
何か必死に祈っている。
「どうか、ライさんを返すまでこの祈りを聞き届けてください」
俺のために、祈ってる?
「この力がないと、ライさんは私と一緒に死んでしまう」
……どういうことだろうか。
ぼんやりとして視界が眩んできた。
一緒に死ぬ、か。それはちょっと嫌だけど、ディオネを一人にはしたくないかな。
これだけ頑張ってるやつが、ひとりぼっちなのは悲しいから。
TIPS:神聖力は悪魔などには有効ですが、人間にはあまり害はない
なので、神聖力を適当に浴びせてみた場合などは悪魔だけが苦しむぞ
でも神聖印の光の槍とか使えば実は普通に人は殺せる
最近バトルしすぎてるな……