壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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神官くんとお仕事

 薄暗い中で、何かが見える。

 

 ここは、また夢の中か。でも、いつもみたいにたくさんの光が見えない。

 

 いや、違う。これは、何かの光景だ。

 

『異端殲滅局所属、信仰序列3位――ディオネ。あなたの魂を神の御前に引きずり出します』

 

 勝手に、口が動く感覚がした。

 

 目の前にいるのは、悪魔だとか化け物じゃない。

 

 ――ただの、人間だ。武器のように、農具をこちらに向けてくるだけの人間たち。

 

 その背後には、縛られて血塗れになった人間が何人も倒れている。その、どれもが酷い折れ方をしていたり、尋常じゃない痛め付けられ方をしているのがわかる。

 

 だから、これは倒さないといけない悪。たとえ、人間であったとしても。

 

 いつしか、目の前に立ちはだかっていた人間たちは、すべて拳に砕かれて絶命した。残ったのは、手が真っ赤になったディオネ一人だった。

 

『なんて、こんな……』

 

 死屍累々の惨状の中、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 すると、視界が暗転した。

 

『……ライさん』

 

 暗闇の中で不満そうに、唇を尖らせたディオネがいた。

 

「今日は甘えてこないんだな」

『別に、私じゃなくてあの新しい神官の子に甘えてもらったら、いかがですか?』

「どういう嫉妬なんだよ」

『嫉妬じゃないですけど。ライさんに構ってもらえていいな、とか思ってないですけど』

 

 ふんっ、と顔背けてその場に座り込んでいる。

 

「何、構って欲しいの?」

『……つーん』

「かわいいやつだな」

 

 こういう、子供らしい可愛さに思わず頬が緩む。

 

『か、かわっ!?』

 

 ガバッ、と勢いよく立ち上がって顔を赤らめている。

 

「純情だね、ディオネ」

『からかわないでください、怒りますよ』

 

 ムッと顔をしかめた。その顔を見て、さらに口角が上がった。

 

 俺と話してる瞬間だけは、年相応の表情を見せてくれる。

 こいつにとっての安らぎになれてるなら、それはよかったと思う。

 

 それに、俺もこいつと話してるときは少し楽しい。

 

『聞いてます?』

「聞いてるよ。またほっぺをつついてやろうか」

『そ、それもやめてほしいですけど……!』

 

 きゃんきゃん吠えるように、近づいてきたディオネを軽く撫でた。

 

「絶対、お前を見捨ててやらないからな」

 

 視界が歪んできたので、それだけ言ってやる。

 

 神妙な顔をした後、諦めたように笑ったディオネの表情が最後に見えた。

 

◇◇◇

 

 夢の中のことのせいで忘れてたけど、神官くんこと、シリルとちょっとじゃれついて帰ったんだったな。

 

 今日から、新しくシリルと仕事を任せてもらえるらしい。まあ、あの狂信者集団じゃないしな。

 

 魔王の件で、異端殲滅局の仕事は一区切りはついたので、枢機卿アルフ・ストラング経由でシリルの仕事を任せてもらえるって感じなんだとか。

 

 邪教の件は別にいいんだろうか。まあいいか。イェルクとかがやってくれるんじゃない?

 

「ねえ、俺何すんの?」

 

 というわけで、今すでにクソガキ神官くんのシリルと一緒に仕事中だ。前、肩組んでいたら普通に嫌がられたので少しだけ距離を保っている。

 

 久しぶりに男友達ができたみたいで楽しかったのにな。

 

 薄暗い洞窟のような中で、湿った空気が流れていく。

 

 悪魔の報告があった場所で、シリルと一緒に調査しろってことだったけど。

 

 神聖印で光を浮かべて、辺りを照らす。

 

「聞いてんの?」

 

 ぺち、と肩を叩かれた。

 

「うるさいな、騒ぐなよ。悪魔の目撃証言がたったんだってさ」

「ふーん、そっか。確かにここら辺って瘴気が漂ってるもんな」

 

 説明してやると、納得したように頷いた。その瞳は奥の方を見つめている。

 

 それにしても。

 

「瘴気って何?」

「は?あんた知らないの?」

「こっちは特殊な事情があんの」

 

 そう言うと、大きくため息をついてから説明し始めた。

 

「瘴気ってのは、悪魔とかがいる時の淀んだ空気だよ。これね」

 

 シリルが周囲を指差す。

 

 確かに、濁った空気というか。淀んでるって表現がぴったりか。ここにいるだけで、不思議と体が重たい気がする。

 確かに、言われてみれば異端実体といたときに嫌な空気を感じたような。

 

「これは神聖力と打ち消し合うような性質があって、こうやって振るうと消えるんだよ、わかった?大人ぶってるお姉さん?」

 

 シリルが手に神聖力を込めた。

 

 そして、それをそのまま周囲に思いっきり振り撒くと、淀んだ空気が消えていく。

 

 澄んだ空気の中、得意気にシリルはこちらを向いて笑う。

 

 ……今更だけど、お姉さんに見えるの?

 

「勉強になったよ、ありがとう」

 

 バカにしてきてるんだろうけど、まあせっかく教えてくれたんだ。感謝してやろうじゃないか。

 

 素直にお礼を言うと、「つまんねーやつ」とボソッと呟いた。

 

 喧嘩でもしたいんだろうか。いじってやってもいいな。

 

 

 

 ――ぞわり、と背筋に嫌な感覚が走った。

 

 目の前に急に大きな腕が飛び出してくる。人の肌じゃない。青黒いような皮膚で、大きな爪が生えている。

 

 腕が顔に向かってくるのを、なんとか手で掴んで止める。

 

 ぬるっ、とそこから急に現れてくるように異形の怪物、悪魔の姿が見えた。もう一つの腕でも掴もうとしてくるのも、もう一つの手で止める。

 

強化(ベネディクション)

 

 悪魔との押し比べに勝てるように、強化(ベネディクション)して無理やり張り合えるようにする。お互い、掴み合いで押し合う形になる。

 

「ねえ、手伝った方がいい?」

「別に、このままなんとかする」

 

 悪魔は、何も喋らないらしい。このまま消してやる。

 

 両手から思いっきり、神聖力を流し込む。悪魔の手から、白い煙のようなものが立ち込めていく。

 

 そして、悪魔が腕から徐々に崩れていって、体ごと崩れて消えていった。

 

 疲れた。

 ……でも、こうやって戦えるんだ。

 あの致命傷カウンターをしなくても、倒せるんだ。

 

「えっ、何その倒し方。効率悪」

 

 と、感慨深い気持ちを冷や水をかけるように、呆れた声が聞こえてきた。

 

「こっちは、祓魔(エクソシズム)が苦手なんだよ」

「へえ、そうなの?こうやって、やるんだよ」

 

 シリルの手元に神聖力が集まってきて、それに火が点る。その火が一直線に飛んで、影に潜んでいた何かにぶつかって燃えた。

 

「悪魔が潜んでたね。気付いてた?」

 

 ……こいつ、本当に優秀なんじゃない?すげーバカにしてくるけど。

 

 燃えてたそれは、たぶん悪魔なんだろう。影が人の形に近いし。

 

 ……ずずず、まだ何かが地面から湧いて出てくる。

 悪魔が、何体もそこにいた。

 

祓魔(エクソシズム)が苦手なら、ここで見てなよ」

 

 得意気に、シリルが手を合わせた。合わせたその手の間に光が集まる。

 

 そして、そのまま手を離していくと、そこから少しずつ光が伸びていって、光の槍が生まれた。

 

 あれは、クソ野郎とレオンハルトが持っていたものだ。俺の手を切ったものと同じ。

 

「"やがて、終末戦争で悪魔の長を、救世主は光の槍で祓いました"」

 

 何かを呟いて、光の槍の切っ先を悪魔に向けた。

 

強化(ベネディクション)

 

 強化(ベネディクション)と共に、シリルの周囲に少しずつ光が浮かんでいった。その光が少しずつ矢の形へと変形していく。

 

「無所属、信仰序列100位――シリル」

 

 そして、名乗りと共に光の矢が一斉に放たれて、それと同時に駆け出した。

 

 悪魔に光の矢が降り注ぐ。シリルへと向かってきた悪魔たちが、光の矢で体が削られて、穴が空いていく。

 

 そうして、光の矢で失速した悪魔たちを、光の槍で切り払っていく。

 

 一匹目を切り、二匹目を切った後、壁を蹴って三匹目を串刺しにした。

 そのまま、悪魔をすべてそのまま殲滅していった。

 

「どう?」

 

 涼しい顔をして、悪魔たちをすべて倒して、シリルはそのまま得意気に笑った。

 

 というか、信仰序列100位って言った?いや、優秀すぎるだろ。

 

 そりゃ、こんだけ増長するよな。

 

「強いじゃん」

「言われなくてもわかってるよ」

 

 顔を背けた。褒めてやったのに、なんなんだその態度は。

 

 小突いてやるか……と思ったそのときに。シリルの背後から迫ってる何かが見える。まだ、シリルのやつは気づいていない。

 

 ――黒い何かが、鎌首をもたげた。

 

「危ない!」

「えっ、何……?」

 

 しゅるり、とそれが勢いよく飛んできていて、思わずシリルを突き飛ばして庇うようにそれを受け止める。

 

 胸元に、それが突き刺さる。皮膚が裂けて、体内に突き刺さっていく。

 

「お、おいお前っ!」

 

 焦ったようなシリルの声が聞こえた。

 

「……げふっ」

 

 答えようとして、うまく答えられない。

 

 痛い。熱い。体の中を、それが暴れている。

 

 これは、蛇のようなものか。悪魔も全部、人の形とかじゃなくて、こういう変則的なパターンもあるんだろうな。

 

 そんなことをぼんやりと考えていると、体から光が溢れてきた。突き刺さったそれが砕けていく。体から溢れてきた膨大な神聖力によって、それが砕けて消えていく。

 

 それと同時に、体の中に血が戻って修復していく。

 

 疲労感がどっ、とのし掛かってきて、へたり込みそうなのを堪えた。

 

「……」

 

 シリルが呆然とこちらを眺めていた。

 

「……油断すんなよな、ガチで痛いんだからさ」

 

 強がって、掛けた声に疲労が滲んでいる。

 

「ね、ねえ。あんた大丈夫?」

「ん、まあね」

 

 焦ったように、俺の体をなんとか支えてくれる。いいやつじゃん。

 

「いやでも、体貫通してたし。それに、俺が油断しなかったら……」

「気負いすぎだよ、ばーか」

「いだっ」

 

 勝手に自分のせいにしようとしてたので、額を指で弾いてやった。

 

 少し、眠くなってきた。

 

 まあ、こいつをいきなり危険に晒さなかったからよかったか。

 

「ガキを守るのも、大人の役目ってやつだよ」

「……かっこつけすぎ」

「うるさいな、痛いんだよこっちは」

「本当に大丈夫なんだよな?」

「そう言ってんじゃん」

 

 大丈夫だけど、疲れてたのでそのままシリルに支えられる形でその場所を後にした。

 

 あの後、どうやって帰ったのかは覚えてない。

 ただ、もたれかかって、シリルの体温が伝わるのをゆっくりと感じていた。




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