壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

19 / 22
めちゃくちゃお気に入りに入れてくれる方々がいるので、ちょいちょい総合日間に入らせてもらっています。ありがとうございます。


神官くんとの仕事アフター

 ゆさゆさ、と何かに揺らされている気がする。

 

 眠たくて、目蓋が重い。

 

「おい、寝るなって」

 

 誰かの声がした。僅かに、目蓋が開く。

 

 くすんだ灰のような色の何かが見えた。これは、髪か。その隙間から、水色の瞳が見える。

 

「がき?」

 

 バカみたいに、掠れた声が出た。少しずつ、意識が覚醒していく。

 

 シリルにもたれ掛かって、歩いている状態になってる。そうか、確か途中までは馬車で送ってもらったんだっけ。

 

 その後、眠気が収まらなくて眠りこけてしまったのを、なんとかシリルに運んでもらってるような状態だろうか。

 

「起きてんじゃん、早くどいて」

「ううん……」

「いや、起きなよ。酔っ払いじゃないんだから」

「待って、起きるから」

 

 うまく力が入らない。再生後はどうしても疲れる。事前に神聖力を使ってたせいかな。今日は普段よりも疲れてるような気がする。

 

 気だるげな体をなんとか、力を入れて立たせる。

 

「んで、ここどこ?」

「あんたの家の近くらしいよ。はい、ちゃんと帰ってね」

 

 ようやく肩の荷が下りたとばかりに、大きく息を吐くシリルに、申し訳なさとそこまで嫌そうにしなくてもよくない?という、少しムカッとした気持ちが混ざる。

 

「どうせなら寄ってく?」

 

 そのせいか、ついそんなことを口に出してしまった。

 ぽかん、とシリルは口を開けている。

 

「……あんた、危機感ないの?」

「いや別に、迷惑かけたからちょっとぐらいくつろいでもらうのもありかなと」

「大人ぶってるなら、まずそういうのやめてね」

 

 なんだ、大人ぶってるって。こっちはちゃんとした大人だっての。とは言えず、向こうから見たら同じぐらいの年の女の子だろうしな。

 

 ふと、シリルが何か思い付いたように口を開く。

 

「あんたって、その……聖女じゃないよね」

「――」

 

 驚いて、目が開いていくのを感じる。

 

 聖女ってのがなんなのか、俺はまだよくわかってない。称号のようなもので、別に役職とかではないってことぐらい。

 

 だから、逆に聖女という立場での仕事もあんまりなさそうで、そうなったらそこまで知られてないだろうなと思っていた。

 ディオネも、聖女って扱われてるのをあんまり好きじゃないみたいだったから、そういう仕事があったとしても、積極的に関わってはないだろうし。

 

 だから、こいつはなんでそう思ったのかが気になる。

 

「いやその、もしかしたらそうなのかなと思っただけだから」

「へえ、聖女のファンなの?」

「そう言うんじゃなくて、昔見たことがあるだけで。あんたがちょっと、似てたからつい」

 

 言い切った後に、シリルは顔を背けた。

 

 なるほど、聖女っていうのを完全に隠してるわけじゃないから、たまにそういうこともあるのか。

 

「じゃあ聖女っぽい俺から、サービスとしてハグぐらいしてあげようか?」

「……だからさ、そういうのやめなよ」

「照れちゃって」

「怒るよ?」

 

 呆れてる割りに、ちゃんと心配そうに見てくれるその様子に思わず笑みが漏れた。シリルの顔が不満そうに、ムッと顔をしかめている。これがディオネだったら、もうちょっとちょっかいかけてたけど勘弁してやるか。

 

「はいはい。ってか、お前強いね」

「あんたが、祓魔使えないのがおかしいだけだよ」

「だから、使わずに倒すようにしてるんでしょうが」

「……で、毎回あんな目にあってるの?」

 

 あんな目に?

 ……ああ、死にかけてるってことか。

 

「そういうときもあるかもね」

「それはっ……そうなんだ。庇ってもらって助かったけど、あんまあんなことしないでよ」

 

 シリルが、まるで心配するように俺の顔を覗き込んできた。

 何、その反応は。ああ、そっか。後悔してるんだ。そりゃ、目の前で死にかけたしな。

 

 よくないな、こういうの。普通、目の前で死んだらびっくりするし。狂信者たちしか周囲にいないから、そういう普通の感覚が薄れていた気がする。

 

「じゃあ、今度からは守ってもらうか」

「……もういいよ。すぐに茶化すし」

 

 はあ、大きく息を吐いてそのまま歩いて行ってしまう。

 

 と、思えば振り向いてから一言、

 

「今度は、あんなへましないから」

 

 それだけ言って帰っていった。真剣な瞳に少し気圧されたけど、子供らしいかわいい責任感だなと思って笑った。

 

◇◇◇

 

「で、新しい少年を誑かして帰ってきた、と」

「言い方なんとかならない?」

 

 疲れて、ベッドに座り込む。だらしなく、法衣を脱いだ。

 

「だって、肩組んだりしてベタベタしてたんですよね?」

「いや、疲れて肩を貸してもらっただけだけど」

「……あの、一応その体はディオネ様のものなので気を付けてくださいね」

「気を付けるって何?」

「距離感とかですよ」

 

 机の上にご飯が置かれた。

 

「まあ、ちょっと気を付けるよ」

「……本当ですか?ライさんって、なんかそういうところ適当そうなので」

 

 訝しげに、こちらを見てくる。

 

「え、そうかな。まあ、夢の中でディオネを撫でたりとか、イェルクにもパンチしたりしたけど」

 

 スープを飲み干す。疲労感が薄まってくる気がした。

 

「……あの、心配になる情報しかないんですけど。なんですか、ディオネ様を撫でてるって」

「あー、まあ夢の中だから内緒にしとくか?」

「……もしかして、ディオネ様のこと狙ってます?」

 

 そう言われて、ディオネとのやり取りを思い出す。ディオネとの距離感も、結構近いけどそれは魂の問題だとか、色々あるし。

 

「仲良くしてるだけだよ」

「……なんか、ライさんって人たらしな気がしてきました」

「いや、そんなことないよ。信仰序列1桁の連中とかさすがに仲良くなれないし」

「待ってください、そんな人たちと関わってるんですか!?」

「言ってなかったっけ。さっき言ったイェルクもそうだけど」

「パンチしたとか言ってませんでしたか……?」

「したけど、男同士で肩パンしてるようなもんだよね」

「ええ……」

 

 食べ終わって、置いた食器をアクイラが片付けていく。

 

 人たらしねえ。そんなわけないけど。

 

 好意的なヴァレンティナも、別にディオネではない俺に興味があるだけだし。

 イェルクは、まあどうだろう。態度は柔らかくなったけど、それぐらいだし。

 

「まあ、大丈夫だよ。私は、そんなに人と関わることないもんね」

「あ、また女の子になってる……」

「えっ、そうかな?」

「はいはい、早く支度して寝てくださいね」

 

 あれ、無理矢理お風呂に押し込まれてる。

 

 うーん、おかしくなってるのかな。私ってこうなってるとき違和感がないんだけどね。

 

 裸をあまり見ないようにして、お風呂に入った。

 お風呂ってぽかぽかする。お湯の中に髪が広がる。

 

 うー、疲れた。ぶくぶく、と泡を立てる。

 

 温かさに、少しずつ疲労感が飲み込まれていった。

 

◇◇◇

 

 蝋燭が辺りを照らす。石壁に集まっている中、気味の悪い像がいくつか並んでいた。

 

 その中を、イェルクが歩いていく。

 

 影がぐねぐねと動いて、イェルクに続いていく。

 

「あら、あらあら。ここ暗いわね。うふっ」

 

 その後ろに、流れる銀色の髪が揺れる。くすり、と妖しい笑みを浮かべてヴァレンティナが続いた。

 

「邪教のアジトらしき場所だが、特になにもないな」

「そうね、うふっ。それにしても、イェルクはこの前、ライと仕事したのよね?羨ましいわ」

「そうか?別に、悪いやつではないが、一緒に仕事したいとも思わないな」

「あら、そんなことを言うなんて珍しいわね。イェルクも気になるのかしら」

「そんなことはないが。思ったよりも、普通の女の子みたいに見えたことはあるが」

「……あなた、本当に気になってないかしら」

 

 話し合う二人の後ろには、切り裂かれて燃えていった人の影がいくつも見えた。

 

 そして、最奥にたどり着く。

 

「あら、酷いわね」

 

 ヴァレンティナが赤い目をスッと細める。

 

 その先には、法衣を纏った女性が倒れている。二の腕付近には、奇妙な模様が刻まれていた。

 

 その女性は口を大きく開けて、白目を剥いて倒れている。

 

「これは、神官が狙われたのか?」

「そうなりそうね。あらあら、怖いわ。でも、売られた喧嘩は、買ってあげないといけないわ」

 

 いつものように軽快な笑みを浮かべている、そのヴァレンティナの声色は少し固い。

 

「この模様は……呪いのようなものか」

 

 ぴくり、と一瞬倒れていた女性が動いた。口の中からもごもご、と何かが蠢いている。

 

 黒い煙のような何かが、中から湧き出してきた。

 

「寄生してるわね」

 

 フッ、とヴァレンティナが息を吹き掛けるとその黒い煙に燃え広がった。女性の中から急いで逃げようと飛び出たそれは、イェルクから伸びた影にすぐに切断された。

 

「意外と気持ち悪そうね、邪教」

「狙われてるのが、神官かもしれないな」

 

 呆気なく、敵を倒した二人の後ろで、蠢く影が遠くへと逃げていった。




よければどぞ
お気に入り
高評価
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。