壊れかけの聖女に俺がインストールされたらしい   作:あまぐりムリーパー

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邪教ってエロいことしてるイメージあるよな

 かつかつ、と足音が響く。それが向かう先は、一つの部屋にその扉を開くと淀んだ空気が漏れ出た。

 

 その扉の中に入るのは、一人の神官。見た目は一般的な神官と変わらないが、一つだけ違うとすれば、その法衣に少し特殊な刺繍がされている。

 

 神官には所属がある。どの部局に所属するかによって、大まかな仕事は決まる。

 

 例えば、祓魔局に所属する神官たち――祓魔師(エクソシスト)は悪魔祓いを主に実行する。とはいっても、おおよそ3~5人のチームで行動するものになる。

 

 基本的に、何かアクシデントが起こるかもしれないので、複数人での行動が前提になってる。

 だが、一人での悪魔祓いが許されるものもいる。

 

 神罰執行局に所属する神官――神罰執行官(インクイジター)祓魔師(エクソシスト)と同じ、悪魔祓いを目的とするが、その活動は人間相手にも及ぶ。

 

 所属条件は、信仰序列100位以上であること。異端殲滅官(エクスターミネーター)を除く、教会の精鋭集団。

 

 神罰執行官(インクイジター)の法衣には、特別な刺繍が入っている。終末戦争での、救世主の槍を模したもの。

 

「どうやら、神官たちを狙ってるらしいじゃないか」

 

 その神罰執行官(インクイジター)の一人が、部屋の中で男に語りかける。

 

 神官を狙う妙な衣装の集団がいると聞いて、そのうちの一人――シリルが倒した男を取り調べに、ここに来た。

 

「このナイフで攻撃したんだとかな。最近、悪魔の目撃証言がある場所に、お前らみたいな人間から襲撃を受けるって話があるんだよ。目的はなんだよ」

 

 胸ぐらを掴んで、壁に叩きつけた。そして、手に持ったナイフを見せつけた。

 

「どうやら、これは結構特殊な仕掛けがされてるらしいな。中身は俺たち神官が使ってるようなものより、西の方の魔術院のやつらが使ってる魔術だとかいうものに似てる」

 

 ナイフの切っ先を、男に向ける。

 

「こうやって、ナイフの先から呪いのようなものを飛ばしてるのか?気味の悪いギミックだ」

 

 ナイフを投げ捨てて、壁に押し付ける力を強くする。

 

 すると、男がぶつぶつと何かを言い始めた。まるで、唱えてるみたいに。

 

 それと同時に、身体中から気味の悪い煙のようなものが立ち込める。

 

「おい、俺が聞いてるんだぜ?何、ぶつぶつやってんだ」

 

 ――が、その煙が一瞬にして消えた。神罰執行官(インクイジター)の神聖力が、それを打ち消した。

 

「もう、面倒だな。多少、乱暴な手を使うか」

 

 手に持つのは光の槍。それを乱暴に、手に突き刺した。

 

 絶叫が室内に響き渡る。

 

 そして、またもう一つ光の槍を手に作り上げる。

 

「さあ、どこまで持つか試してやるか」

 

 不敵に、神罰執行官(インクイジター)は笑った。

 

◇◇◇

 

 どくん、と鼓動が深く響いている。そんな気がする。頭の中がぐわんぐわんと揺れている。

 

「ねえ、ライ。今回はあそこらしいよ」

 

 シリルの声が、頭の中に反響する。

 

 体が芯の方から熱くなっているのを感じる。酷く、喉が渇いた。

 

「ねえ、聞いてる?」

「聞いてるよ。行くか」

 

 そんな体の不調を誤魔化して、なんとか悟られないように振舞う。

 

 目的地は、古びた廃墟のような建物だ。

 

「瘴気が濃いね」

 

 うっ、と軽くシリルが呻いた後、握りしめた手に溜めた神聖力で周囲の瘴気を打ち消していく。

 

「ほら」

 

 目を逸らしながら、シリルが手を差し伸べてきた。

 

「これは?」

「……なんとなく」

 

 もしかして、気を使ってるんだろうか。さすがに、体調が悪いのはばれてるのかな。風邪でも引いたかな、本当に。

 

 その手を取って、少し頬を緩ませる。

 

「お前の手、意外とごつごつしてんね」

 

 少し、シリルが頬を紅潮させた。……なんか、そんな反応するところだったか?

 

 シリルに導かれるように、建物の中を歩く。

 

 下腹部辺りに熱がこもっていく。握った手が、酷く熱い。

 

「さっきのやつらさ、たぶん邪教だよ」

 

 ポツリ、とシリルが話し始めた。

 

「神官を狙ってる邪教が最近出没してるって聞いたし、体に瘴気みたいなのがついてたから」

「へえ、そうなんだ」

「……狙われたの、ライだけど」

「それは、シリルが助けてくれたじゃん?」

「……」

 

 黙り込んでしまった。そんなおかしなこと言ったかな。

 

 にしても、まだ体がおかしい。倦怠感が、ずっと酷くなっていく。……病気だったら、シリルにうつってしまうかな。

 

 少しだけ、視界がぼやけてきた。

 

『なあ』

 

 頭の中で不気味な声が響いた。ディオネのものじゃない。

 

 体が、うまく制御できない。するり、とシリルの握っていた手が抜ける。

 

「悪魔がいた。俺が倒すから、ライはそこで休んでなよ」

 

 俺も仕事ぐらいするから。そう言おうとしたのに。

 

「わかった」

 

 勝手に口が動いた。

 

 向こうでシリルが戦っている。光の槍で、悪魔を一体倒したのが見える。

 

 あいつって、やっぱ強いよな。意外と手慣れてるし。

 

『この体も悪くないな』

 

 また、声が響いた。どくん、と鼓動が跳ねている。

 

 心臓の音が酷くうるさい。体が熱を帯びてきた。

 

 二の腕付近が、特に熱い。ふと、そこを見るとそれは変な模様のできていた場所だ。

 

 そこが、黒く変色している。するする、と黒い何かが立ち込めている。

 

 なんだ、これは。体が熱い。もじもじして、落ち着かない。

 

「し、りるぅ……」

 

 さすがにおかしいから、シリルに相談するかと思ってると、酷く甘ったるい声が出た。

 

 ああでも、戦闘中だったな。

 

 そんなことを思っていると、シリルと目が合う。

 

『あの男がいいのか?』

 

 また、頭の中から声がする。なんだこいつは。これのせいか?

 

「……ライ?ぐっ」

 

 振り返ったシリルが俺を見て、呆然とした。その隙に悪魔からの攻撃を受けてしまう。

 

 俺のせいで、傷ついてしまった……?

 

 それはちょっと、許せないな。体がゆらり、とふらつく。でも、このままではいられないから。

 

『お前は邪教のものに攻撃を受けた。腕のがその印。我々の器だ』

 

 また、声がした。うるさい。シリルを助けないと。

 

『そうだ、助けに行け。癒してやるんだ』

 

 癒す?そっか、癒さないと。

 

 でも、シリルは結構無事そうだ。一発もらったといっても、ガードはしていたみたいだし。

 何か、手伝えないかな。

 

「待ってて、ライ。早く倒すから。"やがて、終末戦争で悪魔の長を、救世主は光の槍で祓いました"」

 

 光の槍を出して、悪魔の一体を切り払った。

 

「"悪魔が扉を叩いたとき、私は蝋燭の火に祈っていました"」

 

 火の玉が手に作られる。

 

「"やがて、その火は私の祈りを飲み込んで、悪魔を焼き払いました"」

 

 その火が、大きく燃え上がった。

 その火が放たれる前に、悪魔が飛び込んでくる。

 

 指先に、神聖力を込めて天使が矢を放つのをイメージした。シリルの教えてもらった、祓魔。その小さな矢が打ち出されて、飛び掛かる悪魔に当たった。

 

 動きを止めた悪魔に、シリルから放たれた火が襲い掛かる。全身を燃やして、ぐずぐずに溶けていく。

 

 やった、シリルの役に立てた。教えてもらってよかった。

 

「ライ、大丈夫?」

 

 覗き込む、シリルの顔が見える。どくん、と鼓動が高鳴る。

 

『さあ、早く』

 

 そうだ、早くしないと。

 

「ライ、その腕のやつ……っ!?」

 

 ぎゅっ、と抱き締めた。勝手に、体が動いている。シリルがびくり、と跳ねる。

 

「よく頑張ったね、シリル」

「な、なに急に。そんなことよりも……」

「ねえ、シリル。なんか体が熱くてさ」

「……やっぱライ、おかしくなってない?」

「この熱ってどうやったら収まるかな」

 

 そのまま倒れ込んだ。

 

 体の何かが混ざっていく。ぐるぐると、体の中に広がっている。

 

「……ライ」

 

 困惑したような、顔が赤いシリルとの目が合った。

 

 そうだ、もう発散してしまおう。何かわからないけど、そうした方がいい気がする。下腹部辺りが、ぐるぐるの何かが渦巻いているような。

 

『そうだ、襲え』

『そういうのは、よくないです』

『なんだ、お前は……ぐぁぁぁっ!』

 

 ぐらり、と体が揺れた。二の腕が熱い。体の中にぐるぐると広がっていたものが急速に消えていく。

 

 体が、スッと芯から冷えた。熱が消えていく。

 

『き、さま……なぜ』

 

 頭の中で、変な声がまだ聞こえる。でも、苦しそうな声。

 

 ああ、なんか知らないけど解決した?

 

 ……あれ、なんだこの状況。

 

『……もう、ライさんに変なことしないでくださいね』

 

 ……ディオネに助けてもらった感じ?

 

 えーっと、待って。なんか、シリルが悪魔を倒してて、それをちょっと補助したような。

 

 ああ、そうだ。体がなんか熱くて変な感じになってて、二の腕付近が煙みたいなのが出てて。

 

 ……確か、邪教のやつに襲われてシリルに守ってた時にあれがついてたよな。つまり、邪教のせいでこの変な印がついてた?

 

 もしかして、ずっとおかしかったのはそのせい?

 

 ふと、もう一度二の腕を見る。消えている。治ったんだ。やっぱこれのせいか。

 

「……ライ、どいてくれる?」

「あっ、ごめん」

 

 そういえば、シリルを押し倒してた。いや、抱き締めてもいた……?

 

 あれって、体を操られてて?いやその、なんかすごいことをしてしまったというか。

 

 どいた後の、シリルの顔が赤い。……なんかそのごめん。

 

「ライ、もしかして悪魔に取り憑かれてた?」

「……そうなのかな」

 

 あの変な声は、そういうことなのかな。よくわからないけど。

 

「……素でやってたんだったら、正気を疑うけど」

「まあその、ごめん」

 

 悪魔に誘導されて、変な思考をしていたような。

 

「結局、どうなってたの?」

「なんか、体が熱くなって変な気分になったというか」

「変な気分?」

「まあその……発情みたいな?」

 

 ……うん、たぶんそういうことなんだろうな。邪教ってさ、エログロみたいなイメージあるし。エロ悪魔に乗っ取られかけてたんじゃねーか、みたいな感じだと思うんだけど。

 

「……あっそ」

 

 顔を背けたシリルの、耳がふと目につく。少し赤い。なんか、本当にごめん。

 

 もし、あれが止まらなかったらどうなっていただろうかとか。あれがもし誘導されてない思考だったりしたらだとか。

 

 そんな余計なことが頭の中に渦巻いて、酷く鼓動が高鳴っていて。

 

 まだ、この仕事が終わっていないのに、俺の頭の中は酷く落ち着かないままだった。




なんか序盤と違う空気の作品になってしまってないか?の不安がある

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